元ゴールドマン・サックスで株式会社pafin代表の斎藤 岳氏に、過去の印象的な取引について伺いました。
斎藤 岳氏 プロフィール
クリプタクト、defitact、フィンタクトを提供する、株式会社pafin(旧クリプタクト)代表取締役Co-CEO、JCBA税制検討部会長。12年間、ゴールドマン・サックスの自己勘定投資チーム及びヘッジファンド運用担当者として勤務。不良債権、プライベートエクイティ、不動産、法的整理、上場株、債券、為替、金利、CDS、デリバティブなど最大800億円のポートフォリオを運用。
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取材実施日
2023年8月18日
数十億円以上のリターンをもたらした、破綻が危ぶまれた消費者金融企業への投資
ーーまずは斎藤さんがどのように投資されていたか教えてください。
ゴールドマン・サックス勤務時代は、株、債券、為替、オプション、各種デリバティブ、CDSなど、多様な金融商品へ投資していました。
誰もが自分にあった取引スタイルがあると思いますが、私の場合は金融政策等のマクロの要素よりも、ボトムアップで調査、分析し、投資判断することが多いです。
そのため、マクロの環境ももちろん考慮はしますが、マクロの動きだけでポジションを変えることはあまりありません。
ーーこれまでの印象的な取引について教えてください。
コントラリアン的視点から利益を得たケースは特に印象に残っているのですが、例えばとある消費者金融企業の株式と債券の取引は印象的でよく覚えています。
武富士が過払い金問題で倒産したとき、業界全体で過払い金は数兆円あると言われており、その消費者金融企業も倒産が懸念され、株や債券は暴落しました。
そのような悲観の状況ではあったのですが、自分なりに調査分析し、機会があると考えその消費者金融企業の債券と株式に投資、結果的に数倍のリターンで数十億円以上の利益を得ることができ、比較的印象に残っています。
▼編集者注:当時の様子がわかる武富士破綻の報道記事
武富士の破綻、消費者金融を傘下に持つメガバンクにリスクも | ロイター
破綻が危ぶまれ投げ売りされたことで魅力的な債券の取引機会が生まれた
ーーその消費者金融企業への投資について詳しく教えてください。
特に印象的だったのが債券の取引です。
当時は破綻懸念で債券も暴落しており、正確な価格は忘れましたが、額面100円の債券が30円台で投げ売りされているような状況でした。
これだけ価格が下がると債券が償還されるだけで数倍のリターンが見込め、なおかつ債券の満期は3年と期限も近く、そこに金利も加わるわけです。
破綻せず債券の償還さえ無事完了されれば債券の取引だけでこれだけのリターンが見込めたんですね。
ーーそれだけマーケットでは不安視されていたということですね。
はい、おっしゃるとおりです。
このように、機関投資家のような専門家でさえ特定の銘柄について定量的なデータや根拠でなく印象で判断、見逃ししてしまうことが多いのですが、そのような他のマーケット参加者の投資観を鵜呑みにせず、冷静にボトムアップで情報収集、分析することでいい投資機会に巡り合うことが可能です。
また、会社が破綻または破綻の危機にあるときには良い投資機会が転がっていることが多いです。
当時、破綻が危ぶまれた前述の消費者金融企業も、結局は破綻せず、いまもしっかりと利益を上げています。
多くのマーケット参加者が匙を投げている会社に対して、自分の頭で考え、情報を収集し、「本当にそうなのか」「いまが転機なのでは」と思えるポイントを見つけ、そこに飛び込むことが大切です。
ーーこの投資は最終的にはどのように利確されたのでしょうか。
株式は、「この会社、もうダメだ」とマーケットが極端に悲観に傾いた後、「あれ、ダメじゃないかもしれない」と、流れが変わった瞬間に急上昇し、その際に売却しました。
記憶が定かではありませんが、投資から数か月以内に2-3倍になったと記憶しています。
債券は満期まで保有していたので、投資期間はおおよそ3年だったと思います。
落ちているお金を拾いたい、ディスカウントでキャッシュを買いたい
ーー株式のポジションは数ヶ月から数年で閉じることが多いのでしょうか。
そうですね。
1年後の株価には3年後までの業績などが織り込まれるため、3年先のシナリオまで考えて1年前後を出口として投資する、というケースが私は多かったです。
ーーボトムアップで投資判断するとのことですが、投資先候補の企業をどのように絞り込むのでしょうか。
前述の消費者金融企業は、武富士が倒産し世間では大変な話題になっており、そこで消費者金融の業界自体に注目したのがきっかけです。
マーケット参加者の見方が偏っているからチャンスもあるわけで、世間から注目されているものから探すのが一番見つけやすいです。
ーー今回の消費者金融企業のケースは一般的な投資の考え方とは異なるフレームワークで投資されているケースだと感じました。
おっしゃるとおりで、株式は一般的には今後成長すると期待される銘柄を買うのが基本ですが、私は落ちているお金を拾いたい、ディスカウントでキャッシュを買いたいという発想なんですね。
スペシャルシチュエーション、ディストレスという言い方をされますが。
そのため、日本の成長戦略などはあまり関係なく、むしろまだあまり注目されてないところにオポチュニティがあると考えていますし、日本では成長投資に負けないくらい結果が出しやすいと感じます。
ただし、あくまで成長企業、成長業種への投資が投資の基本であり、機会も多いということを忘れてはいけません。
