つみたてNISAがどの程度リスクを分散し、リターンを創出するか定量的に考える

つみたてNISAは、長期・積立・分散投資により投資初心者をはじめ幅広い年代の方にとって利用しやすい仕組みといわれていますが、本当にリスクはないのでしょうか?

結論から言いますと、つみたてNISAはすべてのリスクを減らす手法ではなく、投資対象の選定やマーケットの動向に大きく左右されます。

このため、つみたてNISAを始める場合にはそのメリットとデメリットを深く理解することが重要となります。

本記事では、つみたてNISAのベースの投資手法となる、積立投資に焦点をあて、S&P500とTOPIX過去20年超のデータを用いてメリットとデメリットを検証しました。

積立投資の3つのメリット

積立投資には、機械的に一定額を投資し続けることで、以下の3つのメリットがあります。

1:平均購入単価を下げることでリターンを改善

一定額を時間的に分割して投資する積立投資の手法は、ドルコスト平均法とも呼ばれており、株価が高いときは少ない株数を購入、株価が低いときは多くの株数を購入することで、平均単価を下げることができます。

2適切でないタイミングに、一括で投資することを避ける

時間的に購入タイミングを分散させることで、株価のピークに一括で購入するリスクを避けることができます。

3: エモーショナルな売買をさけることができる

マーケットの上げ下げに左右されず、機械的に一定額を購入することで、下落の恐怖にかられて売却してしまうなど、エモーショナルな行動をさけることができます。

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積立投資の3つのデメリット

安全なように見える積立投資にも、以下の3つのデメリットがあります。

1: すべての投資リスクを避けられるわけではない

当然のことですが、長期的に下がり続けるモノに投資をした場合は、積立投資を行ったとしても、損失はさけられません。

また長期的には回復するマーケットであったとしても、老後の生活資金など資金が必要なタイミングが決まっている個人の場合、マーケットが上昇に転ずる前に売却の必要性にかられるリスクがあります。

2:長期的に上がるマーケットでは、一括投資にくらべリターンが低下

昨今の米国市場や世界市場など、長期的に上がり続けているマーケットの場合、積み立てで時間を分散させるより、早い段階で一括投資をした方がリターンが高くなります。

3:マーケットが低迷している間も、定期的に投資するという同じ規律を持ち続ける必要

マーケットが低迷している際に投資を中断してしまった場合は、平均購入単価を下げることが出来ません。

S&P500を用いて積立投資を検証

それでは、近年もっともパフォーマンスの良かった米国市場の代表的指標であるS&P500を用いて、積立投資のメリットとデメリットを検証します。

なお、S&P500はつみたてNISAの対象として11本のファンドが設定されています。

検証には1998年9月から2022年8月までの24年間のデータを用いました。

この期間、1998年から2012年まではITバブルやリーマンショックで上下しながら一定レンジで推移、2013年以降コロナショックも乗りこえ大きく上昇、2022年に入り金利上昇のため下落傾向、となっています。

1. S&P500で平均購入単価引き下げの効果を検証:ドルコスト平均法の優位性はわずか0.6%

まずドルコスト平均法の代表的メリットである平均購入単価引き下げの効果について、以下の前提により確認します。

【 10年間、以下の条件で投資した結果を比較 】

A:ひと月ごとに一定額を購入(ドルコスト平均法)

B:ひと月ごとに一定数量を購入( S&P500の価格が変わっても常に同じ数量を購入)

1998年10月、11月…と、開始時期をひと月ずつずらしながら10年間の投資結果を算出

その結果を次のグラフと表に示します。

「A:ひと月ごとに一定額を購入」では、すべての期間において、「B:ひと月ごとに一定数量を購入」よりも優れたパフォーマンスを示しました。また、平均購入単価は全期間平均で5.2%下げることができます。

ただしその効果は年率リターンが+0.6%というもので、劇的な効果はありませんでした。仮にトータルで100万円を投資したとすると、積立投資では142万円、一定数量投資では134万円となります。

10年間S&P500に積立投資をした結果、14%は損失

本検証において、10年間積立投資をした結果、年率リターンは-4.7%〜8.0%となりました。残念ながら、10年間のうち14%の期間においてトータルの損益が損失になっている期間でした。

