「何事も曖昧というのがタイ社会であり、良くも悪くもそれがタイの特徴」ビットコイン投資家・jin_777氏 1/2

日本からタイに移住したビットコイン(暗号資産)投資家・jin_777氏に、タイへの移住のきっかけやタイの暗号資産事情について伺いました。

インタビュー・編集:内田 誠也
執筆:山本 裕司

jin_777氏 プロフィール

大学在学中に暗号資産関連会社の立ち上げを経験。主に金融機関を中心に法人営業や採用を中心に業務を行い、その後米国公認会計士試験に全科目合格し、その後ライセンス(Inactive)を取得。現在は、タイランドエリートビザを取得し、タイに移住。主にDeFi分野においてHashHub Researchで寄稿も多数実施。

前提

当該記事は専門家による具体的に個別の制度を詳細に解説する記事ではございません。各読者が個別にリサーチ・専門家への確認をとることを推奨します。

穏やかな雰囲気が気に入りタイに移住

――タイに移住した時期やきっかけを教えてください

移住したのは2022年4月です。2019年に仕事でタイのバンコクに出張する機会があって、タイが気に入りました。仕事の関係でタイで働く予定だったのですが、新型コロナ感染症による渡航制限などもあって、行けなくなってしまった。

それで、1年前にようやくタイに渡ることができたという経緯です。

▼パタヤの街並み。jin_777氏、提供。

――当時、タイのどのようなところが気に入ったのですか。

雰囲気が気に入りましたね。タイの人たちは、人が良いというか、優しくてニコニコしていて、のんびりしている。

食べるものも種類が豊富でリーズナブル。家賃もお手頃です。ものによりますが、30平米のワンルームなら5、6万円で住めます。タイに住めば生活のQOLが上がりそうだと感じました。

東南アジアへの移住というとシンガポールが税制面で人気です。僕もシンガポールに行ったことはありますが、税制面はともかく、個人的にはタイの方がより魅力を感じました。

――海外生活自体に抵抗はなかったのでしょうか。

子供の頃にもよく海外旅行をしていたので、特に海外生活で戸惑うことはありません。サッカーが好きで、中学生の頃にはブラジルに行ったこともありますし、海外の経験は一般的な日本人よりは元々豊富だったというのもあると思います。

実際にタイで暮らし始めても、それほど困った経験はありません。

移住前からタイに移住した日本人のYouTube動画を見ていて、事前におおよそのイメージはつかんでいたので、こちらに来てもイメージとのギャップはありませんでした。タイと日本のハーフの男性が運営する「TJチャンネル」などよく見ていました。

移住しようと思ったら、動画などで雰囲気をつかんでおくことは大事ですね。

▼jin_777氏がタイ移住前に視聴していた「TJチャンネル」

暗号資産のベンチャー立ち上げを経てタイへ移住

――今は、日本に住民票も置いていないのですか。

全て引き払って、住民票も置いていません。僕の場合は、特に日本に住民票を残しておく理由がなかったので。一概には言えませんが、若くて日本に戻る気がなければ、住民票は必要ないのかもしれません。

あまりいないと思いますが、高齢で国民健康保険が必要だという人や将来の年金のために保険料を支払い続けたいという人は残すのかもしれません。

――日本に住んでいたときはどのような仕事をしていたのですか。

大学在学中に暗号資産関連のベンチャーを知人と立ち上げて、法人営業や採用を中心に事業開発を担当していました。その後、退社して、アメリカの公認会計士の資格を取得しました。

――暗号資産に関心を持ったのはいつ頃ですか。

大学生時代の2015年に経済学者の野口悠紀雄さんの講演を聞く機会があったんです、暗号資産に関する著書を出した後の講演でした。それで興味を持ったのが最初です。

当時は、面白いものがあるな、程度だったのですが、少しずつ勉強していって、2016年ごろから本格的に関わるようになりました。その頃に、暗号資産のミートアップにも参加して、ヴィタリック・ブテリンや宍戸健さん、大石哲之さんらも参加されていて話を聞けました。

