台湾有事にどう対処する?過去の有事での株価変動や米中の軍事行動勃発の可能性を考える

戦後から今日まで、私たち日本人は平和の時代を享受している。ここには、かつての悲惨な戦争を反省して生まれた「不戦の誓い」や、平和憲法の存在が奏功したことは言うまでもない。

一方で、世界地図を見渡すと、我が日本国の安寧も絶妙な政治バランスの上に立っていることがわかる。2022年はロシアによるウクライナ侵攻に加え、中国と台湾の間でかつてないほど緊張が高まっている。海を隔てた隣国では、日本ほど平和に慢心しきっていないことを理解しておかなければならない。今一度、日本を取り巻く諸国の状況を整理し、有事の際にも有効な投資判断やビジネス戦略が講じられるようにしておきたい。

本記事では、昨今高まる台湾と中国の緊張関係を踏まえ、過去の台湾・中国の第一次台湾海峡危機(1954~55年)以降の関係性や、過去の有事時における日経平均株価や原油などのコモディティ価格がどのように推移したのかについて言及する。

長きにわたる課題である中台問題。「その時」の可能性が高まった瞬間

2022年8月4日、15時頃から16時過ぎにかけて中国は9発の弾道ミサイルを発射した。台湾本島を取り囲む形で台湾海峡・東シナ海などに着弾し、そのうちの5発は我が国の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。

出典:防衛省・自衛隊 報道資料

中国による突然の「凶行」の理由は、ペロシ米下院議長が2日夜、台湾を訪問したことへの抗議・威圧が含まれていると推定される。

ミサイルを撃ち込まれたことにより、日本やアメリカも中国を批判する形になり、中国VS日米台という構図が形成されたといって良いだろう。ペロシ議長の台湾訪問は、東アジアの安全保障環境を大きく変動させたのである。

台湾積年の「悲願」が動き出した

中国は台湾を国として認めていない。同じ中華民族として、共産党の指導のもと「ひとつの国家」であるべきという考えは、中国国民共通といっても過言ではない。我が国も1972年の日中共同声明のときから、台湾との関係については「非政府間の実務関係」としており、同様に台湾を正式な国家と認めていない国は多い。

そのようななか、台湾は経済発展と民主主義を発展させ、多くの国と強い通商関係や非公式な関係を築いてきた。自力で自由と繁栄を勝ち取り、国家として国際社会に認知されるのは、台湾の積年の悲願といって良いだろう。

ところが、2018年頃からアメリカがこの台湾の想いに応え始めた。米中関係が「新冷戦」とまでいわれるほど冷え込むなか、アメリカでは台湾の立場を重視する世論が生まれつつある。今回ペロシ米下院議長の訪台によって何が実現できたという訳ではないが、彼女が台湾の人々に熱烈な歓迎を受けたのは、台湾人の内なる想いに応える行動だったからであろう。

台湾独立の可能性はあるのか

実際に台湾が独立に動き出せば、それは大きな「波乱」の開始を意味する。現在すでに数度の中国軍機の台湾侵入が確認されており、中国は台湾の独立を「武力」で阻止する準備があるらしい。中国と台湾は経済面で強いつながりがあり、人やモノの行き来も盛んであることから、軍事行動の行使は台湾のみならず中国にも大きなマイナスの影響を与えるだろう。そのため、台湾への全面的な軍事侵攻は考えにくい、という中国専門家も多いのは事実だ。

しかし、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻のように、名目さえあれば戦争の火蓋がきられてしまう事態を、私たちはすでに目撃している。台湾もウクライナと同様に、隣国の大国からの攻撃を常に意識してきた臨戦体制国家である。「戦争反対!」と叫んでいればなんとかなると信じている日本人とは少々感覚が違うのだ。台湾有事勃発のカードはほとんど出揃っているともいえるだろう。

過去の台湾有事と比較する

台湾海峡では、第一次台湾海峡危機(1954~55年)、第二次(58年)、第三次(95~96年)と、過去に3度の軍事的危機が生じている。特に第三次台湾海峡危機は今回の状況ととてもよく似ているので、今後を占うためにも参考にしたい。

台湾の独立の動きが活発化し、96年の総統選挙で決定的に

第三次台湾海峡危機より以前の中国と台湾は、「お互いに」中国はひとつであると主張してきた。論点は「どちらが中国の正当な継承者であるか」といったことだったのだ。しかし、台湾が本土とは異なる民主化の道を歩むに従って、台湾独立派の動きが活発化し、「一中一台」といった考え方が台頭してきた。1949年に共産党の支配から逃れこの地にやってきた彼らが、「台湾人」として台湾を故郷にすることを決意した瞬間ともいえよう。96 年の総統選挙からは、台湾住民だけが投票できる直接選挙ができるよう憲法が改正された。

これに対して中国は、国家の分裂を謀る行為として激しく非難し、総統選挙での李登輝の再選を阻止し、台湾独立に対する機運を消し去るため武力の威嚇を始めた。それが、7月21日から26日にかけて台湾領内で行われた弾道ミサイル実験である。

その後も96 年にかけて台湾近辺でのミサイル実験や軍事演習は複数回行われ、アメリカによって空母が派遣されるまで事態は深刻化した。ここで中国が台湾独立阻止を大義名分に武力で応じていれば、戦争状態は免れなかったはずだ。

