「IRRにより投資対象の物件に対して定量的な評価が可能になる」個人投資家・九条氏 前編

セミリタイア九条氏に、不動産投資での気づきやリスク、物件の評価方法などについて伺いました。

セミリタイア九条氏 プロフィール

2018年FIRE済み。米国株、クリプト、優待クロス、太陽光、不動産、オプションなどなどを行うインデックス投資家でリバタリアン 。ポイ活、クレカ活用なども。ブログ「FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

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取材実施日

2023年9月8日

表面利回りはリスクプレミアムとキャピタルゲインへの期待によって決まる

ーー九条さんが保有されている物件について教えてください。

新小岩にある築3年の木造アパート一棟です。

表面利回り7%で2021年に約1億円で購入した物件です。

ーー新小岩で築3年の木造アパートで表面利回り7%というのは高いのでしょうか。

前提として、都心部における不動産の表面利回りは、外側に行くほど上がるんですね。

港区など山手線内側のエリアでは3-4%、東京23区の端で7%程度、もう少し外側に行けば8%以上、というのが相場です。

そのため私が保有している物件のスペック、立地から考えれば7%というのは特別高くも安くもないと思います。

ーーなぜ外側に行くと利回りが上がるのでしょうか。

理由は二つあります。

一つ目は、外側にいくほど入居者の獲得が難しくなり、そのリスクプレミアム分が利回りに上乗せされている、という見方です。

例えば、新宿駅から徒歩5分の物件の空室はすぐ埋まりますが、都心から離れるにつれて、入居者を見つけづらくなるのが一般的です。

地方には表面利回り10%以上、場合によっては20%に達する物件もありますが、裏を返せば、それだけ入居者を埋めるのが困難であるということです。

もう一つの理由は、都心部の表面利回りが著しく低い物件は、値上がり益目的だということです。

毎月のインカムゲインの収支はプラマイゼロでも、人気の地域ゆえ将来の値上がり益が期待でき、それ相応にインカムの利回りは低下している、という見方です。

これはつまり、地方の物件は表面利回りが高い代わりに将来的な物件価格の上昇はあまり期待できない、ということも意味します。

このように、不動産投資では単に利回りが高ければ高いほど投資対象として魅力的であるとは限らず、総合的に考えて物件選びをする必要があります。

ーー「利回りが高ければ高いほど投資対象として魅力的であるとは限らない」というのが非常に示唆あるお話だと思いました。

物件の立地、上物など他の条件が同じなら当然利回りは高い方が望ましいですが、同じような物件なのに高い利回りが設定されている物件には高いだけの理由があり、利回りが低い物件には低いなりの理由があります。

例えば違法建築物件で建物の再建築が制限されている、土地が賃貸用である物件などは、立地や築年数などほかの条件が同じでも利回りは高くなります。

都心部の表面利回り3%の物件とはどのような物件なのか

ーー都心部の表面利回り3%の物件というのは、実質の利回りではほぼゼロになるのでしょうか。

はい、ほぼゼロになると思います。

物件に投資するための資金は銀行から借り入れるのが一般的ですが、属性が良い方でも金利は1-2%ほどです。

すると、表面利回り3%の物件で銀行に金利2%を支払うと残り1%となりますが、さらに管理費として賃料収入の5%の支払いが発生するため、1%からそれを差し引くと手残りは0.85%となります。

また、都心部で空室にはなりにくいとはいえ、入居者が退去した際にはその後の掃除や客付けの期間が発生し、少なくとも退去から1〜2ヶ月は収益が得られません。

そのため、表面利回り3%の物件ではほとんど収益が残らないか、マイナスに転じる可能性もあると思います。もちろん金利1%以下で借り入れができるような人ならば、こうした物件でもちゃんと利益を上げられます。どれだけの条件で融資を受けられるかの勝負だともいえると思います。

