「1900年以降の分析は多面的で、特に兌換紙幣と不換紙幣の関係に関する分析は分かりやすく展開されている」周南公立大学・内田善彦氏 1/3

周南公立大学の内田善彦氏に、レイ・ダリオの「世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか」の内容で同意することなどについて伺いました。

内田善彦氏 プロフィール

周南公立大学教授。1994~2023年日本銀行。金融研究所・企画役、金融機構局・企画役等。この間、2005~07年大阪大学大学院経済学研究科・助教授、2014~17年金融庁監督局・監督企画官、2017~19年東京大学公共政策大学院・教授、2019〜23年東京大学総合文化研究科・教授、特任教授。金融機関のリスク管理・経営管理に関して様々な角度から考察を加える。2023年株式会社クエストリー取締役。2023年6月から現職。東京大学工学部卒、同大学院修了(工学修士)、コロンビア大学大学院修了(ファイナンス数学修士)、京都大学大学院修了(博士(経済学))。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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取材実施日

2023年12月28日

レイ・ダリオの「世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか」について

ーーレイ・ダリオ氏の著書「世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか」について内田先生とオフラインで話した内容が興味深く本日はお時間をいただきました。当該書籍に対する、内田先生の率直な感想について教えてください。

学術的な観点からは違和感を持つ箇所が多々ありますが、一つの投資指南書として捉えればさまざまな示唆が得られるかと思いますので、興味がある方はぜひ読んでみるべきだと思っています。

特に、「CHAPTER 1 ビッグ・サイクルをごくごく簡単にまとめると」と「CHAPTER 14 将来」は読む価値が高いのではないでしょうか。

また、国家の興亡に関する分析に期待感を持って読むと、期待外れに感じてしまう可能性があります。

本書は読者に多くの解釈の余地を残す内容であり、学術的な枠組みからは少し外れた特殊な本です。

読者はこの本を全面的に受け入れるのではなく、「理解はできるけど」程度のバランス感覚をもって読むことが望ましいと考えています。

ーー推奨されたCHAPTER 1とCHAPTER 14の内容について、概要を教えてください。

CHAPTER 1では、レイ・ダリオ氏が提唱する世界の仕組みについて説明されています。彼がもつ世界観のメカニズムとその意味が簡潔にまとめられており、詳細はCHAPTER 2以降で展開されています。

CHAPTER 14では、レイ・ダリオ氏が考える将来の見解が述べられています。この章の内容は本書の内容を紹介するショートムービーにはほとんど含まれていません。読者に自ら考えることを促しているほか、特に分散投資の重要性が強調されています。

この2つのCHAPTERを比較することで、読者は自身の興味やニーズに基づいて本書を読み進めるか否か判断できるのではないかと思います。

1900年以降の分析が多面的で、特に先進国の兌換紙幣と不換紙幣の関係に関する分析は単調ながらも分かりやすく展開されている

ーー本書に同意する内容について教えてください。

投資家は未来を見据えた戦略を構築する必要がありますが、レイ・ダリオ氏はこの点で興味深い試みをしており、学術的な意味合いとは異なる観点から評価できると思っています。

まず、1900年以降の分析が非常に多面的です。特に先進国の貨幣経済のなかでも、兌換紙幣と不換紙幣の関係に関する分析は単調ながらも分かりやすく展開されています。

また、多くの投資指南書が交換経済の部分均衡に焦点を当てる傾向にあるなか、マクロ経済学や権力関係までを含めた社会システムと富の関係を掘り下げ、将来の予測に活用しています。

ほかにも、富と権力のバランスの変化を各国単位で分析し、国際関係の枠組みで表現することにチャレンジしている点も興味深いです。

総評としては、第一次世界大戦、第二次世界大戦、パックス・アメリカーナの時代、そして米国の衰退に関する詳細な説明が非常に丁寧に行われている点を評価しています。

ーー「富と権力のバランスの変化の分析」とは具体的にどのようなものでしょうか。

世界の主要プレイヤーが入れ換わる過程の分析です。本書では、この入れ換わりのサイクルが生じる要因を18項目挙げ、それらを線形のモデルにして説明しています。

しかし、18項目は多すぎて扱いづらいですよね。さらに、線形モデルは基本的に一次関数のような形をしており、どう組み合わせてもサイクルを作ることはできないはずです。

本書にはこのような疑問点も存在しますが、投資家が近い将来を考える際に参考となる情報やナラティブ(ストーリー)も含まれています。

投資指南書としては比較的オーソドックスな内容になっている

ーー本書を実際の投資戦略に活用する際の読み方を詳しく教えてください。

本書終盤で、米国のピークは過ぎ去り、中国がこれからピークを迎えると述べられています。しかしこのような大きな変化が起こる際の投資判断に対する具体的な指示はなく、「分散投資を行うべき」とだけ記載されています。