今、名前が知られるようになった暗号資産のトレーダーの何人かとも、このミートアップで知り合いました。

特典付きの長期滞在ビザ「タイランドエリート」

――実際に移住をしようとしたとき、どのような手続きが必要なのですか。

タイ政府は海外からの観光に力を入れていることもあって、長期滞在特典付きの入国ビザプログラムがあるんです。「タイランドエリート」と言って、入会金を払えば5年間の長期滞在が可能になります。

富裕層や投資家向けのビザで、私もタイランドエリートを申し込んで1カ月半でビザを取得できました。

――タイランドエリートについて詳しく教えていただけますか。

タイ政府観光庁直営の企業が運営している会員制の長期滞在特典付きの入国ビザです。日本の旅行会社も代理店となっているので、日本でも購入手続きができます。

滞在期間は5年、10年、20年があって、特典サービスの内容などによって入会金や年会費が違います。特典としては、入国時に空港で優先ブースを利用できるほか、エスコートサービスやリムジンでの送迎もあります。

また、滞在中はゴルフ場やスパでの会員特典、コンシェルジュによる各種サポートがあり、タイ国内での銀行口座の開設もできます。

入会金は一番安い5年プログラムで60万バーツ。1バーツはだいたい4円なので、日本円で240万円。年会費は必要ありません。最も高いのは20年プランの転売も可能なプログラムで、入会金200万バーツ、年会費2万バーツです。

家族向けのプログラムもあるようです。

――タイランドエリートビザがあると働くこともできるのですか。

エリートビザは観光ビザの一種ですから、例えば現地で就業するのであれば、労働ビザが必要です。

ただ、労働ビザがあったとしても、会社が外国人を雇うには外国人労働者1人につきタイ人4人を雇用しなければならないなど、いろいろと条件があるんです。4人雇用に関しては実態としては名義貸しなどが存在しますけれども。

なので、たとえ働き口が見つかっても、外国人労働者の立場は弱いと考えられます。特にタイの周辺国からの出稼ぎ労働者にはそのようなケースもあると聞きました。中には違法状態で雇っているケースがあるかもしれませんし。

その一方で、タイはノマドワーカーが多いんですね。日本人に限らず、タイに住みながらリモートワークで母国の企業から仕事を請け負っている人がかなりいます。

ただ、タイ政府もノマドワーカーが増えていることは意識しているようで、2022年にLTRビザやスマートビザという実質的にリモートワークによる就労を認めるビザを設けました。これは年間8万ドル以上の収入がある高収入のリモートワーカーなどが対象で、条件を満たせば個人所得税は最高17%に抑えられます。

参考:9月開始の長期滞在者(LTR)ビザの概要、投資委員会が説明(タイ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース

昔、世界最大手の暗号資産取引所で働いて、タイに移住した知り合いがいるのですが、彼の仕事の契約先はシンガポールなんですね。そうやってタイで暮らしながら、別の国の企業と契約して働いている人も増えているようです。

特にWeWorkあたりのコワーキングスペースにはそのような働き方をしている人が多いそうです。私の知人の当時の同僚もそのような働き方をしているそうです。

タイの規制は曖昧

――タイで就労したいと考えたときに、どこに相談すればいいのですか。

雇用、税金面もそうなのですが、タイは運用に曖昧なところが多いので注意が必要です。

暗号資産の税金についても、不透明な点は多々あります。特に税制面で有利になることを期待している人は、専門家に確認したほうがいいでしょう。

日本とタイに事務所を置いている会計事務所などもありますので。

ただ、会計事務所によっては法律を保守的な視点で解釈するので、実際の当局の運用に比べて厳しい見解を示す場合があります。それは専門家として当然のことなのですが、「聞いていた話と違う」と感じる人もいるかもしれません。

