ビットコイン事業者としての難しさとは カシェイ・岡田氏 後編

カシェイ岡田氏に、ビットコイン事業者としての難しさについて伺いました。

岡田 淳氏 プロフィール

名古屋市立大学大学院にてデータ分析を活用した医学研究を行い修士号を取得。海外旅行中に感じた決済の不便さをきっかけにビットコインの可能性に気づく。2023年、ビットコインエコシステムを推進するために国内でビットコインフォーカス企業を設立。
株式会社カシェイ代表取締役:https://www.cachet.jp/ https://x.com/okada_atsu

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取材実施日

2024年7月25日

ライトニングネットワークに対応している日本の取引所がないことが日本でビットコイン決済が普及しないボトルネックの一つになっている

ーービットコインフォーカスの事業に取り組まれる中で、採用以外で大変なことがあれば教えてください。

ライトニングネットワークに対応している日本の取引所がないことです。

ビットコイン決済はオンチェーンだと一回の送金に10分程度の時間が必要です。そのためオンチェーンのままだと実店舗などの決済領域での普及はしにくいと考えています。

大きな金額を動かす際はオンチェーンのほうが向いている場合もありますが、日常使いの高頻度少額決済だとオフチェーンが向いています。

それでライトニングネットワークでとなるのですが、日本の取引所でライトニングネットワークに対応してるところはなく、簡単に日本円に戻せないため、それが普及のボトルネックの1つでもあると思います。

ーー現在だとどのようなオペレーションになるのでしょうか。

例えば実店舗がライトニングネットワークで支払いを受け取った場合、本当はライトニングネットワークのまま取引所に送って日本円に交換したいところです。

しかし現状は、日本の取引所はどこもライトニングネットワークに対応していないため、一度オンチェーンに戻さなければなりません。

しかしライトニングネットワークからオンチェーンに戻す際に手数料が発生します。

最初から取引所がライトニングネットワークでの受取に対応していれば必要ない手間と支出です。

日本の取引所はなぜライトニングネットワークに対応しないの

ーー取引所はなぜライトニングネットワークに対応しないのでしょうか。

まずライトニングネットワークの技術者が日本にはすごく少ないと思います。

趣味でノードを動かしている、ルーティングしている人はいますが、技術者はあまりいません。

また、ライトニングネットワークを導入することでどれほど利益を創出できるか見えていない取引所も多いと思いますし、日本のどの取引所も対応していないから焦りがないというのもあると思います。

海外ではライトニングネットワークを使ったビジネスモデルの解像度が高く対応している取引所がたくさんあります。

参考:コインベース、ビットコインの「ライトニングネットワーク」導入 | あたらしい経済

ビットコイン事業者としての難しさはなにか

ーーギフトカード事業の大変さについてお聞きしましたが、ビットコイン事業者としての難しさがあれば教えてください。

ビットコイン周りは税制面や法律面がかなり特殊です。

ライセンスを持たない事業者はどこまではやって良くて、どこまではやってはいけないとか、この場合はどういう解釈になるのかとか、技術以外の面でも考慮しないといけないことが山程あります。

弊社のような事業者だけでなく、決済を導入する店舗としても、例えば店舗でビットコイン決済を導入したとして、領収書の記載はBTCで記載すべきか、もしくは日本円か。

半分をビットコイン、残り半分を日本円で買った人がいたらどのように領収書を発行すべきか。

もし後日返金となった場合、返金時にビットコインの価格が大きく変動していたらどうなるのか。

少額なら問題ないかもしれませんが、もし10BTCなどの高額商品を購入し、翌日にビットコインの価格が10%上昇したら、返品してビットコインに戻したいと考える人も少なくないかもしれません。

