「ビットコイン価格は保守的には10万ドル、強気では35万ドルを予想」ビットバンク アナリスト・長谷川友哉氏

ビットバンク社でマーケット・アナリストを務める長谷川友哉氏に、ビットコインETFに関連したビットコイン価格の予想などについて伺いました。

長谷川友哉氏 プロフィール

英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と暗号資産市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。

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取材実施日

2024年3月6日

今後1-2年の時間軸におけるビットコイン価格のシナリオ

ーー今後1-2年の時間軸でのビットコイン価格に関する、ニュートラル、保守、強気の三つのシナリオについて教えてください。

まずニュートラルなシナリオですが、過去の半減期後の上昇率を考慮すれば、次の半減期後はおよそ3倍ほどの上昇を見込んでいます。これまでの半減期後の上昇率は、概算で90倍、30倍、8倍と、大体上昇率が3分の1ずつ減っていってます。

そういった意味では、ニュートラルに見て、これからの1-2年におけるビットコインの最高値は15万ドル程度だと見ています。

ニュートラルがそういった見立てなので、具体的なロジックがあるわけではありませんが保守的には10万ドル程度で見ています。

その上で、強気シナリオですが、おおよそ35万ドルで見ていますね。

ーー強気では35万ドルで見ているとのことですが、詳細について教えてください。

これまでのサイクルにない水準になりそうなので予想が難しいのですが、200週移動平均線を用いて、予測値のボラティリティ、標準偏差を割り出し、米国の現物ETF承認も考慮して、35万ドルの到達もそれほど非現実的なシナリオではないな、というという見立てですね。

ーードル円がその時にどのようなレートにあるかはわかりませんが、もしドル円が150円であれば35万ドルは1BTC5,250万円になりますね。

さすがにその頃には150円は維持されていないのではと思いますが、もしドル円が150円であればそのような価格になりますね。

大手の証券会社の資金はまだビットコインETFには入ってきておらず本格的な資金流入はこれから

ーー「三つのシナリオ」は一旦置いておいて、フラットに見て、長谷川さん個人としてはどのような価格推移を予想していますか。

10万ドルを超える可能性はすごく高いと見ています。

2023年末時点での私の見立てでは、ETFが承認されても実際の資金流入は米国の利下げが開始した後など、流動性相場が訪れた、2024年の後半以降と予測していました。

しかし実際、2024年1月10日にETFが承認されると、日々、数億ドルの資金が流入し、ビットコインの価格は強く上昇しています。

少し前に、Bitwiseの最高投資責任者であるマット・ホーガンが、「現在のビットコインETFの需要は主に個人投資家、ヘッジファンド、独立系ファイナンシャル・アドバイザーに支えられている」とコメントしたことが記事になっていました。

参考:ビットコインETFの買いは個人、ヘッジファンド、IFAが主導——大手の参入はこれから:米Bitwise最高投資責任者 | CoinDesk JAPAN|2024年3月3日

それがもし本当であれば、大手の証券会社の資金はまだビットコインETFには入ってきていないということで、本格的な資金流入はこれからということになります。

そういった現状を考慮すれば、先ほどお話した、ニュートラルなシナリオである15万ドルを超える可能性というのは非常に高いと言えるでしょう。

ーー興味深いです。おっしゃるようにこれから新たに入ってくる資金もありますし、機関投資家の資金は時間軸が分散されて入ってくるはずということを考慮すると、これから突然、流入する資金が減るということもなさそうです。

そうなんですよね。

米国の政策金利が5.5%ある現在においてもこれだけの資金が入っていることを考慮すると、これから利下げで緩和に傾くとどれだけ資金が入ってくるのでしょう。

このようなファンダメンタルズを考慮すると、今後も一日に10%以上下げるような短期的な調整局面はあるとは思いますが、強気でいざるを得ません。

サプライズでいま織り込まれていないような利上げが行われる、ロシア・ウクライナ戦争やイスラエルの戦争に続いてまた別の戦争が起こる、などマクロで見ればさまざまな可能性がありますが、ビットコインだけの要素で見れば、かなり強気です。

米国の株式のETFにおけるAUM、現時点でのビットコインETFのAUMを考慮すれば、2024年末までに3,000億ドルのAUMは現実的な数字

ーーXで投稿されていた「年末までに(AUMは)3000億ドルはいけると思ってます。」について教えてください。

AUMというのは運用資産残高のことですが、いま時点でビットコインETFのAUMは524億ドルです。

参考:Free Bitcoin ETF Data & Analysis | SoSo Value ETF Dashboard

米国は株式のETFだけで5.6兆ドルのAUMがあり、その一部が今後ビットコインETFに流れる可能性があること、1月10日のETF承認から今日までの流入ペースを考慮すると、2024年の年末までに2,000億ドル、3,000億ドルのAUMは割と現実的な数字だと思います。

参考:Global ETF Market Facts: three things to know from Q3 2023 | iShares – BlackRock

米国の銀行ショック懸念の再燃はリスク材料として認識しておいたほうがいい

ーーあえてバランスを取るためにリスクやネガティブな側面についても伺いたいです。いま時点でなにか想定されるものがあれば教えてください。

2024年3月は米国の銀行ショック懸念の再燃はリスク材料として認識しておいたほうがいいと思います。

なんらかのショックが起きてもどうせFRBが何かしらの流動性供給措置を行うだろうというのはありますが、2023年3月にシリコンバレーバンクの破綻が起きた際には、緊急措置が発令されるまでの相場は弱く、ビットコインも2万ドルを割るような状況だったんですよね。

