Akira氏 プロフィール
大学院修了後、複数の金融機関でリサーチ業務に従事。現在は、為替ストラテジストとして活動中。ドル円などG10通貨のほか、エマージング通貨が専門。金融市場のデータだけでなく、新興国の現地情報を踏まえた情報を発信。
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タイへの移住、どのようなリスクがあるのか?
「微笑みの国」とも呼ばれるタイ王国。
プーケットなど世界的に有名な観光地で知られ、移住を希望する人が増えています。
でも、長く暮らすのであれば、日頃は想像もしないリスクに備える必要がありそうです。
意外と多い、東南アジアの紛争リスク
実は、東南アジアの国々は、いま、海洋権益をめぐる紛争のリスクにさらされています。
南シナ海にはフィリピン沖の南沙諸島、ベトナム沖のパラセル諸島、沖縄の近くには台湾…と、中国やアジア各国の領有権をめぐる対立が続いているためです。
「まさか、戦争なんて…」という考えは禁物。
東京オリンピックが開催された2021年に、「来年、ロシアがウクライナに侵攻するぞ」と言っても、ほとんどの人が信用しなかったでしょう。
タイの周辺でも、紛争の火種は燻っているのです。
ただし、直接的な戦火が及ぶことは考えにくい
もっとも、生命に危険が及ぶリスクが低そうです。
タイ政府の伝統的な方針は「全方位外交」、すなわち、中国や東南アジア、日本、米国などと良好な関係を維持しています。
米国と同盟を結ぶ一方で、タイの最大の貿易相手国は中国です。
また、タイには華僑が多いことから、台湾問題を含めて、長期的に見ても中国が軍事的な脅威にはなり難いと言えそうです。
イスラム過激派のテロが「輸出」される可能性も
テロや国際的な犯罪組織のリスクも考えてみましょう。
この点、イスラム系武装勢力がタイからの分離独立を求めて、マレーシア国境付近でテロ活動を行っているものの、マレーシア政府の協力によって下火になっているようです。
ただ、イスラム過激派のテロは、長期的には移住のリスクになるかもしれません。
マレーシア、インドネシアといったイスラム教徒が人口の多数を占める国が隣接していますが、過激派の拠点には絶好の立地になるためです。
イスラム社会に潜伏し、欧米富裕層が観光で訪れるタイに、テロを「輸出」する可能性は否定できません。注意すべきでしょう。
もちろん、テロも辞さない過激派は、イスラム社会において極めて少数派であることを強調しておきます。
定期的に軍事政権ができてしまう国
タイ国内で、生命に危害が迫るリスクに目を転じてみましょう。
意外なことに、タイでは定期的に軍事政権が成立しています。
2006年のクーデターでは、汚職まみれとなっていたタクシン首相が亡命。
その後も、2014年には陸軍大将だったプラユット氏が民政を倒したのちに首相に就任し、2023年まで軍事政権が継続していました。
ただし、タイの軍事政権は、ライフル銃で市民を脅すようなことは行いません。
プラユット首相が政権の座にいた際には、市内を警備する国軍兵士に「市民には笑顔で対応せよ」との命令が出ていたそうです。
さすがは、「微笑みの国」といったところでしょうか。
一般市民も、これまで軍政が繰り返された経験から、「水戸黄門」のように、「国軍が悪い政治家を懲らしめたのだ」と考えている人が多いようです。
筆者の同僚も、軍事政権の時期にバンコクに駐在していましたが、「治安が良くなった。怖い思いをしたことはないよ」と語っていました。
やはり、あり得るのは「経済」に関するリスク
では、地域社会に馴染んでしまえば、タイ移住にリスクはないのでしょうか?
紛争やテロに直接巻き込まれなくても、移住者の生活が脅かされる可能性がありえます。それが、「経済」に関するリスクです。
周辺国で有事が起きたら、移住者の生活はどうなるか?
たとえば、もし、マラッカ海峡や台湾海峡で有事が勃発したら、どうなるか。
タイは原油を輸入に依存しており、その金額は輸入全体の20%に上ります。
隣国マレーシアからも一部購入していますが、大部分は中東のサウジアラビアやアラブ首長国連邦から輸入しています。
周辺国で領海をめぐる紛争が起きたら、あるいは大規模な海賊行為や天災が発生したら、輸入物価が跳ね上がって、急激なインフレが発生。
物価が高騰することで、生活資金がなくなってしまうかもしれません。
また、プーケットのような観光地を目指して、外国から観光客がタイを訪れますが、彼らが現地でお金を使ってくれることで、タイは必要な外貨を獲得しています。
タイの通貨であるバーツの信用を支えている、大きな要因は、実は外国人観光客なのです。
もしも、周辺国で紛争が起きた場合、タイの観光業、ひいてはタイバーツの価値が大打撃を受けるでしょう。
実際、新型コロナウイルス感染症が流行した2020年には、年間600万人いた観光客が、ほぼゼロに。
2022年初までにバーツは3%以上下落しました。
バーツ安となれば、やはり輸入品の価格が高くなります。移住者にはつらい状況になりそうです。
タイ移住のリスクまとめ
以上の話をまとめると、米国とも中国とも良好な関係にあるタイは、ウクライナ侵攻のような事態に陥る可能性は極めて低いと言えそうです。
一方で、長く暮らすのであれば、イスラム過激派のテロや、定期的に繰り返される軍事クーデターへの注意が必要になるでしょう。
もっとも、これらのリスクも、日本での生活と比べて、極端に危ないということは全くありません。
ただし、周辺国の危機は「対岸の火事」ではなく、経済への悪影響という形で、確実に移住者の生活を圧迫するため、要注意です。
タイはASEANで一番、高齢化が進んでいるため、バーツは下落トレンドにあると言えそうです。
地域紛争やテロ、クーデターなどをきっかけに、バーツ急落の可能性があり、外貨にアクセスできる環境を確保しておくことが、身を護る最善の策になりそうです。
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