米国の機関投資家等が四半期ごとに保有ポジションを公表するForm 13Fに世界中の投資家から注目が集まります。この記事では、著名投資家ウォーレン・バフェット氏、マイケル・バーリ氏の2名について、彼らが2023年第3四半期(7-9月)に売買した主な米上場銘柄を紹介します。
前四半期から引き続き米国経済は力強く、インフレ率の高止まりと金融引き締め長期化懸念が再燃しました。そのような厳しい投資環境下での彼らの投資判断をもとに、米国株マーケットの展望についても考察します。
※評価額については、9月30日時点の価格に基づいています。
参照:U.S SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION / 米国証券取引委員会
最新のForm 13F解説記事
当該記事は2023年11月時点でのForm 13Fの解説記事です。最新の2024年8~9月公開のForm 13F解説記事は下記をご覧ください。
- マイケル・バーリ氏、アリババなど低迷する中国株の逆張り投資を強化【Form 13F 2024年第2四半期】
- ドラッケンミラー氏、エヌビディア株とマイクロソフト株を大量売り・大きな利益は4〜5年後かもしれない【Form 13F 2024年第2四半期】
ウォーレン・バフェット氏、GMやP&Gなど長期保有の大型株を相次いで売却処分
GM、アクティビジョン・ブリザードなど7銘柄を全売却処分
バフェット氏の投資会社バークシャー・ハサウェイは、約2年半前からゼネラル・モーターズ(GM)の売却、約1年前からアクティビジョン・ブリザード(ATVI)の売却を徐々に進めていましたが、ついに9月末時点で、残り全ての保有株式が売却処分されました。
また、長年売られずに継続保有されていた大型株も相次いで売却されています。世界最大の航空貨物会社UPS、ヘルスケア大手のジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)は、過去10年以上も売却されることなく保有され続けましたが、一転して9月末時点で全てが売却されました。
世界最大の一般消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(PG)についても、過去10年以上も継続して保有されており、2016年には一部売却されたものの、その後は一貫して売られることはありませんでした。しかし、今回9月末の時点では全てが売却されています。
エーオンなど保険会社の保有株数を縮小
7-9月に売却された銘柄の中で特に目立ったセクターは保険会社です。マーケル(MKL)とグローブ・ライフ(GL)の保有株式が6割以上、エーオン(AON)の保有株式は5%売却されています。
衛星放送会社とメジャーリーグ球団運営会社の株式を新規取得
今回バークシャー・ハサウェイが新たに取得したのはわずか2銘柄です。衛星放送会社のシリウスXM(SIRI)が960万株、メジャーリーグ球団「アトランタ・ブレーブス」の運営会社(BATRK)22万株が取得されました。
ポートフォリオ上位10銘柄の変動はHPのみ
前四半期からの比較で、順位変動のあったポートフォリオ上位10銘柄は、一部売却の影響によるヒューレット・パッカード(HP)1社のみとなりました。
他のポートフォリオ上位銘柄にはほとんど手をつけていないことから、メインの長期保有銘柄に対する投資態度を改めたわけではないと思われますが、直近でバークシャーが現金保有額を大きく積み上げている点については、今後の動向を注視する必要がありそうです。
マイケル・バーリ氏は巨額の売りポジションを解消、前四半期の保有銘柄の大半を売却
S&P500とナスダック100の巨額プットオプションを解消
前四半期にあたる4-6月、バーリ氏の投資ファンド「サイオン・アセット・マネジメント」が、S&P500とナスダック100の下落を想定した16億ドル相当のプットオプションを保有していたことが大きな話題になりました。今回のForm 13Fで報告された9月末時点の情報では、これら巨額の売りポジションは解消されていたことが分かりました。
半導体セクターETFのプットオプションを新たに取得
