チューリンガム株式会社(Turingum)・代表取締役CTOの田原 弘貴氏(なまはげ)氏に、暗号資産の取引を始めたきっかけなどについて伺いました。
田原 弘貴(なまはげ)氏 プロフィール
東京大学文科一類入学後、在学中に中小企業診断士に合格。東京大学大学院学際情報学部在籍中にチューリンガム株式会社を設立。ブロックチェーンエンジニア及びリサーチャーとして技術部門を統括し、2023年5月より代表取締役に就任。親会社クシム取締役CTOを兼務。
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取材実施日
2024年5月25日
2016年、20歳でビットコインを知る
ーー最近の取引やTuringumでの取り組みについて教えてください。
最近はほとんどトレードしていないですね。
資産のポートフォリオは、ビットコイン、イーサリアムと起業したチューリンガムの親会社Kushimの株式です。
Turingumでは企業の暗号資産やWeb3領域における企画からマーケティングまでの支援のほか、資産として暗号資産を保有したい企業様のオンボーディング、システム開発などを主に支援させていただいています。
ーー暗号資産の取引を始めたときのことについて教えてください。
2016年、20歳のときにビットコインに出会ったのが最初です。
当時はまだ学生で時間も余っていたため、中小企業診断士の資格を取得し、企業に関する勉強会の講師をバイトで始めた頃でした。
それで、講義で取り上げるトピックとして最新技術で面白い話題を調べていたところ、ビットコインについて知りました。
ビットコインについて調べ始めるとその思想に深く共鳴し、講師のバイトで稼いだお金は全てビットコインに注ぐほど、のめり込みましたね。
その後、イーサリアムなどアルトコインも購入しトレードも行いましたが、短期取引はうまくいかず、途中からはビットコインとイーサリアムを購入しひたすらHODLのスタイルになりました。
ーービットコインの思想の具体的にどのような点に惹かれたのでしょうか。
元々、通貨の歴史に興味を持ち、『負債論 貨幣と暴力の5000年』を読んで影響を受けていたのですが、通貨が誕生する以前から物の貸し借りは存在しており、その貸し借りの度量衡として通貨が誕生しています。
やがて、通貨は貨幣制度として体制側が管理するようになりましたが、私がビットコインに感動した点は、自律的に誰かの意志による行為なしにエコシステムが成立している点です。
誰かが価値のルールを決めるのではなく、価値を決めるルールそのものが絶対的に振舞っているというところに感動しましたね。
2018年、2019年にビットコインとイーサリアムを購入し現在までHODL
ーー印象的な取引について教えてください。
すごくうまくいったのは、2019年ごろに、単発で入ったアルバイト代の200万円で当時まだ60万円だったビットコインを購入し、現在まで保有している取引ですね。
当時、200万円全額でビットコインを買うというのは迷ったのですが、bitFlyerの金光さんがちょうどTwitterで「ビットコインを100万円以下で買えるのは、この一ヶ月だけだろう」旨の投稿をしていて、迷いがなくなり、全てbitFlyerの口座に入金して買いました。
200万円は大金ですし、恐る恐るの購入ではありましたが、現在までガチホし、結果としてはとてもいい取引になりました。
▼2017年末から2024年7月上旬までのビットコイン/日本円のチャート。赤丸箇所が田原氏がビットコインを購入したとされる期間。
また、2018年にチェコで開催されたDevconに参加し、イーサリアムの技術的な面白さ、ビットコインとはまた別の可能性を感じ、資金の大部分で当時1万5,000円ほどだったイーサリアムを買ったというのもあります。
短期トレードが苦手で、うまくいった取引はこういった昔からのHODLの取引が多いですね。
▼2017年末から2024年7月上旬までのイーサリアム/日本円のチャート。赤丸箇所が田原氏がイーサリアムを購入したとされる期間。
利益率としては労働が最も高い投資だった
ーーイーサリアムの具体的にどこに面白さ、可能性を感じたのでしょうか。
イーサリアムの自由度ですね。
ビットコインは手を動かして何かを行うにはハードルが高いのですが、イーサリアムは技術的に遊べるというか、自由度が高くて、そこが楽しいですし惹かれましたね。
特に当時はイーサリアムはまだ誕生したばかりでビットコインと比較すると開発余地が大きくチャンスを感じました。
また、このDevconで知り合った方に暗号資産に興味を持つエンジニアや金融関係者との飲み会に誘っていただき、そこで仲良くなった数名とその後、Turingumを創業しています。
KanaGoldさんやうどんちゃん、ヨーロピアンさんなど、今となっては暗号資産のコアな方々が参加されていた飲み会ですね。
そういう意味で、Devconへの参加はその後の人生への影響が大きかったです。
また、Turingumを少ない資金で始めたので、結果的に、利益率としては労働が最も高い投資だったと思います。
ハッキングで2ETHを失う
ーー失敗した取引についても教えてください。
botでCEXとDEXの間の鞘を取ろうとしたところ、ハッキングに遭い、2ETHを失ったというのがあります。