――法律的な解釈と現実の運用はかなり違うということですか。

新興国ではよくあることですが、タイも状況によっては賄賂を要求される場面もあるような背景から、法律で決められていても担当者の運用次第ということがよくあります。

知り合いの経営者は「タイはルールのないことがルールだ」とも言っていました。それくらい、曖昧な事が多い。

きっちりルールや物事を決めたがる日本人は違和感を感じることが多いと思います。何事も曖昧というのがタイ社会であり、良くも悪くもそれがタイの特徴です。

編集者注:タイは日本よりも法的にグレーというか、曖昧で不確かな領域が多いように感じます。法律の条文数からしても、随分と日本よりも少ないのは実感としてあり、その定め方も抽象的であることが多い。そのため、相対的に「日本よりも分かりにくい」というのは確かにあるかもしれません。

出典:「世界中の挑戦者を支えるインフラになる」GVA法律事務所タイオフィス代表 藤江大輔氏

ーータイの税務についてはどのように調べるのがよいでしょうか。

自分でネットで調べるのもいいと思いますが、どこまでいっても限界があるので、専門家に確認するのをおすすめします。ASSET & ACCOUNTING ADVISORSという会計事務所は、代表の相川先生がシンガポールにも拠点を置きながらタイでも会計事務所を運営しております。

また、タイランドエリートビザの正規販売代理店でもあります。ですので、この記事の読者様が相談する入り口としては適切な会計事務所ではないかと思います。

参考:タイの会社設立・記帳代行・会計税務・連結決算対応 | ASSET & ACCOUNTING ADVISORS CO., LTD.

積極的に富裕層を呼び込みたいタイ政府

――タイでも暗号資産に関心を持っている人は多いのでしょうか。

持っている人は多いようですね。16歳から64歳の国民で2割が暗号資産を持っているという調査結果もあります。

画像引用元:Thailand a leader in crypto ownership

タイの国民性としてギャンブルが好きな人が多いようで、暗号資産もそんな感覚で持っている人が多い印象です。宝くじを買うような感じで、あまり知識もないのに買っているような気がします。

――タイでは、どのような取引所が利用されているのですか。

タイにはBitKubという取引所があって、現地の人たちはこの取引所を良く使っているようです。

日本人向けには、GMOがZ.com EXという取引所をタイでライセンスを取得して開設しています。日本の人はこちらのほうが安心して使えるかもしれませんね。話を聞く限りでは、最近より力を入れて運営を行っていくとのことです。何か要望などあれば私からお伝えすることも可能です。

Z.com EXのウェブサイト

最近、日本ではBinance Japanの発表があり、日本でもBinanceグローバルが利用できなくなる件が話題になっていましたが、タイではBinanceグローバルを使えるのでそれもタイ移住のメリットのひとつだと思います。

私もFTXグローバルの利用がタイに移住した理由の一つでした。

――タイでは日本のような規制はないのですか。

FTX事件もあり、国民の財産を守らなければならないということで、タイ政府も規制強化の方向のようです。

ただ、一方でタイは観光立国で、世界中から富裕層に来てもらいたいという思惑もある。LTRビザやスマートビザを作ったのも、そうした政策の一環で、老後をタイで過ごしたい富裕層や高い技術を持って高収入を得ているフリーランスを呼び込みたいためでしょう。

ですから、今後も国民の財産を守りながら、大量のクリプトを所有している富裕層が投資しやすい環境を整えていくという、双方のバランスを取りながら政策を展開していくのではと予想しています。

――タイでも暗号資産のコミュニティなどはあるのですか。

ビットコインミートアップなどたまに実施されているようで、参加することはあります。ゆくゆくはDeFiに関心のある20代から40代くらいが集まるようなコミュニティを見つけたいですね。

参考:Satoshi Square Bangkok

――今後、タイではどんなふうに生活したいと考えていますか。

DeFiを中心にクリプトをやりながら、米国公認会計士の資格を生かせる仕事ができたらいいですね。

今のところ、具体的な話はありませんが、タイ人をよく理解するためにも現地で働いてみたいという気持ちは最初から持っています。

▼バンコクの街並み。jin_777氏、提供。

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jin_777氏のインタビュー、後編では「タイ語を話せない移住者もさほど不便を感じない」「住みやすい国だが、医療や教育面は事前に情報収集を」などについて伺います。

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