bitbank COOを経てCygnos Capitalを運営する三原 弘之氏に、あえてシンガポールのネガティブな点について伺いました。
三原 弘之氏 プロフィール
早稲田大学を卒業後、楽天株式会社にエンジニアとして入社し、楽天市場の開発業務に従事。2014年、ビットバンク株式会社へ社員第一号として参画し、執行役員COOとして国内最大級の仮想通貨取引所へ成長させる。現在は海外クリプトヘッジファンドの戦略へ分散投資する日本初のファンド、Cygnos Crypto Fund を運営。Twitter:https://twitter.com/h3hara Cygnos:https://cygnos.capital/ https://overseas.cygnos.capital/
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取材実施日
2023年9月20日
前提
シンガポールのポジティブ面は各所で既に多分に言及されているため、あえてネガティブな面について伺いました。 あくまで当該背景でのテーマ設定であり、過度にシンガポールを批判する意図はございません。
日本からの移住であれば固定費が高くなることは避けられず、安定した収入がなければシンガポールでの生活は難しい
ーーシンガポールのポジティブな側面は既に各所で十分に言及されており、今回はバランスをとるためにあえてシンガポールのネガティブな面について伺いたいと思います。なにかありますか。
駐在、現地採用、自営の方等、色々な属性の方がいるので一概に物価についてコメントすることは難しいですが、周囲のイグジットして移住される方の場合を前提として話します。
一番は物価の高さで、特に生活費が高いと感じる方が多いのではないでしょうか。
家賃の上昇は顕著で、中心地の築浅物件でそういう方が好まれる物件においては、2LDKや3LDKの物件で月に100万円弱程度が相場の印象です。郊外でも家賃はそれほど下がらず、2LDKや3LDKの物件で月に40万円から50万円程度です。非常に高いと感じられるでしょう。
ただ、最近は価格も高止まりし始めたという話も同時に聞いています。もちろん人によっては郊外の安い物件に住まれている方もいますが、多くは日本で良い生活をされていた方で、同じクオリティを求めるとそれくらいの価格帯になる印象があります。
そのため、日本からの移住であれば固定費が高くなることは避けられず、安定した収入がなければシンガポールでの生活は難しいと言えます。
特に、いま時点では収入が多くなくこれから増やしていきたいと考えている方、スタートアップ企業にとってはシンガポールは必ずしも最適な場所と言えないかもしれません。
もちろんルームシェアやホーカー等の安い方法もありますが、円安も相まって日本よりもトータルで生活費は高くなる気がします。
治安維持や犯罪発生時のために街中に多くのカメラが設置されており、日本人からすると厳しいルールが存在
ーーそのように物価が高い中で現地の方々はどのように生活しているのでしょうか。所得水準もそれだけ高いのでしょうか。
現地の方々の多くはコンドではなく公営住宅に住まれています。また、外国人よりも税金が安く不動産を購入することができ、多くの若者は親の家に住むことが一般的と聞きました。結婚を機に自宅を購入することが多いようです。
無論、現地の資産家の方々はコンドや戸建てを所有しており、数億円から数十億円の価値がある物件もよく見ます。
ちなみに、日本人も現地の公営住宅に住むことは可能ですが、家賃は東京と比較しても高めです。
これから日本からシンガポールに移住を検討されている方は、海外経験がありローカル食で365日生きていけるという方でなければ、現地の方々の生活スタイルをあまり参考にしないほうがいいかと思います。
結局途中で外食や日本食を食べたくなったりしますからね。
ーー不動産以外の物価についてはいかがでしょうか。
生活費全般が高く、特に外食、日本食は高いと感じます。
ホーカーと呼ばれる屋台街が安いと言われますが、物価の上昇や円安の影響で以前ほどの安さは感じられません。中心地がより高いのですが、少し離れた場所でも成人男性がお腹いっぱい食べると800円はかかる気がします。