ーー値上がり益期待が主体の都心部の物件ほど市場が効率的で競争が激しく、参加する投資家の水準が高い印象を受けました。

そもそも港区などの都心部では物件価格が非常に高く、1億円ではほぼ手が出せません。

参考:東京23区のマンション、平均でも「億ション」 実需と資産性で高騰 – 日本経済新聞

最低でも2億円で、5億円、10億円といった物件も決して珍しくありません。駆け出しの不動産投資家が買える価格ではないのです。

物件価格自体がそのような状況なので、結果的に参加できているのはおっしゃるような水準の高い投資家ばかりになっている、というのはあると思います。

建物は時が経つにつれ劣化し価値が減少するが土地はそれ自体が劣化するということはなく評価の重要な要素

ーー土地についてはいかがでしょうか。

土地も重要な要素です。

不動産は土地と建物のセットで物件の価格が決まりますが、建物の価値は徐々に減少していきます。

あくまで税務上の話ですが、例えば木造の建物は税務上の耐用年数が22年に設定されており、22年が経過すると価値はゼロだとみなされます。

参考:耐用年数(建物/建物附属設備) 国税庁

要するに、同じ1億円の物件を買ったとしても、建物価格8,000万円、土地価格2,000万円の物件と、建物価格2,000万円、土地価格8,000万円の物件では評価が全く違うということです。

建物は時が経つにつれ劣化し価値が減少しますが、土地はそれ自体が劣化するということはありません。

都心の物件の場合、建物の価値がなくなったとしても土地の価値が残り続けることで元本毀損のリスクが非常に少ないという側面もあり、そういう意味でも表面利回りが地方の物件とは異なっています。

不動産投資は与信の活かし先から考え始めたのがきっかけ

ーー不動産投資に興味を持ったきっかけについて教えてください。

当時の私は会社員だったのですが、私の会社員としての与信をフル活用したいと思ったのがきっかけです。

会社員にはいくつかのメリットがあり、その一つが与信力、つまり銀行からお金を借りる力があるということですが、私は自宅を買い損ねてしまっていて、その与信をフルに使いきれていませんでした。

それでどうにか与信の力を活かせないかと考えた結果、辿り着いたのが不動産投資でした。

つまり、「与信の活かし先」から考え始めたのがきっかけです。

ーー確かに、会社員の与信の良さは度々話題に挙がります。

日本は不動産に対して比較的資金調達がしやすい国だと感じています。

最近では物件価格の8割を融資というのが一般的ですが、5年ほど前は物件価格の100%を融資できるフルローンや諸経費も含めたオーバーローンが一般的でした。

私が物件への投資で借り入れをしたタイミングも、スルガ銀行問題などで金融庁が規制を強化した時期で2割の頭金が必要でしたが、それでも現在と比較すれば非常に借入しやすいタイミングだったと思います。

ーー不動産投資の検討から購入までの時間軸や実際に見た物件数について教えてください。

ゆるく検討していた時期も含めると検討から購入まで約10年間です。

不動産会社から共有いただく物件を継続的に見ていたのが5年間、本格検討から実際に購入までが1-2年程度です。

現地まで足を運んだのは実は5件ほどでしかありません。

不動産投資における返済は将来の売却時の利益を現在から積み立てる行為である

ーー不動産投資をする前と後での気づきについて教えてください。

不動産投資はそこまで難しく考えるものでもないということです。

他の投資にも似たようなことが言えますが、伝統的な投資商品は、王道的なアプローチさえ取れれば大きな失敗はあまりありません。

投資して元本が半値になる、みたいなリスクはあまりないんですね。

そういった意味で、不動産投資に対して過度に恐れず、早く始めておけばよかったと感じています。

ーー不動産投資のリスクについて教えてください。

1つ目は、投資した物件の価格が大幅に下落し、売却してもローンが返済できない状況に陥ること。

2つ目は、毎月のキャッシュフローがマイナスになることです。

しかし、物件の需要が安定している地域であり、なおかつ物件選びを特別間違えることさえなければ、2つ目のリスクは一定避けることが可能です。

ーー1つ目の物件価格の下落に対してはどのように対策できるのでしょうか。

前提として、「借金の返済」が特異な要素なんです。

不動産投資は通常金融機関からの借り入れを物件の購入資金に充てますが、毎月の返済によって簿価上の金額は時間の経過とともに増加する仕組みになっています。

例えば、1億円で物件を購入し、一切の返済を経ずに同じ価格で売却したとすると収支はゼロですが、1,000万円を返済後に取得額の1億円で売却することができれば1,000万円の利益を得ることができます。

