日本のREITと米国のREITはどちらを買えばよいか

投資家にとって、不動産投資はポートフォリオの多様性を高める上で魅力的な選択肢の一つです。

特に、REIT(Real Estate Investment Trust)は、直接的な物件取得のリスクを回避しつつ、不動産市場の動向に資本を置く方法として、多くのプロフェッショナルに利用されています。

日本のREITと米国のREIT、これら二つの市場は異なる特性と機会を提供しますが、どちらが投資戦略に最も適しているのでしょうか。

本稿では、両市場の微細な違いから大局的な視点までを詳細に掘り下げ、どちらのREITが投資目的に合致するかの判断材料を提供します。

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日本のREIT市場の概要

日本のREIT市場は、独特の特性と機会を提供しており、多くの投資家が注目しています。

この章では、日本のREIT市場の概要や特徴、さらにはその投資の魅力について詳細に探ることを目的としています。

日本のREIT市場の背景

2001年の日本のREIT市場の誕生以降、この市場は着実な成長を遂げてきました。 その背景には、不動産の流動化という国の政策や、低金利環境のもとでの資産収益の追求などが影響しています。

また、日本のREITは、オフィスビル、住宅、商業施設、ホテルなど、さまざまな不動産を対象としており、多様な投資戦略が可能です。

主要な特性と市場の動向

日本のREIT市場は、特定の地域や業種に特化したものから、広範なセクターや地域に分散投資を行うものまで、多種多様な商品が存在します。

近年、特に都心部のオフィスビルや物流施設への投資が活発になっています。これは、働き方改革やeコマースの普及など、社会的な変化と密接に関連しています。

また、多くの日本のREITは、利回りが安定しており、配当性向が高いことも魅力の一つとされています。このため、長期のインカムゲインを求める投資家からの注目が高まっています。

市場の規模も拡大しており、J-REITの時価総額は、2023年の本記事の執筆時点では、約15.8兆円に達しました。この成長は、外国人投資家の参入や国内の機関投資家の活動増加によるものも大きいです。

市場の規模も拡大しており、J-REITの時価総額は、2023年の本記事の執筆時点では、約15.8兆円に達しました
出典:マーケット概況|ARES J-REIT View

しかし、市場の成長とともに、一部の不動産セクターや地域における過熱感も指摘されるようになっています。特に、新型コロナウイルスの影響を受けて、商業施設やホテル業界のREITの価格は一時的に大きな影響を受けました。

参考:新型コロナウイルスのJ-REIT市場への影響|大和アセットマネジメント株式会社

このように、日本のREIT市場は、多くの機会とともにリスクも孕んでいます。

米国のREIT市場の概要

米国のREIT市場は、世界最大の規模を持つ市場として、多くの投資家にその存在感を示しています。今回、この米国のREIT市場の魅力や特徴を投資家の目線で解析し、その投資価値について探求します。

米国のREIT市場の発展の背景

米国では1960年にREITの制度が導入され、この制度は不動産投資の民主化を目的としていました。

参考:米国の不動産投資市場の現状|国土交通省

REITに関する法律は、多くの投資家が安全に不動産への投資を行うための土台を作り上げました。この法律により、REITは不動産関連の収益を主要な収益源とし、その大部分を株主への配当として分配することが義務づけられています。

その結果、米国のREITは高い配当性向を持つことで知られ、安定したインカムを求める投資家からの注目が高まっています。 さらに、1980年代の税制改革や、1990年代の資本市場の変革は、REIT市場の拡大を後押ししました。

1980年代の税制改革や、1990年代の資本市場の変革は、REIT市場の拡大を後押ししました。
出典:米国REIT市場の発展と不動産ファイナンス|野村資本市場研究所

米国のREIT市場の特性と動向

米国のREIT市場は、非常に多様なセクターにわたる商品が存在しています。 オフィス、住宅、商業、ホテルはもちろんのこと、近年ではデータセンターや通信タワー、インフラストラクチャーといった新たなセクターのREITが登場しています。

この多様性は、投資家が異なるリスクやリターンのプロファイルを持つ商品を組み合わせて、ポートフォリオを構築する際の選択肢を豊富にしています。

これにより、投資家は、短期的な価格の動きを活用した取引戦略を立てることも可能です。 さらに、米国のREITはグローバルに活動しており、世界各地の不動産に投資することができるのも大きな特徴です。

しかし、米国のREIT市場も無敵ではありません。

過去には、金利の急激な上昇や経済の低迷など、マクロ経済の変動による価格の大幅な下落が発生したことがあります。

参考:最近の米国REIT市場の下落について 短期的な下値余地は縮小、長期的な魅力は変わらず|大和アセットマネジメント株式会社

投資家は、これらのリスクをしっかりと評価し、適切なリスク管理を行う必要があります。

収益性の比較:日本VS米国

REITはその高い配当収入と資産の多様化から、多くの投資家に選ばれています。特に、投資家の間で日本と米国のREITのどちらに投資すべきかという議論は絶えません。

この章では、日本と米国のREITの収益性を比較し、その違いと特徴を深掘りしていきます。

日本のREITの収益性

日本のREIT市場は2000年代初めのスタート以来、安定的な成長を続けてきました。 日本のREITは、主にオフィスや商業施設、住宅などの都市部のプライム不動産に投資しています。

