「先物とスポットのマーケットでアービトラージして利益を出すということをやっていた」貴金属スペシャリスト・池水雄一氏 3/3

貴金属スペシャリストの池水雄一氏に、ディーラー時代の取引などについて伺いました。

池水雄一氏 プロフィール

1962年生まれ兵庫県出身。1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社。1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産株式会社で貴金属チームを率いる。2006年スタンダードバンクに移籍、2009年同東京支店支店長就任。2019年9月日本貴金属マーケット協会代表理事。趣味はラン&トライアスロン。

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取材実施日

2024年3月13日

貴金属のスペシャリストトレーダーとして約40年間活動

ーーご経歴について教えてください。

1962年生まれ、今年で62歳です。

社会人1年目に住友商事に入社し、貴金属部に配属されたことが現在のキャリアの始まりとなりました。

一般的に日本の企業には数年ごとに様々な部署を経験するジョブローテーション制度がありますが、私は入社から4年弱でクレディ・スイスというスイスの銀行にヘッドハントされました。

この転職が貴金属のスペシャリストトレーダーとしてのキャリアを歩むきっかけとなり、約40年間、この分野で活躍してきました。

クレディ・スイスを退社後は三井物産で14年間、その後スタンダードバンクで14年間勤務しました。

スタンダードバンクがアジアの支店をシンガポールに集約することをきっかけに、58歳で会社員としてのキャリアを終え、現在は日本金属マーケット協会(JBMA)という社団法人を設立しました。

長年にわたる貴金属取引や投資の経験を活かして特に個人投資家向けに金属市場を広げる活動を行っています。

参考:【JBMA】一般社団法人日本貴金属マーケット協会 – Japan Bullion Market Association

フィジカルな部分の面白さがあるのがゴールドの取引の魅力

ーー住友商事の貴金属部ではどのような業務を担当されていたのでしょうか。

住友商事では、市場での価格変動を利用して利益を得る貴金属の取引と、実需に基づくフィジカルな商品の流通を通じて利益を得る取引の二つを行っていました。

具体的には、貴金属のトレーディングのほか、鉱山会社や精錬会社から貴金属を購入し、それを材料として必要としている日本の企業に販売するといった、輸出入も行っていました。

ドル建てのゴールド取引はドルとゴールドの為替レートに基づくため、本質的にはドル円の取引と同じです。

そのため、ゴールドのトレードは単に価格の上下だけでなく、実際の現物をロンドンから持ってきて、持ってきたゴールドをシンガポールに持っていくとどれぐらいの差異がとれる、といったフィジカルな部分の面白さがあるんですね。

そういった取引に携われたのは非常にラッキーだったなと思いますね。

ーートレーディングと実需ベースの取引の二つの取引があったとのことですが、主にどちらに取り組まれていましたか。

1年目は実需チームに配属され、顧客とのやり取りなど、主にセールスやマーケティングの役割を担うマーケターとして活動。

2年目からはディーリングチームに移り、インターバンクトレーダーやディーラーとして市場での売買などを行っていました。

その後はトレーダーやディーラーとしての活動が中心になりましたね。

先物とスポットのマーケットで薄利多売で大量にアービトラージして利益を出すということをやっていた

ーーディーラー時代はどのように業務を学び、取引されていたのでしょうか。

なにかOJTがあったというよりは、主に、上司の隣で実際の取引を見ながら学んでいましたね。

私がキャリアをスタートした1980年代というのはまだパソコンが普及しておらず、電卓で計算しながら取引していた時代です。

当時、東京工業品取引所という取引所があったのですが、そこにゴールド、プラチナ、シルバー、パラジウムに先物とスポットのマーケットがあり、その二つのマーケットで薄利多売で大量にアービトラージして利益を出すということをやっていました。

ただ、これをやるためには先物とスポットの違い、値差の計算の仕方などを適切に理解し、「なぜ今、先物ではこの価格ではスポットではこのような価格がついているのか」ということを理解していなければなりませんが、理解せずに取引している人がたくさんいました。

それで理解している私のような人間が利益を出すことができたのですが、そんな形で当時大量に大量に売ったり買ったりというのをやっていて、当時は楽しかったですね。

いち早く表計算ソフトをトレードに活用し先行者利益を得る

ーーパソコンが導入され、取引のパフォーマンスや効率は大きく変化したのではないでしょうか。

まだエクセルが発売される前の話で、マルチプラン、ロータスワンツースリー、それでエクセルという流れだったんですが、初めて表計算ソフトを見た時はすごい衝撃的でしたね。

東京の市場でエクセルを最初に活用したのは私だと思いますが、これまで全て計算機を叩いて計算していたのが、定数、例えば為替を変えるだけで計算結果を再算出することができて、世界が変わるなと思いました。

