トレードで利益を上げるには、地道な勉強や幅広い情報収集が欠かせないという個人投資家の平田氏。初心者向けのHow to本や「だれでも勝てる」をうたった情報に飛びついても、大きな利益を上げることはできない。チャートや指標を見るだけでなく、世の中の動きも知るべきだという平田氏に、情報収集の方法やトレードをはじめるにあたっての心構えなどを聞いた。
平田氏プロフィール インベストデイズ合同会社 代表 国内理系大学院(物理系)卒業後、国内大手金融機関(IT戦略部門、投資銀行部門)に勤め、その後、独立した個人投資家。勤めの間で個人でトレードを勉強し、独立後、2020年の暗号通貨のバブル相場で数千万円のリターンを得る。 大手証券会社行の経験を活かし、経済歴史の書物や調査分析レポートなどを中心に情報収集し、世界各国の中央銀行、中央政府、大企業の戦略を読み解くのが得意。現在は暗号資産、株式、コモディティ、為替、国債など広くトレード。 中長期のロングポジションと短期の売買を行い、常にどのような相場でもリスクを限定し利益を出すようなトレードを得意とする。 記事はこちら。https://burry.co.jp/articles/tag/hirata/
インタビュー・編集:内田 誠也 執筆:山本 裕司
トレードに関する本は読まずにレポートや論文を読む
――トレード関連の本は読まれますか。面白かった本などがあれば教えていただきたいのですが。
基本的に本は読まないですね。読んだこともありますけど、印象に残ったものはありません。トレード関連で読むといえば、金融機関とか研究所、有名な投資家のレポートなどですね。
例えば、銀行は調査機関を持っていて、定期的にレポートを配信していますし、国の金融当局、日本なら日銀ですけど、そうしたところもレポートや調査論文を公表しています。投資家であればレイ・ダリオのレポートを読んでいます。
ヘッジファンドなどがプレスリリースという形で出しているものもあります。
レポートは有料のものもありますが、無料のものであれば、たいていはインターネットで調べれば出てきます。英語で書かれていても、Google翻訳をかければ、だいたいの意味は分かります。
――そうしたレポートやプレスリリースはどのように集めているんですか。
インターネットのブラウザで調査機関などのホームページを「お気に入り」にしといて、定期的にのぞいてみるという程度ですね。そして、レポートやプレスリリースをダウンロードして、ヘッドラインだけ読んで、面白そうなものは、後からじっくり読むという感じですね。
――本を読まない理由ってあるんですか。
プレスリリースも若干そういうところがあるんですが、本は、その著者が名前を売りたいから出しているものがほとんどでしょう。世に出る手段の一つというか。そして、本を出さないと経営が成り立たない出版社が、次々と新しい本を世に送り出している。
著者や出版社で働く人にとって、本を出版することは重要なのかもしれませんが、実際に相場と向き合って利益を出すために知恵を絞っているトレーダーにとって利益に結びつくものではない。私はそう思います。
トレードに関する本は「こういうときには損切りしましょう」などと、結局はノウハウに落とし込んでいる本が多い。そうした本を読むことを否定はしませんが、私にとっては漫画本とあまり変わらないですね。
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論理的に結論を導きだし、複雑な状況を整理するために本を読む
――トレード関連以外の本は読むんですか。
トレードに関する本は一切読んでいませんが、歴史的な視点を身に付けるために、社会批評とか、文明論のような本は読みます。有名な本ではアルビン・トフラーの「第三の波」とか。これは未来学者が1980年に情報化社会の到来を予測した本です。
アメリカの政治学者のサミュエル・P・ハンティントンの「文明の衝突」も読みました。国際的な紛争を、宗教や文化の対立という観点から論じた本です。
――そういう本はトレードに生かしたりできるんですか
直接トレードに関係する、というよりも思考のトレーニングですね。論理的に物事を考えるための。
トレードで負けている人のほとんどは、感情的に行動しているんですよ。自分の感情を抑えて論理的に物事を考えられない。
だから、しっかり調査分析するための思考の枠組みを手に入れるために、論理的に物事を論じた本を読んでいます。事実を積み上げて、そこから論理的に結論を導き出すのを丁寧に追っていくことで、複雑な状況を整理する力がついていきます。
私が大学院で物理を学んだこともあって、そうした思考が身についているのかもしれませんが、難しい本を読んで、ロジックを組みたてる習慣を身に付けるのは、いいことだと思います。分かりやすい、薄い本ばかり読んでいても仕方がありませんよ。思考力が鍛えられないので。
チャートはいつも同じ値動きをする
――最近の仮想通貨のマーケットについてどう見ていますか。
仮想通貨に関しては2020年から急騰してきた反動が、今、来ているのだと思っています。誰に聞いても同じような答えになると思いますが、アルトコインを中心に、資金が引き上げられる状況が続いている。今後、どうなるのかと聞かれても、「分からない」と言うしかありませんね。
もっと下がっていくかもしれませんが、現在は下がり過ぎた部分はあるので、半年ぐらいのうちに一時的な戻し、特に抵抗ラインまでは上がってくる局面はある。それが一番有力なシナリオだと思っています。