ホーカー以外の飲食店がどうかというと、サービス料や税金が加算され、合計で約18%の追加料金が発生します。サービスが殆ないお店でもサービス料金をとってくるので日本人的にはやるせない気持ちになります。
また、監視社会である点もよく指摘されます。
中央集権的な体制のもと、治安維持や犯罪発生時のために街中に多くのカメラが設置されており、日本人からすると厳しいルールが存在します。
これらの取り組みで治安が維持され、女性が深夜に1人で歩けるほどの安全が維持されている一方、このような環境を好まない人にとっては、シンガポールは適していないと言えるでしょう。
監視カメラに対するそれぞれの見方
ーー歩道や公共の場所で常に監視カメラが設置されているということでしょうか。
どこにどれだけのカメラが設置されているのかは正確には分かりませんが、多数のカメラが存在し、常に監視されていると言われています。
ーー監視社会であることによる、具体的な実害にはどのようなものがありますか。
実害というと難しいですが、プライバシーはないですよね。
例えば、暗号資産のウォレットやブロックチェーンのノードに耐検閲性がない場合、それは実害がないと言えるのか、信用できないのでは、といった話になると思いますが、本質的にはこれと同じだと思います。マイナンバーも同じですね。
外出時に自分がどこで何をしているかを常に政府に見られるわけで、本当にそれでいいのか、と嫌がる人はいると思いますね。
参考:アップル・グーグルアプリは「配慮しすぎで使えない」 監視の色強めるシンガポール:朝日新聞GLOBE+
ーーコロナ禍ではいかがでしたか。
私がシンガポールに移住したのはコロナ対策が終わる数ヶ月前でした。シンガポールは中国同様にゼロコロナを目指しており非常に厳格で、2週間程度、ホテルで隔離されることもありましたね。
ロックダウンが実施され、絶対に外出が必要な人以外は家から出ることができなくなる、ということも当初はあったようです。違反者には罰則も科されます。
参考:不要不急の外出で「罰金2万円」 シンガポールの厳しい取り締まり…効果は?: J-CAST ニュース
その後、家族の家を訪れることができるようになる、数人までのグループでの会合が許可されるなど、徐々に規制は緩和されたみたいです。
政府のアプリを使用して店舗への入店履歴を記録することが義務付けられたのですが、このようなシステムは政府が市民の行動を完全に把握する監視の一環とも言えます。
実際、イギリス人の知人は欧州の別の国でも行われたこのような監視は絶対に行ってはいけないと教育を受けてきたようで、「ナチスを連想する」と強い反感を示したのが印象に残っています。
いまはこの義務はなくなりました。
シンガポールの象徴的なUターン禁止ルール
ーーそのほかにはどのような特徴がありますか。
ルールが非常に厳格で、してはいけないことが多いです。
日本ではUターンが禁止されている場所にのみ禁止の標識が設置されていますが、シンガポールでは逆で、Uターンが許可されている場所に標識が設置されており、それ以外の場所ではUターンが禁止されています。
これは非常に象徴的なルールで、シンガポールで起業家が育ちにくいのはこのような厳格なルールが原因という話も聞いたことがあります。
2003年には、少なくとも5人の国会議員が、起業家精神の醸成を阻む最大の要因として「Uターン禁止症候群(NUTS)」を挙げた。
引用:Grab、Seaなど、シンガポールはどのようにスタートアップエコシステムを一から造り上げたか
そのほか、ガムの販売禁止もそうですし、横断歩道以外での道路横断禁止もそうです。
参考:シンガポール日本人会 | The Fine City(12月号2022年)
ーー移住して数年が経つ三原さんとしては総じてシンガポールはいかがでしょうか。
このような主旨なのでネガティブな面を述べましたが、私は結構満足していますね。日本人が住みやすい国ランキングがあるとするならば、シンガポールはトップ3に入ると思います。
シンガポールには多くの日本人が住んでおり、それによって日本食のレストランや日本人向けのサービスが充実しているということが理由として大きいです。
シンガポールは日本大使館も比較的大きくて便利というのもあります。日本大使館がない国もありますからね。
シンガポールと永住権
ーー若くして兵役を課されるとも聞きましたがいかがでしょうか。