1998年から2000年に投資を開始したケースがマイナスとなりました。この期間、株価が一定レンジにとどまったうえ、10年後の時点でリーマンショックから回復しきれていない期間であることが原因となります。

また2022年9月時点における米国10年債の利回りは約3.4%ですが、それを下回る3%未満のリターンの割合が34%となりました。

2. S&P500で積立投資と一括購入の効果を検証:S&P500一括投資のリターンは、積立の1.5倍、ただし損失は17%

次に同様にS&P500の24年間のデータを用いて、積立投資と一括購入の比較をしました。

【 10年間、以下の条件で投資した結果を比較 】

C:ひと月ごとに一定額を購入(ドルコスト平均法)

D:積立投資開始月に一括購入(1998年9月開始なら、当該月にすべての資金を投入しその後の継続的な購入などはなし)

1998年10月、11月…と、開始時期をひと月ずつずらしながら10年間の投資結果を算出

検証の結果、年率リターンの平均は「Cひと月ごとに一定額を購入」の3.6%に対して「D積立投資開始月に一括購入」が5.5%、年率リターンの最高値は、積立投資の8.0%に対して一括投資が14.3%となりました。

一方で年率リターンの最悪値は、積立投資の-4.7%に対して一括投資が-5.1%となり、差分は-0.4%と大きな違いはありません。

また一括投資の標準偏差は5.0%であり、積立投資の1.8倍の変動率となりました。これは一括投資の年率リターンについて、全期間の約68%が0.5%〜10.5%の範囲で変動していることを示しています。一方で積立投資のリターンは、全期間の約68%が0.8%〜6.4%の範囲に収まります。

このケースのように上昇するマーケットにおいて、積立投資は変動リスクは抑えられるものの、最大損失の低減には効果がなく、リターンのオポチュニティが低くなることが示されています。

また一括投資では6%以上のリターンが得られた割合が37%となり、積立投資に比べて大幅に高い割合となりました。

TOPIXを用いて、積立投資を検証

次に日本の代表的指標であるTOPIXを用いて、同様に積立投資と一括投資の比較を行いました。検証期間は1995年から2022年の27年間で、4半期データを用いています。

なおTOPIXはつみたてNISAの対象として13本のファンドが設定されています。

1. TOPIXで積立投資と一括購入の効果を検証:29%は損失

本検証において、10年間積立投資をした結果、年率リターンは-5.4%〜5.4%となりました。残念ながら、10年間のうち29%の期間においてトータルの損益が損失になっている期間でした

また一括投資では年率リターンが-6%〜10.5%、全体の39%が損失に終わる、という結果であり、積立投資に比べてパフォーマンスに劣る結果となりました。

検証結果のまとめ:積立投資を行ったとしても必ずしも損失のリスクがなくなるわけではない

今回の検証結果について、S&P50とTOPIXを比較した結果を以下に示します。

積立投資を行ったとしても損失のリスクがなくなるわけではありません。

投資対象やタイミングにより、リスク、リターンとも大きく変わります。したがって資産運用に成功するには、他の投資と同様に、以下のポイントが重要となります。

● 積立投資だから安全というわけではなく、投資対象の選定が何より重要

● マーケットが割高の場合は、積立を中断することも検討する必要がある

● 売却タイミングの影響も大きいので、自分の年齢や資産状況とあわせて出口戦略を整える

加えてリーマンショック後から2021年までの米国や日本の株式市場の上昇要因として、金融緩和の影響も大きいことから、マクロの経済環境(金利やインフレなど)も把握したうえで投資判断することが重要となります。

相場全体が停滞すれば、積立投資をしてもリターンは得られづらい

これまで約40年続いた世界的な金融緩和政策が終わりを告げる可能性が各所で指摘されています。

その場合、これまでのデフレ・金融緩和の時代を終え、インフレ・金融引き締めの時代を迎える可能性があります。実際、高インフレ・金融引き締めの時代を迎えた1965-1980年では、15年という長い期間で見ても相場が停滞していることがわかります。

出典:tradingview.com

このように相場全体が停滞している場合、つみたてNISAでよく用いられる、「相場全体に投資時期を分散して資金を投下する投資手法」では、リターンを得ることはとても難しくなります。

相場全体の環境に依存するということを念頭に、積立投資でもリスクがゼロではないことを踏まえ投資判断を行う必要があります。

この記事で使った検証ファイルはこちら