ドル円相場は、約37年ぶりの高値である161円台後半まで上昇しています。ユーロ円相場も173円台前半と、過去最高値を更新。為替相場は、歴史的な水準に達しています。
なぜ、ドル高、円安が加速したのでしょうか?
2022年以降、為替相場の主なテーマは「米国との金融政策格差、金利差」でした。日本も例外ではありません。
ここ数年のドル円は、FRBの利上げを受けた「ドル高」と、黒田・前日銀総裁の異次元緩和を背景とした「円安」が合わさっていた相場と言えます。
執筆者 プロフィール
ペンネーム、Akira。大学院修了後、複数の金融機関でリサーチ業務に従事。現在は、為替ストラテジストとして活動中。ドル円などG10通貨のほか、エマージング通貨が専門。金融市場のデータだけでなく、新興国の現地情報を踏まえた情報を発信。
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日米の実質金利差拡大でドル高円安が進行
しかし、植田総裁が指揮を執る現在の日銀は、今年3月にマイナス金利とイールドカーブ・コントロールを撤廃して、金融政策の正常化を進めています。
それにも関わらず、円安が進行しているのはなぜか。カギは「実質金利」にあります。
実質金利は、私たちが日頃目にする「名目金利」から、インフレ率、もう少し正確には物価予想である「期待インフレ率」を差し引いて算出します。投資家目線では、物価上昇の影響を除いた、実際の投資利回りということになります。
日本のインフレ率は2%超ですが、日銀が3月以降、段階的に金融引き締めを進めても、本日の10年物国債利回りは1.10%近辺。
すなわち、実質金利は1.10%-2.0%=▲0.9%。同じく、米国の実質金利は+1.00%を超えています。
日米間の利回り差は2.00%近くで、だからこそ、ドル買い・円売りが進みやすくなっているわけです。
参考:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB22CBT0S4A520C2000000/
以上、説明した実質金利-その背景には日米の金融政策があります-に注目して、2025年1~3月期までの期間を念頭に、ドル円相場の推移について、3つのシナリオを考えてみます。
シナリオ1:基本シナリオ、ドル円は165円が上限と予想
第1のシナリオは、最も可能性が高いと考える、基本シナリオです。
ドル円は165円を上限に7~9月期にピークに達し、その後は2025年にかけてドル高が和らいでいく、円相場は2024年の夏以降に底を打つとみています。
FRBは年内1~2回の利下げを実施か
このシナリオのポイントは、米国の利下げです。
FRBは6月のFOMC後に公表したドット・チャートを通じて、彼らの最大公約数的な利下げ見通しは「年内1回」であると示しています。
マーケットはせっかちなので、本日時点で「年2回」、11月と12月に25ベーシスポイント(=0.25%)ずつ利下げすると織り込んでいます。
今年の冬になって、2022年以来の米金利高に、ようやく歯止めがかかりそうです。
ただ、すでにマーケットの人間はFRBの利下げを織り込んで取引をしているので、実際に利下げが決定されても、米金利、ドル相場ともに大きく下落することはない、と言えそうです。
逆に、日銀は利上げへ向かう
翻って、円相場はどうか。ポイントは7月の日銀金融政策決定会合です。
日銀は4月の『展望レポート』で2026年度までの物価見通しを出していましたが、足もとの円安加速→輸入物価上昇を受けて物価見通しを引き上げる、その際には追加利上げを行う、とみています。
ここが重要ですが、次回の『展望レポート』は7月31日の会合後に発表されます。
この点、7月1日に発表された『日銀短観』をみると、円安の影響もあって、企業の物価見通しが上方修正されています。
日銀としては、物価見通しを修正し、利上げを行う材料が集まりつつあるのではないでしょうか。
参考:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-06-30/SFROS8T0G1KW00
ただし、7月に1回(0.10%→0.25%)引き上げたとしても、日本の実質金利がマイナスであることには変わりません。ということは、日銀の利上げは一方的な円安の進行を抑えても、円高を牽引するだけのパワーはないと言えるでしょう。
