九条氏に、印象に残ってる失敗した取引や投資に向いている人について伺いました。
九条氏 プロフィール
2018年FIRE済み。米国株、クリプト、優待クロス、太陽光、不動産、オプションなどなどを行うインデックス投資家でリバタリアン 。ポイ活、クレカ活用なども。ブログ「FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記」
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取材実施日
2023年4月7日
VIXショートの取引で年利60%を得る
ーー失敗した取引で印象に残っているものを教えてください。
印象に残っているのはVIXショートの取引です。
VIXはボラティリティ・インデックスの略で、ボラティリティが大きくなると指数が大きくなり、逆にボラティリティが小さくなると指数も小さくなる指標です。
S&P500などの株式指数は、その指数を構成する銘柄を買えば投資できますが、VIXは指数なので、単体で投資することができません。
そこで、VIXに連動するETNといった商品が組成されています。
このVIX指数をショートする取引が理屈上儲かるということで2018年、2019年頃にすごく盛り上がりました。
ーーどのような取引だったのでしょうか。
VIXに投資できるETNは、限月が異なるVIX先物を組み合わせて作られています。そして商品先物取引ではよく言われる言葉ですが、先の限月ほど先物価格が高くなる傾向にあります。
この未来になるほど価格が右肩上がりで高くなる構造を「コンタンゴ」といいます。
VIXのETNは、先物の満期が迫ったときに、安くなった直近の限月の先物を売り、高い期先の先物を買って、ポジションをロールオーバーしていきます。
つまり、コンタンゴ状態にある限り、価格はどんどん下がり続けるというわけです。
構造的に価格が下がり続けるということは、これをショートすれば儲かります。
実際、2016年からの約2年間、市場全体でボラティリティがなくVIX全体が下がり続け、ETNをショートしているだけで年率60%の利益が出た時期がありました。
非常においしい取引だったのですが、2018年のある日突然、VIXショックが起き大きく損を出しました。
VIXの突然の高騰で投下資金の98%を失う
ーー何が起きたんでしょうか。
突然、VIXの値段が急騰し、ショートしていた私のような投資家は大きな含み損が生じました。
ポジションを解消するか、追証を入れるか迷ったのですが、性質上、VIXが高い状態が続くことはないと予想し追証を入れました。
しかし、VIXは下がるどころかさらに上昇し、それでもなんとか耐えられると思っていた矢先にその運用しているETNが早期償還を行い、突然、ETNの価値がゼロになってしまいました。
これは過去に例のないレベルの損失で、投下した金額の98%を失いました。
ーー早期償還について詳しく教えてください。
例えば、投資信託は、お金を預かって運用する商品であり、通常は投資家が売買を選択します。
しかし、運用側が運用がうまくいかず含み損を抱えている場合、投資家にお金を返して運用を終了する場合もあります。
VIXショックの際には、VIXに連動する商品であるETNの価格が98%下落したため、早期償還が行われたということです。
具体的な数字は忘れましたが、そのETNの規約にはVIXが大幅に上昇して資産価格が一定以上下落した場合は償還される旨が記載されていました。
それに従って執行されただけなのですが、このタイミングとは思わなかったので衝撃でしたね。
ーーそれは、連動していた指数のボラティリティが上がったからVIXの価格が上がったということでしょうか。
いえ、そうではありません。
リーマンショックやコロナショックなど通常はそういったショックでボラティリティが上昇し、VIXが跳ね上がるんですね。
しかしVIXショックの時は原因不明で突然上がったんです。なんで上がったのかいまでも分からない。
世の中的には何も別に起きていなかったんだけど、VIXだけが跳ね上がった。
誰かが仕掛けたか、アルゴリズム的に変な売買が行われた結果なんじゃないかと言われていますが、いまでも正確なところはわからないままです。
ドル円のトレードでタイミングを誤り大きな損失を出す
ーーほかにも印象に残っている失敗した取引はありますか。
最近のドル円のトレードですね。
米国はこれから利下げ、日本は利上げというのが市場のコンセンサスだと思うのですが、もしそうなるとドル円は円高に振れるわけで、それを見越してドルをショートしました。
ショートしたのが2023年1月でドル円が128円ほど、そこから現在の136円ほどに上昇しました。
ポジションとしては40万ドルショートしていて、結構な損失が出ました。
今でも大きなシナリオとしては円高に振れると予想しているので大枠の予想自体は間違っていないと思うのですが、タイミングとポジションのサイズがよくなかったですね。
投下した金額の大きさ、損失の大きさは必ずしもメンタルへの影響の度合いとは連動しない
ーーVIXショックや最近のドル円の取引で印象に残るような失敗をしてしまったとのことですが、そのような時はどのようにメンタルを保っていますか。
