Web5のプロダクト開発に取り組みteatwo氏に、ライトニングネットワークの企業での利用普及やビットコインとICPとの統合について伺いました。
teatwo氏 プロフィール
フリーランスエンジニア。2018年からNFT→DeFi→Bitcoinと、地表から一つ一つ降ってラビットホールの底に辿り着く。NFT/DeFi/取引所の開発に携わり、今はLightningNetworkやSSI(SelfSovereignIdentity)に関心を持っている。ビットコイナー反省会のジパング杯の出演はこちら。
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代行業者が介在することで20年後にはすべての企業がライトニングネットワークの決済を使用している
ーー多くのプロジェクトが動いている中で、特にこのプロジェクトが面白い、興味があるプロジェクトはありますか。
ビットコインはマネーとしてブロックチェーンを使うものであって、お金を活用した商売はWeb2サービス(決済、サブスクリプション、給与支払いなどで組み込むということ)でも構わないというものが多いです。
なので、いかに新しいものを生み出すかというよりは、いまのライトニングネットワークをもっと良いものにするためにどうしたらいいのか、とそちらにディスカッションが集まっている気がしています。
いまベストなものをもっと良いものにしていこうという最上志向がビットコインは強いと感じますね。
ーー「20年後には全ての企業がLightning Networkを使用しているはず」という話もありますが、teatwoさんはどのようにお考えでしょうか。
2040年ですね。私もそのようなビジョンを持っています。
ただし、企業が直接LNを使用しているというよりは、直接LNのプロトコルを触っていないけれども、間に代行業者が介在していてあまり意識せず使っている、そういった状況になるのではと考えています。
現在も、クレジットカードの決済では各企業は直接決済サービスを組み込まず、例えばGMOペイメントゲートウェイなどの決済代行会社と契約して導入するのが一般的ですよね。
ビザやマスターカードと直接通信しているわけではなくて、間に代行業者が入っていて、ECショップはそこにアクセスしている。
そのような形も含めれば、20年後にはすべての企業がライトニングネットワークを使用しているという状況は十分にありえるのではないでしょうか。
ビットコインとICPの統合により、イーサリアムのようなプロダクト展開も可能になる
ーーICPのビットコインとの統合について、決済が早くなったり、手数料が安くなるなどが期待できるという話がありますが、これについてはどのようにお考えでしょうか。
まず、お断りしますが、私はICPについてはそれほど詳しくはないです。
それを踏まえた上で、私から見えている光景としては、ICPには2つの特徴があります。
一つ目は、ICPが行っているビットコインとのブリッジはトラストレス性が高いということです。
現在最も利用されているWBTCはBitGo社などが展開しており、間にカストディアンが入っていますが、ICPではchain keyという暗号技術用いて秘密鍵を誰にも推測されずに分散化し、分散化された秘密鍵を一定数集めることで秘密鍵として署名します。
そのため従来のBitGo社などのラップドされたビットコインよりトラストレス性が高く、より利用は広がるのではと考えています。
▼chain key技術について
参考:[Dfinity] chain key技術の簡単な解説 part1
参考:Internet Computer Protocolの現状(2022年3月時点)と今後の展開 – HashHub Research
二つ目は、ICPというスマートコントラクトのプラットフォームは、これまでのブロックチェーンのセキュリティを緩和し、アプリケーションの柔軟性を高めていることがポイントだと考えています。
もともと、スマートコントラクト系のDeFiやNFTなど、ベースの資産や担保にビットコインを据えたいという話がありました。
その対抗馬としてフィットしているのはステーブルコインですが、ステーブルコインはどこかの法定通貨に依存しており、特定の地域や国の事情に縛られます。
例えばUSDCは米国ドルや米国債で裏付けすることによって1USDCイコール1USDを実現していますが、それはすなわち米国の通貨政策や地政学リスクなどに依存するということです。
それに対して、私が考える、ビットコインの最も特徴的な点は、地域に対して中立で純粋なインターネットマネーであるということです。
ビットコインはどこの国のものでもない、無国籍なものです。何か特定の地域や国をトラストする必要もありません。
ネイティブなインターネットマネーです。
