世界中が注目する大物著名投資家で、かつて師弟関係にあったジョージ・ソロス氏とスタンレー・ドラッケンミラー氏。この記事では、2023年11月にSEC(米国証券取引委員会)に提出されたForm 13Fをもとに、直近で彼らが売買した主な銘柄を解説します。
※評価額については、9月30日時点の価格に基づいています。
参照:U.S SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION / 米国証券取引委員会
最新のForm 13F解説記事
当該記事は2023年12月時点でのForm 13Fの解説記事です。最新の2024年8~11月公開のForm 13F解説記事は下記をご覧ください。
- ドラッケンミラー氏「率直に言ってビットコインを持つべきである」【Form 13F 2024年第3四半期】
- マイケル・バーリ氏、アリババなど低迷する中国株の逆張り投資を強化【Form 13F 2024年第2四半期】
ドラッケンミラー氏、AI関連や資源関連銘柄のシェアを拡大
エヌビディアを一部利確、マイクロソフトを買い増し、グーグルとアリババを買い戻しへ
ドュケーヌ・ファミリーオフィスの創設者であるスタンレー・ドラッケンミラー氏は、昨今のAI市場の成長性に注目しており、エヌビディア(NVDA)などAI関連株への投資を急加速させてきました。
直近の四半期にあたる2023年7-9月期では、マイクロソフト(MSFT)を約18万株追加で取得し、同ファンドが保有する米国株の中では3番目に大きなシェアで約12%を占める銘柄となりました。
また、前四半期(4-6月)に全て売却されていたグーグルの親会社・アルファベット(GOOGL)の株式約83万株、アリババ(BABA)の株式約30万株が買い戻されました。
一方、エヌビディアの株式が約7.5万株売却されましたが、引き続きポートフォリオ全体のトップ銘柄である点は変わっていません。ドラッケンミラー氏は、エヌビディアの株価急上昇の始点となった2022年第4四半期(10-12月期)より、一貫して強く買い進めてきました。株価は当時の安値110ドル程度から、8〜9月にかけては500ドルに迫る勢いで上昇を続けましたので、ポートフォリオ微調整のために一部売却されたと考えるのが自然です。
アマゾン・ドットコムを引き続き売却、メタ・プラットフォームズとTSMCは売却処分完了
ドラッケンミラー氏は、マイクロソフトとエヌビディアを中心に、グーグルやアリババなどもポートフォリオの主力AI銘柄に据えた一方、他の大型テクノロジー株については売却を続けています。
アマゾン・ドットコム(AMZN)を過去の2四半期連続で売却し、今年3月末時点で保有していた約80万株は、9月末時点で約13万株まで減少しました。さらに、メタ・プラットフォームズ(META)を3四半期連続で売却、台湾の半導体大手TSMC(TSM)を2四半期連続で売却し、保有株数はゼロとなりました。
シェブロンなど資源関連株を買い増し
2022年末時点で、ドラッケンミラー氏のファミリーオフィスで上位3番目のシェアであった石油メジャーのシェブロン(CVX)は、今年の第1四半期に8割弱にあたる約76万株が売却されていました。それが一転して、直近で約16万株が買い戻されたのです。昨年に比べると多くはありませんが、資源関連で2022年以来一貫して買い増しを続けている他の銘柄も存在します。
カナダの天然資源会社テック・リソーシズ(TECK)は、2022年の第1四半期(1-3月)に約240万株の新規投資がなされて以降、2023年9月末時点で約410万株まで買い増しされ、同ファンドで上位5番目に大きな銘柄となりました。
ソロス氏はAI銘柄の保有を一部解消、オプション保有量を増やしリスクに備える
ドラッケンミラー氏とは対照的に、エヌビディア、マイクロソフトなどを売却処分
ジョージ・ソロス氏のファミリーオフィスであるソロス・ファンド・マネジメントが前四半期(4-6月)に新規取得していた、エヌビディア(NVDA)1万株およびマイクロソフト(MSFT)1万株は、今年の9月末時点までに売却処分されていたことがわかりました。元々ソロス氏のポートフォリオの中では非常に小さな割合ではありましたが、AI銘柄に力を入れるドラッケンミラー氏とは対照的な動向です。