過去10年を見てもバリュー戦略よりグロース戦略の方がパフォーマンスはよかったと思います。
今回ご紹介したようなバリュー投資は常に機会があるわけではなく、数年に1回のチャンスを捉えるという発想が重要です。そして、その時々の個別企業、個別業種に依存した特殊な機会であり同じやり方が繰り返し通用するとはあまり思わないほうがいいでしょう。
だからこそ、成功したときのリターンは大きいと言えるのですが。
不良債権、ローンへの投資は、マクロ経済や市場環境よりも法律や仕組みをうまく使いお金を回収することが大切
ーーコントラリアン的な発想やボトムアップで評価する手法はどのように身に付けたのでしょうか。
ヘッジファンドの仕事をする前に同じゴールドマンサックスでディストレスアセットに投資するチームに所属していたのですが、そこで身につけたものです。
そのチームでは銀行の不良債権を買い取る、破綻しそうな会社のスポンサーになるなど一般的にはほとんど価値がないとされる資産に投資していました。
その場合、社会的な評価は関係なくゼロベースで、「このローンに投資して、どれだけ回収できるか」という分析が必要なんですね。それで必然的にボトムアップ的な発想が養われたのだと思います。
例えば、一般的な株式投資の場合、その投資先の銘柄が投資後にどれだけ成長するかというのが大事な評価軸の一つですが、ローンに投資をする場合、大事なのはお金を返してもらうことでありその会社の成長可能性は関係ありません。
額面100円のローンを20円で買って仮に50円しか回収できなかったとしても成功、という世界なので。
そのため、マクロ経済や市場を追うよりも法律や仕組みをうまく使いお金を回収する。そういう視点が大切なんですね。
「この会社からお金を回収できるのか」「この会社はお金を払える資力があるのか」といった取引から投資家のキャリアがスタートし、それでボトムアップの考え方が身についたというところです。
ーーそういったチーム、業務では配属時に分析手法を教えられるのでしょうか。
形式的なプログラムはありませんでしたが、例えば株や債券、それに付随する権利、リスクとリターンの違い、発行体と債権者、株主の関係性などの知識は教えてもらいました。
株主として権利を行使する場合と債権者として権利を行使する場合の違いや投資先の会社が倒産してお金が返せなくなったときにどうなるかなど、特殊な状況下での各ステークホルダーの考え方や対応方法などを深く学びましたね。
企業分析については実際の実務で実践しながら学んでいきました。
例えば未上場企業をPER10倍で買う場合、成長しなかったとしても同等の業績さえ続けば10年で投資金額を回収できるのでワーストケースでも大丈夫だ、という判断も可能ですよね。
こういったことを実際の実務でやりながら学んでいきました。
特定の仮説が市場に織り込まれていないとどのように判断すればよいのか
ーー個別株への投資について、特定の仮説が価格に織り込まれているかの判断が難しいと思いますが、斎藤さんはどのようにお考えですか。
まず一つとして、公式発表と自分の予想の差分で織り込まれているかを判断するという方法があります。
例えば公式の来期売上予測が1,000億円とされているが自分の調査では1,200億円と予想される場合、この差分の200億円は市場にまだ織り込まれていない可能性がありますよね。
自分の予想どおり200億円上振れた決算になればそれを織り込むように価格が上がっていく可能性が他より高いでしょう。
もう一つは各社のアナリストなどが公開している市場予想を市場の織り込みとする方法です。
いずれにしろ数字を判断の軸にすべきでしょう。
ただ、おっしゃるとおり、これは確かに難しいポイントだと思います。
個別銘柄はこれらの方法で市場にどこまで織り込まれているか予想することもできますが、指数には市場予想がありません。また、原油や為替は何が織り込まれてるのか非常にわかりづらいです。
ーー「市場は効率的か」「効率的であればどの程度効率的か」というのが古くからあるマーケットのテーマですが、斎藤さんはどのように見ていますか。
価格は市場で決まるというのが一応の答えではありますが、それで市場が効率的かというのはまた別の話です。
「効率」の定義によりますが、常に未来が正しく織り込まれているかと言えば、そんなことはあり得ません。もし常に未来の価格が正しく織り込まれているのなら大多数の資産価格は動かない、または線形に動くだけになるはずです。
どんなアセットも振れ幅がありますし、未来の見通しもマーケット参加者全員の予想が正しいわけではありません。様々な見方があり、その見方が反映された結果が市場で決められた価格になる、その意味では市場は効率的ではあると思います。
その価格が正しいか、未来の見通しが正しいかどうかはまた別の話ですが。
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斎藤氏へのインタビュー、後編に続きます。
斎藤氏の貸金業企業への投資の解説についてはこちら
- アイフル【初級】貸金業の基礎知識!ゴールドマン・サックスで800億円投資していた担当者がアイフルへの投資判断を軸に解説
- アイフル【中級】貸金業の業績予測をしてみよう!業績予測をするために必要な知識をゴールドマン・サックスで800億円投資していた担当者がアイフルへの投資判断を軸に解説
- アイフル【上級】フィンテック企業の参入影響や貸付ビジネスの根幹について、ゴールドマン・サックスで800億円投資していた担当者がアイフルへの投資判断を軸に解説
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