「通貨のパラダイムが変わるとすればそれはビットコインが最有力である」金融リスク管理専門家・内田善彦氏 3/5

金融リスク管理専門家の内田善彦氏にビットコインやイーサリアムについてどのように見ているか伺いました。

内田善彦氏 プロフィール

1994~2023年日本銀行。金融研究所・企画役、金融機構局・企画役等。この間、2005~07年大阪大学大学院経済学研究科・助教授、2014~17年金融庁監督局・監督企画官、2017~19年東京大学公共政策大学院・教授、2019〜23年東京大学総合文化研究科・特任教授。金融機関のリスク管理・経営管理に関して様々な角度から考察を加える。東京大学工学部卒、同大学院修了(工学修士)、コロンビア大学大学院修了(ファイナンス数学修士)、京都大学大学院修了(博士(経済学))。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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前提

今回のインタビューは、内田善彦氏、個人としてお受けいただいております。本取材における内田氏の発言は、内田氏の現在または過去に所属する組織と一切、関係がございません。その旨、ご理解のうえご覧ください。

取材実施日

2023年3月28日

ビットコインは価値を生んでいない

ーー株式の投資歴が長い方でクリプトについては本質的な価値がわからないから取引しないという方が一定いらっしゃいますが、内田先生はどのようにお考えでしょうか。

「ですよね」としか言いようがないですが、クリプトをまずビットコインとそれ以外に分けて考えたいです。

それでまず、ビットコインが価値を生んでいるかというと、やっぱり生んでないんですよね。

証券性などの話は脇に置いとくとしても、ビットコインを種銭にして、事業をやって、収益が上がって、それをビットコインの保有者に還元する、という枠組みでもありません。

ビットコインが仮に決済ツールとして使われるとすれば、それは「通貨」ということだと思うのですが、通貨それ自身は価値を生みません。

通貨を持っている国の成長率が、他の通貨の成長率よりも高そうだからFXレートが動くというのはあり得るかもしれませんが、そういったものを除けば、通貨の価値が動くということはありません。

そういった意味でビットコインの価値がわからないというのは、私から見ると、至極真っ当な意見だと考えています。

新規ユーザーが持ち込むマネーが将来のキャッシュフローであるとするならば、それはポンジスキーム

ーービットコイン以外、例えばイーサリアムについてはいかがでしょうか。

イーサリアムなど、マネーゲーム的な形で、スマートコントラクトを用いながら様々な価値交換が行われていることは事実です。

ただ、それがクリプトの外の実体経済に影響を与えてるかというと、かなり微妙です。

実体経済からお金を吸い上げる機能が工夫を持って実装され、エンターテイメント的な価値はそれなりに生まれているのかもしれませんが、いわゆる産業的な価値、経済規模はかなり小さいと考えています。

このとき、株式のように、割引現在価値でディスカウントキャッシュフローを考えますが、将来のキャッシュフローはどこから生まれるのかという話になります。

外から入ってくる新しいユーザーが持ち込むマネーが将来のキャッシュフローであるとするならば、それはポンジスキームではないか、という議論になります。

通貨のリプレイス期待であれば制度が変わってからビットコインを買えばこと足りるはず

ーーいまの話はどちらかというとネガティブ側の要素ですが、ポジティブな見方はありますか。

いわゆるフィアット通貨を中心とした経済システムが、早晩ビットコインのような分散的な通貨システムに置き換わることを期待してビットコインを持つ、というのはありだと考えています。

ですが、それは制度が変わってからビットコインを買えばこと足りるはずなんです。

私も心情的には共感しますし、そういった判断もある意味で合理的だとは考えていますが、それは投資ではなく、あくまで投機です。

投機自体は禁止されていませんが、投資と投機は区別すべきです。

それに対して、そういう伝統的なファイナンスの人間の主張は信用する必要がない、新しいパラダイムの準備をしているんだ、という主張ももちろんあっていいと思います。

ですが、それはもう経済学、公共政策学などの枠組みを超えて、超越的なところから将来を見渡した上でご自身の資産の置き場所を選んでいるということです。

そうするとそれは投機でも投資でもない、その人の信念・宗教に近いものである、と私は考えています。

ーービットコインの価値について、フィアットからの退避や価値保存の機能に価値があるという意見もありますが、これについてはどのようにお考えでしょうか。

価値保存できることが機能、価値であるという議論はあるとは思いますが、だとするとこんなにボラティリティが高いもので私は保存する気にはなりません。

金(ゴールド)であってもここまでのボラティリティはない。

そういった意味で、先進国であれば金へのアクセスが十分にスムーズに行われる状況で、ビットコインを選ぶ理由は積極的にはないと私は考えています。

通貨のパラダイムが変わるとすればそれはビットコインが最有力である

ーービットコインのLayer2やライトニングネットワークが盛り上がりを見せていますが、内田先生は注目されていますか。注目している場合、どういった点に注目されていますか。

結論から言うとすごく注目、期待しています。大きく分けると、三点あります。

今後、通貨のパラダイムが変わるとすればそれはビットコインが最有力である、これがまず一つ目。

私から見ると、L2の中ではLNが最も技術的に優位を持っていると見える、これが二つ目。

二つ目に関して具体的に説明すると、LNはRollupsと違って、チャネルという概念を使い、特殊な形のサイドチェーンみたいなものを作るわけです。

そのネットワーク構造が、現在のインターネットが形成されているウェブ構造を再現しやすいプロトコルになっている。

私から見ると、インターネットという通信構造が社会の基本的なインフラストラクチャーになっている中で、この通信構造と親和性の高いL2が実用域に達すると、かなり期待できるのではないかと考えています。