また、アリババ(BABA)を7割以上売却し、TSMC(TSM)を8万株購入しています。この2銘柄についてもドラッケンミラー氏とは逆の動きとなりました。ただし、アリババ株についてはコールオプションの保有を増やし、株価の上昇に賭けるポジションも同時に保持しています。
マイクロソフトによる買収完了前、アクティビジョン・ブリザードを1年半ぶりに再取得
ソロス氏は、2019年下旬からアクティビジョン・ブリザード(ATVI)への投資を加速させた後、2022年上旬に全てを売却処分していました。
しかし、直近2023年第3四半期(7-9月)のタイミングで、過去に保有していた規模の約2倍となる300万株を再度取得しており、その直後10月に、マイクロソフトによるアクティビジョン・ブリザードの買収が正式に完了しています。
昨年のポートフォリオ最上位銘柄、リヴィアンを全て売却処分
2022年にソロス氏の主要銘柄であったEVメーカーのリヴィアン(RIVIN)は、全てが売却処分されました。ソロス氏がリヴィアンに新規で投資をしたのは2021年下旬で、その後約1年に渡り、ポートフォリオのトップ銘柄として据えられていました。
それが一転したのは今年の第1四半期で、7割程度が売却されました。その後、一時は買い戻す動きも見られましたが、結局のところ直近の第3四半期で全てが売却処分されています。
米主要株価指数のプットオプションなどを大量に保有
ソロス氏のポートフォリオでは、以前からS&P500やナスダック100といった米主要株価指数などのオプションを使ったヘッジが行われており、過去数年との比較では、直近のオプション保有量は最大規模となりました。
直近の2023年9月末時点では、ナスダック100に連動するETF(QQQ)やラッセル2000に連動するETF(IWM)を中心に、合計約11億ドル相当のプットオプションを保有し、株式市場の下落に備えています。
同時に、米国債20年超ETF(TLT)や各個別株に対して、約10億ドル相当のコールオプションも保有しており、長期金利低下・株価上昇に賭けるポジションも増加させています。
両氏共にインフレ再燃リスクに備えつつ、相場の上昇にも賭ける姿勢
2023年第3四半期は、米長期金利が大きな上昇トレンドにあり、インフレ再燃が意識された期間となりました。ドラッケンミラー氏とソロス氏、共にインフレ再燃を意識したポジション調整を行っていたことが伺えます。
ドラッケンミラー氏の主力銘柄は言うまでもなくAI関連ですが、直近で資源関連銘柄のシェアを増やした点が気がかりです。2022年上旬にインフレ率が急上昇を始めて以降、エネルギー資源銘柄に重点が置かれてきましたが、それらの大部分は今年の初旬に売却されています。
その一方で、カナダの天然資源会社テック・リソーシズ(TECK)は売却されずに買い増しが続けられ、直近では上位5番目の銘柄となりました。シェブロンについても直近では保有株数を増やし、コモディティ価格高騰で恩恵を受ける資源関連銘柄の割合を増やしています。今後の動向も注視する必要がありそうです。
ソロス氏については、第2四半期(4-6月)にプットオプションの保有を急増させ、第3四半期も続けてさらに増加させています。下落への備えを厚くすると同時に、コールオプションの保有も同程度まで増加させており、上昇あるいは下落どちらに大きく傾いてもリスク管理できるように備えていたのです。
インフレ率・長期金利が上昇トレンドなら売りポジションで守りに入る、セオリー通りの投資判断といえるでしょう。
直近の9月末以降、実際にはインフレ率は鈍化傾向であり、米国10年債利回りは10月下旬には一旦頭打ちとなったように思われます。次回のForm 13Fでも同様に、ドラッケンミラー氏のAI銘柄・資源銘柄の保有状況や、ソロス氏のオプション保有規模などから、彼らがどのように当時のマーケットを分析し、投資判断を下したかを学ぶ有意義な機会になるかもしれません。
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下記記事でもForm 13Fの同四半期について解説しています
前四半期のForm 13Fの解説はこちら