「社会が不安定になっても業績が悪くなりづらい会社に投資する」株式投資家・おせちーず氏 3/4

証券アナリストとしてリーマンショックや東日本大震災などの金融危機を経験した経験から、安全で安定した資産運用を心がけているおせちーず氏。普通預金以上、インデックス以下のローリスク・ローリターンが目標だという。そんなおせちーず氏に、読んで参考になった書籍や投資先の選び方などを聞いた。

インタビュー・編集:内田 誠也
執筆:山本 裕司

おせちーず氏 プロフィール

投資歴約31年の女性株式投資家。新卒でシステムエンジニアとして従事し、その後証券アナリストを経て、現在は企業に勤めながら大学で非常勤講師にも従事。『個別株でインデックス以下のローリスク・ローリターン』を追求した株式投資を行っている。

Twitter:https://twitter.com/osechies
ブログ:https://ssizehappy.exblog.jp/

インタビュー1記事目:「個別株で、預金以上インデックスファンド未満の低リスク低リターンを目指している」株式投資家・おせちーず氏 1/4

インタビュー2記事目:歴30年の投資家が語る、日本のバブル・リーマンショック・欧州危機・東日本大震災 株式投資家・おせちーず氏 2/4

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推奨図書はタレブや「教養としての『金融&ファイナンス』大全」

――これまで読んで面白かった本を教えてください。

ナシーム・ニコラス・タレブが書いた本はよく読んでいます。「ブラック・スワン」「身銭を切れ」「反脆弱性」「まぐれ」は読みました。

これは訳者の意図もあると思いますが、タレブの本は文体や内容がかなりシニカルです。そこが気に入っています。

あとは、自分の頭で考えることを強く説いているので、ただ読んで理解するだけじゃ多分だめで、どう解釈するのかが大事だと思っています。その解釈が人によって違いが出てくるのだろうな、というところも面白さですね。

ほかには、著名な証券アナリストであられた野崎浩成さんという方が書いた「教養としての『金融&ファイナンス』大全」。

これは2022年に出た本ですが、私はもしファイナンスを教える立場になったら、教科書として使いたいと考えているくらいです。

すごく基本的なことから、ややマニアックなところまでが網羅されていて、初心者だったらここを読んでほしい、といったガイドも最初にあるので、とても親切です。

最初、図書館で借りたのですが、500ページほどある部分厚い本で、内容も面白かったので、時間をかけてじっくり読もうと自分で買いました。

――ほかにはありますか。

経済学者の渡部努さんが22年1月に出した「物価とは何か」も面白かったです。

その後10月に出た「世界インフレの謎」は、もう少しとっつきやすい本で、コロナショック後になぜインフレが起きているのかということにフォーカスしていて興味深く読みました。

「物価とは何か」では、日本でも物価が上がるチャンスがあったという指摘をしているんですよ。だけど、そのチャンスを逃してしまった。その指摘が斬新だと感じました。

私が知らないだけなのかもしれませんが、それまでそういう指摘はなかったな、と感じました。

バブル崩壊後やアジア通貨危機、金融ビッグバンがわかる「平成金融危機」

――投資に関する本で、ためになった本はありますか。

投資の本というか、結構金融史も好きで、元大蔵官僚で国会議員だった柳沢伯夫さんが書いた「平成金融危機」も面白かったです。

バブル崩壊の後の後始末をするために作られた金融再生委員会という組織が政府にあって、その初代委員長を務めていた方ですが、当時の回顧録です。

バブル崩壊を実体験で知っている人と、知らない人ではかなり印象が違うでしょうね。

若い人にとっては、聞いたことがない銀行の名前が数多くでてくると思いますが、バブル崩壊後やアジア通貨危機、金融ビッグバンなどのことがよく分かり、参考になると思います。

――本はよく読まれますか。

年間60冊を目安にしています。

今、大学の授業で、毎週1冊ずつぐらい、学生にお勧めの本を紹介しているんです。

私の話を聞いて読むか読まないかは彼ら次第なんですけど、あんまり小難しいものばっかりだと、ついてきてくれないかもしれないから、少し難しそうなものから、学生でも読みやすそうなものまで幅広く選んでいます。

市役所をやめてからは、本を読む時間も取れるようになりましたしね。

おせちーず氏の本棚。おせちーず氏提供

ストーリーを描いて投資先を選ぶ

――ローリスク・ローリターンを心がけているとのことですが、個別の銘柄を選ぶときにどのようなことを重視していますか。

その会社の業績や株価に関するストーリーはとても重視しています。

これはアナリスト時代に営業の担当者に言われたことです。

ストーリーが描けないものは駄目だ。レポートの中に成長のストーリーがないと、顧客の心に響かないよ、と言うことで。

当時はレポートを売り込むために言われていたことですが、株の売買においても重要だということでいまでも意識しています。

――ストーリーとは具体的にどのようなものですか。

私のすごく好きな銘柄の一つに栗田工業があります。

栗田工業は水の会社です。半導体を製造するときには超純水という、不純物を際限なく取り除いた水が必要なのですが、その超純水を製造している会社です。

栗田工業の株価の推移。出典:tradingview.com

もちろん、超純水だけを作っているわけでなく、家庭用の浄水器や工業用の水処理機器の製造など水に関する幅広い事業を展開しています。

水は人や社会にとって必要不可欠ですよね。端的に言えば、水がなくなったら人間は死んでしまう。だから、水のソリューションを持っている会社が、絶対に強い。

これが私の考える栗田工業のストーリーで、私はそう信じています。

コロナショックのとき、仕事を辞める直前で非常に忙しくて全然マーケットを見られなかったんですが、栗田工業だけは拾ったんです。3,000円弱ぐらいでしたが、今は5,700円くらいになっています。