そういった可能性は考慮しておいたほうがいいです。

また、ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(以下、NYCBと記載)の株価が2024年1月に大きく下げて、ここ数日また下げています。

参考:NYCB株が急落、一時47%安-増資検討で複数のアドバイザー起用 – Bloomberg

いま時点ではNYCBに限定された影響ですが、根底にある問題は米国の商業用不動産市場のローンの焦げ付きなんです。

米国の商業用不動産市場のローンの不履行率はいま1.5%以上ありますが、これはコロナショック直後よりも高い数値です。

画像引用元:アメリカの商業用不動産向け融資~延滞率上昇は懸念材料、しかしより重要なのは個別行の状況~ |ニッセイ基礎研究所

画像引用元:アメリカの商業用不動産向け融資~延滞率上昇は懸念材料、しかしより重要なのは個別行の状況~ |ニッセイ基礎研究所

それに付随して、2023年3月から始まったバンク・ターム・ファンディング・プログラム(以降、BTFPと記載)というFRBの緊急流動性提供措置は2024年3月11日に停止されます。

商業用不動産ローンの収益は悪化、BTFPの終了により資金調達コストは上昇、ということで銀行の経営においては非常にネガティブです。

特に米国の地方銀行においては商業用不動産のエクスポージャーが多く、そういったリスクは水面下で高まっている可能性があります。

どこかの銀行が破綻した時にまたFRBによる救済はあるのかもしれませんが、ショックから救済までの期間というのは相場が荒れますので、特にハイレバで取引している人は注意したほうがいいでしょう。

参考:BTFP終了がもたらす米国中小銀行の資金繰り懸念 | SOMPOインスティチュート・プラス

短期保有かつ利益が出ているアドレス数は本格的なブル相場はまだまだこれからであることを示している

ーー以前の取材で「本格的なブル相場のためには短期保有アドレス数が伸びなければならないが数字は横ばい」とのお話がありましたが、現在ではいかがでしょうか。

ビットコインを短期保有かつ利益が出ているアドレス数がいまは300万弱なのですが、本格的な上昇相場においては400万、600万まで増加することを考慮すると、本格的なブル相場はまだまだこれからであることを示しています。

▼ビットコインの短期保有アドレス数の推移。Glassnodeよりbitbankが作成

ーービットコインETFに関して、特に注目している指標があれば教えてください。

承認からまだ2ヶ月しか経過していないということもあり、指標と価格の相関、因果関係がまだ正確に捉えられておらず、まだこれといった指標がないのが現状です。

例えば、2月の米国のCPIにおいてはインフレ基調の数値となり、本来、ビットコインにとってはネガティブな結果となったのですが、ETFの資金フローは大きく伸びており、読みにくいなと思います。

流入額に関しては、昨日の米国時間3月5日はついに流入額が700億ドルを超え、788億ドルの流入とすごい勢いです。

ーー経済指標に関係なく一定の買いが入っているということですね。

ファンドの営業力、ブランド力も大きく影響していると思っていて、ブラックロックやフィデリティにビットコインに少し分散しておきませんかと言われたら、断らずに買う人は一定数いると思うんですよね。

コインベースのアドレスの活動も注視

ーー流入額以外でビットコインのETFに関して見ている指標があれば教えてください。

明らかにETFのビットコインはコインベースを通して買われており、コインベースのアドレスの活動は見ています。

例えば、コインベースからビットコインの出金が多いとなったら、おそらくファンドが買ってそれをカストディのウォレットに送っていると予想することができます。

ただ、それが、相場の動きに一貫した影響を与えているかというのはまだビットコインETFの承認から2ヶ月なのでわかりません。

ーービットコインETFとコインベースが連携されているのですね。

米国で買うとしたらコインベース以外ないので、そうじゃないかなと思いますね。

米国市場の引けにかけてコインベースの出来高が強く上がるんですが、これはETFではありがちなことなんですね。引けにかけてETFの設定と交換を行う指定参加者の取引が活発になりやすく、コインベースの出来高増加もおそらくETFの影響だと思います。

ーーそのほか、ビットコインのETFに関して、見ている、注目しているものがあれば教えてください。

どこがビットコインETFを提供しているか、というのも見ていますね。

先日、モルガン・スタンレーがビットコインETFへの投資を可能にする旨を最近の提出書類に追加したというのもありましたね。

参考:モルガン・スタンレー、ファンドの投資対象にビットコインETF | ビットバンクプラス

このような大きな企業は情報開示の義務があるので、そのような情報からビットコインETFに関する重要なヒントを得るというのはあると思います。

ーー暗号資産以外のメディアからも問い合わせは増えていますか。

増えていますね。

セミナー登壇や雑誌への寄稿など、ちょうど直近の2日間は多数の問い合わせをいただきました。

2023年末くらいから一般の金融メディアにおいても強い興味を持たれている印象があり、以前のバブル相場の初期に似た感触があります。

そのほか、ロイターの日本版にニューヨーク市場サマリーに最近ビットコインがよく出てくるようになりました。

日本でも大きい金融メディアが定期的にビットコインに関する情報を発信するというのを次のサイクルで期待しています。

ーーそのほか、2024年において注目しているイベントなどがあれば教えてください。

2024年11月の米国の大統領選の行方ですね、

トランプ氏のほうが勢いがある印象ですが、トランプ氏が大統領に当選すると金融緩和寄りになるという見方もあり、暗号資産の業界的にはおそらくトランプ氏が当選したほうが追い風になり、注目しています。

また、中国経済の先行きも引き続き警戒が必要だと思います。

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