実際にやってみることで勉強だけでは気が付かないこのような細かい「これってどうなの」がたくさん出てきます。

そのため、とにかく試すことが重要です。実際に試さないと気が付かないことが沢山あります。

そしてビットコインのことをよく知った専門家や士業の先生の存在もこれからますます重要になってくると思います。

ビットコインや暗号資産という言葉が定款に入っている時点で銀行口座を開設できないという話をよく聞

ーーそのほか、ビットコインフォーカス企業としての難しさがあれば教えてください。

これは私個人の感覚ですが、既存金融はビットコイン、暗号資産にあまりいい印象を持っていないところが多いと感じます。

ビットコインや暗号資産という言葉が定款に入っている時点で銀行口座を開設できないという話もよく聞きます。

また、ビットコインフォーカス事業は、独自トークンを発行するWeb3系のプロジェクトとは性質が違っていて、どちらかというと「お金のスタートアップ」という捉え方が正しいと思っています。

「お金を新たに作る、発行する企業」ではなく「お金を使ってなにかサービスを提供する企業」そういうイメージです。

そのため、ほんとに泥臭く地道に地道にやっていくしかない領域です。

ビットコイン以外の暗号資産決済は導入しない

ーービットコイン以外の暗号資産での決済導入は予定されていますか。

いいえ、今後も弊社で取り扱う通貨はビットコインのみを予定しています。

ーー決済できる通貨が多い方がユーザーの利便性が向上するという見方もあると思いますが、ビットコインのみなのはなぜでしょうか。

多機能主義はよくないと考えているからですね。

まだ一般層まで普及していない状態でビットコインのほかに何百種類の暗号資産に対応するとなるともう理解が追いつかず逆に利便性を損ねるのではないかと考えています。

多機能よりも、シンプルで使いやすい、価値と価値の交換という目的を端的に達成したいです。

情報量が多いというのは必ずしもポジティブではなく、逆にノイズになることもありますし、一般層へアレルギーを作るきっかけにもなりえると考えています。

数あるトークンの中からビットコインを選択した理由

ーー決済通貨を一つに絞る利点について理解しました。ではなぜその一つがビットコインなのでしょうか。

まず、暗号資産の中で、最も知名度があるのはビットコインでしょう。

他の暗号資産は名前すら聞いたことないという人がまだたくさんいると思いますが、ビットコインは名前だけなら誰でも聞いたことがある水準まで知られていると思います。

また、プルーフ・オブ・ワークやUTXO方式を採用しているビットコインは、分散性という意味でもプライバシーという意味でも優れていると思いますし、2100万枚という発行上限が決まっているからこそ価値という意味でも信頼できます。

総合的にこういった各論を考慮し、真に利用してもらうべきはビットコインであると考えました。

それに、10年後、20年後に数あるトークンの中でビットコインは必ず生き残っているはずだと思いますし、ビットコインが生き残っていないのなら他のトークンもすべても生き残れていないはずだとも思います。

そういう意味で、ビットコインにフォーカスしたスタートアップをやりたいと思ってカシェイを創業しました。

オープンなプロトコルのため全てのビットコインフォーカス企業は協業しているようなもの

ーービットコインフォーカス企業の楽しさや価値などポジティブな側面についても教えてください。

まず、現在カシェイで稼働してくれているメンバーは本当に優秀なメンバーばかりですが、ビットコインフォーカス企業でなければ絶対に集まっていません。

ーーメンバーの方は岡田さんと近しい考え方の方が多いのでしょうか。

それぞれ若干の考え方の違いはあるかもしれませんが、全員が「将来、暗号資産が普及するのであればそれはビットコインだろう」と考えています。

そういうところはすごく似ていて、近しい未来を見ていますね。

ーービットコインフォーカス企業が日本で少ないことに対してどのようにお考えですか。

弊社以外でもどんどんビットコインフォーカス企業が日本で生まれてきてほしいと思いますね。

ビットコインは一般的な前払式支払手段とは異なり、オープンなプロトコルなので、今普及している決済端末がライトニングネットワークに対応し日本中に広まると、自社のウォレットでも使えて恩恵を受けます。

そういう意味で、全てのビットコインフォーカス企業は協業しているようなものと考えており、そのため私はビットコインフォーカス企業が日本でもどんどん出てきて欲しいと考えています。

