Cosmosの開発に携わる藤田氏に、最近のCosmosの開発の進捗や今後の特徴的な開発について伺いました。
FUJITA TAKUYA氏 プロフィール
Cosmos Japan Admin。学生時代にBitcoinに触れ、Dapps開発などを始める。大学卒業後、2019年にエンジニアとしてHashHubにジョイン。個人の活動として、Cosmos Japanの運営を行い、HackAtomやEth Global Tokyoなどのハッカソンでもいくつか受賞。HashHub退職後の現在は、Cosmos関連のアプリケーション開発に携わっている。
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取材実施日
2023年6月16日
ATOM2.0ではインターチェーンセキュリティに注目
ーー2022年の第4四半期から今年にかけてのCosmosの進化や変化について教えてください。
大きな変更点はロードマップの更新です。
プロジェクト開始当初のホワイトペーパーの内容はすべて実装され、次の段階へと進むべく、2022年の10月にATOM2.0がコア開発者から公開されました。
その中で最も重要なのがインターチェーンセキュリティの導入です。
これは、Cosmos Hubから新たなチェーンへセキュリティを与えるための機能です。
これにより、新たなエコシステムに必要なチェーンが、最初から十分なセキュリティを持って起動できるようになります。
今後は、単にトランザクションを送るだけでパーミッションレスにセキュリティを得られるようにしたり、更に強固なセキュリティを構築するためのエコシステムを開発したりと、もう一段階先に発展していく段階です。
ーーそのセキュリティはどのチェーンにも提供されるのでしょうか。提供を受けるためのハードルは高いでしょうか。
セキュリティを提供する先のチェーンはガバナンス投票によって決められますが、現状ではエコシステムが必要とする場合にのみ提供されます。
例えばPolkadotではDOTトークンによるオークションが行われるなどしていますが、Cosmos Hubではそのようなシステムはありません。
そのためチェーン間での競争などはないんですね。
ただし、現在のインターチェーンセキュリティの第一段階では、Cosmos Hubを運用するバリデータが新しいチェーンのバリデータを兼任する必要があります。
そのためバリデータが多くのチェーンを管理しなければならず、管理コストが高まるという課題が生まれます。
この課題を改善するために、バリデータが好きなチェーンのみに参加できるようにするなど、より柔軟なシステムに変更していく予定です。
ーーセキュリティが付与される枠は上限が決まっているわけではなく、ある程度の基準を満たせば上限なく提供されるということでしょうか。
そのとおりです。
インターチェーンセキュリティはどのように提供されるのか
ーーセキュリティがどのように提供されるのか具体的に教えてください。
特に考慮される場面はエコシステムです。
Cosmos SDKで作られているチェーンは、DPoSというコンセンサスアルゴリズムで動いています。
そのため、トークンを持つホルダーは、バリデータに対してデリゲートし、その過程で報酬を得るスキームになっています。
しかしデリゲートすると自分の資産がロックされてしまいますよね。
それではATOMの流動性が減少してしまうため、stETHのように、ステーキングの証明となるトークンを発行することで流動性を保つプロジェクトが出てきています。
このプロジェクトは、エコシステムにとって重要度が高く且つセキュリティを担保するべきだという判断から、Cosmos Hubはセキュリティを提供する方向で動いています。
そして最終的には、ATOMホルダーが検討し決定を下します。
そのほか、セキュリティだけでなく、バリデータが十分な収益を上げられるかどうかも考慮されるはずです。
インターオペラビリティをより確実に実現するインターチェーンスケジューラの開発
ーーセキュリティ以外で特徴的な開発はありますか。
いくつかの動きがありますが、例えば、インターチェーンスケジューラという機能が開発の候補として挙がっています。
これはブロックにトランザクションを入れる権利を前もって購入できる仕組みです。
CosmosもMEV(Miner Extractable Value)的なものが発生しやすくなっており、チェーンがたくさん繋がって多くのトランザクションが実行されるとバリデータが先行的にMEVで間接的に利益を得るみたいなことが起きやすいんです。
ーーどういうことでしょうか。
Cosmosは異なるチェーン間の互換性や相互運用性が重要なプロジェクトです。
その中で、例えばチェーン間またはプロジェクト間の連携が行われる際、相手方のチェーンがトランザクションで混雑していて、自分たちのチェーンからのトランザクションがうまく実行できなかった場合、インターオペラビリティは無意味になってしまいます。
それを避けるために、前もって特定の時間やブロックにアクションを書き込める領域を確保できる仕組みが必要で、それがインターチェーンスケジューラです。
今後は、そのブロックにトランザクションを入れる権利をNFT化し、流通させる話も挙がっています。
Cosmosとビットコイン、イーサリアムの接続状況
ーービットコインやイーサリアムチェーンとの接続状況について教えてください。
まず前提として、「Cosmosチェーンはファイナリティを持ったチェーン同士を繋げることができる」というのがインターオペラビリティに使用されているIBC規格の条件です。
そのため、あくまで確率的なファイナリティーであるビットコインやイーサリアムと直接インターオペラビリティを持つことは難しいというのが現状です。