VIXの場合は額も大きかったのですが、意外とメンタルは影響を受けませんでした。
しかしおもしろいもので、日経平均の先物で少額を運用し10万円の含み損になっただけでもドキドキすることがあります。
夜にダウの先物をトレードする際も、眠れなくなるほど緊張してしまいます。
私はこういった事象を踏まえ、投下した金額の大きさ、損失の大きさは必ずしもメンタルへの影響の度合いとは連動しない、ということと解釈しています。
ーーどういうことでしょうか。
長期投資の場合はどこかで含み損もあり得る前提ですよね。
例えばビットコインの投資であれば、投下した資金が昨年から半値になった、そんなことはざらにあります。
しかし長期的には大きなリターンを生むと確信しているので、一時的な上下はあっても動揺はしないんですね。
ところが短期投資の場合はそもそも損失が出る想定はないわけです。さきほどのFXで言えば、円高になる想定でポジションを取ったのに円安になるってどういうことだよ、と。
つまり、想定していなかったストーリー、イベント、動きが生じたときにメンタルはやられるのだと考えています。
ーーそういう意味では、VIXショックの際はメンタルは影響を受けましたか。
想定していないシチュエーションともうひとつ、未来が確定されていない、不安が残る状態もメンタルをつらくさせる原因のひとつだと思います。
VIXショック時の取引で大きな損を抱え、ポジションも償還で自動的になくなったのでがっかりしましたが、それで終わりなのです。
上がり続けて含み損が出ているときはどきどきしましたが、クローズされてしまえば損失が確定され、それ以降悩むことはありません。
意図せぬ含み損を抱えているときは辛くなるのですが、お金が減ったこと自体でメンタルを病んだことは一度もありませんね。
日本の長期金利は上がらざるを得ないはず
ーードル円の今後について伺います。日本も物価が上がり利上げの必要性が上がりつつも、銀行など債券を保有しているところに影響がある、日銀が利払いをする余地がない、など利上げはできないという意見も出ています。どのようにお考えでしょうか。
少なくとも私は、中央銀行が長期金利を操作するいまの現状はかなり歪んだものだと考えています。
ご指摘のとおり、実質的な利上げをすることでのネガティブな影響はあるかもしれませんが、この状況を延々と続けることはできず、どこかで解消しなければならないということは日銀のOBや現場でも言われているようです。
日銀新総裁の植田さんは、もともとこういった歪みに対しては反対意見の学者なので、どこかで戻すと予想しています。
少なくとも、長期金利のイールドカーブ・コントロール(YCC)は続けるつもりはないはずです。
現在、YCCのおかげで10年物のイールドカーブがポコンとへこんでいるのですが、これが元に戻るだけで0.5%ぐらい上がってしまいます。
長期金利は上がらざるを得ないと思います。
それがいつになるのか予想することはできませんが、いずれは必ず来るだろうと予想しています。
投資は学習してもパフォーマンスが上がるとは限らないが、税務は学習すると必ずパフォーマンスが上がる
ーー投資家に向いている人はどういう人だと思いますか。
投資家に向いている人ってなんなんでしょう。自信過剰にならないことくらいなんじゃないかなと思います。
投資は学習してもパフォーマンスが上がらない場合もあるんですね。むしろ、一定の水準を超えるとパフォーマンスが下がることのほうが多い気すらします。
知識を得てもいいんだけど、知識を得れば得るほど何も分からなくなっていくのが「普通の頭の良い人」だと僕は思っています。
ただ、唯一、絶対的に学習によってパフォーマンスが上がるのは税務ですね。
税金は学べば学ぶほどパフォーマンスが上がるので、一番コストパフォーマンスがいいと思います。
「自分はこんなに理解している」と思った瞬間にすごくやばいことになる
ーーおもしろい視点です。
ITエンジニアのおもしろい言い回しで、「完全に理解した」は「製品を利用をするためのチュートリアルを完了できた程度の理解度」を指すんですが、「なにもわからない」は「その製品が本質的に抱える問題に直面するほど理解が進んだこと」を指すんです。
「チョットデキル」は「同じものを自分でも一から作れるほど理解が進んだ」を指しますが、これは投資家においてもあてはまるのではないでしょうか。
参考:エンジニアの言う「完全に理解した」「なにもわからない」「チョットデキル」って本当はこういう意味?「わかる」の声多数
投資家における「完全に理解した」はネット証券で発注できる程度の理解レベルで、このレベルの投資家が結構多い。
もう少し進むと「なにもわからない」になるんですが、僕もこのレベルです。
投資をはじめてもう20年以上経ちますが、なんで想定と外れるのか、なんでこれを売ってしまったんだ、何もわからない。なんて難しいんだと未だに感じます。
そして、もっと理解が進み、「投資がチョットデキル」になれるといいなと思います。
「自分はこんなに理解している」と思った瞬間にすごくやばいことになると思ったほうがいいのかなと思いますね。
無知の知という言葉がありますが、「知らないことを知っている」と、知らないなりの戦い方が選べますし。
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