ーー現在、ビットコインフォーカス企業が少ないのはなぜでしょうか。

事業としてのハードルの高さでしょう。

短期的な売上、利益を追求するなら別分野で事業を展開する方が合理的ではないでしょうか。

心からビットコインが普及する未来を信じている、そして心からビットコイン決済を普及させたいという思いがある、そして心からビットコインが好きでないと取り組めないと思います。

ビットコインのコミュニティは協力的

ーーおっしゃるとおり、ビットコインフォーカス企業は他の領域と比較すると事業展開が難しそうです。

ただ、ビットコインフォーカス企業のハードルは確かに高いのですが、ビットコインコミュニティの人たちはすごく協力的で、経済的なやりとりがなくても親切丁寧にいろんなことを教えてくれます。

海外のビットコインコミュニティは寄付文化も活発で、ビットコインのプロジェクトは寄付で成り立っているものも少なくありません。

ツイッター(現X)の創業者であるジャック・ドーシー氏もビットコインやNostrなどの分散型エコシステムに寄付していますし、ビットコイン関連企業にも多数投資をしています。

参考:分散型SNS「Nostr」とは–Twitter創業者ジャック氏が支援、渋谷のイベントに700人集結 – CNET Japan

エルサルバドルでビットコインが法定通貨に採用されたのもビットコインで多額の寄付があったことが要因の一つだったと記憶しています。

国内でビットコインが広まるきっかけとなったのは、今から3年前にエル・ゾンテという小さな村に匿名でビットコインの寄付があったことです。

この寄付を受けて、地元のリーダー達が自分達の村でビットコインを使えるようにするために、米国人のパートナーと協力をしてビットコイン経済のエコシステムを立ち上げ始めたのです。

参考:ビットコインが法定通貨になった国 エルサルバドル駐日大使特別講演【前編】

そういう意味では、ビットコインフォーカスの強みは世界中にあるビットコインコミュニティが応援してくれる点で、私自身もビットコインフォーカス企業ならどの企業でも応援したいですし、逆に応援して欲しいです。

そういった意味ではすごく恵まれていると思います。

いわゆるビットコイナーのコミュニティは怖くてハードルが高いと感じる方も多いと思いますが、心から応援してくれる人たちが多いです。

私も初めてコミュニティに投稿するまで二年間のROM専の期間がありましたが、いざ投稿してみると、みんな優しく、質問したら丁寧に教えてくれます。

入ってみると居心地が良く、楽しいですし、すごく助けられています。

ーービットコインでの決済導入を検討している企業や店舗に対してメッセージがあればお願いします。

ビットコイン特有のわかりにくい概念がたくさんあると思います。

どのように受け取り、どのように日本円に変えて、ライトニングネットワークをどのように導入するのか。

そういったハードルを今後は弊社でフォローできたらと考えています。

銀座で50年の歴史を持つ老舗画廊の「ギャラリー上田」にて、ビットコインをテーマとした作品が展示

ーー最後に読者にメッセージをお願いします。

ビットコイン以外の業界ともさまざまなコラボレーションを行っていきたいと考えています。

実際、2024年9月18日から26日まで、銀座で50年の歴史を持つ老舗画廊の「ギャラリー上田」でビットコインをテーマとした作品が展示されるのですが、そこではビットコインでの決済が導入されています。

オンチェーンとライトニングネットワークの両方に対応していて、こちらを弊社がサポートさせていただいています。

この記事を読んでいる方々で、もし少しでも興味があればぜひギャラリー上田に遊びに来てください。

もしかしたら「画廊に行ったらなにか作品を購入しないといけない」「入りづらい雰囲気がある」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。

美術館のようにさまざまなアーティストの作品が展示され、ふらっと気軽に遊びに行ける場所なので気軽にお越しいただけると嬉しいです。

また弊社とコラボレーションしてくれる企業様も是非お気軽にご連絡いただきたいです。

今後もビットコインを活用した面白い取り組みを沢山行いたいと考えております。

共にビットコインエコシステムを育てあげることができれば、大変うれしく思います。

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全2記事のカシェイ岡田氏のインタビュー、前編はこちら

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