アメリカで景気後退懸念が加速
2024年5月頃から複数の経済指標はアメリカ経済の減速を示唆していましたが、明確に景気後退を意識するほどの水準にはありませんでした。
そのため、インフレ率低下に伴い、利下げによる金融緩和期待も高まり、米国株は強く推移していました。
しかし、8月に入り、ISM製造業景況指数が悪化した事を皮切りに景気後退懸念が膨らみ、雇用統計でサームルールが適用されたことから米国株は相場転換したと考えています。
サームルールと景気後退
サームルールとは、アメリカの経済学者サーム博士が提唱したリセッション観測の指標です。
直近3ヵ月の失業率平均と過去12ヵ月の中で最も低い失業率を比較した時に、0.5%以上の開きがある場合に経験則として必ずリセッションに陥るという観測です。
昨年秋頃にもサームルールが話題となりましたが、2024年8月2日の雇用統計で直近3ヵ月平均が4.09%、昨年8月に発表された失業率が3.53%で適応が確認されました。
金融市場は今までも経済減速を感じていたものの、明確な方向性が見え無い中で生成AIや利下げ期待が相場を支えていました。
しかし、金融市場が最も恐れる事象の一つである景気後退観測が高まり、リスクについて向き合う様に変化しつつあります。
サームルール以外の景気後退懸念
サームルールだけが景気後退懸念を加速させた訳ではありません。
ISM製造業景況指数の再減速、新規失業保険申請件数の増加、逆イールドカーブの解消、景気敏感株のガイダンス低迷、クレジットカードの延滞及び貸倒などが該当します。
ISM製造業景況指数は2024年3月に17ヵ月ぶりに加速に転じ、回復傾向が続くと考えられていましたが、予想に反して翌月から4ヵ月連続の下落を記録しています。
新規失業保険申請件数は24.9万件と増加傾向にあり、30万件を超えると経験則的に景気後退に陥ると考えられています。
2024年8月7日には一時、アメリカの2年国債と10年国債の逆イールドが2022年7月以来の解消が確認されました。
逆イールドとは、本来タームプレミアムの観点から長期の国債が短期の国債の利回りよりも高くなりますが、金融引締や経済展望によって利回りが逆転する現象です。
経験則として、逆イールド解消から数カ月後には景気後退が発生しています。
また、クレジットカードに関するデータも悪化傾向にあります。
上図は、8月6日にニューヨークFEDが発表した90日以上のローン延滞率です。
最新のデータでは、クレジットカードの90日以上の延滞率は7.18%であり、この水準はリーマンショック前後以来の数字です。
住宅ローンや企業の信用は健全ですが、クレジットカードや自動車ローンの延滞や貸倒は既にパンデミック前の水準を超えて増加しており、危険性が高まっています。
マクロからミクロに目を転じると景気敏感銘柄の決算ガイダンスは不透明性や下振れを示しています。
ここ数年安定していた旅行関連銘柄では、デルタ航空が国内需要の低迷や秋口にかけて予約が低迷している事を示し、Airbnbでは北米での需要鈍化と秋口予約の弱さが言及されました。
他にも、マクドナルドやディズニーでは低所得層の利用低下が現在も発生しており、数カ月に渡るマクロ環境による下振れリスクを発表しています。
株式市場の下落は長く続く可能性が高い
2024年8月7日時点でS&P500は直近高値から8.3%下落しています。
この騰落幅で議論される事がありますが、リセッションへ突き進む場合は長らく下落が続く可能性が高いでしょう。
その理由として、
1.株式市場が歴史的に高い水準にある事
2.業績悪化が反映されていない事
3.景気後退リスクが完全に反映されていない事
が挙げられます。
現在のS&P500の向こう12ヵ月PERは20.7倍であり、5年平均19.3倍、10年平均17.9倍と比較して割高感があります。
これは生成AI銘柄が株式市場を牽引した影響が大きいです。
しかし、直近生成AIの投資対効果について疑問視する声が増えており、業績を大きく超えた過大評価が是正され始めています。
その様な中でリセッションが確認されれば許容されるバリュエーションが大幅に低下します。
上図は、S&P500の向こう12ヵ月PERを表した図です。
景気悪化時にはPERが13倍台まで低下している事が確認できます。
今の水準からPER13倍まで低下すると、S&P500は3,358ptです。
更に、リセッションにより企業投資や業績が低迷した場合はEPS観測も低下します。
パンデミックの時はEPSは30%以上下落しました。
仮にEPSが20%低下すると考えると、S&P500は2,686ptまで下落します。
つまり、S&P500は現在の価格から約半分まで下落する可能性がある事を示唆しています。
株式市場の見通しは変化するため、リスク管理が必要
先ほど取り上げた例は、完全にリセッションを反映した時のターゲット株価であり、必ずしもこの水準まで低下する事を指名していません。
しかし、株式市場は景気後退観測を強めれば先行して売る傾向にあり、上記の様な株価まで急速に下落する可能性は十分あります。
そのため、適切なリスク管理が求められます。
この2年間は下落しても買ったら必ず儲かっていましたが、前提条件となる景気拡大局面は終わりを迎えつつありますので、ポートフォリオを見直す機会が到来しています。
仮に景気後退観測が来なければ、その際に再度見直すことをお勧めします。
今は出来る限りリスクを抑えながら、経済と株式市場の行方を観察し、長い下落相場からの脱却を待ちましょう。
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