今後も水の分野での栗田工業の優位性は、そう簡単に揺るがない。そのストーリーを信じているので、株価が安くなったら買い増ししようと思っています。

世の中からなくならないものを扱う会社は強い

――ほかにもストーリーの例があれば教えてください。

今は一旦手放していますが、ダイキン工業です。「空気で答えを出す会社」とCMでもよくやっていますよね。

エアコンは、これから新興国で急激に普及していくはずなんです。アフリカ、アジアとか。それに、ウクライナ侵攻の後、ヨーロッパを中心に電力危機と言われていますよね。

ダイキン工業の株価の推移。出典:tradingview.com

ダイキン工業は天然ガスなど化石燃料にあまり依存しないソリューションを提供しようとしています。

もう少し株価が安くなったら、買い戻そうと思っています。

――こうしたストーリーはどのように考えるのですか。

まず、世の中からなくならないものは何だろう、と考えます。世の中からなくならないものは、絶対にみんなが必要とする。だから、需要は減らないはずだ、と。

必要なものを扱っている会社はなんらかの事象により社会が不安定になっても業績が悪くなりづらい。一時的に株価を下げることはあっても、大枠としては上昇していくはず、と考えます。

だって水がなかったら人は死んでしまう。水がなかったら半導体も作れない。半導体を作れなかったら、家電製品や車は作れない。

だったら、水に関連した会社、銘柄ってなんだろうと考えて、栗田工業が当てはまるんじゃないか、と連想していくイメージです。

近未来のこと、これから世の中はどうなっていくのか、ということはよく考えますね。

今の日本には適度なインフレが必要

――最近の相場についてですが、為替やインフレなど注目していることはありますか。

ドル円などの為替について言うと、動きを見ることはできても、自分では制御できませんよね。だから結果を受け止めるしかないと思っています。

もちろん、動きを予測できればよりリターンを得られるのでしょう。でも、究極的には、上か下かを予測するのはギャンブルに近い部分があるので、そうしたことに対する見通しはあまり立てません。

ドル円が150円になったらこうしよう、とか考えてもしょうがない。本当にそうなるか、今の時点ではわからないですから。

――コロナ禍からウクライナ侵攻があり、世界的な金融引き締めもあって2023年の日本の株式市場は厳しいという見方が多いようですが、おせちーずさんはどのように臨まれていますか。

私は基本的に、いつも市場を厳しめに予想してます。楽観的な予想をすることはあまりないです。ポジティブな方向に変化してくれたらありがとう、と思うぐらいです。

ダウンサイドのリスクにはシビアに反応しますけど。だから、リターンもリスクも、預金以上インデックス以下で十分だと考えているんです。

負けない投資を心がけているということですね。

――物価の値上がりでインフレの悪影響も懸念されていますがこちらはいかがでしょうか。

私は何年も前からインフレになってほしいと思っています。安い物ばかりが売れる今の風潮はおかしいですよ。だから政府には適切な範囲でインフレに誘導してもらいたいです。

安いものばかりが売れるから、物の値段が上がらず、みんなの給料も上がらないし、株も上がらない。日本はデフレ期間が長くて、100円ショップで何でも買えるのが当たり前だって思いこんでいますが、それは絶対におかしいと思うんです。

暗号資産投資は出口がわからない

――投資家やアナリストとして30年、マーケットに携わられているおせちーずさんは暗号資産についてはどのように見ていますか。

全く興味がありません。そもそも資産だとも思っていません。

NFTというものがあって、イーサリアムがないと決済できないらしい、ということを最近知りました。

知識としては、それくらいですね。

――資産の運用先としては見てないのですね。

今までとは違う形でお金を稼ぐ手段ができたんだろうなとは思っています。しかし50代になった私が、今からそれをやる必要があるかと言えば、別にそんな必要はないかな、と感じています。

それと、暗号資産などの出口が、今の私にはわからない。出口がわからないものはやりたくないんです。

例えば私が明日死んでしまっても、夫も投資をしているので、証券会社に電話して相続の手続きもして、うまく私の資産を処理してくれるでしょう。

でも、暗号資産の世界だと、何をどうしたらいいのか、訳がわからない。

私は人生の出口を意識しなければならない年代だと思っています。だから、20-30代の人たちとは投資や資産運用に対する感覚が違っているのだと思います。

逆に、どうして暗号資産に興味を持つのかを知りたい。暗号資産に投資している人たちはどのようなストーリーを描いているのか、そちらのほうに興味がありますね。

明確な成長のストーリーを描ける先への投資を心がけているというおせちーず氏。次回は投資を始めたい人や勝てるようになりたい人へのメッセージをお聞きします。

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