おかげで他の人たちが同じようにエクセルを使いこなせるようになるまで私は大きく利益がとれました。

要は、言ってしまえばすごく簡単なことではあるのですが、やっぱり最初にやる人が一番大きく儲かるということを自分の経験をもって知ることができましたね。

ーー三井物産ではどのような業務を担当されていたのでしょうか。

アービトラージなど、利益を生み出す取引が中心でした。

取引のほかにも、上司から「外部から優秀な人材をどんどん連れてきて」という方針を受け、丸紅や日商岩井、ニチメン、トーメンなど、国内のトレーディング業界から優秀な人材を三井物産に引き抜き、組織作りにも従事しました。

上司の逝去や社内の変化があり、14年間の勤務を経て退職しましたが、各社から集めた優秀な人材と、取引論などを議論しながら熱量を持って働き、高い成果をあげることができたあの経験は今でも良い思い出です。

イラン・イラク戦争開戦時のゴールドのトレード

ーートレーダー時代で特に印象的な取引やエピソードについて教えてください。

ロシアでクーデターが起こって当時のゴルバチョフ大統領が保守派に捕まったときなど、そういった地政学的に大きい出来事があるとゴールドは強く反応しますし、往々にしてそういったことは日本時間に起こるんですよね。

そういったときは本当にマーケットめちゃくちゃになって逆にアドレナリンが出まくって、面白いですよね。

参考:1991年のソ連クーデター未遂、佐藤優氏らゴルバチョフ大統領の動静確認に奔走「大混乱の可能性」

例えば、イラン・イラク戦争のときは日本時間の朝に開戦が報道されて、Tocomではゴールドが急騰し、個人参加者もどんどん買ってました。

海外のスポットマーケットを買い、Tocomを売ることで、私もアービトラージでガンガン取引していて、午前にはTocomはストップ高になるほど上昇しました。

ところが、午後になると、オーストラリアから大きい売りが出てきたんですね。金の鉱山会社がチャンスと思ったので一気に売ってきたんです。

それで私たちもその売りを受けてTocomをガンガン売っていたのですが、Tocomの一般投資家の買いは続かず、午前中とは逆に、最終的に午前中買っていた個人投資家も売りに周りTocomは急落、ストップ安になりました。

ゴールドのマーケットはそういった非常にエキサイティングな相場が数年に1度はありましたね。

ーーイラン・イラク戦争の際にゴールド価格が上昇したのはなぜでしょうか。

ゴールドは政治的不安や地政学的リスクが高まる際に最も信頼できる資産として買われる傾向にあるため、「Last Haven」「Last Resort」と呼ばれます。

このような傾向は過去に何度も見られていますが、一旦価格が急上昇した後は落ち着くことが多いです。

そのため、最近だと平時にゴールドを買っておいて、地政学的リスクによって価格が急騰したら売るという戦略を取る人も多いですね。

アービトラージを行う商社は全体から見ればマーケットに対して非常にニュートラルな存在

ーーゴールドの価格が急騰した際にはやはりアービトラージで取れる鞘の幅も広がるのでしょうか。

かなり広がりますね。個人投資家は理論価格は無視して買ってきますから。

個人投資家は絶対的な価格を見て「ゴールドは上がるから買う」といった取引をしていますが、我々アービトラージャーは、「この先物はスポットに比べて高すぎるからスポットを買って先物を売る」ということをやっていて、そういった意味でそれぞれの視点はまったく異なります。

言ってしまえば、アービトラージャーはマーケットに対してニュートラルな存在なんですよね。売った分だけ買っているので。

例えば、先物が異様に高ければ先物を売るわけですが、そういった先物市場だけ見れば商社が売浴びせているように見えて、一般の人からは「商社が売っているからゴールドの価格が上がらない」となります。

しかし、我々はあくまでアービトラージャーなので、先物を売っているということはそれだけスポットを買っています。

なので我々が先物を売っているからゴールドの価格が上がらないということはありません。

昔からこういった取引をわかっておらずコメントする人がいるのですが、今でも結構いらっしゃいますね。

ーーアービトラージを行う際は当日中にポジションは清算するのでしょうか。

アービトラージのポジションはプライスリスクを取っていないので、日を跨いだ裁定ポジションというのは普通に取ります。

ゴールドをロングする、ショートするといったアービトラージ以外の取引では夜間はポジションをスクエアにして安心して眠れるように清算していましたね。

ーー最後に読者へメッセージをお願いします。

私自身、ゴールドはメインの投資対象になりづらいと考えてはいるものの、皆さまにもゴールドを購入することを前向きに検討してほしいと感じています。

繰り返しになりますが、保険のような役割としてポートフォリオに一定量保有しておくことは、非常に有効だと思います。

他の資産とは全く異なるリスク特性を持つゴールドを保有することは、投資ポートフォリオに安定性をもたらす、意義深いということをお伝えしたいです。

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