Cosmosの開発に携わる藤田氏に、注目しているプロジェクトやCosmosの分散について伺いました。
FUJITA TAKUYA氏 プロフィール
Cosmos Japan Admin。学生時代にBitcoinに触れ、Dapps開発などを始める。大学卒業後、2019年にエンジニアとしてHashHubにジョイン。個人の活動として、Cosmos Japanの運営を行い、HackAtomやEth Global Tokyoなどのハッカソンでもいくつか受賞。HashHub退職後の現在は、Cosmos関連のアプリケーション開発に携わっている。
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今後一年間で、Cosmosがさまざまなプロトコルを内包していく
ーーCosmosはこれから一、二年でどのように進展していくと考えていますか。
チェーン間の連携がスマートコントラクトやアプリケーションレベルで発展する一方で、インターチェーンセキュリティを利用してCosmos Hubからセキュリティを借り、必要なエコシステムが次々と形成されていくことが考えられます。
また、エンタープライズ領域に目を向けると、現在ではチェーンを立ち上げる際にHyperledgerやCordaが多く活用されていますが、それとは別に、日本の企業であるDatachainがIBCを使ったプロトコルを開発しています。
Cosmos SDKだけではなく、エンタープライズのチェーン間のインターオペラビリティを実現するためのもので、LCPというプロトコルが具体的な実例として挙げられます。
参考:Datachain、ハッキングに強いクロスチェーンブリッジ構築のミドルウェア「LCP」発表
これは非常に興味深い動きで、日本の各銀行がセキュリティトークンの市場を醸成したいと考えているようです。
これまでの実証実験の段階では、各銀行が独自の技術スタッフを用いてセキュリティトークンの市場を形成していますが、各市場間のインターオペラビリティはまだ実現されていません。
例えば、あるチェーンでセキュリティトークンを購入したいとなったときに、そのチェーン内で支払用のトークンを発行しなければならない、という非効率な状況が生まれています。
そこでDatachainは、各事業者が出しているセキュリティトークン市場を一つのステーブルコインで統合し、そのステーブルコインで支払いができるようにする、といったことを提案しています。
これは、CosmosのIBCを活用して実現されているものです。
したがって、次の一、二年でIBCというチェーンをつなぐエコシステムが拡大していくことが予想されます。
結果的に、Cosmosがさまざまなプロトコルを内包していくというのは、おそらく今後一年ほどで実現するでしょう。
また、IBCはPolkadotの構造やPolkadotのサブストレート下のチェーンにも活用されています。
また、アバランチ内でもIBCを適用するチェーンも出てきています。
CosmWasmをアバランチに載せる、あるいはPolkadot上でCosmWasmを実装するといった動きも見られます。
このように、IBCという低層のプロトコルからアプリケーション層までの連携が、各チェーンで進められていくと思われます。
最終的には、ユーザー視点では特に意識することなく、人々がIBCを採用するようになる
ーーCosmosのプロジェクトのベストシナリオはどのようなものでしょうか。最終的に暗号資産全体にどのような影響を与えると予想していますか。
パブリックチェーンもプライベートチェーンも、ほぼ無意識のうちにIBCというプロトコルで接続されるでしょう。
その境界は依然として存在しますが、それは運用主体にとっての問題であり、ユーザー視点では特に意識することなく、人々がIBCを採用するようになると考えています。
最も競合する可能性があるのは、イーサリアムのL2がうまくインターオペラビリティを実現した場合です。
競合というよりは、同じような形になっていくだけかもしれません。
イーサリアムのセキュリティを利用してCosmos SDKでチームを立ち上げるということもあり得ます。
そうした統合が進むと、Cosmos Hubがセキュリティを提供するのではなく、イーサリアムからセキュリティを受けて新たなチェーンを立ち上げることも可能になります。
エンタープライズの企業がパブリックブロックチェーンのセキュリティを借りてチェーンを立ち上げるような事例も増えるでしょう。
それが当たり前になり、さらにレイヤー2や強固なチェーンセキュリティを持つチェーン同士がうまく相互作用し、チェーンの立ち上げも容易になります。
これらは相場次第ですが、五年ほどのスパンで見ています。
ポリゴンやアバランチはマスやエンタープライズとうまく連携し、各IPとの連携を積極的に進めている
ーーCosmosに関連しないプロジェクトで興味を持っているプロジェクトはありますか。
ポリゴンやアバランチなどがEVMやイーサリアムのSolidityを使用できるチェーンとして、優れたビジネス展開を行っていると考えています。
彼らが企業やエンタープライズ向けにフレームワークを作成し営業を行っている様子は、技術的な面白さというよりは、その戦略が秀逸だと感じています。
彼らはマスやエンタープライズとうまく連携し、各IPと連携してNFTを発行するなど積極的に進めています。
これはCosmosには無いものです。