兵役は永住権を取得しない限り課されることはありません。しかも課されるのは本人ではなく、その息子です。
ーー日本人がシンガポールに移住する際、多くは永住権を取得しないのでしょうか。
そもそも、シンガポール人との結婚などを除けば、まずシンガポールに移住しなければ永住権の申請自体ができません。
参考:シンガポールにおける2022年シンガポールにおける永住権(PR)の最新情報 | One Asia Lawyers
ーー永住権を取得するメリットはありますか。
日本人がシンガポールに移住する場合、自身が経営する現地の法人から自身にビザを発行し移住することが多いですが、これらの雇用関係がなくなるなどそのビザが切れた場合でもすぐに帰国する必要がありません。
「永住権」といっても5年更新なので、長くて5年間は滞在が可能ということです。
また、不動産を購入する際の税金が低くなる、現地の年金のような制度に加入することが可能になる、といった利点もあります。
そのほか、現地企業が日本人を雇用する際に、永住権を取得している場合には雇用しやすい制度になっており、現地企業に勤めることを考えている人にはこちらも利点と言えるでしょう。
シンガポールの戦争リスクは本当に低いのか
ーーシンガポールは自然災害が少なく、人種差別も少ないと言われていますが、実際のところはいかがでしょうか。
日本人に対しての差別を感じることは少ないと思いますが、他の国籍に対する人種差別はあると思います。ただ、これはシンガポールに限った話ではないでしょう。
私はまだお会いしたことはありませんが、第二次世界大戦を経験したご年配の方々には日本人を嫌悪する人もいらっしゃるようです。シンガポールを過度に親日とカテゴライズしないほうがいいと思います。
ーー戦争のリスクについてはいかがでしょうか。
私の知人の多くはリスクを感じていないようですが、私は戦争のリスクはゼロではないと思います。
ーーそれはなぜでしょうか。
シンガポールは核兵器を持たず、人口も少なく、土地も狭いです。周辺にはマレーシア、インドネシア、インド、中国などの国々があるわけです。
多くの人々は、「シンガポールには資源がないため攻撃の対象にならない」「狙う価値がない」と言いますが、私は資源の有無よりも、戦略上重要な拠点となりえるかどうかのほうが重要だと考えています。マラッカ海峡も地政学的に重要な位置にあると言われています。
参考:地政学的要衝研究会 「地理が歴史を繰り返させる」東南アジアと南シナ海 | 政策シンクタンクPHP総研
また、例えばA国とB国が敵対した場合に、中立的な近隣のC国がどちらかに付くことを求められる、というのはなにも特別な話ではないと思います。
もし戦争となった場合ですが、シンガポールは水やそのほかの資源が少なく、上流を抑えられたら降伏するしか選択肢がないと思います。
シンガポール政府もそれらのリスクを理解し、実際に兵役もありますし軍隊も持っています。
シンガポールに移住すればバイリンガルになれるかというとそう単純な話ではない
ーー日本では政府や政治家への信頼や期待が低いですが、シンガポールではいかがでしょうか。
支持率は高いと聞いています。実際、建国から半世紀以上、経済は右肩上がりの成長を続けています。
そのようなこともあり、多くの人々は今後もポジティブな未来を期待しているようですが、私は必ずしもそうだとは思っていません。
揺り戻しはあるでしょうし、この不透明な世界情勢の中でどういう立ち回りができるかは誰にもわかりません。大国に蹂躙される可能性もゼロではないでしょう。
とはいえ、シンガポールの政治家は優秀なので当然シミュレーションしてると思いますが。総じてうまく政治はまわせている印象です。
教育に関しても、シンガポールに来れば英語と中国語が喋れるようになると考える人もいるようですが、実際はそう簡単ではありません。
ーーそれはなぜでしょうか。
そもそもシンガポールに限らず、バイリンガル自体が簡単ではないですからね。シンガポーリアンも英語も中国語も完璧というわけではありません。
私が接する弁護士などの専門家は英語が非常に上手ですが、全員がそうではありません。移住したから完璧なバイリンガルになれるかというとそんなことはないですね。
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