シナリオ2:上振れ、165円越えでも「200円到達」は考えにくい
第2のシナリオは、165円を超えるドル高円安が進行するという、リスクシナリオになります。ここでも、ポイントはFRBの金融政策です。
米利下げ期待の後退でドル高が加速
基本シナリオの段落で、マーケットは「年内2回」の利下げを織り込んでいる、と説明しました。
今年4月10日に市場予想を大幅に上回る米CPIが発表された時のように、強い経済指標が出て、利下げ期待が後退した場合は、米金利高、ドル高が加速するとみています。
その際には、日米の実質金利差が強く意識され、165円を超えるドル高円安が進む可能性が高くなるでしょう。
為替介入を受けて「200円」の円安は見込みがたい
もっとも、財務省が大規模な為替介入を実施すると予想されるため、一部のメディアで指摘されている「200円到達」は考えにくいとみています。
この点、為替介入の指揮を執る神田財務官は、「投機を背景にした為替相場の過度な変動に対して、しっかりと対応していきたい」と発言。政府は200兆円の外貨準備を保有しているとも述べており、「介入限界論」を一蹴しています。
5月の連休前に実施された介入を、複数回実施できる、ということなのでしょう。
なお、4月末に開催された日米韓財務相会合にて、日本と韓国は自国通貨安への懸念について、イエレン財務長官に確認を取っています。米財務省『為替報告書』でも、日本の通貨政策に理解を示していることから、介入に関する米国の反対を心配する必要はなさそうです。
ただし、いまや「時の人」となった神田財務官は7月31日に退官します。マーケットは、人事が入れ替わる瞬間には介入の指揮が取りにくくなるとみています。
間の悪いことに、当日は日銀会合。もし、日銀が追加利上げを見送り、国債購入削減を含めてハト派的な決定を下した場合は、一時170円超えの円安も覚悟する必要がありそうです。
参考:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240628/k10014495271000.html
シナリオ3:下振れシナリオ、140円割れの可能性に備える
第3のシナリオは、最も可能性が低いリスクシナリオですが、140円台を割れる下振れするシナリオです。ポイントは、FRBではなく、大統領の座を狙うトランプ氏です。
ドル高/ドル安両方に当てはまるトランプリスク
「トランプリスク」は、上振れシナリオとしてもあり得ます。
対中関税賦課によるインフレ加速、財政赤字拡大による米金利上昇、企業向け減税などを通じた米株高など、ドル高要因として書くべき材料が尽きないほど考えられます。2016年選挙時の「トランプ・ラリー」の経験から、多くのメディアでは、こちらのリスクを取り上げることが多いようです。
参考:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-07-01/SFYKMKDWRGG000
米景気悪化+トランプ大統領誕生=急速なドル安
ただ、ここでは、頭の体操も兼ねて、ドル安リスク要因としてのトランプ大統領誕生について考えてみたいと思います。
たとえば、2016年大統領選挙前後のドル円チャートをみると、大統領選挙直後には118円台後半でドル高のピークをつけた一方、翌年1月から2018年にかけて107円台まで水準を切り下げています。
これは、米株高を背景にリスクオンのドル売りが活発化したことが背景にあると言われています。
▼2015-2016年のドル円のチャート
歴史は繰り返す、ではありませんが、同様の動きがあってもおかしくはありません。また、足もとのFF金利は5.5%と、リーマン・ショック直前よりも高い水準となっています。
コロナ渦でばらまかれた補助金が尽きたこともあり、「ソフトランディング」を達成するとみられている米国経済が、予想以上に悪化する可能性があります。
景気悪化と、「高金利は嫌いだ」と公言するトランプ氏の大統領就任が重なった場合、FRBに利下げ圧力がかかるとの見方が台頭し、米金利が急低下することになりそうです。
一般的に、景気が悪化する際には、インフレ率も低下します。
よって、日米実質金利差が急速に縮小してドルが売り込まれることで、瞬間的に140円割れのドル安円高が生じる可能性があるとみています。
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