2024/12/16付の日本経済新聞によれば、2024年に東京証券取引所で上場廃止する企業は94社と13年以降で最多となる見通しだそうです。
2024年はグロース市場が低迷し、新規上場社数が少なかった一方、上場廃止企業が多くなったため、東証の上場企業数は2013年の2013年の大阪証券取引所との市場統合後初めて減少に転じるそうです。
今回は日本株の上場廃止にスポットを当てます。
おせちーず氏 プロフィール
投資歴約32年の女性株式投資家。新卒でシステムエンジニアとして従事し、その後証券アナリスト、シンクタンク研究員を経て、現在大学講師。『個別株でインデックス以下のローリスク・ローリターン』を追求した株式投資を行っている。
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上場廃止に至る経緯の類型
大まかに言えば次の通りです。
1.MBO
Management Buy Outの頭文字をとったもので、企業の経営陣が株式や一部の事業部門を買い取ることを通じて経営権を取得することをいいます。
2024年でいえば、大正製薬HD、ベネッセHD、永谷園HDがこの類型に該当しました。
大正製薬HDはオーナー家が7,000億円超の株式を買い付けて上場廃止した、非常に規模が大きいMBOでした。
現在であればセブンアンドアイHDがこの例にならって非公開化を目指しているようです。
とはいえ、MBOは小型株に多く、大型株の案件はレアです。
大型株を経営陣が買収するためには、多額の費用が必要だからです。
2.他社や投資ファンドによる買収
2024年であれば産業革新投資機構によって買収されたJSRや第一生命HDが買収したベネフィット・ワンが該当します。
3.親会社などによる完全非公開化
三益半導体工業は親会社である信越化学工業(東プ:4063)により完全子会社化されました。
上場企業を非公開化するためには、TOB(株式公開買付)が必要です。
これは投資家の投資機会を逸することを埋め合わせるために、TOB価格にはプレミアムがつくことが多いです。
筆者も何度か保有株がこのパターンにはまり、収益を得たことがあります。
なぜ上場廃止が増えたのか?
言葉を選ばずいえば、マーケットが投資対象に対してより厳しい目を持つようになったからではないかと考えます。
その象徴にもみえる株式指数があります。
2023年に東証によって算出が開始された「JPXプライム150」は、日本の上場企業の「稼ぐ力」に着目して選考した150銘柄で構成されています。
150銘柄の半分は「エクイティ・スプレッド」が高い銘柄です。
「エクイティ・スプレッド」は当該企業の収益性と投資家が期待するリターンの差のことで、具体的には「ROE―株主資本コスト」で計算されます。
ROEはReturn On Equityの略で日本語では株主資本利益率のことです。
「株主資本コスト」は企業が株式を発行して調達する資金である株主資本金にかかるコストのことです。
株主の立場では、企業からの配当金、あるいはキャピタル・ゲインへの期待と理解すればいいでしょう。
「JPXプライム150」では、「株主資本コスト」を以下の式で算出すると定めています。
株主資本コスト=日本国債10年利回り(%)+各銘柄のベータ×(市場リターン(%)-日本国債10年利回り(%))
「ベータ」は、「β値」と表現することが多いもので、株式市場全体と個別銘柄の相関関係を示す指標です。
「JPXプライム150」の場合はTOPIXに対して、個別銘柄がどれくらい連動したかを判断材料に使います。
概して言えばベータ値が高い銘柄は、株主資本コストが高いことになります。
株主が要求するリターンの水準が高いということです。
「エクイティ・スプレッド」はROE―株主資本コストで算出しますから、株主資本コストが高い企業はそれ以上にROEが高くないとエクイティ・スプレッドがプラスになりません。
このような株式指数ができたということは、上場企業にはJPXプライム150に採用されるような利益を出せる企業になってほしいという東証の意図を感じます。
株主が投資したい企業になってくれというメッセージのようなものでしょうか。
また、東証は2023年3月に事実上の「PBR改善要請」も発表しました。
これに伴い、多くの企業が株主還元強化を行うなどのアクションが期待されて、2023年の日本株市場が好調だったのは記憶に新しいところです。
長くなりましたが、これらの経緯をサマリーすると東証は勇気をもって投資家にとっていい意味で株式市場の居心地を変えたのだと思います。
その居心地がよくないと感じる上場企業あるいは上場子会社を持つ企業は非公開化、つまり上場廃止を選んだのではないでしょうか。
マーケットの厳しい目は別の形でも見えます。
「モノいう株主」と呼ばれるアクティビストの存在です。アクティビストによる株主提案も増えている模様です。
2025年以降も上場廃止件数は高い水準?
筆者の私見ですが、2025年以降も上場廃止の件数は高い水準になると見込んでいます。
その理由の一つが、TOPIXの変貌です。
TOPIXは2022年4月に実施された東京証券取引所の市場再編に伴い、少しずつ姿を変えています。
2022年4月からは段階的に各銘柄の流動性に着目した見直しが実行されており、流通株式時価総額100億円未満の銘柄については、段階的にウエイトが低減しています。
2025年1月でその見直しが終了します。
2024年9月には次の段階の見直しが発表されました。
プライム市場以外に上場する銘柄も採用対象とする一方、「年間売買代金回転率」と「浮動株時価総額の累積比率」という流動性基準が導入されます。
それらの基準をもとにした銘柄入替も実施されます。
次の段階の見直しで一番変化しそうなのが銘柄数です。
約500銘柄減少します。第一段階の見直しで実施されている段階的ウエイト低減も手伝って、TOPIXを構成する銘柄数は3割程度減る見込みです。
減少する銘柄の多くはTOPIXの新ルールから想像するに小型株と想像されます。
かつては東証一部所属=TOPIXに組入れというわかりやすいルールでした。
「東証一部所属」は企業の知名度向上や従業員の採用活動などにはポジティブだったと言われます。
しかし、今後はプライム市場所属=TOPIXに組入れという等式が必ずしも成り立たなくなります。
TOPIXに組入れられ無くなれば、売買代金がさらに減少することも想定しておくべきです。
一方で、グロース市場の上場維持基準の見直しが議論されています。
議論の行方次第では株価が低迷する企業が上場維持基準に抵触して上場廃止に至るケースが増えることが予想されます。
とりあえず小型株投資は勇気が必要
この変化に伴う投資戦略を示します。
筆者は普段から大型株を投資のユニバースにしています。
よって、前述してきた変化はあまり気にならないのですが、小型株投資をしている人は勇気が必要になってくると思います。
当たれば、TOBなどで非公開化されて株価にプレミアムがつきます。
一方で、例えばTOPIXから除外されることによって、大きく売られる可能性もあります。
この両方のシナリオを想定する必要があります。後者の方には敏感でいたいものです。
筆者はかつて親会社の上場子会社TOBをもくろんで小型株を保有していたことがあります。
うまくはまってリターンを得られたことがある一方、いつまでたってもそれが起きないということも経験しました。
経験から言えば、「当たったら超ラッキー」ぐらいの気持ちでいないと、ただの資金効率が悪い投資になりかねません。
中小型株投資はそれぐらいの覚悟を以てやった方がいいと思います。
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