Slash Fintech LimitedでファウンダーCEOを務め、事業を展開する佐藤伸介氏に、暗号通貨の規制や魅力について伺いました。
インタビュー・編集:内田 誠也
執筆:山本 裕司
佐藤 伸介氏 プロフィール
2011年、東京、⾚坂にクリエイティブプロダクション会社Holyday Inc.( https://holyday.co.jp/ )を設⽴し、店舗開発やシステム開発、デザインなど多岐にわたる事業を展開。2020年より、シンガポールを拠点に決済システム開発事業を展開しつつ、Web3分野のプロジェクトマネジメント⽀援、開発パートナーとして活動。2021年よりシンガポールで⾃⾝初のWeb3プロジェクトとしてSlashプロトコルの開発を始め、2022年5⽉にBritish Virgin IslandsにSlash Fintech limited( https://slash.fi/ )を設⽴し現在に⾄る。
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プロジェクト初期は早い意思決定が正義
ーーガバナンストークンを発行されるということは、将来的にはSlashもDAO化を視野に入れているのでしょうか。(Slashのガバナンストークンについては1記事目を参照)
長期的にそういう可能性もある、という意味ではイエスです。
プロジェクトの初期は全てをDAOで進めるより、意思決定が早い会社組織のほうが推進力があり機能する、というのが私の見解です。
もちろんビットコインのように完全に分散化されたエコシステムは美しく素晴らしいものだという考えは前提ですが、実社会にブロックチェーン技術をインストールしようとするスタートアップがイノベーションを起こす際に、その方向性に対して投票を募るDAOであることが最適なフォーマットだとは考えていません。
一方で、veSVLトークン※を保有し、ガバナンスに参加する投資家の意向に寄り添いながらプロジェクトを社会実装させて行く必要があることも事実です。
※編集者注:Slashが発行予定のガバナンストークン。詳細は1記事目を参照
そのため、一つの目的を達成をするために必要不可欠であるという事実が明確になった際に、その真の必要性の元で、DAO化に舵を切るの事が大事なのではないかと思っています。
投資家がトークンやNFTを買い続けなければ機能しないプロダクトは持続性がない
――暗号通貨による決済に興味を持ったきっかけを教えてください。
2020年のDeFiサマーなどで暗号通貨、特にDEXに触れていくうちに、暗号通貨の自由で開かれた世界に魅力を感じるようになりました。
特に、各取引所に上場せずともユニスワップで価格がつくこと、流動性が作れることに興味を持ちました。
誰の手も借りずに価値が担保できて、自分たちのマーケティング次第でエコシステムが作れる。これは面白い、と。
しかし同時に学んだことは、「投資家がトークンやNFTを買い続けなければ機能しないプロダクトは持続性がない」ということで、自分がプロダクトを立ち上げる際には適切に収益が上がり持続可能なプロダクトを作ろう、と考えるようになりました。
そういった背景などもあり、決済事業というのは手数料の収益を立てつつ、裏側でトークンの活用もでき、それらを包括するエコシステムも作れるということで始めたのがSlashです。
日本以外の国も規制は厳しい状況
――シンガポールで暗号通貨の起業家が増えていると思いますが、シンガポールは暗号通貨の領域で起業しやすい、事業を進めやすい環境なのでしょうか。
必ずしもそうではないと思います。暗号通貨に関してはシンガポールでも規制も厳しくなっていますし。
私がシンガポールにいる理由は、Web3ビジネスを行うためというよりも、税制と自分自身の起業家としてのマインドを常にアップデートするためです。
シンガポールでWeb3プロダクトの起業家が増えている風潮はありますが、最近はビザの取得のしやすさからドバイでプロダクト開発をしている若い起業家が増えている印象です。
――暗号通貨関連で起業するにはどこの国が適しているのでしょうか。
例えば米国などは市場は巨大ですが税制面ではとても厳しい環境です。米国は全世界課税で市民権を持っているとどこに住んでいても課税されるんですが、その面で金融業界ではアメリカ国籍の方は腫れ物に触るような印象を持たれているような気がします。
スイスでもシンガポールでも金融機関で口座を開こうとすると、米国の市民権をもっているか必ず聞かれます。米国市民権があるユーザーについては、課税当局から問い合わせがあると必ず回答しなければならないようです。
日本も規制などさまざな障害がありますが、だからといって他国がすごくやりやすい環境かというとそうでもないというのが実情ですね。
全ての環境にメリットデメリットが存在しますので結局は自分がどの環境において一番パフォーマンスが発揮できるかで働く場所を選べば良いのだと思っています。
違法とされているものをいかに合法に見せかけるかということにエネルギーが割かれてしまっている
――日本国内でもっと暗号通貨関連で起業しやすくなるためにはどうすればいいのでしょうか。
Web3ビジネスの本質は価値交換です。しかし現状、日本では価値交換は暗号資産交換業規制の配下にあり、本質的なビジネスを立ち上げたいと思うスタートアップはとても苦労している印象です。
それが規制当局の考え方ということだと思いますが、過度な消費者保護がイノベーションを阻害しているという考え方もあり、日本で起業するWeb3スタートアップの事業の方向性を捻じ曲げていると考えています。
例えば、ファンジブルトークンを直接法定通貨に交換できないからといって、間にNFTを介在させて交換するというスキームを作っているスタートアップがあったりします。ファンジブルトークンをNFTに換えて、NFTを法定通貨で買い取れば円に転換できるといった手法です。
パチンコの3店方式と同じですよね。パチンコの景品を別の換金業者に買ってもらって現金化しているから、賭博には当たらないという原理と似ています。
