イングランド銀行を潰した男で著名な機関投資家ジョージ・ソロス氏、かつてその右腕としてポンド売りを主導して功績を残したスタンレー・ドラッケンミラー氏、両者のファンドが2023年第1四半期に売買した主な上場株式を明らかにしていきたいと思います。
※評価額については、3月31日時点の価格に基づいています。
かつては師弟関係にあった両者ですが、5月中旬に米国証券取引委員会(SEC)に提出されたFORM13Fのデータからは、対照的な売買をしていたことが伺えます。
参照:U.S SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION / 米国証券取引委員会
最新のForm 13F解説記事
当該記事は2023年5月時点でのForm 13Fの解説記事です。最新の2024年8~9月公開のForm 13F解説記事は下記をご覧ください。
- マイケル・バーリ氏、アリババなど低迷する中国株の逆張り投資を強化【Form 13F 2024年第2四半期】
- ドラッケンミラー氏、エヌビディア株とマイクロソフト株を大量売り・大きな利益は4〜5年後かもしれない【Form 13F 2024年第2四半期】
ドラッケンミラー氏、米メガテック4銘柄を積極買い、エネルギー株は縮小
マイクロソフト、アマゾンなどを買い戻し、米メガテック銘柄がポートフォリオの4分の1に
前四半期にあたる2022年末時点で、ドラッケンミラー氏のファンドが全て売却済みだったマイクロソフト、アマゾンの株式が、今回大きく買い戻されていたことがわかりました。
さらに、同氏が有望視するAI関連銘柄のエヌビディア、今回新たに投資を行ったグーグル(アルファベット)を合わせると、これら4社の資産評価額は、ポートフォリオ全体の約26%を占める規模になりました。(3月31日時点)
一方で、メタ・プラットフォームズについては保有株数の7割近くが売却されました。
台湾の半導体TSMCに新規投資、半導体にも力を入れる
バフェット氏が緊張感の高まる台湾情勢を懸念して、半導体大手TSMCを全て売却したことが話題になりましたが、逆にドラッケンミラー氏のファンドは57万株の新規投資に踏み切りました。
同じ半導体銘柄では、ファンドのポートフォリオで2番目のシェアとなるエヌビディアも大幅に買い増しされた他、同じく半導体大手のアドバンスド・マイクロ・デバイシズの小幅な買い増しも行われました。
シェブロンなど、エネルギー資源銘柄の大半を売却
2022年第1四半期頃からドラッケンミラー氏がシェアを高めていたエネルギー資源株については、今回のタイミングで大半の銘柄が売却処分されていたことが分かりました。
シェブロンが8割近く売却された他、パイオニア・ナチュラル・リソーシズ、オキシデンタル・ペトロリアム、セノバズ・エナジー、オビンティブなどは全て売却処分されました。
一方で、石炭や銅などの天然資源やエネルギーを複合的に扱うテック・リソーシズのみ大きく買い増しされ、残ったシェブロンと合わせると、ポートフォリオに占めるエネルギー資源銘柄の割合は7%弱となりました。
ソロス氏、テクノロジー株を一部売却・入れ替え、EV2社を売却
大型テクノロジー銘柄を一部売却、EVのテスラとリヴィアンも売却
第1四半期、ドラッケンミラー氏がグーグル(アルファベット)とアマゾンを大きく買い向かった一方、ソロス氏は同銘柄の保有株数を2割程度売却し、利益を一部確定させる形となりました。
これらは、ソロス氏が過去数年に渡って上位に据えている銘柄であり、今後とも動向が注目されます。
さらに、顧客管理システム大手のセールスフォース・ドットコム、EVメーカーのリヴィアンをそれぞれ7割程度売却、テスラに至っては全て売却されました。
ナスダック100ETFを全て売却、ラッセル2000ETFに新規投資
ソロス氏のファンドでは、2020年のコロナショック以降、積極的にテクノロジー系のグロース銘柄を多く含むナスダック100連動型ETFをポートフォリオに組み入れてきました。
2021年末には、そのポジションを大幅に縮小させた後、昨年2022年は少々買い戻す動きが見られたものの、今回のタイミングで全てが売却されています。
今回それを代替するように新規で投資されたのが、米小型株指数のラッセル2000です。
今回の第1四半期で、ナスダック100ETFが3,000万ドル程度売却されたのに対し、ほぼ同規模の金額でラッセル2000ETFが購入されています。
ネットフリックスなどに新規投資、ポートフォリオメインのバイオ医薬品会社を買い増し
ポートフォリオ全体では売り越した一方、前節で紹介したラッセル2000ETFを含め5つの銘柄に新規投資が行われました。
上下水道会社のアメリカン・ウォーター・ワークスを31万株、クラウドコンピューティングサービスのファストリーを120万株、ネットフリックスを3.5万株、小売大手のウォルマートを3.4万株、新規で購入しています。
継続保有銘柄については、同社ポートフォリオのトップにあたる、バイオ医薬品のホライゾン・セラピューティクスの保有株数を15%増加させた他、スポーツ用品のナイキ、金融デリバティブ取引所運営のCMEグループの保有株数を、それぞれ2.5倍程度増加させました。
まとめ
2022年末時点で、エヌビディアを除いた米メガテック銘柄の全てをポートフォリオに入れていなかったドラッケンミラー氏ですが、2023年第1四半期で一転して、4社を積極的に組み入れてきました。
一方で、ソロス氏は過去数年間以上に渡って、アマゾンとグーグル、さらにはナスダック100をポートフォリオの主力にしてきましたが、それらを売却していく流れになりつつあります。
世界的に不安定な政治・経済情勢リスクが増すなか、年数をかけて豊富に実った果実を摘み取りに行くという判断なのかもしれません。
結局のところ未来の事は誰にも分かりませんが、「著名投資家達は、思い描く未来・考えられるリスクに対してどのような投資判断を行っているのだろうか」と想像しながら学ぶことが、FORM13Fの有意義な活用になると思慮します。
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そのほか、過去のForm 13F解説記事はこちら
https://burry.co.jp/tag/form13f/
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