JPYC株式会社の代表取締役である岡部典孝氏に、ステーブルコインのマスアダプションの条件や日本のCBDCの発行可能性などについて伺いました。
岡部典孝氏 プロフィール
JPYC株式会社で日本円ステーブルコインJPYCを発行。Blockchain Award Person of the Year (Japan)受賞 BCCC 理事/ iU客員教授 人口167人の青ヶ島村に移住したスタートアップ経営者。
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取材実施日
2023年4月20日
ステーブルコインがマスアダプションしなければ他の領域もマスアダプションできない
ーークリプトやステーブルコインがマスアダプションするためにはなにが必要だとお考えですか。
マスアダプションについては二点、考えていることがあります。
まず一点目は、ステーブルコインが先にマスアダプションしないと、他のWeb3やNFTといったブロックチェーンゲームなども全て普及しないのでは、ということです。
当然ですが、社会全体で利用されるウォレットの数以上にステーブルコインのユーザーは増えないため、市場全体のパイ自体が大きくなってほしいと考えています。
しかし、USDCやUSDTを見ればわかるように、法定通貨に戻せるステーブルコインは需要が大きいことが証明されています。
そのため、市場が成長するのをただ待つだけでなく、ステーブルコインが普及することによってみんなウォレットを持っているのが当たり前になる、そういった方向性を目指すのがより適しているかなと考えています。
ーーもう一点について教えてください。
クリプトやステーブルコインがマスアダプションするためにはゲームの存在が大きいと考えています。
例えばポケモンGOのようなアプリにウォレットが標準搭載されていたら、みんなもう持っている状態になるわけです。
かつ、少し前から大手ゲーム会社もブロックチェーンゲームにどんどん参入表明されていて有名なIPを活用したゲームを作ろうとしています。
これらが普及するとクリプトやステーブルコインも一気にマスアダプションするだろうと期待しています。
ーーSTEPNもすごい普及しました。現実味があるお話だと思います。
皆さん、いろいろなスマホゲームに課金されていると思いますが、例えばゲーム内のアイテムを購入する場合、必ず一回は法定通貨、日本なら円から購入します。
法定通貨でゲーム内のコインやアイテムを最初に購入しそれをゲームで使う、そういうことをやっています。
ブロックチェーンゲームが普及するためにはいままでと同じ感覚での課金を再現できないと新規のユーザーが入ってこれないわけで、ゲームのインストール自体が進みません。
そこで、いま法定通貨が担っている役割をステーブルコインが果たすことで非常に役立てると考えています。
ステーブルコインがブロックチェーンゲームの普及に貢献し、クリプトの市場全体が大きくなる。
そしてゲームをきっかけとして普及したステーブルコインも決済や送金分野で利用されステーブルコインがアダプションする、というのがイメージしやすいマスアダプション像だと考えています。
ーーどの程度の時間軸で見ていますか。
既に大手ゲーム会社が経営戦略の中にブロックチェーンゲームを入れ、多くの開発費を投下し、水面下でも企画が進んでいるようです。
2023年の後半、2024年ごろにはさまざまな発表があると思います。
日本はCBDCを発行するだろうがパブリックチェーンでは出せないはず
ーー中国でCBDCの動きがあります。「もしCBDCが発行されたらインパクトはあるが実現は現実的じゃない」などさまざまな意見がありますが、岡部さんはどのように見ていますか。
実証実験も確実に進んでいますので、日本はほぼ確実にCBDCを発行すると予想しています。
我々も日銀とかなり前からお話していますが、元々いつ出してもいいように準備をされていた印象があります。
黒田総裁の退任直前の会見でも、CBDCを導入すべきだというニュアンスで述べられていました。
ただ、おそらく中国のような集権的なステーブルコインは日本では発行できないでしょう。
一方で、パブリックチェーンでの発行も絶対ないと考えています。
日本に限らずどこの国であっても51%攻撃されうる仕組みでの構築というのはあまりに弱いためです。
具体的には、プライベートチェーンでよくあるデータベースで管理されているデジタル円での発行を予想しています。
もしそうなった場合、日本円CBDCとJPYCの交換が当たり前に行われるようになると考えています。
結局、ステーブルコインとCBDCの両方が存在し続けることが望ましいと考えていますが、その場合、銀行の預金や決済について心配しています。
CBDCと民間のステーブルコイン、いずれが普及しても銀行の預金がリプレイスされてしまうためです。
ーーその場合、確かに銀行は存在意義が問われ存在が危ぶまれますが、JPYCにとってはCBDCが立ち入れないパブリックチェーン上での優位性を保つためむしろ追い風となりそうです。
そのように考えていますが、唯一考えられるシナリオは、現在の厳しい銀行の規制が緩和されることです。
銀行の方々は規制に悩まされ、イノベーションが起こりにくくなっています。
規制により、例えば銀行のライセンスを持つ企業がステーブルコインを提供しようとしても、メタマスクのようなプラットフォーム上では提供できないのです。
もし銀行の規制が緩和されると、銀行は100億円でも送金可能なステーブルコインを発行できる可能性があります。
資金移動業では1回の取引に制限があるため住み分けは可能でしょうが、国際貿易など大規模な市場は他の主体に取られてしまう可能性もあるでしょう。
自社で取得するのか、銀行と提携するのかはわかりませんが、我々はいずれかのタイミングで銀行のライセンスである預貯金取扱金融機関のライセンスを取得しなければなりません。
そうでなければ、非常に大きな市場を逃す可能性があるでしょう。
法律がまだ確定していない状況で予測に基づいた動きを行うことが難しい
ーー規制など変化が激しく展開が難しい事業領域だと思いますが、JPYCの事業の中で何が一番難しいのはどういったことでしょうか。
現時点では昨年法律が改正されたばかりであり、うまく適応できていると考えています。
ただ、この分野は法律が2年に1回ほど変わることがあり、国家戦略にも関わってきますので、今後ますます整備が進むことが予想されます。
そうした状況の中で、我々はナンバーワンのポジションを獲得し、競争をリードしている立場にあります。
先を走り続けるということは、法律がまだ確定していない状況で予測に基づいた動きを行うことを意味します。
この点は経営において非常に難しい部分であり、正確な予測ができればリードし続けることが可能になりますが、外れると無駄な投資になる可能性もあるんですね。
このように、非常に不確実性の高い状況の中で経営をマネジメントしなければならず、その難しさを常に感じています。
資金運用でのマネタイズはまだ先
ーーマネタイズはコンサルティングフィーと決済手数料の二つがあるようですが、運用益についてはどのような状況でしょうか。
これからの運用を予定しています。
過度なリスクを取ることはユーザーにとって有益ではないため、慎重な運用になると思いますが、国債などの比較的低リスクな運用が主となるでしょう。
ただし、現在の金利水準では、国債などの運用による利益は限られます。
いまの金利水準では長期国債でさえも1%程度の収益しか得られません。
いまJPYCは16億円発行し3億円ほどが流通していますが、それで1%の運用益では大きな収益にはならないんですね。
したがって、100億円、1,000億円といった規模の資金が流通するようになってはじめて一定の利益を得ることができる運用が実現すると考えられます。
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岡部氏のインタビュー、2記事目では「銀行で検討が進んでいる日本円のステーブルコインにパブリックチェーンのものはない」「JPYCは資金移動業のライセンスを取得し最終的には銀行になる」などについて伺います。
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