「副作用が大きくて日銀は金融緩和政策を転換できない」元外資系証券トレーダー 3/3

元外資系証券会社でトレーダーを務めていたK氏インタビュー、最後の3回目は今後のドル円相場の見通しや、判断に必要な情報の集め方について聞いた。情報収集は特別なものを探す必要はなく、新聞やテレビ、ネットの情報で十分だという。

インタビュー・編集:内田 誠也
執筆:山本 裕司

インタビュー内容

  • 今後のドル円相場について、どう見ていますか。(取材日は2022年7月下旬)
  • 日銀がマイナス金利政策をやめられない理由は何でしょう。
  • テクニカルだけでなく政治もしっかり見ていかなければならないということですね。
  • 投資の精度を高めるにはどうすれば良いのでしょう。
  • 判断材料とする情報は、どのように入手しているのですか。
  • トレードに必要なことは何でしょうか。

金融緩和政策を転換できない日銀

――今後のドル円相場について、どう見ていますか。(取材日は2022年7月下旬)
多くの人は150円を意識していたと思いますが、7月末に130円台前半にまで大きく下げました。これまで急上昇を続けてきただけに、押し目を迎えたのかもしれません。下落には、いろいろな要因があったのだと思いますが、今回の円安が日米の金利差から来ていると考えるのなら、再び円安基調に戻ってズルズルと150円を目指して行くというのが普通の考え方でしょうね。

今回の円安の要因は、米国をはじめ各国の金融当局が金融緩和からの政策転換で金利を上げ始めたのに、日本だけはマイナス金利政策から脱却できないというところにありました。しばらく日銀は政策転換しない、もしくは、転換できないということには変わらないと思います。そうなると、ズルズルと円安が続いていくという見方になると思います。

――日銀がマイナス金利政策をやめられない理由は何でしょう。
マイナス金利を止めて利上げをすると、日銀自身がかなりの国債を買っているので、含み損が出てしまうんです。あと、地方銀行もかなり国債を買っている。外国債への移行もしていますが、やはり地方銀行にも利上げのしわ寄せが行く。そうした副作用が強いと思います。

銀行だけでなく、中小企業なども低金利の中、変動金利で長期の融資を受けているところが多いはずです。利上げによって金利が上がると、そうした中小企業の経営も圧迫します。最悪の場合、多くの中小企業が次々と倒産することにもなりかねない。副作用といってもかなり大きな悪い影響が出ます。それを考えると、今すぐに金融緩和を止めることは難しいと思いますね。

日銀の黒田東彦総裁は2013年の就任以来、ずっと金融緩和を続けてきて、マイナス金利政策にも踏み込みました。2%の物価上昇を目的にずっと続けてきたわけですが、未だに達成できていない。ここまでくると半分意地になっているところもあると思います。黒田総裁が退任しない限り、間違いなく金融政策は変わらないでしょう。

ですから、黒田総裁が退任するタイミングを迎えたときに、政策転換への期待から、円安基調のトレンドが転換するかもしれません。しかし、いきなり利上げとなると、あまりに副作用が大きい。黒田総裁が就任したときのような劇的な政策転換は難しい。

その一方で、米国は一足早く、金融緩和の出口政策を進めていて、金利を正常な形に戻しつつある。こうした日米の状況が変わらない限り、ずるずる150円を意識しながら進んでいくように思います。

――テクニカルだけでなく政治もしっかり見ていかなければならないということですね。

政治の動きも、マーケットに大きな影響を及ぼしますので、経済指標やテクニカル指標だけでは不十分です。現在の円安の状況も、必ずしも金利差だけではなくて、政府の経済政策に対する評価も反映されているのだと思います。現状、政治が経済をうまくコントロールしているのが米国で、コントロールできていないのが日本だと、世界から評価されてしまっていることも、円安の要因だと思います。

――政府はいま、しきりに投資を推奨していますよね。
岸田首相は「投資してください」と推奨していますけど、本来、政府がやらなければならないのは、賃上げだと思います。賃上げをしなければ、そもそも投資する元手も用意できません。投資をする余力がない人が多いのに投資を勧めても仕方がないという気がしますけどね。平均賃金も全国平均で1000円を超えられないという状態で、企業が賃上げができるような環境を整えるのは、かなり難しいと思います。

とは言え、そういう状況の中で、生活を維持していく一つの手段として、積極的に投資を考えることはとても良いことだと思います。日々の生活に追われているという人も多いでしょうが、なんとか資金と時間を作れるのなら、絶対に投資をした方がいいと思いますね。

社会保障の水準を維持することが難しくなってきて、自分の身は自分で守らないといけない時代になっています。政府が投資を勧めるのが正しいのかどうか、という議論はひとまず置いておくとしても、そういう時代になってしまっているので、政府が言っているとかではなく、まずは自分自身を守るための投資を始めた方がいいでしょう。そして、うまくいくようであれば、攻めの投資も考えてはどうでしょうか。