このように、大きな絵を描きつつも、投資指南としては比較的無難なアプローチが取られており、本書が提案する投資指標には解釈の余地が残されている点に注意が必要です。

ーー投資家はどのようなスタンスで本書を活用することが最も効果的だと思いますか。

CHAPTER 14では、「水晶玉の言う通りに生きる人は、粉々に砕けたガラスを食べる運命にある」といった表現があります。

これは、将来を見通すよりも、予期せぬ変化に負けないことが重要であるという基本的な投資スタンスを示唆しています。

また、中国が米国を凌駕して台頭する可能性について触れている箇所では、人間は適切に進化することで、大国の興亡や新しい世界秩序の形成などの大きな変化に対応できると述べています。

レイ・ダリオ氏は、現状が続くことを前提にして投資戦略を立てることのリスクを指摘しているのです。

本書は、ジャーナリスティックな視点で面白いかもしれませんが、投資指南書としては比較的オーソドックスな内容です。この本の価値や活用方法は、最終的には読者が自らの興味やニーズに基づいて判断するものでしょう。

米中が自国中心主義に傾くほど他国も同様の姿勢を取ることが最適な選択となり、民族紛争や国家間の戦争が発生しやすくなってしまう

ーー書籍の中でも米国と中国の地政学的リスクなどについて言及されていました。内田先生は現在の地政学リスクをどのように見られていますか。

引き続き、中国と米国が内外で抱えている問題が世界を不安定化させていると感じています。

中国経済の先行きの不透明さと政府による情報の隠蔽の可能性について以前も触れましたが、このような状況下では、中国が自国中心主義に傾き、強引な政策を行う可能性が考えられます。

一方で、米国はウクライナやイスラエルに対しダブルスタンダードともとれる姿勢を見せています。次の大統領選挙でもしトランプ氏が勝利すれば、米国の自国中心主義はさらに強まるでしょう。

米中が自国中心主義に傾くほど他国も同様の姿勢を取ることが最適な選択となり、民族紛争や国家間の戦争が発生しやすくなることは、レイ・ダリオ氏も指摘しています。

ーー米国の衰退や米中の衝突などに関して、特に注視すべき点について教えてください。

米中間の戦争の可能性を語るうえで特にキーとなるのは台湾問題で、今後10年間の投資戦略においては、米国と中国のパワーバランスの変化について注目する必要があります。

レイ・ダリオ氏のショートムービーでは「大国が入れ換わる際に戦争が起こる」と表現されており、書籍では戦争をさらに広い意味で捉え、「文化的または経済的なレイヤーの衝突」と定義しています。

いまの時点でも貿易や産業を巡る国際的な対立は多く見られ、文化的、経済的な戦争は既に発生しています。

今後、武力衝突に発展するかは状況次第だというレイ・ダリオ氏の見解は、一定の妥当性をもっていると考えられます。

米国がデフォルトする可能性は低いと考えられるが、米国がデフォルトしないからドルの価値も下がらないというわけではない

ーー現在の米国の債務状況やインフレについてどのように見ていますか。

税収と支出のバランスを見ると、米国はプライマリーバランスが取れておらず、債務が増加していることは明らかです。

ビットコイナーを含む多くの人々は、国家が大量のイージーマネーを発行することは社会基盤を揺るがす重大な警告であると捉えています。

しかし、基軸通貨であるドルに対する需要は実質的に無限であり、米国がデフォルトする可能性は低いと考えられています。ただ、米国がデフォルトしないからドルの価値も下がらないかというとそれはまた別の話です。

貨幣は血液であるとよく表現されますが、経済を活性化させていくためには一定以上の適切な量が必要です。ビットコインのようなハードマネーは希少性を重視しますが、貨幣は少なすぎても価値保存機能が発揮されません。

レイ・ダリオ氏も貨幣の価値が下がる可能性に関して多くのページを割いていることから、マクロ経済学における最適な貨幣量を意識していることがわかります。

現在の米国は、最適量よりも多くの貨幣を発行し、それによって経済秩序を維持する方向に向かっているように見えますが、同時にインフレ基調になってしまっていることも事実でしょう。

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内田善彦氏の全3回のインタビュー、2記事目に続きます。

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