「日米の経済格差は変わらないか日本の方が悪化しやすい状況にある」元外資系証券トレーダーのドル円考察 1/3

大手証券会社のトレーダーを務めたあと、現在は金融業界を離れて個人でトレードをしているK氏。FXを中心にトレードをしているというK氏は、プロのトレーダーと一般の人の違いについて「情報量はそれほど変わらない。違うのは情報を読み解く力」という。そんなK氏に証券会社でのトレードの思い出や、政治や経済の動きから市場のトレンドをつかみ、トレードに生かす考え方などを聞いた。

インタビュー・編集:内田 誠也
執筆:山本 裕司

海外で働きたいとシンガポールの金融会社へ

――これまでの経歴を教えてください。
愛知県の出身なのですが、地元の高校を卒業した後、東京の私立大学に入学しました。実は英語が苦手で、第一志望の大学に落ちてしまいまして、入学した大学では英語教育に力を入れている学部を選びました。在学中は1年間、アメリカにも留学しました。

大学を卒業した後も、英語の勉強を続けたかったのと、金融業界に興味があったので、日本の会社には就職せず、海外の金融会社を目指して、シンガポールで就職しました。その会社では1年間、株式と国債の決済業務を行ってました。

その後、日本に戻ってきて、外資系の大手金融会社の日本法人に入社し、そこでは短期金利のトレーダーをしていました。

――もともとトレーダーを目指していたのですか。

いいえ、金融業界に興味があったというだけで、「取り合えずどんな仕事でもいいや」と、シンガポールで就職しました。決済業務というのは、様々な取引について、金額や量が合っているかといったことを確認して決済するという仕事なのですが、一つ一つの取り引きがどういうものなのかまでは分からない。仕事をやっているうちに、それがつまらないというか、取り引きの中身に興味が湧いてきたんです。

証券会社などの金融会社の仕事は、基本的にフロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスの3つに分けられます。フロントは、顧客と直接応対する仕事でトレーダーやセールスの担当者がいる一番の花形です。ミドルというのは、契約書や約定などをチェックするところ、バックが決済業務を行うところなんです。

フロントは取り引きの流れが見られるし、トレーダーになると実際に頭を使って先を予想してポジションを取れる。現場の最先端で世界の流れに触れられるということで面白そうだなって思ったのが一つで、あとは、やはり給料が高いというところですね。それで、やはりフロントオフィスがいいと思って、転職活動を始めました。

――それで、日本に帰って来て、フロントの仕事に就くのですね。

そうです。念願のトレーダーになれて、忙しかったですけど、楽しかったですね。ダイナミックな仕事をしているという感じがして。もちろん、結果が出ないとすぐにクビになってしまう厳しい世界です。1週間、2週間でクビになったという話や、ある部署では、一度に半分のスタッフがクビになったという話も聞きました。そういう意味ではリスクの高い仕事ですが、リスクを取ってもやりがいを求めるという人には合う職場でしょうね。

――トレーダーとして、どのような仕事をしたのですか。
債券貸借中心の短期金利のトレーダーです。債券貸借とは、国債や債券などの貸し借りのことです。例えば、国債を買ったとして、その国債を手元に置いておくだけではもったいないので、国債を必要とする人に貸して、貸したお金を元に、また別の投資をします。国債を貸して、株式を借りるということもあります。

後は、売りからトレードをしたときに、現物が手元にないので、現物をどこかから借りてきて相手に渡すということもあります。これがショートカバーというものです。こうした貸し借りによって、ロングとショートのポジションをマネジメントするのが債券貸借の一番大きな仕事です。また、資金の流動性を確保するという意味でも、重要な役割を担っています。

債券貸借で流動性が落ちてくると、現物の価格にも影響します。また、逆も然りです。ですから、現物の担当者とも連携をしながら、流動性を確保するために早めに債券を借りておくとか、状況に合わせた対応が求められる仕事です。

――仕事では、いくらぐらいの資金を動かすのですか。
市場との取り引きだけでなく、ニューヨークとかロンドンとか、海外にある部署との社内取り引きも含めて、兆単位で取引を行なっておりました。いつも、個人1人でトレードするわけではないのですが、もちろん、1人で動かすこともあります。1人で何兆円もの金額を動かすことも、多くありました。

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米の景気後退局面でも円高への転換は難しい

――個人的でもトレードを行っていますか。
FXをやっています。会社で扱う額に比べれば、小さな額ですけれど。3分足、5分足を見て、1時間くらいで確定させるというときもあれば、4時間足とか日足とかを見て、2日、3日くらい持つこともあるという感じです。だいたい1時間から、長くて3日程度というトレードです。基本的にFXに関しては、仕事で為替取り引きに関わることもありましたし、毎朝のミーティングで為替に関する情報も聞いていたので、ある程度知識があり、入りやすかったです。

