四半期ごとに機関投資家から報告される『Form 13F』とは
『9割の個人投資家が負ける』ごく一般的にいわれていることです。これは「個人投資家が安値で手放している株を、機関投資家がしめしめと買う」もしくは「機関投資家が高値で売り抜ける株を、強欲にまみれた個人投資家が買う」というように、機関と個人とで売買タイミングのモメンタムがずれていることが大きな要因の一つです。また、資金力が大きい機関投資家による売買は、株価そのものを動かすほど市場にインパクトを与えることもあります。我々のような個人投資家がマーケットで生き残るためには、機関投資家の動向を知ることが一つの手がかりとなります。
近年、個人投資家の間でも知られるようになってきた『FORM 13F』というものをご存知でしょうか。米国では運用資産額が1億ドルを超える機関投資家は、米国証券取引委員会(通称:SEC)の規制により四半期が終わるごと45日以内に、保有するロングポジションとオプションを開示しなければなりません。これをSECへ報告するために提出する書類が『Form 13F』というわけです。
『Form 13F』の目的は市場の透明性を担保し信頼性を向上させることにありますので、SECの公式HPにて誰でも、機関投資家達が報告したデータを閲覧可能となっています。
参考:Form13Fとは?大口投資家の投資情報が手に入る公開資料の利用法
(参照)U.S SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION / 米国証券取引委員会 https://sec.report/Form/13F-HR
本記事では、実際に『FORM 13F』で開示された2022年第2四半期(4-6月分)のデータから、代表的な米国著名投資家の株式ポートフォリオがどのように変化したか解説していきます。
※解説には、Todd Schneider氏が開発した便利な無料分析ツールを使用させて頂きます。
最新のForm 13F解説記事
当該記事は2022年8月時点でのForm 13Fの解説記事です。最新の2024年8~9月公開のForm 13F解説記事は下記をご覧ください。
- マイケル・バーリ氏、アリババなど低迷する中国株の逆張り投資を強化【Form 13F 2024年第2四半期】
- ドラッケンミラー氏、エヌビディア株とマイクロソフト株を大量売り・大きな利益は4〜5年後かもしれない【Form 13F 2024年第2四半期】
S&P500指数は約-16%、米国10年債利回りは一時3.4%を超える
4月頭から6月末にかけては、S&P500指数は約-16%という下落相場でした。米国10年債利回りは、4月上旬の2.3%台から6月には一時3.4%を超えるなど、インフレ率の急上昇からの厳しい金融引き締め懸念などにより、株式市場は動揺し弱気相場入りした厳しい時期でした。厳しく弱気な市場環境で、あの大物著名投資家はポートフォリオをどのように変化させたのでしょうか。
【S&P500指数チャート】
【米国10年債利回り】
(出典)tradingview.com
ウォーレン・バフェット氏/2022Q2はエネルギー株などを買い増し、ベライゾンとロイヤルティ・ファーマは全売却
まずは最も有名な投資の神様、バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイがQ2で売買した、主な各5銘柄を紹介します。
同社ポートフォリオの約4割を占めるアップルや、ゲームソフトウェア開発のアクティビジョン・ブリザード、エネルギー銘柄のシェブロンとオキシデンタル・ペトロリアムの持株を増加させた他、消費者向けに自動車ローンを扱うアライ・ファイナンシャルの持株数は倍増させています。
一方で、医薬品への投資事業を行うロイヤルティ・ファーマと、米通信最大手ベライゾンの持株を全て売却した他、不動産投資信託のストア・キャピタルの持株は半減、小売大手のクローガー、自動車大手のゼネラル・モーターズの持株も減少させました。
バフェット氏が想定している未来を考察してみる
紹介した直近の売買動向を踏まえ、バフェット氏がどの様な未来を想定しているかを考察していきたいと思います。
まず第一にエネルギー銘柄を買い増していることからも、インフレ率・長期金利の先行きが不透明な環境を引き続き意識していることは伺えます。自動車ローンを主に扱うアライ・ファイナンシャルを大幅に買い増していることからも、やはり今後も長期金利は上昇を続け、さらにEVへの買い替え需要増で業績を底上げすると想定しているのかもしれません。(GMはEV市場では勝てないとも?)
ただし、インフレ率が高止まりして金利が上昇を続ける未来であっても、アップルについては引き続き長期的な視点でポートフォリオのメインに据えることは不変なのでしょう。
さらに、昨今インフレ率が高止まりするなか、米政府も物価抑制に向けて動いており”インフレ抑制法案”が成立しました。世界的にも高価といわれる医薬品価格を下げる圧力になることから、ロイヤルティ・ファーマへの投資をストップしたのかもしれません。
『Form 13F』からは、機関投資家がどの銘柄を買って、どの銘柄を売ったのかを事後に知ることはできますが、単にそれに追従して同じように銘柄を取引するのは有意義ではありません。機関投資家がポートフォリオをどの様に変化させたかを知り、昨今の政治経済情勢とも擦り合わせながら、どの様な未来を想像しているのかを考察することに意義があるのではないでしょうか。
────────────────────
そのほか、過去のForm 13F解説記事はこちら
https://burry.co.jp/tag/form13f/
この記事を読んだ方はこちらの記事もおすすめです