「条件を組み合わせて複雑にすればするほどアウト・オブ・サンプルではパフォーマンスが劣化する」botter・よしそ氏 2/3

botterのよしそ氏に、失敗した取引やbotの初心者がよく犯すミスなどについて伺いました。

よしそ氏 プロフィール

2017年から仮想通貨に参入。Deep Learningを始めとした機械学習モデルを活用して価格変動を予測し、低リスク高リターンな運用を行っているBotter。仮想通貨・株・為替と幅広く手掛ける。2021年には1万ドルを原資に5%以上のドローダウンを出さずに8ヵ月で1,000倍のリターンを上げる。

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取材実施日

2023年9月29日

モデルを信じきれず、含み損5,000万円の取引を損切りする

ーー取引における印象的な失敗について教えてください。

2022年に取り組んだ新しいモデルの開発で、一つの取引で5,000万の損失が出てショックを受けた、というのがあります。

当時はマーケットのボラティリティが非常に小さく、私の収益も思うように伸びず悩んでいた時期でした。その中で裁量トレーダーの方々が大きい収益を上げている話を目にし、裁量トレーダー的な取引をするモデルの戦略を一つ作ってみたんです。

リリースして初めての取引だったのですが最初から5,000万円という含み損を抱え、もちろんモデルの範囲内なので想定内ではあったのですが、実際に起きると精神的なダメージが大きかったんです。