Cosmosはこれまで意図的に、あるいは苦手であるゆえに、マーケティングを行ってこなかった節があります。
おそらく、中央集権型の体制を嫌うゆえにそのような方向に進まなかったのだと思いますが、マスアダプションするためには重要な取り組みであると考えています。
Cosmosはどの程度分散しているか
ーーCosmosはどの程度分散していますか。あるいはどのように分散していないですか。
長くなりますが、当初の成り立ちから含めて回答いたします。
まず最初にAll in Bits Inc社(その後、Tendermintに社名変更)が開発を開始し、Cosmos SDKを開発しました。
その後、Cosmos SDKをメインネットで立ち上げるチェーンとしてCosmos Hubの開発を進めました。
しかしこの過程で、All in Bits Inc社の初代CEOであるJae Kwon氏が全く関連のないプロジェクトを始め、エンジニアとのコミュニケーションがうまくいかなくなりました。
結局、All in Bits Inc社はほぼ機能しなくなり、2020年頃から開発指導者がいない状況が続きました。
その後、ジェイク氏とともにCosmos Hubを立ち上げたCo-Founderが新たに技術会社インフォーマルシステムを設立し、そこで再びCosmos Hubの開発を指導することになりました。
そういった経緯から、一つの会社がCosmosの技術に強く影響を与えているわけではありません。
Cosmosのスマートコントラクトの開発は全く別の会社が担当していますし、各チェーンを繋げるリレイヤーも別の組織が開発しています。
したがって、開発をリードする場所は、結果的に分散されていると言えます。
さらに、これらはすべてオープンソースで公開されているため、各事業者が自身のチェーンを作り、切磋琢磨しつつ技術更新を進めており、お互いにフィードバックを与えています。
これにより、Cosmos SDKは更新され続けていて、その意味では技術的にも分散化が進んでいます。
評価軸の置き方は難しいですが、個人的にはこれは良い状況だと感じています。
ーー事業者がCosmos関連の各ツールや機能の開発に参加するのはなぜでしょうか。
事業者に対してはグラントが出されているためです。
エコシステムを主導している人々は技術を持っていないかもしれませんが、ATOMトークンを保有しており、一部をプールすることでCosmos Hubの手数料を得ています。
ガバナンスプールのようなものが存在しATOMを保有している人々が開発を自ら行うのではなく、開発のルートを作ってくれるところに対して、グラントを出したり、継続的な開発費用を提供しています。
これによりエコシステムが発展しており、インターチェーンファウンデーションが主導しています。
例えば、IBCを使ったプロトコルを開発しているDatachainも、インターチェーンファウンデーションからのグラントを受けIBCを適用し、ステーブルコインでセキュリティトークンを購入する仕様を作成するなどの活動を行っています。
dYdXの移行が成功すれば一つの転換点になり得る
ーー一dYdXがイーサリアムからCosmosに移った動きが注目されています。藤田さんはどのように見ていますか。
おっしゃるとおり、イーサリアムのエコシステム内で、DAppsのチェーンやアプリケーションにおいて、自分たちのチェーンとしてCosmos SDKを採用するという動きがあります。
これについては、AragonがCosmos SDKに移行したりと、過去にも似たような動きがありました。
しかし、dYdXのような大きなプロジェクトが独自に移行するというのは初めてです。
dYdXの移行が成功を収め、Cosmosのエコシステムだけでなく他のチェーンとも広く発展できれば、Cosmos SDKを活用し独自チェーンで展開する流れが生まれるかもしれません。
一つの転換点になる可能性もあるでしょう。
ーー最後に、読者にメッセージをお願いします。
IBCを採用するプロジェクトがこれからどんどん増えていくと予想しており、私もそれを期待しています。
皆さんがこうして興味を持っていただき、プロジェクトに触れてみて、そのフィードバックを各プロジェクトに与えていくことは非常に重要だと考えています。
もしCosmosに少しでも興味があれば、応援したいプロジェクトや気になるプロジェクトを見つけて、実際に触れてみていただければうれしいです。
今後は、AMAやイベントの開催も積極的に行っていく予定です。
ぜひCosmos JapanのTwitterアカウントをフォローいただけると嬉しいです。
Cosmos Japan Twitter:https://twitter.com/CosmosNetworkJP
ーー藤田さん個人はいかがでしょうか。
エンジニアとしてCosmWasmのスマートコントラクトやチェーン間のスマートコントラクトなど、アプリケーション開発を続けていきたいと思っています。
CosmWasmのハッカソンに参加しながら、改めて技術を磨き、他のプロジェクトの支援や自分のプロジェクトの立ち上げも考えています。
Cosmos Japanについては今後も継続的に関わっていきますが、私がいなくても活動を持続できる体制を整備し、適切な予算を確保することが必要だと考えています。
その点についてはインターチェーンファンデーションとも協議を進めています。
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