JPYC株式会社の代表取締役である岡部典孝氏に、2-3年での目標や最終的に実現したい世界観などについて伺いました。
岡部典孝氏 プロフィール
JPYC株式会社で日本円ステーブルコインJPYCを発行。Blockchain Award Person of the Year (Japan)受賞 BCCC 理事/ iU客員教授 人口167人の青ヶ島村に移住したスタートアップ経営者。
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取材実施日
2023年4月20日
決済手数料をゼロ円に設定し、加盟店のシェアを一気に伸ばす
ーー現状はJPYCを日本円に換えられません。そのため加盟店が豊富で実際の利用用途が揃っていることが大事な要素だと考えていますが、導入はスムーズにいくものでしょうか。
例えば、ペイペイは手数料がかからない状態では加盟店が増え、現在2%である手数料をそれ以上上げると加盟を辞めるといった状況が生じているようです。
私の感触的にも決済手数料をゼロにできれば導入がかなり進むと考えていますが、同時に決済手数料で2%を設定すればペイペイとあまり変わらないということになるわけです。
したがって、どのようなアプローチで、どのような加盟店をどのように説得していくかが非常に重要になってくると思います。
ーー導入、加盟店加入に関して特に感触がいい業界、領域はありますか。
現時点ではブロックチェーンゲームの業界で、クレジットカードの3%よりも低い手数料であれば、積極的に導入したいと前向きな印象です。
他にはNFTのプラットフォームなど、そういった領域で先に導入を進めていただきつつ、その後はもう少し広くいろいろなお店で使っていただくということを目指しています。
しかし、手数料の設定はかなり難しい問題です。
ーーどのように難しいのでしょうか。
規制上は手数料をいただいても問題ないのですが、ステーブルコインなのに決済手数料が2%となるとあまり使われないでしょう。
より早い普及を目指してできればゼロで展開したいと考えていますが、その場合は決済手数料での収益が見込めなくなってしまいます。
そのためどこで収益を上げるかが課題になってくるんですね。
先ほどのとおり、運用益もJPYCが数千億円程度発行できれば多くの運用益を享受できますが、そこに到達するまでの期間が長引いてしまうと苦しくなってしまいます。
そのためできれば手数料はゼロにしてシェアを広げたいと考えています。
ステーブルコインの規格の統一が進めば貿易ももっと効率的になる
ーー銀行を目指しているというお話がありましたが、2-3年での目標を教えてください。
まず、発行額で言うと、サークル社が伸びていた時期は一年間でおおよそ20倍程度、成長しています。
クリプトの環境にも左右されますが、我々も環境がよければ2年で100倍の成長というのは現実的にありえるんですね。
いまJPYCは16億円発行、3億円ほどが流通していますのでその100倍が数年以内に見込めるということです。
そのためにも、資金移動業を取得し、JPYCを円に償還できるようになることがすごく重要になります。
ーー最終的に実現したい世界観はどのようなものでしょうか。
サークル社はEUROCというユーロのステーブルコインも同じ規格で発行しています。
日本とアメリカとヨーロッパ、この三つのエリアで規格が統一できたら、カナダやオーストラリアといった、いわゆる西側の国のステーブルコインは全て統一規格になるでしょう。
そうすると、例えばUSDCとJPYCの両替も効率的に行えますので、おそらく0.1%ほどの手数料で実現できると思います。
日本人がJPYCを持った状態でオーストラリアに訪れたら、オーストラリアのステーブルコインが使えるお店で0.1%で決済できるようになる。
逆にオーストラリアの人が日本に来るときにも、その国のステーブルコインを日本で0.1%の手数料で使える。
そういう世界観が実現できると考えていて、これがさらに進むと貿易ももっと効率的になります。
いままで貿易は入金に1ヶ月を要するなどリスクがあり、リスク分のプレミアムを手数料に上乗せするしかありませんでした。
しかしNFTとステーブルコインでモノの取引をする世界観になれば、あらゆる取引がすごく効率的になるでしょう。
我々が最終的に目指すのは、非常に安全で、マネーロンダリングが非常に困難な安全性を持ち、迅速に送金が行え、待ち時間もない、という高い利便性と低手数料を兼ね備えた仕組みを構築することです。
このような意味で、必要なライセンスとしては銀行のものかもしれませんが、従来の銀行とは大きく異なるビジネスモデルが形成されると考えています。
日本円のステーブルコインが十分な発行額と流動性を持つことは、日本が国家戦略として採用した意義深いこと
ーークリプトの相場状況がJPYCのプロジェクトの今後の進展にも影響が大きいと思います。これからのクリプト相場についてどのように見ていますか。