チャートも頻繁に見てしまうようになって、それが二、三週間続きました。

それで精神的にかなり厳しくて悩んだ末に損切りしたんですが、損切り後に利益5,000万のラインまではね返り、非常に悔しかったのを覚えていますね。

ーーこれはモデル自体は仕様通りに挙動し売買のロジックも問題なかったが、手動で損切りしてしまったことで大きく損失を出してしまった、ということでしょうか。

はい、そういうことです。

モデルは問題なく動いていましたし売買ロジックも問題なくて、信じきれなかったゆえの失敗です。

たった一つの取引で大きな損失のリスクを抱える戦略は、リスクリワードが魅力的でも自分には向かない

ーードローダウンを深く許容するモデルだったのですね。

そうですね。

ドローダウンのパーセンテージはそれほど大きくはなかったのですが、ロットを大きく張るようなモデルだったんです。

裁量トレーダーがあれだけのロットを張って取引しているというのは実際にポジションをとってみると驚きで、自分にはできないなと思いましたね。

一方で、たった一つの取引で大きな損失のリスクを抱えるというのはリスクリワードが魅力的なものであったとしても私には向かないと改めて理解しました。

いい勉強代だったと思います。

ーーそれからモデルを変えたのでしょうか。

単体で大きすぎるポジションは持たないようにしましたね。

あくまで私の得意な取引、モデルというのは、一回一回の取引の利ざやは小さくとも数をこなすことで最終的には大きい利益を積み上げるという戦略です。

なので、裁量トレーダー的な中長期で大きいポジションを抱えて大きい金額を一つの取引で出すという取引はこれまでやってきてなかったんですね。

それで、原点に立ち戻り、改めて今まで自分がやってきたことを信じることにしました。

ーーそのモデルの売買のロジック自体は間違っていなかったけれども、自身の取引のスタイルに合わないので使わなくなったということでしょうか。

そうです。運用に耐えられるメンタルではありませんでした。

ーーほかに大きい失敗はありますか。

これほど大きな失敗はほかにはないですね。

ーー2021年は高いパフォーマンスを出せたとのことですが、2022年、2023年ではいかがでしょうか。

2022年は2ヶ月マイナスの月があり、先ほどの5,000万円の損失を出した月ともうひと月マイナスでした。2023年は負けなしですね。

そうはいってもバブル期ほどは全然稼げていませんが。

10個に1個のアイディアしか改善に結び付かなくてもコツコツと開発を続けられる人がbotterに向いている

ーーbotterに向いている人、向いていない人はどんな人でしょうか。

botterと言っても様々なタイプがいるので、あくまでこれは私のような機械学習、統計を用いて取引するbotterという前提で回答します。

その上でですが、基本的にはコツコツリサーチできる研究者のようなタイプが向いていると思います。

新しいbotのアイディアはたくさん出てきていろいろ試すんですが、アイディアの9割は改善に結びつかない、使えないんですね。

本当に改善に結びつくアイディアというのは10個に1個あればいいほうで、そのような状況でもメンタルをやられずにコツコツと続けられるような人でなければやっていても楽しくないし続かないと思います。

ーー9割は改善に結び付かないのですね。

はい、全く結びつきませんね。

ウェブ上にある取引戦略に関する論文などもそうです。

実験内容や評価が不適切なもの、時間が経ってマーケットに織り込まれてしまったもの、元々うまくいっていたデータだけをピックアップしているものなど、効果的な戦略を見つけるのはかなり難しいです。

ーー論文というのは無料でアクセスできるものですか。

有料と無料の両方ですが、無料でアクセスできる論文でも多くのアイディアがあり、有料の論文とそれほどヒット率は変わらない印象です。

ーー10個試して1個うまくいけばいいほうというお話でしたが、10個のアイディアを試すのにどれぐらいの時間がかかるのでしょうか。

何をやるかによって大きく異なりますが、私の場合、最近は回転数が落ちていてモデルを1個回すのに1~2週間かかっています。

ライトなモデルを使う、個々のエッジの調査などであればもっと早い頻度で回せるとは思います。

botterに向いている人はそもそもがbotterじゃなくても強い人が多い

ーーそのほかにbotterに向いている人の特徴はありますか。

そもそもがbotterじゃなくても強い人が多いという印象です。

技術力が高い、無限にリサーチできる、手数が多いなど、何らかの強いエッジとなる基盤を持っている人が多いように感じます。

Burry Market Researchで取材されていたQASHさんもリサーチ力が高くてその一人だと思います。

参考:5年で1億円の利益、しかし競争は熾烈 アービトラージ botter QASH氏 ¼

ーーQASH氏の記事の感想で「修行僧のよう」というものがありました。

それは私から見てもまさにそうだと思います。

ーー逆にbotter向いてない人の特徴はどのようなものでしょうか。

いま話していたのと真逆の人ですね。少なからず統計学周りの素養とセンスは必要だと思います。

ーー裁量トレーダーとしてうまくいっている人とbotterでうまくいっている人の違いは何でしょうか。

どうなんでしょうね。

そもそものベクトルとして全く異なることをやっていると思います。

私は裁量がそれほど強くないのであまりコメントできないですね。

突出したbotterには技術に対する特別高いモチベーション、ラーニングアニマル的な素養の方が多い

ーー高いリターンを出しているbotterの中でも突出したbotterとそうでないbotterがいると思います。その違いはなんでしょうか。

持っている技術力、バックグラウンドの強さというのは皆さん総じてすごく高いと感じますね。

技術に対する特別高いモチベーション、ラーニングアニマル的な素養の方が多いです。単純な経済的利益の追求だけでなく、どんどん新しい知識を蓄えるのが大好き、みたいな。

botterに限らずこの人は何をやっても成功するのでは、という方々ですね。

ーーよしそさんから見てすごいと思うbotterについて教えてください。

QASHさんは僕と異なるベクトルのbotterですが、すごいと思います。

技術力で言えばRosさん、sazanさんというDEX周りで活躍されている方々がいて、彼らも技術力が高くて強いです。

あとはUKIさんですね。僕も元々UKIさんのブログ記事を読んで勉強させていただいていますし、素晴らしい知見を持っていて尊敬しています。

総じて、皆さん、動かしている手数が段違いで多い印象です。

さまざまな条件を組み合わせて複雑にすればするほど、アウト・オブ・サンプルではパフォーマンスが劣化する

ーーbotの初心者の人がよく犯すミスや誤解はありますか。

最も多いのは、バックテストで利益が出てるからライブでも利益が出るだろうと試して失敗するというものだと思います。多くの方が、オーバーフィットしたモデル、戦略を作りがちなんです。