手法としては、例えば3分足や5分足で三角保ち合い(もちあい)になったら、上のラインにタッチしたときにはショートを入れて、下のラインにタッチしたらロングというのが基本ですが、それを一方に固定して、大局が下に落ちているときは、もう上からしか入らないみたいな感じでやることが多いですね。

そういうトレードではファンダメンタルズもテクニカルも一応見るんですが、1時間くらいの短いスパンでの取引に関しては、テクニカルしか見ていません。

ファンダメンタルズも特別なものを見ているわけではなく、中央銀行の金融政策とか雇用統計とかですね。特に金融政策は、この1年ぐらい、明らかにマーケットに影響を与えていますから、念入りにチェックしています。

――個人で取り引きを始めるときに、参考にした本とかはありますか。

最初はちょっと読みましたけれど、これまでの知識や経験で、始める準備はできていたという感じでした。

FXは今、円安で進んでいますが、現在の円安の最も大きな原因は日本と海外との金利差です。金利が市場に大きく関与するという意味では、国債のマーケットもFXトレードもに似たようなところがある。だから、国債取引での経験がFXにも応用できると思います。

――金融会社の仕事で得た知識や経験がそのまま生かせるという。
それは生きますね。FXにはテクニカルの知識が必要ですが、ファンダメンタルズに左右される部分が大きいんですよ。局面にもよりますが、短いスパンの取り引きだったらテクニカルに頼る割合が多くなりますが、長いスパンで見ると明らかにファンダメンタルズの影響も大きい。そう考えると、FXトレードと国債取引は同じようなところが多いと思います。

ですから、FOMCの政策発表とか雇用統計の発表前には、マーケットの予想も見ながら、今後の取引の方針を考えたり、ポジションを取ったりします。FX以外でも、レバレッジを掛けずに単純に通貨交換という形でドルを持つことはあります。それはトレードとは別に、貯金としてドルを持っている形で、そういう資産は1カ月から3カ月くらい持つ感じですね。

――今後のドル円の動きはどう見ていますか。(取材日は2022年7月下旬)

とりあえずは150円を意識した動きになると思うのですが、気になるのはこのところ、急激に右肩上がりで上昇していることです。4時間足くらいで見ても分かりにくいかもしれませんが、日足とか週足でみると、全く押し目がなく、一直線で上がっている。この辺で一度、押し目を作りに来るような気もしますよね。

ドル円の週足チャート。出典:tradingview.com

ファンダメンタルズの観点からいえば、日本の経済は全く良くありません。米国と比べてみると、米国では物価とともに労働者の賃金も上がっているのに、日本は賃金が全く上がっていない。経済状況が米国に比べて相当悪いので、そうしたところも円安に反映されていると思います。

それに、円安の最大の要因は金利差なのは、誰しも分かっていることですが、日本の場合、そう簡単に金利を上げられない。現在、日銀はマイナス金利政策をとってますが、簡単に言うと、日銀が政策金利を上げると国債の価格が下がります。基本的に金利が上昇すると、国債の価値は下がるというのがセオリーです。すると、国債を大量に保有している日銀は多額の含み損を抱えることになります。ほかに地方銀行も多額の国債を持っていますから、そこへの影響が大きい。ですから、日銀が近く値上げに踏み切って、金融政策を転換するということは、あまり考えられない。

一方で、米国も今、インフレを抑えるために利上げをやっていますが、利上げの反動で景気が悪くなるのではないかとも言われています。長く好景気が続いてきましたが、そろそろ景気後退の局面に入って、ドル高も一旦収まるのではないかという人もいます。

けれど、ドル円相場は、ドルと円の関係ですから、ドルだけを見ていても仕方がない。アメリカが景気後退したとしても、日本を上回るスピードで景気後退が進んで始めて円高になるわけです。しかし、いくら米国が景気落ち込もうと、現状で日本を下回るようなことはないと思う。人によって、さまざまな見方があると思いますが、個人的には今回の米国の利上げが一段落して、利下げの局面を迎えても、それが原因で円高基調になっていくということは考えにくいと思います。

日米の経済の格差は相対的に変わらないか、日本の方が悪化しやすい状況にあるので、ドル円相場の基調が転換する状況にはない、と私は見ていますが、人によって見解が分かれるところです。この点が、今後ドル円相場を見ていくうえで面白いところ、というか大切なポイントでしょう。

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インタビューの第2回は金融機関トレーダーの視点からの通貨、株、仮想通貨に対する考え方や今後の展望について。それぞれの取引の特徴、注意点などを語っていただきます。