ITビジネス創世期の1990年代に、インターネット広告会社「日広」(現・GMO NIKKO)を設立し、堀江貴文氏や熊谷正寿氏、藤田晋氏らとも交流があったという加藤順彦氏。現在は投資家として、若い起業家やスタートアップを支援する加藤氏に、若い起業家らとの交流や投資についての考え方などについて聞いた。
インタビュー・編集:内田 誠也
執筆:山本 裕司
加藤順彦氏 プロフィール
ITビジネス創世期にインターネット広告会社「日広」(現・GMO NIKKO)を設立、後にGMOへ売却。ザッパラス、DeNAなど多くのIT企業にエンジェル投資家として参加。暗号資産では創業からbitbank、Slash Fintech、Cygnos Crypto Fundに出資。その他、家業承継し理美容シザーの買取と研ぎ&他家MSC金太郎細胞点滴の提供など幅広く活動。Twitter:https://twitter.com/ykatou ブログ:https://katou.jp
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FacebookのDMを通じてSlash佐藤氏と知り合う
――起業家の方とはどのように知り合うのでしょうか。
いろいろですね。Slash Fintechの佐藤さんとは、2020年の大みそかにDMをもらったのがきっかけでした。
当時、日本からシンガポールに入国すると、新型コロナの感染対策で2週間、ホテルで隔離生活を送らなければならなかったんです。それで僕はホテルにいたのですが、どうしても紅白歌合戦が見たくて、Facebookに、紅白が見たいんだけど、などと書き込んでいた。
すると、知らない人から「加藤さん、僕も実は今、隔離中です」とDMが届いた。「君は誰?」と返信したら、「僕は加藤さんをウォッチしている者です」と返ってきて。それが佐藤さんでした。
なんか変わった人だなあと思ったんですが、僕はどうしても紅白が見たくて、見られる方法はないか、などと長い時間チャットをしたんです。結局、紅白は見られなかったんですが、僕のことを長くウォッチしてくれていた人だということはわかりました。
――その後、どのように交流を深めたのでしょうか。
僕はサウナが好きなんですよ。それを知っていた佐藤さんが、シンガポールにいいサウナがあると紹介してくれて。それで後日行ってみたら良かった。
それでお礼のメッセージを送ると、一回会いませんか、一緒にサウナに行きましょうということになって、実際に会ったのが21年の2月頃でした。
DEXから仮想通貨決済の仕組みの着想を得る
――佐藤さんはどんな方でしょうか。
彼はクリエイターで、クリエイティブのセンスが高いですね。例えばSlashのサイトを見てもらえばわかるんですが、アニメーションなど非常に凝っている。こうしたサイトやロゴのデザインなどは、ほとんど彼が監修しています。
▼リリース時に話題となったSlashのプロモーション動画
僕も広告制作を長くやっていたのでデザインの基本や役割は分かっています。自分ではやりませんが、多くのデザイナーを雇っていたし、評価もしていた。そうした目で見ても、自分の表現スタイルをちゃんと持っている、センスがあるなと思いました。
そうして仲良くなって、月に1,2回、サウナで会うようになりました。
21年の夏頃だったんですが、彼がUniswapにはまって、DEXが面白いと言い出したんです。Uniswap、SushiSwapなどDeFiが盛り上がっていた頃です。
彼が注目していたのは、流動性の仕組みのところで。サウナで会うたび、DeFiの良さを語るわけです。
――佐藤さんからそのお話を伺って、加藤さんはどのように感じたのでしょうか。
僕は2014年に暗号資産取引所のビットバンクの創業に参画して、今はもう一人の株主に過ぎませんが、DEXとは真逆のCEXの板取引で日本一を目指してきました。そのためにマーケット戦略なども自分なりに考察していた。
それに対し、彼はDEXが面白いと言い、勉強しながら実際に取引もしているから、知識もどんどん増えていくわけです。
僕のほうはといえば、2018年にビットバンクの取締役をやめたばかりですし、僕自身がCEXがどこまでいけるのかっていうことをすごく考えていた時期でした。かつ、あれこれ噂が立つのもよくないので、暗号資産は勉強はするが取引はしないと決めていました。
ですから、日進月歩で進化する佐藤さんとは差が広がっていく。でも、学んでいる佐藤さんの話をサウナで聞くのは楽しかったですね。
そうしているうちにビジネスの話をしている中で、佐藤さんが決済に関心があると言い出したんですね。
暗号資産で支払えるという支払い側のメリットを活かしつつ、受け手側で生じるボラティリティの問題を解消する
――当時、加藤さんは暗号資産の決済についてはどのように見ていたのでしょうか。
実は僕も以前から、暗号資産の決済には可能性を感じていました。たとえば僕が関わっているLENSMODEはコンタクトの通販会社として世界で3番目の売り上げがあり、毎日多額の決済を行っています。
当時はPayPayもまだ始まったばかりの頃で、今のようにコード決済は普及していなかった。だから、僕も決済のところで大きくて面白いビジネスができるのではないか、と漠然と考えていたんです。