一方で、AMDやエヌビディア(NVDA)などの半導体セクター銘柄で構成された、iシェアーズ・セミコンダクターETF(SOXX)の売りポジション、4,700万ドル相当のプットオプションを新たに保有。4-6月で保有していたプットオプションと比べると小規模ですが、9月末までに保有株式のポートフォリオ自体も大幅に縮小しており、全体的には大きく守りに傾いたポジション取りをしたことがうかがえます。
エクスペディア、ゲオ・グループなど20銘柄以上を売却処分
サイオン・アセット・マネジメントは6月末時点では、オプションを除いて31銘柄の株式・ETFを保有していましたが、9月末時点までに23銘柄が売却処分されました。
保有株式の全てが売却された銘柄は、前四半期の4-6月に新規で購入していたオンライン旅行会社のエクスペディア(EXPE)、同ファンドで主力銘柄に度々組み入れられてきた私立刑務所を運営するゲオ・グループ(GEO)など。
さらには、通信事業者のチャーター・コミュニケーションズ(CHTR)、発電機メーカーのジェネラック(GNRC)、ヘルスケアのシグナ・グループ(CI)など、6月末時点で約9,000万ドル相当あったポートフォリオの上位銘柄が、9月末までに軒並み売却処分されています。
日本株連動型ETFを全て売却
サイオン・アセット・マネジメントでは、4-6月に新規で日本株に連動するETFを購入していました。投資先となったのは、日本の大型・中型株を対象とするEWJ、大型・中型株の中でも相対的に割安な銘柄を対象としたEWJV、中型株を対象とするSCJなど。
6月末時点での評価額では約270万ドル相当であり、ポートフォリオ全体からみると小さなポジションではありますが、日本株の市場関係者で注目した人も多いのではないでしょうか。
今回わずか1四半期のうちに売却処分されてしまいましたが、バーリ氏はポートフォリオを頻繁に入れ替えることも多く、今後再度の日本株への投資に期待したいところです。
中国のアリババ、JDドットコムの株式を再度取得
サイオン・アセット・マネジメントが、2022年10-12月に新規で購入した後、前四半期の6月末時点で全て売却処分していた、中国テクノロジー企業大手のアリババ(BABA)、JDドットコム(JD)が、今回のタイミングで再度買い戻されました。
アリババ株は5万株、JDドットコム株は12.5万株が買い戻され、両銘柄ともにポートフォリオに占める現物株式全体の1割弱ずつを占める主力銘柄に返り咲きました。
バフェット氏、バーリ氏の取引動向から米国株マーケットの展望を考察
長期金利に影響を受ける米国10年債利回りは、2023年第2四半期(4-6月)に引き続き、第3四半期(7-9月)末まで一貫して上昇トレンドが続きました。4月初旬は約3.5%だったのが、7月初旬は約3.8%、9月末時点では約4.5%程度にまで上昇しています。
バークシャー・ハサウェイの決算資料によると、2023年に入ってから3四半期連続で株式等の売り越しが続いています。売り越し額は、1-3月期の104億1000万ドル、4-6月期の79億8100万ドルに続き、7-9月期では52億5300万ドルとなりました。
手元資金(現金同等物+米短期国際)は過去最高の1500億ドルを超え、長期保有していた複数の銘柄が処分されました。将来の株価下落に備え、新たに投下できる余裕資金を厚くして備えていることが分かります。
サイオン・アセット・マネジメントが保有する米上場銘柄(現物)のポートフォリオは、6月末時点では31銘柄、保有額1.1億ドル程度だったのが、9月末時点では11銘柄、保有額4,300万ドル程度にまで規模を縮小させました。
米国株の下落に賭けるプットオプションも大量に保有しており、株価下落のリスクを取ってチャンスにしようとする姿勢も垣間見られます。
今年のインフレ率・長期金利の上昇トレンドに合わせ、過去半年間は売りの姿勢に傾くのは自然です。しかし直近では、10月下旬にも米国10年債利回りは頭打ちして下落に転じたかのようにも思えます。大きなトレンド転換だとすれば、著名投資家の第4四半期の投資判断にも変化が見られるでしょう。
次回のForm 13Fにて有意義なデータが得られるかもしれませんので、引き続き著名投資家の動向に注視する必要がありそうです。
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前四半期のForm 13Fの解説はこちら