暗号資産取引のためにどのように合同会社を設立し、なにに注意すればよいか

これはなにか

実際に暗号資産取引のために合同会社を設立したトレーダーによるレポートです。

なぜ書くか

昨今の暗号資産市場および日本の個人における暗号資産取引の課税状況を鑑み、筆者と同様の目的で会社設立を検討している(または本記事によって検討する)読者が一定数存在し、記事を執筆することに一定の社会的意義があると判断したため。

なぜ会社を作ったか

税制上の利益を享受するため。個人としての暗号資産取引による利益は雑所得となるため、例えば会社員なら会社からの給与所得と合わせて累進課税で適応されます。所得が合計900万円以下であれば23%の所得税と法人税の23%と同等となります。

しかし900万円を超えると33%、最大で4,000万円を超えた場合は45%の税率が適応されます。かつこの税率については直近改善される予定もない状況です。

これらの状況を鑑み会社設立に至った、というのが背景です。

そのほか、経費の計上や損失の繰越、暗号資産関係なく会社として業務を受諾、サービス運用を行う予定であることも理由として含まれます。

下記は国税庁の「所得税の税率」の引用です。所得税率 個人

法人であればどの程度の税率が適用されるか

法人税の実効税率は、法人所得のそれぞれの額面に対して、

800万円以下:15.0%

800万円超:23.2%

と2段階に分けて適用されます。

※資本金が1億円以下で適用除外事業者でない法人の場合。詳細はこちらを参照:法人税の税率(国税庁)

そのため、単純に税額を適用して計算することはできません。

所得が1,500万円の場合は、下記になります。

所得ステージ適用税率計算式税額
800万円以下15.0%800万円*15.0%120万円
800万円超23.2%700万円*23.2%162.4万円
合計120万円+162.4万円280.4万円

280.4万円/1500万円で18.6%となります。

なお、法人は個人と比較して経費適用範囲が増えたり、個人であれば所得控除が存在することなどもあり、単純な税率の差だけで法人設立の判断を行うことは推奨しません。

なぜ株式会社でなく合同会社なのか

暗号資産取引を行うためには合同会社で十分に要件を満たしており、かつ株式会社と比較し設立費用が抑えられるため。後述しますが、筆者は7万円強の費用で会社を設立できました。株式会社の場合ではおおよそ24万円以上が経費として発生しこの差額分の経済的利益を享受したいというのが主な理由です。

▼発生する費用に関してはこちらを参照

https://vs-group.jp/tax/startup/llc/

どのような税理士に相談したか

暗号資産に知見のある、ホワイトテック会計事務所に相談しました。

今回、一定の相談を税理士に行い再認識しましたが、暗号資産で多様な取引を行っている場合は、暗号資産に知見のある税理士でないと相談が大変むずかしいです。

「ステーキング」「DeFi」「マイニング」など最低限これらの用語について十分に理解できている税理士である必要があります。自ら取引やマイニングを行っている税理士であるとより望ましいでしょう。

ホワイトテック会計事務所サイト

どのようにして作ったか

定款の作成等は設立freeeを使う、定款は電子認証を採用する、など可能な限り費用がかからない方法で手続きしました。

司法書士に依頼すると10万円(実費除く)の相場で依頼できたのですが、私の場合は時間に余裕がありかつ費用をあまり掛けたくなかった、純粋に会社の設立手続きに興味があったためこのような方法を選択しました。

司法書士を利用せず自身で手続きしたい場合は「freee会社設立」の利用を推奨です。

https://www.freee.co.jp/launch/

会社を作るためになにをやったか(時系列順)

  • 税理士に相談
  • 設立の意思決定
  • 会社設立freeeを利用し定款を作成
  • CD-RおよびCD-R書き込みのポータブルドライブを購入(電子定款の作成に必要)
  • 会社の印鑑を作成
  • 個人の印鑑を印鑑登録
  • 定款を作成
  • 専門家の定款チェックと電子署名
  • 口座に資本金を入金、入金証明をとる
  • 書類をまとめる
  • 登記
  • 履歴事項証明書など取得
  • 法人用、銀行口座の作成
  • 法人用、取引所アカウントの作成