※編集者注:インタビューの実施は2023年4月20日
利上げがあると予想していますが、JPYCにとって利上げと利下げにはそれぞれメリットとデメリットがあります。
利益を重視するのであれば運用益は利上げが続いた方が有利です。金利が1%から2%へたった1%動くと収益は2倍に変動します。
一方で利上げが行われると、クリプトを持つ必然性が下がります。金利が高い分、銀行預金でも十分ということになり、クリプトへの資金流入は減少するでしょう。
相場全体が低迷すれば、当然我々も影響を受けます。
ーー高金利が長く維持される可能性も予想されているのでその場合は強く影響を受けそうです。
ただ、基本的な業界構造としては、既存の銀行や証券会社が大量の優秀な人材を雇い、その人たちの信用によって運営し手数料を得るというモデルから、真ん中に人がいなくなり、コンピュータやDeFiを代表するスマートコントラクトが動き続ける世界観になる方がコストが安くなるはずです。
そのため、預ける側や借りる側を含む利用者にとっては、DeFiなどが成長する方がメリットが大きいと考えています。
そして、その方向性になった場合に、日本円のステーブルコインがなければ、日本国民はドルステーブルコインを経由することになりますが、手数料の分だけ不利になってしまいます。
そのため、日本円のステーブルコインが十分な発行額と流動性を持つことは、日本が国家戦略として採用した意義深いことなのです。
世界のステーブルコインの規格共通化を目指す中で日本円もそこに加わることが重要
ーーサークル社がJPYCに出資されていますが主な意図はなんでしょうか。純粋な有望なスタートアップへの投資、あるいはUSDCとの連携による相乗効果など、なにが一番の出資背景なのでしょうか。
サークル社が狙っている世界観はドルだけの話ではありません。
彼らはユーロも発行しており、もともと日本円のステーブルコインにも関心があったはずです。
ただ、日本の規制は非常に複雑であり、外国からの参入は非常に困難です。その意味で、我々は日本のレギュレーションを熟知しており、その部分を評価いただき出資いただいたのだと考えています。
また、サークル社は最終的には世界のステーブルコインを共通化し、より効率的な決済を実現することを目指しています。
特にコインベース社とサークル社が共同でその目標を追求している中で、日本もしっかりと取り組むことは非常に重要です。
もしJPYCが存在しなかった場合、規格において孤立してしまう可能性がありますが、そうなってしまった後に同じ規格の日本のステーブルコインを普及させるというのは大変なわけです。
幸いにも日本にはJPYCが存在しており、そこに出資し、同じ規格で揃えることでサークル社は盤石になります。
ーー出資背景やサークル社が目指す世界観が理解できました。たしかに規格の統一は重要だと思います。
例えば、すでにUSDCを導入しているECサイトがあった場合、JPYCや同じ規格のオーストラリアドルの決済を導入しようと思ったら、わずかな行のソースコードを書き換えるだけで動作するでしょう。
しかし、規格がバラバラでは、それぞれのお店ごとにテストが必要であり非常にコストがかかります。
このような状況では、世界中の効率が低下し、損失が生じます。
ステーブルコインの普及を目指すのであれば、各国独自のステーブルコインをただ発行するのではなく、各社が同じ規格に基づいて進めることが重要になるでしょう。
規格の統一でコストを下げ、加盟店やユーザーに還元し経済の成長に貢献する
ーー規格の統一により、そのほかにどのようなメリットが生じますか。
パブリックチェーンの世界ではERC20がベースとなっているため、それを基にしつつ、マネロン対策などの共通機能を持たせることによってさまざまな恩恵があります。
例えばアメリカで問題がある人物がいた場合、USDCがブロックするとJPYCもブロックできるようにすると効率的でマネロン防止にもつながると考えています。
発行体の運営コストは決済手数料などで加盟店やユーザーが負うことになりますが、規格統一でコストを極限まで下げることができれば、その分、加盟店やユーザーに還元し、経済の成長に貢献することが可能です。
私たちは効率的な決済を実現し、その正当性を証明していくことを目指しています。
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岡部氏のインタビュー、4記事目では「ビットコインとステーブルコインとの組み合わせによりマネロンを適切にチェックする関係性が構築されている」「ビットコインは持っているだけでは利息はもらえないが、流動性供給によりリターンを得ることができる」などについて伺います。
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