この記事では、世界中が注目する著名投資家、ウォーレン・バフェット氏、さらにマイケル・バーリ氏の2名をピックアップし、8月中旬にSEC(米国証券取引委員会)に提出されたForm 13Fの内容を読み解いていきます。
両者が2023年第2四半期(4-6月)で売買した上場米国株式の主な銘柄、特筆すべき点を解説すると共に、彼らが今後の米経済の行方をどう考えているのかを考察していきたいと思います。
※評価額については、6月30日時点の価格に基づいています。
参照:U.S SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION / 米国証券取引委員会
最新のForm 13F解説記事
当該記事は2023年8月時点でのForm 13Fの解説記事です。最新の2024年8~11月公開のForm 13F解説記事は下記をご覧ください。
- ドラッケンミラー氏「率直に言ってビットコインを持つべきである」【Form 13F 2024年第3四半期】
- マイケル・バーリ氏、アリババなど低迷する中国株の逆張り投資を強化【Form 13F 2024年第2四半期】
バフェット氏の投資会社バークシャー・ハサウェイ、米国経済の力強さを反映
米住宅建設大手の3社へ新規投資
第2四半期(4-6月)、バークシャーが新規で投資した銘柄は3つ、米最大級の住宅建設会社DRホートン(DHI)を筆頭に、NVR、レナー(LEN-B)の3社で、計8億ドル以上の株式を新たに取得しました。
世界的なサプライチェーンの正常化と昨今の金融引き締めの影響で、住宅価格の高騰は沈静化に進んだように思われましたが、TRADING ECONOMICSのデータによれば、米国住宅価格の推移を示すケースシラー住宅価格指数は年初来上昇トレンドにあり、30年住宅ローン金利も7%程度に高騰するなど、直近は住宅に対する旺盛な需要が根強いことが確認できます。
オキシデンタル・ペトロリアム、キャピタルワン・ファイナンシャルを大幅に買い増し
昨年から保有株数を増やし続けている、米エネルギー大手のオキシデンタル・ペトロリアム(OXY)については、バークシャーが当局へ届け出た内容によると、6月末時点で同社の株式保有比率が25%を超えたことが明らかになっています。
今後どこまで買い増しを続けていくのか、買収計画の有無についても、引き続き市場関係者の関心事になりそうです。
追加で買い増しされたもう一つの銘柄はキャピタル・ワン・ファイナンシャル(COF)、前四半期(1-3月)に新規投資された銘柄で、4-6月に追加で購入されたのは約254万株、持株数を26%増加させています。
同社は米国でクレジットカード事業や融資などの金融サービスを提供する企業であり、米国の好調な消費動向、高金利の環境下において、その恩恵を享受して利益を拡大させていけるかが鍵となります。
アクティビジョン・ブリザード、GMの大部分を売却
バークシャーは、2021年第4四半期にゲームソフトウェア開発のアクティビジョン・ブリザード(ATVI)への新規投資を行った後、2022年第3四半期以降に少しずつ売却を進めてきましたが、4-6月の売却は約3478万株と最大規模になり、持株数を前四半期比で7割も減少させました。
過去10年にわたって保有しているGMも同様に、2021年第1四半期から持株数の売却を少しずつ進めてきましたが、4-6月の売却規模は過去最大となる1800万株、前四半期比で持株数の4割以上が売却されました。
さらに、医薬品・医療用品販売のマケッソン・コーポレーション(MCK)、保険会社のマーシュ・アンド・マクレナン(MMC)、エネルギー会社のヴィテスエナジー(VTS)については、全ての保有株式が売却されました。
ポートフォリオの上位銘柄ほぼ変動無し
バークシャーのポートフォリオの中では、前四半期末時点では9番目に大きかったアクティビジョン・ブリザードが大幅に売却されたこと以外、その他の上位銘柄の順位には変動はありませんでした。
マイケル・バーリ氏のサイオン・アセット・マネジメント、地銀株を含むポートフォリオの大部分を入れ替え
前期(2023年1~3月)で大量購入した地銀株をほぼ全て売却処分
2023年3月に起きたシリコンバレーバンクの経営破綻をきっかけに発生した銀行不安の最中、バーリ氏のファンドは軒並み大暴落した地方銀行株を積極的に購入していました。
