「歴史は時期尚早な金融緩和に強く警告している」パウエル氏

2023年の利下げを織り込んで一時的に上昇した相場

 7月27日に開催された前回のFOMC後、パウエル議長はインフレの沈静化が見られれば将来的に利下げを行うことができる可能性を示唆しました。これがハト派な発言として市場に好感されたことに加え、8月10日に発表された7月CPIが市場予測を下回り、インフレがピークアウトしたのではという希望的観測が市場に更なる楽観をもたらしました。2023年には利下げが始まると期待した市場参加者達が買いに転じ、束の間の楽観相場となりました。

(出典)Tradingview.com

 そんな楽観モードの中、雲行きが怪しくなったのは8月19日(金)の週末。サンフランシスコ連銀のメアリー・デイリー総裁が、CNNのインタビューでタカ派寄りの発言をしたことで、ジャクソンホールを控える市場は一転して警戒モードとなりました。CNNのインタビュー記事から要点を紹介します。

(引用)CNN BUSINESS / Expect interest rate hikes to continue into 2023, Fed official says  / By Nicole Goodkind https://edition.cnn.com/2022/08/18/economy/mary-daly-fed/index.html

Daly doesn’t see the Fed easing interest rate hikes anytime soon. She predicts they’ll continue into at least 2023, but says that’s ultimately a good thing – even if Wall Street investors don’t agree. —-  A raise and hold strategy has historically paid off for the Fed, she said. The central bank is actively trying to warn against the idea of a “large hump shaped rate path, where we’ll ratchet up really rapidly this year and then cut aggressively next year.

【翻訳】

  デイリー総裁は、FRBが近いうちに利上げを緩和するとはみておらず、少なくとも2023年は(引き締め姿勢が)続くと予測している。たとえウォール・ストリートの投資家達が賛同しなくとも、最終的には(市場にとって)良いことであると。(略)歴史的には、利上げを行いその水準を維持する戦略で、FRBの努力が報われてきた。金利の軌道が大きなコブになるような(今年は急速に引き締め、来年は積極的に緩和する)アイデアに対しては強く警戒するよう努めている。

金融政策への姿勢、利上げ・利下げの政策決定に関しては、FRB議長の他、理事会の構成メンバーでもある地区連銀総裁の発言が先行してヒントとなる場合がありますので、引き続き注意が必要です。

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パウエル氏はジャクソンホールで来年の金融緩和への期待を握りつぶした

 8月26日のジャクソンホールでのパウエル議長によるスピーチでは、1980年代にFRB議長を勤めハイパーインフレを抑えることに成功したポール・ボルカー氏の功績に触れながら、断固としてインフレに立ち向かい、引き締め政策を容易には転換しないという姿勢が鮮明となりました。前回のFOMC後にポジティブな材料となった”2023年には利下げに転じるだろう”との期待が打ち砕かれた格好となりました。

 同日のS&P500指数は3%以上の急落、週明けも下落は止まらず悲観的な相場となっています。今回のパウエル議長のスピーチで最も重要な発言となった部分を紹介します。

 “Restoring price stability will likely require maintaining a restrictive policy stance for some time. The historical record cautions strongly against prematurely loosening policy. Committee participants’ most recent individual projections from June SEP showed the median federal funds rate running slightly below 4 percent through the end of 2023. Participants will update their projections at the September meeting.”

【翻訳】

 ”物価安定のためには(景気に対して)抑制的な政策スタンスをしばらく維持する必要があるようだ。歴史は時期尚早な緩和政策に対して強く警告している。委員会理事達の最新(6~9月)の個々の予測では、2023年末まで政策金利の中央値は4%を僅かに下回る程度の水準である。理事達は9月(20~21日)FOMCにて、各々の金利予測をアップデートしてくるだろう。”

 前回のFOMC後にも語られましたが『将来の金融引き締め・緩和の政策決定は新たな経済データ次第』です。これに今回の発言趣旨を加えて噛み砕くと、「インフレ率」と「雇用情勢」のデータがバランスを取れる中立金利を模索して来年はその水準を維持する、ということになると思われます。重要なデータが発表されるタイミングでは、相場が方向感を決める転換点となる可能性がありますので注意が必要です。雇用統計の発表は毎月第1金曜日、消費者物価指数/CPIの発表スケジュールは以下の通りとなっています。

(出典)U.S Bureau of Labor Statistics/アメリカ合衆国労働統計局 https://www.bls.gov/schedule/news_release/cpi.htm

株式と仮想通貨の価格は同じ方向に動く可能性が高い

 金利の上昇は株式のバリュエーションにとってマイナスとなりますので、しばらくは株式を買い向かう圧力が弱まる状況が続く可能性があります。では別の資産クラスはどうでしょうか。例えば仮想通貨・ビットコイン。

 ”ビットコインはインフレヘッジになる”という考え方があります。米ドルなどの各国政府が発行する通貨は、歴史的には総供給量が増加傾向にあり通貨一単位あたりの価値が低下(つまりインフレ)する一方、ビットコインは発行枚数が2,100万枚と上限が決まっているため、普及すればするほど希少性が増して通貨一単位あたりの価値は上昇する、というのが定性的な説明になります。

 一方で、足元では米国を含む各国の金融政策は”引き締め”一辺倒です。昨今の経済は高インフレ下ではありますが、利上げ・QTによって米ドルの流通量は減り通貨の価値は上昇する方向にあります。株式が金利上昇によってマイナスの影響を受けるのと同じように、ビットコイン価格も下落する傾向にあります。

 下記はナスダック100のチャートとビットコインのチャート(緑色)を重ね、相関関係を青い波で示したものです。上方向の波は同じ方向に動く正の相関、逆に下方向の波は逆方向に動く負の相関を表します。昨年〜過去5年間くらいの相関関係はまちまちですが、2022年に入ってからはナスダック100とビットコインのチャートは正の相関が続いており、現在の相関係数も0.87と非常に高くなっています。

(出典)Tradingview.com

 昨今は仮想通貨への投資が一般的になり、機関投資家も一つの投資対象になる資産クラスとして認識されるようになってきました。リスク資産として捉えると、まだまだ下がる余地が大きいと思われます。ただし、仮想通貨自体のファンダメンタルズ面の変化、社会への浸透や各国の法整備など、突然変異的なイベントに関しては未知の領域が大きく、長い目で付き合っていく必要があるのかもしれません。

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