その結果、首都圏のオフィス需要の増加や観光業の拡大を背景に、賃料収入の安定が期待されています。

参考:J-REITの業績は安定成長している|大和アセットマネジメント株式会社

しかしながら、日本の金利は長らく低水準が続いており、これがREITの収益性に影響を及ぼしています。一方で、低金利は物件の購入やリファイナンスを有利に進める要因となっています。

米国のREITの収益性

米国のREIT市場は、その規模と多様性から、世界で最も成熟した市場と言えます。 こちらの市場は、オフィス、商業、住宅だけでなく、近年ではデータセンターや通信タワーといった新興セクターへの投資が増加しています。

参考:【スペシャルレポート】米国リート市場の最新動向と魅力|フィデリティ投信

米国の金利は比較的高く、これがREITの収益性を後押ししています。高い金利は、物件のキャッシュフローを反映した高い配当収入をもたらしています。

また、米国経済の堅調な成長もREITの収益性をサポートしています。特に、テクノロジー関連の都市部では、オフィスや住宅の需要が高まり、賃料収入の増加が見込まれています。

しかし、前述のとおり、過去には、金利の急激な上昇や経済の低迷など、マクロ経済の変動による価格の大幅な下落が発生したことがあります。

収益性を考慮した投資判断を行う際、日本と米国のREITの各特性とリスクを理解することが重要です。

リスクの比較:日本VS米国

投資の世界では、収益性の追求とリスクの最小化が永遠のテーマとなっています。REITにおいてもこの原則は例外ではありません。

今回の章では、日本と米国のREITに関するリスクを比較し、それぞれの市場の特徴を掘り下げていきます。

日本のREITのリスク

日本のREIT市場は、2000年代初めに設立されて以来、着実に成長してきました。 しかし、その背後にはいくつかのリスク要因が存在します。

まず、日本は総人口が減少している国であり、中長期的には都市部を除く地域の物件需要が減少する可能性が指摘されています。

この点は、特に住宅や商業施設に投資するREITにとっては潜在的なリスクと言えます。

また、日本の金利が低いため、将来的な金利の上昇リスクも考慮すべきです。金利が上昇すると、新しい資金調達のコストが高まり、収益性に影響を及ぼす可能性があります。

さらに、日本は地震の多い国であるため、物件への被害リスクも無視できません。このような自然災害リスクは、他の国のREITと比較して高いと言えるでしょう。

米国のREITのリスク

米国のREIT市場は、規模や歴史、多様性の面で非常に発展していますが、それゆえに様々なリスク要因が存在します。

米国は、金利の急激な変動や政治的なリスクが高まる場合、市場全体が大きく揺れることが過去にも見られました。例として、連邦準備制度が金利を急激に引き上げた際、REITの価格が大幅に下落したケースがあります。

連邦準備制度が金利を急激に引き上げた際、REITの価格が大幅に下落したケースがあります。
出典:米国の利上げ懸念により、市場は大幅下落|シュローダー・グローバル・リートESGフォーカス・ファンド

また、米国の都市部では、テクノロジー企業の集積が進んでいますが、このセクターの景気の変動がREITの賃料収入に影響を及ぼす可能性があります。特に、シリコンバレーやシアトルなどのテクノロジー中心都市のREITは、このリスクを考慮する必要があります。

さらに、米国も日本と同じく、自然災害のリスクが存在します。ハリケーンや森林火災など、特定の地域において物件への被害リスクを持っています。

投資家としては、これらのリスク要因を十分に理解し、ポートフォリオの組み合わせを適切に調整することが重要です。リスクの特性とその対応策を知ることで、より堅実な投資を行うための土台を築くことができるでしょう。

資本の流動性と取引の活発さ

資本の流動性と取引の活発さは、投資家がREITを選定する際に重要な要因の一つです。これらの要因は、市場の成熟度や透明性を示すバロメーターとなるため、具体的な投資判断の前に検討すべき要点と言えるでしょう。

本章では、日本と米国のREIT市場の流動性と取引活動に焦点を当てて解説します。

日本のREIT市場の流動性

日本のREIT市場は2001年の開始以来、成長を続けています。 この市場は、主要な物件を中心に多くの投資家から注目を浴びています。取引量や上場企業数も増加しており、流動性は年々向上しています。

しかし、大手のREITが主導する市場構造となっているため、中小のREITの流動性は比較的低いと言われています。投資家としては、個別のREITの流動性を確認することが求められます。

米国のREIT市場の流動性

米国のREIT市場は世界最大の規模を誇り、多様性や透明性の点でも高い評価を受けています。 この市場の流動性は、多くの投資家が参加することで非常に高いレベルが保たれています。