しかし、直近で提出されたFORM13Fでは、それら地方銀行株のほとんどが売却済みであったことが分かりました。
ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)は、保有株数の約7割にあたる65万株が売却されたほか、
・ウェスタン・アライアンス・バンコープ(WAL)
・パックウェスト・バンコープ(PACW)
・ファースト・リパブリック・バンク(FRC)
・ハンティントン・バンクシェアーズ(HBAN)
の保有株式は、全てが売却処分されました。
中華系テック企業2社の株式は全て処分
2022年第4四半期に新規投資された中国の大手テクノロジー企業2社、アリババ(BABA)とJDドットコム(JD)については、前四半期(1-3月)では大きく買い増しする動きも見られましたが、今回のタイミングで全てが売却処分されています。
S&P500とナスダック100のプットオプションを大量に保有
冒頭で掲載した一覧表では記載を省略しましたが、今回バーリ氏のファンドでは、将来S&P500とナスダック100の下落に備え、過去数年間では最大規模となる合計約16億ドル分のプットオプションを購入しています。
バーリ氏は、2008年のリーマンショックに先んじて、サブプライムローンの問題に端を発した住宅バブル崩壊を予言し、巨大なショートポジションで富を築いた「世紀の空売り」で著名になった人物です。
今回も新たに、今後の株価暴落を予見させるような大きな売りポジションを持っている点は、多くの市場参加者にとって注目に値し、緊張感を持って市場の動向にも向き合わなければならないでしょう。
シグナ・グループ、ゲオ・グループへ追加投資
大部分の銘柄が売却処分された中、買い増しされた銘柄については、前四半期で新規に投資した世界的な医療サービス企業のシグナ・グループ(CI)を2500株、同ファンドのポートフォリオ上位に度々登場してきたゲオ・グループ(GEO)を20万株、などとなっています。
日本株指数に連動するETFを新規で購入
今回のバーリ氏の新たな動きとして特筆すべきは、日本株への新規投資です。
日本の大・中型株300銘柄以上を含むEWJ、大・中型株の中でも相対的なバリューエーションの低い割安な銘柄を対象とするEWJV、小型株を対象とするSCJなどが、新たに購入されました。
ポートフォリオ全体(オプション取引分を除く)から見れば、僅か2%程度と小さな割合ですが、今後の買い増しなどの動向次第では、機関投資家が日本株に対して、長期的に強気に捉えているか否かを見極めるヒントになるかもしれません。
まとめ・考察
昨年6月にインフレ率(CPI総合)がピークをつけて以来、利上げと共に徐々に経済データの冷え込み、インフレの沈静化傾向がみられていたものの、足元では長期金利は再度上昇を始め、インフレ再燃の兆しが出てきました。
米国債10年物の利回りは、昨年のピーク4.3%に迫る勢いで推移しています。
また、直近で発表された7月の消費者物価指数(CPI)は、前年比で総合+3.2%、コア+4.7%となっており、尚インフレ率はFRBが目標とする2%よりも高い水準で推移しています。
そんな環境下でバフェット氏は、ポートフォリオ上位銘柄にはほとんど手をつけていませんが、保有割合の低い銘柄については徐々に入れ替えを進めています。
住宅建設企業への新たな投資、キャピタル・ワン・ファイナンシャルのように、米国の強い消費や長期金利上昇の恩恵を受けやすい銘柄の保有割合を増やしている点は、底堅い米国経済の元で、当面はインフレ率・長期金利が高止まり、あるいは更に高騰するリスクを想定している可能性を示唆しています。
経済の加熱が止まらなければ、年内あるいは来年の更なる追加の利上げ可能性も浮上し、長引けば長引くほど経済がハードランディングするリスクが高まることから、バーリ氏のプットオプション大量取得の背景を垣間見ることもできます。
いずれにしても米国経済は尚強く、不況到来と金融緩和に対する期待は、更に遠のくシナリオも想定しておかねばならないのかもしれません。
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【2023年5月】
【2022年8月】