情報の点と点を結び、相場を予測する

――投資の精度を高めるにはどうすれば良いのでしょう。
負けるトレーダーの共通点について書かれた本を読んだことがありますが、当たり前のことしか書いていなくて、あまり参考にならなかったので、それ以来、投資の本は読んでいません。必要な情報は「自分で情報収集すればいいや」と思って。

実際に、今は本を読まなくても、ネット上にいろいろな情報がありますから。それにSNSでトレード手法や考え方を発信している人がいますよね。そうした実績があり、フォロワーも多い人のSNSを読んで参考にするというのも上達の道だと思います。別に意見に従う必要はありませんが、考え方を知るだけで勉強になるはずです。

ーーSNSをよく見たりするんですか。

見ます。意見が一緒だと結構安心しますし、反対の意見でも「そういう考え方があるのか」と気づかされることがあります。これは取引の話に限ったことではありませんが、自分の意見と反対の意見を聞くことは大事です。

人の意見を聞くことで、今までとは違った視点が生まれることがあります。それは、自分と同じ意見でもそうで、自分とは異なった視点から、同じ結論に達することがある。だから、そういう人たちの取引を参考にするといいですね。

そういうやり方をすれば、誰でも投資を簡単に始められるじゃないですか。最初は、誰かを真似て同じポジションを取ってもいい。それから、どんどん知識を身に付けて、最終的に自分なりの考えでポジションを持つようになれたらいいので。そういうやり方もあると思います。

――判断材料とする情報は、どのように入手しているのですか。

別に特別なものはなくて、テレビやネットニュースなどを見るくらいです。少し専門的なことや経済に関するニュースを知りたければ、ブルームバーグなどの専門的なニュースサイトもありますし、海外のニュースも簡単に入手できる。そこで重要なのは、単にニュースを見たり、情報を得たりするだけでなく、点在する情報の点と点を結んで線にできるか、ということです。

世の中のいろいろな情報は、一見バラバラのように見えても、本当はどこかでつながっています。金融業界で働いている人は、いつも情報を結び付けて考えて、関係性を見出すということをしているのですが、ふだん、そこまでしている人はあまりいないと思います。でも、自分の仕事に関わることであれば、暑くなれば自社の商品が売れるだとか、関係なさそうな情報を結び付けて売上予測をしたり、商品開発を考えることもあるでしょう。それと同じように、世の中のありとあらゆる出来事を結び付けて、関連がないかを考えていくわけです。

そういうことを考えながらニュースなどを見ていると、例えば、最近、参議院選挙がありましたが、選挙結果というのは、為替レートや株価、債券の価格にも大きく影響します。与党が勝って今の政策がそのままだったら経済はどうなるのか、野党が勝って経済政策が転換したらどうなるのか、ということを考えてみるのもいいでしょう。選挙結果によって起こる変化を予想できれば、相場が上がるか下がるか、それとも大混乱するのか、ということがある程度予想できるようになります。

そうやって、いろいろなことを読み取っていくうちに、情報の質は上がっていきます。できるだけ多くの情報に触れて、それぞれを関連付けていく能力を身に付けることが大切です。

――トレードに必要なことは何でしょうか。

決断力でしょうね。

私がしていた仕事で言えば、国債を借りるときに、ちょっと迷っている間に、借りたいと思っていた国債がなくなっているということがよくあります。例えば流動性がかなり低い国債を必要としているときに、かなり高い値で貸してくれる人がいたとします。「必要だけど、高いなあ」と2,3分迷ったうえに決断したら、既に借りられなくなっている。そして、もっと高いコストを払わなければならなくなる。

こうしたことは頻繁に起こるので、決めるときは早く決めなくてはならない。これはFXの取引などでも同じですよね。FXの値動きは早いので、雇用統計などの発表があると、迷っているうちにいきなり上昇することがあります。だから「今だ」という瞬間に、ちゃんと取り引きできないとチャンスを逃すことになる。

でも、早く動き過ぎて、高値掴みをしてしまうこともあるわけで、これはトレードをしたことのある人なら誰でも一度は経験ありますよね。そこのバランスを考えることも必要なのですが、ただ、やはり「早く、やっておきゃよかった」と後悔するのだけは避けようと思っています。

――どうやったらうまくバランス取れるのでしょう。
これ言ったら身も蓋も無いかもしれませんが、勘でしょうね。いろんなトレーダーを見ていると、やはり生まれながらの勘が働くという人はいます。でも、諦める必要はなくて、勘は経験によって磨くことができるものだと思います。

いろいろな情報に触れて、情報の意味を自分で考えて、実際に取引をしてみる。そうやって経験を積むことで、勘は研ぎ澄まされていくものだと思います。

────────────────────

Burry Market Researchの公式LINEでは、ここでしか見れない「資産/収支管理シート」や「インタビューの録画」を公開しています。ぜひご登録ください。

公式LINE登録はこちら

────────────────────

前回までのインタビューはこちら。