ご好評頂きました先週のマーケット記事では、機関投資家が売買したポジションを知ることができる『Form13F』について解説し、実際のデータを元にウォーレン・バフェット氏が2022年第2四半期(2Q)で売った銘柄、買った銘柄などを紹介させて頂きました。
前回に引き続き、『Form 13F』で得られる2022年2Q(4~6月)のデータを元に、今回は2名の著名投資家を取り上げて紹介したいと思います。今回もTodd Schneider氏が開発した便利な無料分析ツールを使用しながら解説させて頂きます。
(使用ツール)Search 13F Filings:https://13f.info/
最新のForm 13F解説記事
当該記事は2022年8月のForm 13Fの解説記事です。最新の2024年8~11月公開のForm 13F解説記事は下記をご覧ください。
- ドラッケンミラー氏「率直に言ってビットコインを持つべきである」【Form 13F 2024年第3四半期】
- マイケル・バーリ氏、アリババなど低迷する中国株の逆張り投資を強化【Form 13F 2024年第2四半期】
2022年第2四半期の株式市場は先行き不透明な弱気相場そのものだった
ウクライナ戦争の長期化、欧米諸国とロシアとの関係悪化によるエネルギー価格の高騰で、インフレ率が上昇・高止まりしたことで利上げペースが加速。株価へのマイナスの影響に翻弄された第2四半期となりました。年初来、一時はS&P500指数は約-23%、NASDAQ100指数に至っては約-32%と大きく下落し、市場が動揺する場面が散見されました。
「インフレ・利上げのピークが見えない、株価の底も見えない」まさに先行き不透明な情勢のなか、日本でもファンの多いあの著名投資家はどのような選択をしたのでしょうか。
ジョージ・ソロス氏/主力銘柄のEVメーカー・リヴィアンと通信大手のリバティ・ブロードバンドを一部売却も、新たに20銘柄以上へ投資
先週取り上げたバフェット氏に続き、「イングランド銀行を潰した男」という異名で有名な、投資家のジョージ・ソロス氏のポートフォリオの変化を追ってみたいと思います。尚、全ての銘柄を紹介しきれないため、FORM 13Fで公表されているソロス・ファンドのポートフォリオ内で比較的大きな割合を占める銘柄、主要株価指数でシェアが大きい構成銘柄に絞って解説します。
2Qでソロス氏は、学生用不動産開発・管理のアメリカン・キャンパス・コミュニティ、バイオ医薬品のバイオヘイヴン・ファーマシューティカル、保険会社のアレガニを筆頭に、20銘柄へ新たに投資しています。中には、テスラやウーバーのようなテック銘柄への新たな投資もみられ、既存の保有銘柄からはアマゾン・ドットコム、アルファベットを買い増した他、セールスフォースに至っては積極的に保有株数を2倍以上に増やしました。
その一方、ソロスファンドの主力銘柄で以前はポートフォリオの約15%を占めていたEVメーカー・リヴィアンの株式が1割程度売却されました。また、通信大手のリバティ・ブロードバンドの株式は3割以上を売却されています。ソーシャルゲーム開発のジンガ、リゾート系不動産投資のMGMグロース・プロパティーズ、医療情報技術サプライヤーのサーナーについては全て売却されました。
スタンリー・ドラッケンミラー氏/ポートフォリオは約4割減。テック銘柄だけでなくエネルギー銘柄も既に一部を売却。一方で新たに購入した銘柄も
(出所)”Search 13F Filings”からFORM 13Fデータを抽出して作成
スタンリー・ドラッケンミラー氏は、ジョージ・ソロス氏の右腕として知られ、ヘッジファンドDuquesne Capitalの創業者として著名な投資家です。前章同様、全ての銘柄を紹介しきれないため、FORM 13Fで公表されているポートフォリオ内で比較的大きな割合を占める銘柄、主要株価指数でシェアが大きい構成銘柄に絞って解説します。
2Qでドラッケンミラー氏が新たに投資した銘柄は、製薬会社のイーライリリー・アンドカンパニーとモデルナ、サイバーセキュリティのクラウドストライクとデータドッグそしてパロアルトネットワークスです。これら新規5社でポートフォリオの約16%を占め、製薬とサイバーセキュリティへの新たな投資を加速させました。また、元々保有していた銘柄で唯一大幅に買い増したのは、石油・天然ガス会社のアンテロ・リソーシーズで、株数を倍増させています。
その一方で、ドラッケンミラー氏は保有する大半の銘柄の売却を進めています。アマゾン・ドットコムや、S&P500ETF、ネットフリックスなどを含む3割の銘柄は全て売却。ポートフォリオ全体の資産総額自体も約4割減少しています。さらには、好調なエネルギー銘柄であるシェブロンやパイオニア・ナチュラル・リソーシズなども一部売却しています。現金比率を急速に高めていることから、テック銘柄をある程度積極的に買い増したソロス氏と異なり、守りに入っていることが伺えます。
『Form 13F』で公表されるのは過去の取引。ショートポジションは公表されない。群集心理にも注意が必要
『Form 13F』から得られるデータを元に自らの投資行動の参考にするうえで、注意しておきたいことを、金融に特化したコンテンツを提供する世界的メディア『Investopedia』記事より、追加情報として3点紹介します。
1.報告のフォーマットそのものには、データの信頼性を損なう可能性がある抜け穴が存在する。また、四半期ごと45日以内の報告義務で、ほとんどのファンドマネージャーは提出をギリギリまで遅らせて手の内を明かさないため、他のライバル投資家が『Form 13F』を閲覧できる時期には、最長4ヶ月以上も過去の取引を見ることになる。これらのことから、関係団体からSEC(米証券取引委員会)に対して、Form13Fの報告頻度を増やし、金融商品の報告範囲を拡張すべきとの要望もある。
2.他の投資家から投資のヒントを得ようとすると、かえってプロ投資家にも個人投資家にも、双方にとってリスクになる。(行動経済学における)群集心理によって同じ銘柄への投資に買いが殺到すると株価はオーバーバリューになる。もしも小口の投資家が(買いの)パーティーに遅れてやってくれば、売り抜けるのに遅れてしまうだろう。
3.『Form 13F』の報告義務の対象は、通常のロングポジションに加え、プット/コールオプション、ADRs、転換社債である。ショートポジションは報告義務が無い。ショートポジションで利益を得ようとするヘッジファンドでは、真のロングポジションを見定めることが難しい。
(参照)Investopedia / SEC Form 13F By ADAM HAYES https://www.investopedia.com/terms/f/form-13f.asp
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そのほか、過去のForm 13F解説記事はこちら
https://burry.co.jp/tag/form13f/
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