また、米国の証券取引所に上場するREITは、財務情報の開示基準が厳格であるため、透明性も非常に高いと言えるでしょう。

参考:投資家の利益に資するJリートの情報開示のあり方研究会|不動産証券化協会

その一方で、米国の市場は世界中のニュースや経済動向に左右されることが多いです。そのため、短期的な価格の変動が激しい場合があります。

このような点を考慮し、流動性と安定性を両立させる投資戦略を検討することが重要です。

総じて、日本と米国のREIT市場の流動性は、それぞれ異なる特徴を持っています。

投資家は、これらの特徴を理解し、自身の投資戦略やリスク許容度に合わせて適切な市場やREITを選択することが求められます。

各市場の将来的な展望

REIT投資の魅力は、不動産への投資と証券市場の流動性を兼ね備えている点にあります。しかし、将来的な展望を見越した投資判断をするためには、各国のREIT市場の特性や成長の見込みを理解することが不可欠です。

この章では、日本と米国のREIT市場の将来について深掘りしてみましょう。

日本のREIT市場の将来的な展望

日本のREIT市場は、2001年の発足以来、一貫して拡大してきました。 都心部のオフィスビルや商業施設の需要の増加、外国人投資家の参入などが背景にあります。

特に、東京オリンピックや大阪万博のような国際的なイベントが開催される都市の不動産は、需要が高まると予想されています。

しかし、都心部の一部でオフィス空室率の上昇や、地方都市の人口減少が懸念される中で、投資家は物件の選定や地域の選択に慎重である必要があります。

米国のREIT市場の将来的な展望

米国のREIT市場は、多様なセクターや物件タイプが存在し、投資家に多くの選択肢を提供しています。

近年では、テクノロジーやヘルスケアに関連するREITが注目を集めています。特に、データセンターや物流施設、高齢者向けの住宅施設など、特定のセクターへの需要が高まっています。

参考:データセンターREITおよびデジタルインフラ投資テーマのご紹介 | Global X Japan

参考:米国リート REIT(不動産投資信託)一覧 / データセンター ― U.S. REIT Listing / Data Centers

しかし、米国経済のサイクルや金利動向、更には政治的な要因など、多くの外部要因が影響を及ぼす可能性があるため、投資家はこれらのリスクを評価し、戦略的な判断を下す必要があります。

両市場とも、将来的な成長の可能性はある一方で、その特性やリスクをしっかりと理解した上での投資が求められます。投資家としての知識や経験を活かし、適切な投資判断を行っていくことが、長期的なリターンを追求する上での鍵となるでしょう。

結論:日本のREITと米国のREIT、どちらに投資すべきか

REITは、多くの先進国でその存在感を増しています。特に、日本と米国のREIT市場は、その規模と特性で多くの投資家の関心を引きつけています。

しかし投資家にとって、これらの市場のどちらに資金を配置するかは戦略的な選択を要求します。

本章では、両市場の長所と短所を比較し、投資の方向性を明確にするための手引きとなりますと幸いです。

両市場の長所と短所

繰り返しになりますが、日本のREIT市場は、2001年の導入以降、安定した成長を続けています。 主な特徴として、商業施設やオフィスビルが主体で、その総資産は右肩上がりのトレンドを示しています。

また、日本のREITの長所としては、高い配当利回りや政策金利の低さからの安定した収益性が挙げられます。 しかし、その短所として、市場の規模の小ささや国際的なリスク分散の難しさが挙げられます。

参考:Jリートが高い配当利回りを実現できる理由 ~キーワードは「法人税免除」と 「高い配当還元率」~

対照的に、米国のREIT市場は、多様性と深い歴史を誇ります。アパート、ホテル、データセンターといった多岐にわたる資産クラスが存在し、市場規模も大きいです。

世界の主なリート市場の時価総額は193.4兆円。その中でも、米国リート市場は時価総額が133.3兆円と、世界の主なリートの中で最も大きな市場となっています。

参考:USリート特集|大和アセットマネジメント株式会社

米国のREITの長所としては、その多様性や流動性、そしてリスク分散の容易さが挙げられます。 短所として、ドル建ての投資の為替リスクや、米国経済の動向への影響度合いが考慮されます。

投資家にとっての戦略的な選択

投資家にとって、日本のREITと米国のREITのどちらに投資するかは、その投資目的やリスク許容度に大きく左右されるでしょう。

日本のREITは、安定的な収益を求める投資家や、アジア市場へのリスクヘッジを考慮する投資家に向いています。また、日本の低金利環境は、REITの資金調達コストを低く抑える要因となり、これが配当利回りの向上をサポートしています。

一方、米国のREITは、高いリスク・リターンを求める投資家や、多様な資産クラスに投資したい投資家に適しています。 また、比較的、米国のREITの流動性は非常に高く、短期間の取引も容易です。

両市場のREITにはそれぞれ魅力と課題がありますが、投資家は、それらの特性をしっかりと理解し、自らの投資目的や戦略に合わせて最適な選択を行うことが求められます。

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