8月の米CPIは前年比+8.3% エネルギー価格は下落しても、医・食・住の価格高騰が止まらずインフレ率は高止まり

出典:U.S Bureau of Labor Statistics/アメリカ合衆国労働統計局

8月のCPIからはインフレ収束の兆候は見られず、直後にS&P500は4%以上の大幅下落

 9月13日に米労働統計局より8月のCPI(消費者物価指数)が発表されました。CPI総合:前年比+8.3%(前月比+0.1%)、CPIコア:前年比+6.3%(前月比+0.6%)と、インフレの高止まりを示す結果となりました。

 FRBパウエル議長が一貫して述べてきたのは『9月以降の利上げペースは今後の経済データ次第である』という趣旨のメッセージです。直近3ヶ月のCPI(前年比)は、6月:+9.1%、7月:+8.5%、8月:+8.3%となり、未だインフレ率が順調に下がってきているとは言えません。

 CME FedWatchツールによると、市場参加者が予測する9月FOMCでの利上げ幅は+0.75%がメインシナリオとなっています。今回のCPI発表前は+1.00%の利上げ確率は0%でしたが、発表後は一転して35%へと上昇し、更なる厳しい金融引き締めが懸念され始めたことを表しています。

出典:CME FedWatchツール

 S&P500指数は、9月初旬から4,000が一つの抵抗レベルとなっていた中、直近でようやく突破することができた重要な水準でしたが、CPIが発表された直後にあっさりと下へ突き抜け、9月13日の相場は-4.32%という暴落を記録しました。

S&P500指数チャート/1時間足 出典:tradingview.com

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原油価格だけ下がっても物価は下がらない/CPIとの関係・ウエイトについて

原油(WTI)先物チャート/日足 出典:tradingview.com

 コロナ不況下での過度な経済政策とアフターコロナの経済再開、ロシア・ウクライナ戦争によって暴騰した原油価格は、世界経済のリセッション入り懸念が高まるにつれ、下落トレンドが続いています。昨今の高インフレ率は原油をはじめとしたエネルギー価格の高騰が一つの大きな引き金となりましたが、原油価格が下落しても尚、高止まりを続けています。直近では高インフレ率に寄与している要因に変化がみられ、消費者物価指数/CPIを構成する要素とウエイトを知り、”CPIの中身”に注目する必要があります。

 下記の円グラフは、米労働統計局の公式HPで公表されているデータを元に筆者が独自に作成したもので、CPIを構成する品目ごとのウエイトを表しています。(割合は年毎に調整されます)

参照:U.S Bureau of Labor Statistics/アメリカ合衆国労働統計局

“Relative inportance of components in the Consumer Price Indexes: U.S. city average, December 2021”より、公表データを元にして独自に作成

 CPI全体に占めるエネルギーのウエイトは約7.3%程度となっており、Housing(住宅)のカテゴリーに入る”(電気などの)家庭用エネルギー”、Transportation(交通手段)のカテゴリーに入る”自動車燃料”で、おおよそ半々ずつの割合となっています。CPI全体で見ると、エネルギーの占める割合は比較的小さく、家賃などを含めた広い意味での住宅費用を筆頭に、食品類や医療などの物価水準の方が、CPIに与える影響が大きいことが分かります。これを踏まえ、8月CPIのデータを少し深掘りして分析してみたいと思います。

原油価格は下落しても、医・食・住、サービス関連の価格高騰が止まらず

出典:U.S Bureau of Labor Statistics/アメリカ合衆国労働統計局

 ガソリンや燃料油といったエネルギー商品は、前月比では2ヶ月連続で大幅に下落したものの、前年比では未だ25%くらい高騰している状況にあります。更に注目したいのは、Food(食品)やShelter(家賃)、Medical care services(医療サービス)、更にはEnergy Services(エネルギーサービス)の高騰が続いていることが分かります。大きな要因として、①好調な労働市場・人件費の高騰、②住宅価格・住宅ローン金利の高騰、③天然ガス価格の高騰、などが挙げられます。

 ①好調な労働市場・人件費の高騰についての懸念は、過去の記事でも紹介しています。

 ③天然ガス価格の高騰については、原油価格の下落トレンドとは少々状況が異なり、下げ渋っている状況が伺えます。アメリカでの発電は約3分の1程度が天然ガスによるものです。そのため家庭の光熱費や、企業の生産活動にかかるコストを押し上げる要因となっています。(ロシア産天然ガス供給をめぐるリスクについては、こちらの過去記事の一部でも解説しています。)

天然ガス先物チャート/日足 出典:tradingview.com

 コロナ禍の過度な経済対策で一旦加熱した米経済が落ち着きを取り戻すのには、まだ時間がかかりそうです。物価水準の顕著な下落トレンドが確認できるまでは、株式などのリスク資産にとっては厳しい時期が続きそうです。引き続き労働市場や住宅市場を中心に注視しながら、インフレの収束を待ちたいところです。

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