要するに、返済は将来の売却時の利益を現在から積み立てる行為であると考えることができます。物価の下落リスクに対しては、単に下落幅を見るのでなく、返済ペースと価格下落のペースを比較することが重要なんですね。

また、不動産投資の借り入れは長期で組むケースが多いのですが、例えば20年ローンを組んで10年後に物件価格が半分になっていたとしても、借り入れの返済も半分終わっていればマイナスは出ません。さらに、投資した物件の市場価値が10年で半値になるかというとそれもそうそうあるものではありません。

といったことを総合的に考えると、不動産投資は投資から時間が経過すればするほどリスクが低下していく、利益が積み増しされるものであると考えられ、もっと早くから始めていればよかったと感じているところです。

IRRにより投資対象の物件に対して定量的な評価が可能になる

ーー現在保有されている物件に投資するにあたって、どのように物件を比較検討されたのか教えてください。

私の場合は、玉川陽介氏の著書「Excelでできる 不動産投資「収益計算」のすべて」に基づき、シミュレーションを行いました。

不動産投資で物件を評価する際の指標の一つとしてIRR(内部収益率)という重要な指標があるのですが、この指標の使い方、分析方法を学ばせていただいた本です。

不動産に限らずではありますが、不動産投資においては、どの物件に投資するべきかといった不動産内での比較だけでなく、他の金融商品と比べてもその物件に投資するべきかといった広い視野での見方が必要です。

例えば、とある1億円の物件のIRRが5%だとすると、その物件の収益構造は同じ1億円を銀行に預けて毎年5%の定期預金がもらえて最後に元本が返ってくる金融商品と同じです。その上でその物件に投資する魅力はあるのか、といった評価、判断ができるようになります。

これにより、不動産というジャンルを超えて、定期預金や国債、株式などほかの金融商品と比較してフラットにその物件への投資意義を見定めることが可能になります。

参考:IRR | みずほ証券 ファイナンス用語集

ーー九条さんが投資された物件は「Excelでできる 不動産投資「収益計算」のすべて」のシートで算出するとどのような物件なのでしょうか。

私の物件は2年目以降は200万円弱のキャッシュが得られる試算で、そのため空室を考慮しても十分なキャッシュフローが期待できました。

売却時の価格も計算し、いつどれくらいの価格で売却すればいくらのリターンが得られ、それに伴う税金や最終的な収益も算出しています。

そのほか、税引前IRRと税引後IRRでは、3年目に買値と同じ値段で売却すると年率換算で税引前0.7%、税引後0.3%しか利益が出ないことがわかります。一般的に、不動産投資は初期費用が高く、短期での売買では利益が出づらいためです。

年数が経つと徐々にIRRが増加し、10年目でピークを迎えます。試算上は8.4%程度です。興味深いのは、16年目以降は徐々にIRRが減少していくことで、物件価値の下落がなかったとしても、不動産は長く持てばいいというものでもないことが分かります。

このように、「Excelでできる 不動産投資「収益計算」のすべて」で紹介されたシートを用いることで、物件の収益性と長期的な資産価値を定量的に評価することが可能になります。

物件の選定にあたってIRRの数値以外で特に注意したこと

ーー投資する物件を選定するにあたって、IRRの数値以外で考慮した数値や要素があれば教えてください。

利回りや売値が異様に魅力的な物件については注意していました。

例えば、再建築不可とされる物件があるのですが、これらの物件は法的な建築制約に違反している物件であり、その土地での再建築が許可されていません。高い利回りが設定されていても安易に手を出すべきではないでしょう。

参考:ハチセの再建築不可講座|株式会社 八清(ハチセ)

また、売値は相場を大きく下回る魅力的な価格が設定されているが、購入しても売り主が亡くなるまではその物件を売れない、といった物件もありました。

売値や利回りなど定量的な指標で一定フィルタリングしつつ、このような投資がむずかしい物件も定性的に判断しスクリーニングしていました。

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九条氏のインタビュー、後編に続きます。

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