「中国の景気後退に伴う利下げでの流動性相場の前に一度大きく下落する可能性が高い」ビットバンク アナリスト・長谷川友哉氏 1/2

ビットバンク社でマーケット・アナリストを務める長谷川友哉氏に、現在のマーケットについてどのように見ているのか伺いました。

長谷川友哉氏 プロフィール

英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と暗号資産市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。

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取材実施日

2023年8月17日

2019年からビットバンクのアナリストとしてマーケットの分析に従事

ーー長谷川さんのキャリアや現在のアナリストとしての業務について教えてください。

2019年まではリサーチ系の会社に勤め、各業界の動きや市況についてのレポート作成、サポート業務を行っていました。

当時の私の上司がメガバンク系列の証券会社の為替ディーラーを経てアナリストとなった方で、その方から多くの知識を吸収させていただき、いまのベースになっています。

その後、2019年にビットバンクにアナリストとして転職し、現在に至ります。

現在の業務のほとんどはマーケットの分析です。

ーー個人としてはどのように暗号資産の取引に携わっていますか。

証券会社などの一般的な業界では、アナリストは実際のトレードを避けるのが一般的ですが、暗号資産の業界にはそのような厳格なルールはまだなく、私自身も暗号資産の取引を行っています。

私の取引は、市場のトレンドが明確になった時にポジションを増やしていく、いわゆる順張りが主です。

ショートは得意ではなく、例えば2022年に下落トレンドが発生した際も下落前にショートするのではなく下落した後に買い増しをするなど、そういう取引が多いです。

最初は私もいわゆるポジポジ病をこじらせました。

しかし給料で定期的な収入を確保している状態では無駄にポジションをとって自分にストレスをかける必要はないという結論に至り、現在のスタイルに至っています。

なのでデイトレードのような短期間での取引は行っていませんね。

ーー暗号資産以外のマーケットも見ていますか。

暗号資産に限らず、基本的に全てのマーケットに目を向けています。

中国でビットコインの取引が活発な時期に人民元安がビットコインの価格へ影響しましたし、ドル円のボラティリティが低いときにビットコインの価格が上昇することもありました。

そのほか、2017年から2018年にかけてのブルマーケットが終わった際に米国のIT株の動きが暗号資産市場と似ていたりと、暗号資産のマーケットに対する為替の影響は決して小さくありませんので、基本的に全マーケットに目を向けるようにしています。

相場が活気づくと短期でのビットコイン保有者が増加するが、2022年頃からは減少傾向で長期保有者の数は増加

ーー現在のマーケットについて、どのように見ているか教えてください。

暗号資産のマーケットに関しては参加者の数が減ってきている印象です。

株や為替については、不透明感が強く感じられます。

特に米国の金融政策については、利上げペースの低下や現在の利上げサイクルの終わりがはっきりとは見えず、不透明感が高まっています。

期待されている利下げについても、具体的な時期は見えていません。

2023年の3月頃から、長い間、利上げの終盤が模索されている印象です。

▼BTC/USDのチャート。2023年に入り大きく上昇してはいるが2021年のATHに対しては一年以上、半値以下で推移している。

出典:tradingview.com

ーー暗号資産市場の活動低下を具体的に示すデータや指標はありますか。

オンチェーンのデータでは特に明確です。

相場が活気づくと短期でのビットコイン保有者が増加しますが、2022年頃からはそのような短期保有者の数は減少傾向にあり、逆に長期保有者の数は増加しています。

過去の傾向を見ると、相場が活発に動くためには短期保有者がもっと増えなければなりませんが、現状ではそのような動きは見られません。

ーー「短期でのビットコイン保有者」の基準について教えてください。

Glassnodeというマーケットの分析ツール上で、一年半以上ビットコインを保有しているかどうかが基準となっています。

ーー「短期でのビットコイン保有者」の数は右肩下がりでしょうか。もしくは一度下がった後、停滞していますか。

2022年に一度底まで下がった後、2023年は停滞が続いています。

出来高も見ればより明確です。

中国の景気後退が他国の経済にもネガティブな影響を及ぼす可能性は高い

ーーこのインタビューの数日前に中国での利下げ、若年失業率の公表一時停止などが発表されました。どのように見ていますか。(このインタビューの翌日に中国恒大集団の破産が発表)

近年、中国経済に注目が集まっており、特に、住宅市場のバブルや輸出入の額など、多くの指標の下振れが目立ちます。

米国をはじめとする多くの国々が中国と貿易で結びついており、中国の景気後退が他国の経済にもネガティブな影響を及ぼす可能性は高いでしょう。

具体的には、2023年の末にその兆候が現れるかもしれません。

また、中国の公表データと実際の状況にはギャップがある可能性も考慮する必要があります。

若年層の失業率公表停止も話題ですが、あのデータは都市部の若者の失業率のみを対象とされており、地方を含めた中国全体での失業率はより高い可能性が指摘されています。

住宅価格も広い範囲で下がってきており、その点も懸念材料です。

中国の景気後退に伴う利下げでの流動性相場の前に、一度大きく下落する可能性のほうが高い

ーービットコインに関して言えば、「中国の利下げによるビットコイン市場への資金流入」「中国の景気後退による米国の経済悪化とそれに伴う利下げ促進と資金流入」などがポジティブにも見えると思いますが、どのように見ていますか。