三つ目は、ビットコインだけでなくイーサリアムもそうなんですが、L1もきちんと開発が進んでいる中で、L2とL1が目的に応じて使い分けられる姿、というのはよくよく考えてみると自然だなと考えているという点です。

そういった意味で、LNに限らず、例えばアバランチやソラナのように自分のL1に近いところで全部高速に処理します、みたいなことを強引にやるよりは最終的に落ち着きどころがあるんじゃないかなと考えています。

こういった理由から、ライトニングにはすごく期待しています。

いまの法律は最新の技術テクノロジーから見ると時代遅れになってしまっている

ーー資産を増やす手段というよりは、新しいパラダイムや社会に対する影響という観点でクリプトに興味を持っていて、その中でビットコインがおそらく最有力でありL2にも興味を持っている、ということでしょうか。

そうですね。

特にこの決済の枠組みに関して、いまの銀行システムはそれに合わせる形で法律ができていると思いますが、いまの法律は最新の技術テクノロジーから見ると時代遅れになってしまっている。

したがって、いまの法律に準拠しようとすると、いい技術があってもうまく使えないという問題があります。

ーー具体的に教えていただけますでしょうか。

日本の資金決済法は、基本的には資金決済のための法律であり、送金のための法律なんですね。

送金とはなんぞやと言ったら、同じ銀行の日本橋店と福岡支店があったときに、日本橋店でお金を入れたら、お金を入れた顧客の方が銀行に与信してるんですね。

銀行は預金してもらって、お金を借りている状態になるわけです。

その中で、そのお金を福岡支店で残高を付け替えて福岡支店で誰かが取り出す、という形にすると、そこで与信してた資金を回収してるわけですよね。

顧客の方が銀行から資金を回収するという枠組みになっている、これが一点目です。

二点目は、そもそもこのお金というものが、飛脚によって届けられるのを通信で代替してるという発想に立っています。

いわゆる、現金書留でお金を送るというのが基本的な姿勢になっていて、その電子版が送金と定義されています。

それって、そもそもクリプトの発想ではないですよね。

分散処理されるクリプトの方が情報科学的、金融的に見ても長所が多い

ーー既存の通貨とクリプトでは根本の発想がまったく異なるということですね。

ビットコインのUTXOを考えると、いわゆるヤップ島の大きな石の貨幣みたいなものがあって、その貨幣の所有者はAさんであったと。

AさんがBさんに支払いをするにしても、所有権をBさんに渡すことをみんなで覚えているだけで、石はでかくて持ち運べませんよね、という話です。

つまり、いわゆる登記の概念で貨幣を扱っています。

通貨は、発行された通貨を手渡しをする、手渡しの代わりに誰かが間に入って送る、という枠組みで法律も整理されていますし、金融実務もこの観点で整理されています。

その中で、クリプトが入ってきて、またヤップ島の世界に戻っているので、もうそれ自体がかなり違う構造になっているわけです。

どっちがいいという部分に関しては議論の余地があると思いますが、私は分散処理されるクリプトの方が、情報科学的、さらには金融的に見ても、長所が多いと考えています。

ただ、いまから制度的な枠組みを付け替えるためには、相当程度のトライアンドエラーがあって、様々な人が使い始めるという、社会に受容されるプロセスを踏んではじめて、エクスチェンジコストを社会が許容すると思うので、時間がかかるのは仕方がないと考えています。

Bolt cardはグローバルSuicaのように利用でき

ーーLNはBolt cardなど様々なサービスが出てきていますが、特に利便性が高いと考えているサービス、注目しているサービスはありますか。

私自身はどこまで決済が簡単になるかについて、常に興味を持って接しています。

2017年ごろに、友人からビットコインやLNの素晴らしさについて解説を受けたのですが、当時はSuicaよりも不便じゃないかと考えていました。

それで、Bolt cardでグローバルSuicaみたいなものを目の前で見せられて、強く興味を持ち始めました。

ウォレットの操作、QRコードを読むなど既存の決済は消費行為から見ると無関係な操作があって煩わしいのですが、Bolt cardは裏側にカストディアルウォレットを置いとけばグローバルSuicaのように利用でき、使えば使うほどこんなに面白いことできるんだ、というのが段々わかってきます。

分散処理の中での身分証明のような枠組みについても興味

ーーBolt card以外で注目している機能やプロジェクトはありますか。

Burry Market Researchのteatwoさんのインタビューにあったような、分散処理の中での身分証明みたいな枠組みについても興味を持っており、teatwoさんに教えていただきながら理解を深めています。

参考:「ライトニングネットワークは決済や国際送金で実用が進んでいる」Web5エンジニア・teatwo氏 1/3

ほかにも、ウォレットという概念のところで、身分証明書とお金は同居するのではと強く思っていますし、そうなると利便性がかなり上がると考えています。

アイデンティフィケーション、ID機能みたいなものはウォレットがうまくハンドリングしてくれると強烈に便利かなと。

ID機能については、例えば日本だとマイナンバーカードなどいろいろあるでしょうとなりますが、整備されてない国の方がまだ多いわけです。

秘密鍵を紛失してしまうという指摘に対して、ソーシャルリカバリーなども考えられ始めていますが、秘密鍵を付け替えることが、一定程度可能な形でのウォレットの管理および利用を突き詰めた向こうに、IDがウォレットの中に入る、という世界観にかなり注目しています。

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内田氏のインタビュー、4記事目では「日本でのライトニングネットワーク普及の鍵は交換所での導入」「イーサリアムにはポンジスキームを排除した形でのクリプト通貨の利用に期待」などについて伺います。

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