決済ビジネスは絶対に大きくなる。絶対に大きくなるんだけど、日本はいろんな法規制があってできないことが多いということで、その先の発想になかなか進まなかった。でも、佐藤さんは海外にいるということを活かして暗号資産を決済に使えないかと考えました。
今の言葉だとWeb3.0ということなんでしょうが、当時はWeb3.0という言葉はまだ普及していなかった。
暗号資産上の決済をリアル世界とつなぐ、要するに物やサービスをリアル世界で売って、それを暗号資産で決済するという仕組みを考えていたんです。
――暗号資産の決済にはどのような課題があるのでしょうか。
ビットバンクでも、実はビットチェックペイというビットコインによる決済サービスをやっていた時期がありました。2014年から始めたのですが、あまりに需要がなかったので2年ほどでサービスを停止しました。
しかし、このときから僕も暗号資産決済に強い関心がありました。
トレードやレンディング、ゲームなどさまざまな形で暗号資産を使っている人は増えている。それでその暗号資産をリアルのサービスでも使えるとなると需要はあるはずなんです。
でも、モノを売っている側の立場で考えると、暗号資産で代金をいただいても困りますよね。
例えば、今日10,000円相当の暗号資産を代金でもらっても、明日は20,000円相当になるかもしれないし、5,000円相当になるかもしれない。
要するに、今のままだと暗号資産はリアルの世界でのビジネスでの利用には向いていないんです。価格の変動幅が大きすぎて。
ですから、僕らが考えたのは、支払い側はいろんな暗号資産で支払えて、店側はステーブルコインで受け取れるという仕組みです。そうしたら受け手は暗号資産のボラティリティに晒されずに済む。
▼Slashの公式サイト
――支払い側からさまざまな暗号資産で受け取り、受け手にはその暗号資産をステーブルコインに換えて渡すということですね。
そうです。支払う側は何でもいい。例えば、BTCで支払ったとすれば、それをDEXでエクスチェンジして、店側にはドルにペグしたUSDTを渡す。
そういうやり方にすれば、暗号資産で支払えるという支払い側のメリットも活かしつつ、受け手側で生じる暗号資産のボラティリティという問題も解消できる。
今日10,000円分もらったのに、明日は5,000円分の価値になっているかもしれない暗号資産で受け取るより、法定通貨と連動しているステーブルコインで受け取ったほうが、受け手としては安心です。
当然ですよね。僕たちが生きている実社会は法定通貨の利用がマジョリティなので。
これは暗号資産を持っている人の利便性よりむしろ、受け取り手にとっての分かりやすさを追求したサービスだと思っています。
商売をしている人は必ずしも暗号資産に詳しい人ばかりではありませんからね。商店街で普通に飲食店を経営している人が暗号資産に詳しいかというとそんなことはない。
一部、暗号資産で受け取りたいと言っている実店舗もあるようですが、一般的には、ボラティリティが可能な限り小さいステーブルコインが望ましい。
こうしたウォレット向けのサービスを始めようというのが、Slash Fintechの最初の発想です。
SlashはWeb3.0と2.0の架け橋となるWeb2.5のサービス
――Slashのサービスを開始したのはいつ頃からでしょうか。
21年の11月末に会社を設立して、サービスをローンチしたのは22年8月です。僕は取締役(Director)を務めています。
その後にメンバーも増えて、今は10人以上います。ヨーロッパやオーストラリア、中国、韓国の人たちが加わっていい感じで滑り出していて、今は2023年3月リリース予定の「NFTVault」「Slash.Genesis」を準備しています。
編集者注:Slash.fiを運営するSlash Fintech LimitedがシードラウンドにてMZ Web3ファンド、複数の個人投資家を引受先とする合計1.5M USDの資金調達を実施
――会社を設立するとき、加藤さんはどのような役割を担うことが多いのでしょうか。
事業資金や人材を集めて、会社を大きくするということです。今までずっとそうですね。資金調達とか、企業価値を高めるとか、経営戦略的な部分を担っています。
あとは、僕は店側の事情が分かるので、準備段階では、実需側の発想でサービスの内容なども意見を出していました。
――これからWeb3.0の新たなビジネスが増えていくんでしょうか。
Slash Fintechの事業もWeb3.0だと言いますけど、僕からすれば、Web2.5の事業だと思っています。つまり2.0と3.0の間の事業。
3.0の世界で流通している暗号資産を、2.0の世界で通用する通貨に交換して加盟店に渡す。2.0と3.0の架け橋のようなサービスだと思っています。
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エンジェル投資で、ITや暗号資産に関連した新事業やスタートアップを支援してきた加藤順彦氏。次回は、加藤氏と暗号資産の関わりについてお聞きします。
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