本来のWeb3領域におけるイノベーションの方向とは別で、規制されているものをいかに合法に見せかけるかということにエネルギーが割かれてしまっていて、そこに本質的なイノベーションは無い気がしています。
こういった抜け道をついたビジネスについて普段強く追及する事はありませんが、努力する方向を間違っているというか、事業の方向性が捻じ曲げられていると強く感じます。
国の規制の抜け道を見つければ事業になるという考えでやっていくと、どんどんWeb3ビジネスの本質から離れガラパゴス化が加速すると思っています。
日本のWeb3領域のスタートアップがより本質的な事業展開を望むなら暗号資産交換業者との協業が一つの答え。
日本で暗号資産交換業者の数は約30社程度と把握していますが、利益が出てビジネスとして回っているのは上位5社程度と聞いた事があります。これは日本において取引所のビジネスモデルが飽和している証拠でもあります。
この10年は顧客開拓に切磋琢磨していたビジネスモデルから、暗号通貨が社会実装される本質的なビジネスモデルを交換業者が率先して推し進める必要があるのではないかと思っています。
Web3領域のスタートアップがトークンでの価値交換をビジネスに組み込む場合に、どこかの交換業者と協業する、Web3スタートアップとの業務提携を交換業者が率先する、などの新しいカルチャーやムーブメントを、Web3立国を主張する政府機関が推奨するべきだと感じています。
Web3スタートアップは既存の交換業者の監修の元で安全に攻めたプロダクトを作り、グローバルスタンダードを創造する為に切磋琢磨する環境が日本には一刻も早く訪れるべきです。
サービス成長のためにはユーザーの母数の成長が必須
――現在、プロジェクトを進めていく中でどのあたりに難しさを感じていますか。
私らのサービスの成長ももちろん重要なのですが、暗号通貨のユーザー自体が増えないとその上で展開される私らのサービスもそれ以上には成長できませんので、暗号通貨のユーザーの母数が増えてほしいというのが第一です。
ただ、ユーザーが少ないというのは確かに難しさではあるのですが、市場や業界が広がってから参入すると乗り遅れるので、このタイミングでベットしているのは長期的には間違っていないと感じています。
数年単位での相場の波はあれど、暗号通貨の市場自体は衰退することがないと考えており、これから市場が広がった時に事業として適切なポジショニングがとれていることを意識しています。
DEXで流動性を得て、スワップできる環境があるからこそトークンに価値が生まれる
――暗号通貨のどのような点に将来性を感じていますか。
いまのインフレがわかりやすい例ですが、現在の管理通貨制度には危うい部分が出てきていて、そこにちょうど暗号通貨がフィットしてきている。
ビットコインに対してはいろいろな意見がありますが、少しずつ普及は進んでいるし、エコシステムも完全に分散化されている。少しずつビットコインに法定通貨の価値は移動していくと考えています。
その先ではビットコインの機能を補完するトークンが今後もさまざま登場すると思うのですが、トークンというのは条件さえそろえば誰でも発行可能です。なので、トークンはただの箱であり、それ自体には大きな価値はない。
そこにユニスワップなどDEXで流動性を得て、スワップできる環境があるからこそトークンに価値が生まれる。
そうした、中央集権的でなくともエコシステムができあがっていること、そういったところが美しいし、将来性を感じます。
現代の管理通貨制度の移行先がビットコインや暗号通貨になる可能性は十分にありえる
――改めて、ビットコインについて佐藤さんがどのように見ているのか教えてください。
私は、ビットコインだけを信じているというよりも、ビットコインを軸として、他のトークンが共存する世界の到来を信じている。
私がビットコインに惹かれるのは、国や組織が、意図をもって作り上げたシステムではないということ。完全に分散化されたコミュニティによって自然発生的に作り上げられた価値を持っているところです。
もちろん、ビットコインはサトシ・ナカモトを起点としたプロジェクトですが、サトシは初期にプロジェクトから離脱しており、その後はサトシ以外のメンバーにより自立分散的に価値が高められ、それが通貨という国家の基盤を揺るがすような存在になっている。それが美しいと思います。
ーー今後、ビットコインはもっと世の中に普及していくと思いますか。
今は、法定通貨をベースにモノの価格を考えるのが一般的です。
例えばこれから車を買うとなったときに、100万円、200万円と法定通貨建てで考えますよね。でも私はいずれ、ビットコイン建てで考えるようになると考えています。車を1BTCで買う、2BTCで買う、と。
いまはそうした方向に進ませないようにしている国家と、暗号通貨を世界共通にしようというカルチャーがせめぎ合っている状態です。
だからこそ国や既存体制は、お金1.0であるフィアットの法律にお金2.0である暗号通貨を無理矢理に当てはめようとしてテクノロジーとして矛盾が生じるような規制が生まれていたりする。
これには大きな違和感を感じていますし、変えなければならない風潮です。
過去を振り返れば、1971年のニクソン・ショックで金本位制が終わりを告げ、今の管理通貨制度に移行しました。
現代に生きていると管理通貨制度が当たり前のように感じますが、現在の管理通貨制度というのは歴史としてはたった50年しかなく、いまのように歪みが出ている状態では今後新しいシステムへ移行することは十分にあり得る。
そしてその移行先のひとつとして暗号通貨、特にビットコインが中心となる可能性は十分にあると考えています。
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佐藤氏のインタビュー、次回3記事目では「CBDCが決済サービス普及の鍵に」「日本の暗号通貨決済領域はブルーオーシャン」などについて伺います。
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