ローレンス・サマーズ氏「FRBはインフレをコントロールできていない。長期化すれば問題は更に深刻化する」

1.米CPI総合(7月)は前年比+8.5%、市場予測の+8.7%を若干下回る

 8月10日に発表された7月のCPI:+8.5%という結果を受けて、米国株式市場は大きく反応し、S&P500指数は前日比で+2.13%上昇しました。市場予測値の+8.7%を下回ったことに加え、前月+9.1%からの下落となったことでインフレがピークアウトした可能性が示唆されたことが市場参加者に好感されたと考えられます。

(出典)tradingview.com

 FRBをはじめ各国の中央銀行は『物価の安定と雇用の最大化の両立』をミッションにしています。前回FOMC後のパウエル議長は「これまで取り組んできた利上げペースは適切であると予測している」という旨の発言をしており、今後のインフレ率の推移については、どちらかと言えば楽観的に捉えていることが伺えます。

 一方で、FRBはインフレ率を2%程度に収束させることにコミットしています。今後インフレ率の下落がトレンド化しなければ、利上げペースを緩めることは難しく、市場が織り込みきれていない高水準への利上げのリスク自体は否定できないとも考えられます。

 CME FedWatch Toolによると、(8月10日のCPI発表後)市場が政策金利のピークと予測する来年5月FOMC時点では、3.25~3.50%および3.50%~3.75%となる確率が約70%となっています。今回のCPI発表前と比較すると、引き締め・利上げへの期待が後退したことが伺えます。しかし、今後数ヶ月でインフレ率の下落がトレンド化せず、政策金利の市場予測が再度上がっていく場合は、株式相場にとってマイナスになりますので注意が必要です。

(出典)※8/10のCPI発表後 CME Group / CME FedWatch Tool https://www.cmegroup.com/trading/interest-rates/countdown-to-fomc.html

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2.元米財務長官サマーズ氏「FRBはインフレをコントロールできていない。長期化すれば問題は更に深刻化する」

 インフレ退治に自信をのぞかせるパウエルFRB議長と、経済のリセッション入りを否定するイエレン財務長官の論調とは対照的に、これに反論している著名人の一人が、クリントン政権時代に財務長官を勤め、世界銀行チーフエコノミストやハーバード大学学長なども歴任したローレンス・サマーズ氏です。

 直近のBloombergによるインタビューでは、7月雇用統計の結果を踏まえ、米経済は未だ過熱状態にあり、インフレが更に深刻化してスタグフレーションの時代に突入するリスクが高いと警告しています。

【発言(一部抜粋)】

”We’ve got an overheated economy and if you overheat the economy longer and longer, you get more and more inflation and bigger and bigger problems down the road.-- Not yet under control.-- I don’t think the FED has the thread right now. – Now we are seeing wage inflation unambiguously – And if we don’t act strongly on it and that means raising real interest rate significantly, then we are just setting the stage for stagflation.”

【翻訳】

”米経済は過熱しており,これが長期化すればするほどインフレも長期化し,(景気の)下り坂で問題は更に深刻化する。…まだ(FRBはインフレを)コントロールできていない。…そしてFRBは現時点でそれを脅威に感じていない。…(しかし)米経済は明らかに賃金インフレが起きている。...そしてこの脅威に対して力強く対応しなければ、相当の利上げを急速に進めなければ、米経済はスタグフレーションの時代へと突入する。

 8月5日に発表された7月の米雇用統計では、失業率は3.5%と新型コロナウイルスのパンデミックが始まる以前の低水準にまで低下。非農業部門雇用者数も市場予想の25万人増を大きく上回る52.8万人増と、労働市場の人手不足が続いている結果となりました。

 サマーズ氏は好調な労働市場を背景に、ECIを眺めると賃金・給与が前年比+5.2%、前四半期比+1.3%と高水準であることから、人件費の高騰が今後もインフレを悪化させ続けるリスクを指摘しています。

【用語解説】

 ECI(Employment Cost Index:雇用コスト指数)とは、企業が労働者を雇用する際に負担するコスト(賃金/Wages・給与/Salaries・福利厚生/Benefits)を示す指数で、労働統計局によって四半期ごとに発表されます。

(参照)U.S Bureau of Labor Statistics/アメリカ合衆国労働統計局 https://www.bls.gov/news.release/pdf/eci.pdf

3.全米トップの株式トレーダー、マーク・ミネルヴィニ氏「FRBが方向転換できるほど低いインフレ率ではないが、今回のCPI発表は正しい方向への小さな一歩である。」

 著書「マーケットの魔術師」の中で紹介され、全米で最も成功した株式トレーダーの一人として有名になった、マーク・ミネルヴィニ氏は「株価の下落こそが相場を勢いづかせる」と主張しつつ、今回発表された7月CPIの結果は、小さいながらも良い方向に進み始めたと表現しています。

 今回インフレ率は僅かに下落したものの未だ高水準にあり、決してインフレの収束が見え始めたとは言い難い状況です。しかしながら、インフレ率の下落トレンドが今後数ヶ月間続くならば、ミネルヴィニ氏が主張するように、弱気相場こそが相場上昇の勢いにつながるというシナリオ通りになります。まさに、市場参加者達が抱く将来への期待の集合体が株価に反映されているのだと感じられます。

 翌月のCPI発表は9月13日予定です。次回9月21日のFOMCでの利上げ幅を左右する重要な局面となりますので、引き続き注視する必要があります。

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