このポテンシャルを活かしつつ、ICPはアプリケーションの設計性を緩めており、多様なプロジェクトで取り組みできる余地があると考えています。
例えば、ICP上のDeFiで幾らでもチューリング完全のコントラクトアプリケーションができますし、いまイーサリアムで展開されているようなプロダクトもICPとの統合で可能になります。しかもインターネットのネイティブマネーであるビットコインを中心に据えながら展開することが可能です。
これまでスマートコントラクトの領域では、イーサリアムがビットコインの何歩も先を行っていて、そこにおいてステーブルコインが基軸通貨のポジションでしたが、これをきっかけにビットコインがステーブルコインに追いつく可能性は十分にあると考えています。
あくまで期待できるというだけで、具体的な個別のユースケースについては難しいですが。
ビットコインこそがDeFiに最もふさわしいものであるという論は現在多くの人が言っており、最近の動向を見ていてもその可能性は十分にあると考えています。
ICPのアプリケーションの設計性の柔軟性に関する賛否
ーーICPはなぜアプリケーションの設計性の柔軟性を緩めているのでしょうか。
これには賛否両論で、技術的には批判も多いです。
理由は、アプリケーションの柔軟性を高めて、その上でアプリケーションをブロックチェーンに載せ替えたいというビジョンが強いためと考えています。
少し前にICPのCanisterからHTTPアウトコールを可能にするプロポーザルが提出され可決されましたが、そういう話などです。
▼HTTPアウトコールについて
参考:Internet Computer Protocolの現状(2023年1月時点)と今後の展開
ICPはブロックチェーンとIPFSのようなストレージ系のものをセットにしているんです。全部我々だけでアプリケーションが作れます、というのがICPなので。
なぜ、そのようなセットのスマートコントラクトが他でできないかというと、ブロックチェーンのトランザクションの厳密性を保てないためです。
ーー詳しく教えてください。
技術的な話になりますが、説明します。
スマートコントラクトは常駐でサービスが立ち上がっているものではありません。
トランザクションが起こされた際に、スマートコントラクトの呼び出しがあればそこで例えばEVMが起動してトランザクションから計算依頼を受けます。
そしてスマートコントラクト上で計算を行い、計算結果をトランザクションに返します。EVMはそこでシャットダウンします。
途中でスマートコントラクトのエラーが見つかると巻き戻ります。実際、DeFiやNFTを使っていてもよくありますが、トランザクションが出せないというエラーが返ってくることがあります。
なので、スマートコントラクトの中で様々な計算を行っている最中は、状態の最終確定はさせてなくて、トランザクションに返した段階で最終的にスマートコントラクト上のステートの書き換えなども確定しています。
いつでも巻き戻せるようにしている、仮の姿ということです。
スマートコントラクトの内部で他のWebサービスに発信して情報を取ったりしてしまうと、冪等性を保つことが難しくなり、巻き戻す時に元の状態が分からなくなります。
トランザクション性を厳格に行うことができなくなってしまいます。
このような部分で賛否が分かれているということです。
ビットコインはマネーの役割に徹しており、お金として使われていく先はもっと幅広く捉えられるべき
ーーteatwoさん個人としてはICPに関してどのようにお考えでしょうか。
私自身はビットコインにフォーカスしており、その活用先として面白いプラットフォームがある、と考えているだけですね。
ーーICPによりビットコインができることも広がるということですね。
ICPは一例ですがそうですね。
ビットコインは地域中立なピュアなインターネットマネーとして存在していて、ハードマネーとして発行上限が定められています。現在、PoWとしては最も決済量が多く、資産としてとても頑健なものです。
そのため、クリプト界のベースアセットとして、ビットコインがステーブルコインと並んで候補として挙げられるものだと考えています。
ビットコイン自体は、マネーの役割に徹しているため、お金として使われていく先はもっと幅広く捉えられるべきです。
ICPのようなスマートコントラクトプラットフォームにブリッジして使用するということも、選択肢の一つとして考えています。
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teatwo氏のインタビュー、3記事目では「ライトニングネットワークで生じているコンフリクト解消の試みの場になっているNostr」「同床異夢が顕著になりはじめているイーサリアム」などについて伺います。
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