難しいですが、単純に「利下げ = ビットコインの価格上昇」とは言えないでしょう。

中国のビットコインの取引状況は昔と大きく変わっています。

過去には中国でも多くの人々がビットコインを取引していましたが、現在では富裕層の一部のみが取引を行っており、取り締まりも強化されています。

そのため、中国のビットコインに対する影響力は以前よりも大幅に小さくなっていると言えます。

また、コロナショックなどの大きな経済的ショックが発生すると、ビットコインも含めた全てのリスク資産が下落する傾向にあります。

これは安全資産へのシフトやキャッシュへの逃避、損失補填を目的とした法定通貨の需要増加、などが背景にあると考えられます。

そのため、おっしゃるような利下げによる流動性相場もあるとは思いますが、その前に一度大きく下げることもあり得ると考えています。

短期で取引している人はこのようなリスクを十分に考慮し、準備しておくべきだと思います。

ーー中国の景気後退はビットコインにとってポジティブな要素だけでなくネガティブな要素も強いということですね。

おっしゃる通りです。

長期的には金融緩和の方向性が見られるものの、短期的なインパクトを考えると、例えば恐怖指数が急上昇した際には、ビットコインの価格も下落する可能性が高まります。

そのため、どちらにも動く可能性はあると見ています。

ドル高円安が続いているが日本と米国の金利差がこれから大きく拡大するとは考えづらい

ー8月発表の米国のCPIについて、市場予測をわずかに下回りましたが、ビットコインの価格には影響がありませんでした。今回のCPIについてどのように見ていますか。(参考:7月の米消費者物価指数、前年同月比3.2%上昇、コア指数は4.7%上昇(米国)|ジェトロ

米国のCPI結果について、特に住居費、家賃が下がらない傾向にあると認識しています。

一方、コモディティやエネルギー価格は落ち着き始めている印象です。

その上で、これからの消費の回復については懐疑的です。

賃金上昇や労働指標から見る労働者数の回復ペースの鈍化、さらには労働参加率の推移など、2023年のデータでは頭打ちになってきています。

逼迫してる状態がだんだん緩和されていき、賃金の伸びもある程度落ち着いてくると、消費の伸びも落ち着くのではと見ています。

中国の景気後退によるインフレへの影響にも注目しています。

景気後退が進めば、材料費やエネルギーの需要は減少し、物価上昇圧力も弱まるでしょう。

7月のデータには驚く部分もありましたが、今後、物価がさらに上昇する可能性は低いと見ています。

ーーインタビュー時点でドル円が146.32円と2023年最高値をつけるとともに、日本のGDPが予想を大きく上回ることで話題になりました。これら日本の状況についてどのように見ていますか。

為替についてのコメントは難しいところです。

一時的に150円を試す動きが見られるかもしれませんが、継続的に上昇するとはあまり考えていません。

2022年9月に為替介入がありましたが、その時と今回のマクロ環境を比較すると、当時の9月にはFRBが利上げを停止する見込みがあまりない状況でした。

また、日銀が緩和政策を修正する可能性も少ないというのが当時の市場の認識で、要するに金利差の拡大が見込まれている状況でした。

一方、現在では米国の利上げ余地が非常に小さくなってきており、YCC撤廃はないものの上限を50ベーシスポイント上げて実質的な利上げを行うなど、日本と米国の金利差がこれから大きく拡大するとは考えられません。

さらに、日本のGDPの上昇や貿易収支、経常収支を見ると、サービス業を含めた状況やインバウンドの影響で赤字が縮小しており、円売りを加速させる状況とも言えないでしょう。

中央銀行がとれる選択肢は少なく、その結果として市場では不透明感が強まっている

ーーでは直近のドル高円安の要因についてどのようにお考えですか。

FF金利の先物市場では、さらなる利上げが織り込まれておらず、直近の議事要旨で多くのメンバーから追加の利上げに関する必要性が示され、それによってドル高に振れたと見ています。

ーー利上げと利下げ、どちらにせよいまのマーケットは米国の金利動向に大きく左右されています。

その通りです。

正直、FRBがもう1回利上げするにせよ上げないにせよ、これ以上できることはいま何があるのでしょう。

そして、それが市場の不透明感を生んでいます。

また、日銀は既にYCCの修正を試みたものの、次のステップについては明確な方針が見られません。

YCCを完全に撤廃し完全な正常化を目指すという判断もあるとは思いますが、それは後戻りができない、非常に慎重な判断を要します。

このような背景から、日銀も難しい状況にあり、極端な円安、円高になりにくい状況です。

両国の中央銀行がこの先どのように対処していいのかわからない状況に陥っており、その結果として市場では不透明感が強まっているのだと思います。

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長谷川氏のインタビュー、後編に続きます。

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