過去のデータを用いて条件を組み合わせてモデルを作ってみて、リターンがいいので実際に運用してみると途端に右肩下がりになる、みたいな。

分析に使ったデータにオーバーフィットしすぎてて再現性が低いというのは、よくある失敗の一つかなと思います。

ーー具体的には何を間違えているのでしょうか。

最適化しすぎているんです。

さまざまな条件を合わせて、複雑にすればするほど、アウト・オブ・サンプルではパフォーマンスが劣化するんですよね。

そのパラメータの最適化に使ったデータに最適化しすぎていて、それ以外の期間だと全くワークしていない、汎用的じゃない戦略になっているんだと思います。

そのほか、取引手数料やスリッページ周りは考慮できてないことが多いですね。バックテスト上では秀逸な戦略ができているんですが、本番で手数料とスリッページを考慮したら利益がなくなる、みたいなことが結構あったりします。

なぜこの条件で取り引きするのか自分で説明できないモデルは使えないモデルであることが多い

ーーバックテストでの学習の仕方を間違えていることに関して、条件を減らすなど、オーバーフィットしないコツはあるのでしょうか。

条件をシンプルにする、論理的に説明できる条件にする、というのは特に重要だと思います。

例えば、自動的に様々な条件を生成し、ランダムにピックしてパフォーマンスがいいものが出てきたからこれを運用しよう、みたいなことをすると自分でもファンダメンタルズ的に説明できない条件のモデルになりますよね。

なぜこの条件で取り引きするのか自分で説明できないモデルというのは、往々にして、単にその学習データだけに最適化された使えないモデルであることが多いです。

逆に、自分が十分に説明できるパラメータだけに絞ると、ファンダメンタルズに基づくエッジがありつつ、その条件で絞られているのでそれほどオーバーフィットはしないはずです。

ランダムにいろんなパラメータ、特徴量を追加して何らかの良い条件を探り当てようみたいな、データマイニング的なアプローチはワークしないケースが多いです。

ワークさせるにしても非常に大変なプロセスが必要になってきます。

アービトラージは新しいパターンや新しいルートを見つけ続けなければならず、自動化というより労働に近い

ーーよしそさんがアービトラージの戦略をとらないのはなぜでしょうか。

アービトラージは本当に競争が激しいからというのが一番大きな理由です。

それほど最適化していない人たちでも取れる大きい鞘というのは定期的に発生はするんですが、それはあくまで大きなイベントありきのものであって、定常的な利益にはならないんですね。

一方で、そういった大きなイベントだけでない、最前線のレベルが高いアービトラージというのは誰が一番最初にその板を取るかといった勝負になっていて、競合が増えると利益がすぐに減衰していくんです。

最終的にはトップ1、2が利益の8割を持っていくといったマーケットになってしまい、定常的に発生する鞘があったとしてもエッジがなくなるのが非常に早い。

どんどん新しいパターンや新しいルートを見つけ続けなければならず、自動化というより労働に近くて、それであまりやっていないというのはあります。

私がいま使っている手法は確率的なものなのでエッジが消えにくく、確定的なものでもないのでみんながそれを信じて取りにこれるというわけでもないですし。

裁定のエッジに比べたら断然長く残りやすい傾向はあります。

ーーアービトラージは一般的にマーケットのボラティリティが大きい方が利益が得やすいとされていますが、よしそさんの手法もそれは同じでしょうか。

同じですね。

ボラティリティが上がった方が値動きの幅も出ますし、段違いに利益が出るようになりますね。価格が動かないときはトレードもできないですからね。

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全3回のよしそ氏のインタビュー、最後の3記事目に続きます。

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