ーーハッキングの被害は他にもありましたか。
GitHubにコードをアップロードした際、秘密鍵の混ざったファイルをコミットから外すのを忘れていて、秘密鍵を抜かれたというのもあります。
自動生成されたファイルの中に秘密鍵が混ざり込んでしまい、リポジトリに載せてしまったんです。
気がつくとMetamaskからお金が減っていて、当時の価格では数十万円程度ですが、現在の価格では数百万円程度失っています。
それ以降は、Metamaskではなく、ハードウェアウォレットに資産を移して、管理しています。
エアドロップは自分の資金をリスクに晒す対価として報酬がもらえる仕組みで、実質的には無料でない場合が多い
ーー暗号資産全体において考慮すべきリスクがあれば教えてください。
自分がどのレイヤーを触っているか、どのレイヤーに自分の資金があるかということを意識しながらトレードした方が良いと思います。
暗号資産はリスクの上にリスクを重ねるほど利率も上がるようになっており、レンディングならなぜその利率が維持されているのか、その利率の対価は何なのか、認識しておくことが大切です。
例えば、エアドロップは自分の資金をリスクに晒す対価として報酬がもらえる仕組みになっており、実質的には無料でない場合が多いです。
たとえばEigenLayerもリスクが積み重なっているプロダクトです。
技術的には面白く、私も少額を入れていますが、リスクを正しく認識した上で触るべきプロダクトでしょう。
ーーエアドロップも当初と比べるとトークンをもらうまでのハードルが上がってきます。田原さんはどのように見ていますか。
エアドロップはプロジェクト側の視点では広告です。
最近はよりコアな広告戦略をプロジェクト側が求めるようになり、費用対効果を厳しく見るようになってきました。
エアドロップが広告宣伝としての本来のあるべき姿に戻ってきているということだと思いますが、金融プロダクトであることには変わりはなく、そこに参画することは、一定のリスクが伴います。
最近はプロダクトの利用のみならずユーザーの資金をプロダクトに置かなければならなくなっており、エアドロップを狙うことのリスクが高まってきていると感じます。
リスクを負っている認識があれば情報に対する感度も高くなる
ーー田原さんはコードを読むことができますが、コードが読める場合にマーケットにおける取引において優位に立てるということはありますか。
あまり旨味があるとは思わないですね。
それよりも、自分が行っているトレードのリスクを正しく認識していることのほうが大事だと思います。
必ずしも自らコントラクトを読まずとも、自分より賢い人が読んでいるのであればそのアカウントをフォローすればいいですから。
リスクを負っている認識があれば情報に対する感度も高くなります。
以前、FTXの崩壊直前にCoindeskがFTXの資金流用について記事にした際、FTXに資金を預けていたTuringumのメンバーはほぼ全員、FTXから自分の資金を引き上げました。
この時に引き出せていなかったらその後逃げられなかったわけで、こういった対処がとれたのもリスクをとっている認識が十分にあったからだと思います。
マメに取引したプレイヤーよりも、ただガチホし続けた怠惰なプレイヤーのほうが利益を出すことが往々にしてある
ーー初動で資金を引き上げなかったことで逃げられなかった人も多いと思うので、重要な教訓だと思います。
「FTXは大きな組織だから大丈夫だろう」と慢心のある人は情報を得ても対処することができなかったでしょう。
なので私のように面倒臭がりで行動が早くない人は、FTXのような取引所は避けるべきでした。
私は怠惰な人間ですし、それを自覚してもいますので、トレードはせず、長期で保有しトータルで勝つことを目指しています。
一方、マメな人はリスクの高い様々なプロダクトで鞘をとりながら、リスクがあったらすぐに資金を抜くといった攻めと守りの両方をとることでリターンを得ることができるでしょう。
怠け者は怠け者らしく怠惰に取り組むことで長期で勝つこともありますので、それも一つの強みになるはずです。
私自身のエッジは、怠惰な性格を自分で認識し、ビットコインとイーサリアムをずっと握り続けられていること、現金を持たない、この二つだと思っています。
ーー同じように怠惰な読者がいたとして、何を伝えますか。
レバレッジをかけることは避け、怠け者は怠け者なりに怠け者でも勝てる手段を選ぶと良いと思います。
マメにトレードし「自分は儲かっている」と認識しているプレイヤーもいると思いますが、トータルではただガチホしつづけた怠惰なプレイヤーのほうが利益を出していたということは往々にしてあります。
私のように怠惰なプレイヤーは収益を自慢するアカウントを全てブロックし、リスクやプロダクトに関する情報をきちんと発信してくれるアカウントをフォローすることをおすすめします。
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全二回の田原氏のインタビュー、後編に続きます
田原氏やTuringumのHPなどはこちら。
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