――そう思われる根拠を教えてください。
チャートの値動きは、いつも同じだからです。過去のチャートに照らし合わせてみれば、たいていは、そんな動きをしています。
下がり過ぎたときは、必ず一度は抵抗ラインを目指して戻していく局面がある。週足や月足見れば、イメージが理解できると思います。今回は結構下がってたので、戻りの局面でエントリーできれば、短期的に結構利益が出るのかな、と思っています。
ただ、本腰を入れて長期で持つ状況ではないですね。
――将来的な仮想通貨の見通しについてはどうですか。
最近、銀行でシステムトラブルがよく起こっています。日本だけでなく、海外でも起きていて、バッシングを受けることもある。金融機関への信頼が揺らいでいることを考えると、将来的には、仮想通貨に対する期待もあって有望なんだろうなと思っています。
こうしたトラブルは先進国にとっては一時的で、あまり重要なことではないかもしれません。でも、銀行が少なく、金融システムの脆弱な新興国にとっては重要な問題です。ですから、5年、10年という長期的なスパンで見れば、マーケットとしては今後も拡大していくのだと思います。
感情に流されず自らを律する姿勢を忘れない
――今、世界的なインフレが懸念されていますが、経済の見通しなどを気にしますか。
私はトレーダーなので、インフレがどうなるかとか、経済的な予想にはあまり関心がありません。今の状況で、利益を得られそうだと判断すれば、そこに資金を突っ込んで、上がったら売るという取引に徹していますから。
特に、今後の予想など他人の分析などは意識的に見ないようにしています。他人の予想を知ったところで、トレードには関係なくて、利益につながらないんですよ。
アナリストなどと言われる人たちにも役割があって、事業見通しを立てるときなどに経済の先行きなどの情報を必要とする人や、そうした情報に関わることで利益を得ている人だとかがいるので、それはそれで立派なビジネスとして成り立っていて、決して否定するわけではありません。
だけど、日々の相場の上がり下がりの中で、利益を取っている人間にとっては、直接利益にはつながらない。
世の中がインフレだという情報は、知っていてマイナスにはならないとは思いますが、インフレが続きそうだからどうだ、と不確実な予想を気にしすぎると、判断を誤り失敗してしまいます。そこは、自分とは関係のない他人のビジネスだと思っています。
――これからトレードを始めようと思っている人に、メッセージをお願いします。
今、コロナ禍対策としての世界的な金融緩和が一旦終わろうとしていて、あふれかえっていた資金もマーケットが全て吸収し終わりました。ですから、マーケットは新しいサイクルを生み出すタイミングにあります。そう考えると、今は投資を始めやすいタイミングだと思います。
仮想通貨はもちろん、日本株も米国株も。その中でも、仮想通貨は特に「買い」を入れやすい状況かもしれません。
だからと言って、すぐに利益が出るとは限りません。新しく始める方は、小さく小さく始めて5年後に大きく利益を出すことを目標に取引するといいのではないでしょうか。
後は、資金管理ですよね。
今日、自分がいくら使って、いくら口座に残ってるのかとか、1カ月にいくらぐらいのお金を自由に使えて、それは1日に換算するといくらだとか。そうしたことを把握しておけば、1日でいくらまで損失を出しても大丈夫だと考えられる。
日々、取引できる額や損失できる額の上限を決めて、コントロールしていけば、気が付いたら損失が膨らんでいたということは避けられます。
トレードでは、そういう自己を律する訓練が必要です。自分を管理する力は、トレードで成功するために欠かせない最も重要なものだと思います。
▼平田氏執筆のトレードの考え方に関する記事
他には、未来の損失を作らないことも重要です。借金はすぐに返すとか、将来、必要なお金はしっかり見積もっておくということです。例えば、小さな子供がいるのであれば、将来の教育費を考えて、短期で大儲けしてやろうとは考えず、5年10年かけて増やしていくことをイメージして小さな取引を地道に続けていくとか。
面白くないかもしれませんが、テレビで見るような一発当てて大儲けなんて話は、滅多にありません。テレビや雑誌では、そんな話を面白おかしく取り上げていますけど、現実はそんなに甘くない。
――特に注意したほうがいいポイントがあれば。
他人の話は鵜呑みにしないということですね。世の中には、さまざまなトレーダーや投資家がいて、さまざまなやり方で資金を運用している。その人たちの経験談も参考になりますが、それがそのまま自分に当てはまるかどうかは分かりません。
たとえば、金融機関のトレーダーに取引のコツを聞いたところで、何千億と言う会社のお金を運用している人たちと、自分のお金を運用している人では、取引に対する考え方も手法も全く違うわけです。でも、インターネットなどでは、そこがごちゃ混ぜになって垂れ流されています。
個人のトレーダー同士を比べても条件は全然違う。条件が違うので同じことをしても、人によっては利益が出るけど、自分は損してしまうということは当然あります。ですから、自分に合ったトレードの仕方を見つけることを強く勧めます。
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前回までのインタビューはこちら。
平田氏のトレードの考えに関する記事はこちら。