そのうえで、それでもビットコインやイーサリアムのアセットを移転したいと考える場合、例えばイーサリアムではファイナリティが存在しないため、取引所と同じように一定数のブロック数を待ち、その取引が安全かどうかを確認する必要があります。
Cosmosがビットコインやイーサリアムのエコシステムと結びつき、常に資金的な流動性を持つことは非常に重要ですが、それを主な目標としたプロジェクトは現状ではないと思います。
もちろん、イーサリアムと接続したいとは考えており、IBCのインターオペラビリティをSolidityでも実現しようとする動きもあります。
しかし、それはガス代などのコストを考慮すると大変で、そのため低コストでインターオペラビリティを実現するためのゼロ知識証明やTEEを使ったプロジェクトも存在します。
スケーリングや各チェーンのスケールの加速のためにインターオペラビリティを実現させるのがCosmosのゴール
ーーCosmosはいま時点では具体的にはなにをゴールとしているのでしょうか。
この質問については、改めてCosmosの歴史を追いながら説明するのがいいでしょう。
まず最初に、Cosmosにはチェーンを立ち上げるための開発キットであるCosmos SDKというものが存在します。
その中で使われているコンセンサスアルゴリズムのエンジンはTendermintコアと呼ばれています。
Tendermintコアの開発はCosmosの創設とは別の経緯で始まりました。
ビットコインのスケーリング問題を解決するための取り組みの中で、PoSやDPoSが検討され、それを実際に実装したものがTendermintコアなのです。
ーー続きを教えてください。
ビットコインでは世界中の人々がノードの運用に参加し、マイニングが行われますよね。
TendermintコアやDPoSのメカニズムでは、ノードの数が限定され、比較的少ないノードでの運用が可能となり、トランザクションのブロックの生成が早くなります。
しかし、これだけでは分散性とトレードオフであり、そのため開発されたのがデリゲーションというメカニズムです。
具体的には、ATOMの保有者は他者に自身のATOMの投票権を委託することで、各バリデータは自分たちのPoSの投票力を持つことになります。
これにより、バリデータ間でデリゲートの競争が生じ、健全なチェーンの運用が継続されることになります。
これがTendermintコアの基本的な概念です。
それでビットコインとの大きな違いがなにかというと、ファイナリティの有無です。
ビットコインでは、時間が経つほど確定性が増す確率的ファイナリティを採用しています。
Tendermintではノードの数が固定されているため、悪意のある行動がほぼ作成できない仕組みになっており、ブロックが生成された瞬間にその状態が確定し、後からハッキングによる巻き戻しが起こり得ないという特性があります。
チェーンのステートが覆りえないTendermintの仕様では、チェーンAからチェーンBにあるトークンを送付した際に、チェーンBのステートが巻き戻ってチェーンAから送ったはずのトークンがなくなってしまった、ということを防ぐことができます。
これがCosmosプロジェクトの発端であり、非常に重要な点です。
このように、Cosmosはスケーリングの問題を解決することから始まったプロジェクトです。
その中で、「アプリケーションごとに機能を持ったチェーンを作成し、それぞれの必要な処理を分担させることで各チェーンのスケールもさらに加速させていきたい。そしてそのためにはインターオペラビリティが必要である」というのが現在、Cosmosが目指している世界観です。
Cosmosの間接民主主義的なガバナンスのあり方をきっかけに興味を持つ
ーー多くのプロジェクトがある中で、藤田さんはなぜCosmosに興味を持ったのでしょうか。
2019年から2020年にかけて、MakerDAOやUniswapがガバナンストークンを発行して話題になっていたのですが、それに伴い、DAppsがどのように持続的に運営されるのかという問題が浮上していました。
私は、持続的に運用されるアプリケーションは必ずガバナンスが必要で、それに対しトークンホルダーが直接的にガバナンスに参加しなければならない仕組みに疑問を持っていました。
なぜなら、多くのプロジェクトはガバナンストークンの保有者が自分自身で投票に参加する仕組みを採用し、間接的な民主主義の仕組みが確立されておらず、投票率が低いのです。
人間の意思決定のコストはそれほど安くないということの証明であり、現実的ではないと感じていました。
そのような中、Cosmosが提供するガバナンスとDPoSの間接的な民主主義の仕組みが似ていると気づき興味を持ち始めたんですね。
DPoSは自分自身で投票することもできますし、トークンをバリデータに預けバリデータを通して投票することも可能です。
これが持続的なアプリケーションを作るための仕組みとして非常に興味深い、現実的だと感じました。
ーーDPoS以外ではCosmosのどのような点に興味を持たれていますか。
経済的リターンの追求のみならず、理念に基づいて着実に開発を進めている点に特に魅力を感じます。
例えば、セキュリティの提供というインターチェーンセキュリティの取り組みは、Cosmosが持つ「ブロックチェーンの分散」という思想にまさに合致する部分です。
インターチェーンセキュリティの取り組みにより、Cosmosはより安全にエコシステムを広げていくことができるのです。
そういう意味でインターチェーンセキュリティの取り組みはCosmosにとって重要な機能であり、そしてそのようなあるべき取り組み、開発を進め続けている点に特に魅力を感じます。
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藤田氏のインタビュー記事、二記事目に続きます。
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