しかし、中国は戦争遂行へと舵を切らず、中台危機の国際問題化を避けた方が無難だと考えた。台湾に対する強圧的な封じ込めは、中国自身の国際的な孤立を招く危険性があったからだ。九州よりも小さなこの島では、いつの間にか多くの優秀な人材が育ち、国際社会との協調関係が構築されている。いくら中国といえど、簡単に手出しできる存在ではなくなっていたのだ。台湾側にとっても、独立を強く示唆しなければ、戦争を仕掛けられる危険性はない。現在の状況はこうした延長線上にあるといって良いだろう。

2022年8月の状況は、台湾とアメリカの政治的接触や、独立機運の高まりを中国が武力で威嚇するところまでが、1995年の第三次台湾海峡危機と共通している。

ちなみに、第三次台湾海峡危機時の日経平均の推移を見てみると、多少の下げはあったものの全体的な動きを左右したというほどでもなかった。

1995年7月から1995年の日経平均チャート 出典:tradingview.com

2022年8月4日のミサイル発射時も、日本をはじめ世界の市場はそれほど反応していない。第三次台湾海峡危機時と同様に、米中の軍事衝突の可能性は低いとみなされたのかもしれない。中国・台湾・アメリカの「3すくみ」状態と、冷静な判断ができるブレーンたちの存在を、世界はよく理解しているともいえる。

2022年7月から9月現在まで日経平均チャート 出典:tradingview.com

ロシアのウクライナ侵攻時の状況から考える有事の経済

外国同士の有事が経済に与える影響を考えるにあたっては、2022年2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵攻が参考にしやすい。

ロシア株式市場は2022年2月28日に取引停止状態に陥ったが3月24日に再開し、上場銘柄すべての取引ができるようになっている。しかし、未だ外国人の売り注文も禁止されていることから出来高も通常の水準をはるかに下回っており、政府系ファンドの買い支えでなんとか株式市場の形を成しているに過ぎない状況が続いている。

また、数週間のうちにロシア株式・債券が組み込まれた投信・ETFも軒並み取引停止状態に陥った。起死回生を信じ底値拾いをしようとしたものの、目論見が外れた投資家も多かっただろう。

NEXT FUNDS ロシア株式指数連動型上場投信は2月24日から新規設定・解約を受け付けていない 出典:tradingview.com

一方、原油や小麦、天然ガス、金などの商品価格の動きは早く、軒並み値上がりしている。ロシアは世界有数の資源輸出国であり、ウクライナも世界の小麦消費を支えているため、戦争による減産が危惧されたのだ。一方で、ロシア・ウクライナに代わり、資源国であるオーストラリアが注目されたせいで、豪ドルが大きく上げたのも記憶に新しい。

原油先物価格の推移 出典:tradingview.com
豪ドル/日本円の推移 出典:tradingview.com

中国とロシアは共に資源国であり、少々強引なトップが長きにわたって君臨している点も共通している。同じような事態には同様の展開がみられる可能性がある。ただし、ウクライナ侵攻時に株価を下げたのは、資源価格の高騰などによって二次的な影響を受ける銘柄であった。中国・台湾の有事の際は、資源価格だけでなく直接的に影響を受ける企業はより広範になることが考えられる。

台湾有事の経済への影響はシミュレーションできるか?

実際に中国と台湾の間に軍事行動が勃発した際はどうなるか、シミュレーションしてみたいところだが、これはなかなか難しい。影響が甚大すぎるからだ。我が国は中国・台湾と地理的に近く、経済上の関係も深い。日本における全業種が何らかの形で中国・台湾と関わりを持っているといっても過言ではないだろう。これは中国にとっても同様で、例えば台湾には世界最大の半導体受託製造企業であるTSMC社があることから、電化製品やハイテク機器の製造に深刻な影響を与えるはずだ。ここまで関係が深い国同士が簡単に国交を断絶することは不可能だと思いたい。

最悪のパターンは、中国との貿易取引の停止や中国本土の日本企業拠点閉鎖、資産凍結まで発展する場合だ。これら「中華リスク」が一気に顕在化すれば、日本企業の損失は測りしれない。考えたくはない事態だが、ここまできた場合、ロシアのウクライナ侵攻時以上の株価の下げは覚悟しておいた方が良いかもしれない。

しかし、中国との関係に依存している国は日本だけではなく、急な「中国離脱」は多くの国にとって打撃となる。巧みな「一帯一路政策」によって友好国を増やしてきた中国に対する経済制裁は、ロシアに対する制裁以上に「穴だらけ」となる可能性すらある。中国からの見返りを期待している国々は、正式な国家として国際社会に認められていない台湾の味方でいてくれるだろうか。いくらアメリカがバックについているとはいえ、台湾の立場もまだまだ盤石とは言い難い。台湾有事は「誰も得をしない」結末が容易に予測できるのだ。

楽観視はできないが、冷静な判断が必要

台湾海峡を巡っては、第三次台湾海峡危機以来の緊張感を見せている。米中関係の修復は容易ではないうえ、中国と台湾の考え方に納得できる妥協点が見つかる訳でもない。中国、アメリカ、台湾それぞれの国の慎重さを欠く行動が重大な事態を招きかねない。

しかし、それぞれの国は長年の経験からパワーバランスの重要性を理解しているため、平和を維持する方向にコマを進められると考えて良いだろう。ロシアのウクライナ侵攻のような泥沼の様相を見せるまでの事態になることは考えにくいといえそうだ。

むしろ、日本の対中貿易は好調であり、台湾の発展も目覚ましい。リスクを注視することは大切だが、ここで中国関連への投資を忌避してしまうのは勿体無いといえるかもしれない。

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