どの程度の期間がかかったか

1~2ヶ月がかかりました。これは単に途中でほかの業務などが忙しくなったり私の怠惰な性格のためであり、同じ方法論でも最短2-3週間に圧縮できます。

合同会社を作るのにどのような費用が発生したか

  • 登記免許料 6万円
  • 電子定款作成用のCD-R 455円
  • CD-Rを書き込む用ポータブルドライブ 2,059円
  • 会社の印鑑 1.59万円(設立freee経由で発注)
  • 専門家の電子署名費用 0円(freeeに課金したため、本来0.5万円、紙での定款の場合は印紙代: 4万円)

合計 78,414円 計算式

電子定款の採用、freeeに課金などにより78,414円と比較的費用を抑えることができました。前述しましたが司法書士に対応を依頼する場合は上記実費費用プラス、依頼費用10万円が相場のようです。

また、設立freee経由で1.59万円で会社の印鑑を作成しておりますが、5,000円前後で楽天で作成可能と風の噂を聞きました。余力がある人は調べてみるのもよいでしょう。

そのほか、上記はあくまで法人登記のために必要な費用であり、税理士の顧問料や法人設立後の法人銀行口座、取引所のアカウント開設等のために一定の費用が発生することもお忘れなく。

自分で会社設立の手続きをすべきか、司法書士に依頼すべきか

シンプルに、司法書士への依頼費用10万円とのトレードオフでの判断になります。

前述のとおり私は時間的余裕があり費用も抑えたかったため自身で手続きを行いました。しかし会社設立の手続きは煩雑なものが多く、そのような作業に時間や脳のキャパシティを取られたくない人、10万円の費用が痛手でない人は司法書士に頼むのがよいです。

自分で作れるのか不安な人に対してより詳細な説明をしておくと、手続き自体はだれでもできます。

設立freeeは大変便利なサービスで、誰でも煩雑さを可能な限り圧縮して手続きすることができます。手続きの順番の理解や必要な書類のダウンロードなどかゆいところに手が届く大変便利なサービスです。

ただ会社の設立は役所との手続きであるため、手続きの順番や方法に一定の理解が必要で、脳のキャパシティを一定とらるのは必至です。これらを考慮し総合的に判断してください。

暗号資産取引のために法人を作るのを推奨するか

前述したとおり、法人の設立費用以外にも法人用銀行口座や暗号資産取引所のアカウント開設手続き、そのための会社のHP作成や税理士の顧問料など一定の労力・費用が必要となります。これら一連の手続きについて労力または費用をかけられない場合は推奨できません。

また、言うまでもありませんが、暗号資産取引自体で法人設立に見合うだけのリターンが見込めるかも重要なファクターです。

法人を運用する場合、税理士の顧問契約は必要か

私個人の意見としては、必須であると考えます。

後述する各種事務手続き決算書の作成、各種税務ルール確認、記帳作業・記帳ルール確認など、税務経験のない個人が一人で完結させることは非現実的であると考えます。

私は商業高校出身で簿記や会計において一定の基礎知識がありましたが、それでも税理士なしでは対応は不可と感じました。まして簿記や会計の知識の土台がない方は顧問税理士がいたとしても最初は理解に苦労するでしょう。

取引所の法人アカウントは簡単に作れるか

まだ開設手続きを行っている最中ではありますが、国内の取引所についてはそれほど難しくなく、海外の取引所はやや困難な印象です。このあたり知見や経験がある方はぜひ助言いただきたいです。

法人運営における注意点1:前期納税額の半分を予め納付する予定納税

前年度の法人税額が20万円を超える法人については、予定納税が必要となります。また、予定納税は前年度の法人税等の1/2の額を、事業年度から8か月を経過する日までに納付する必要があります。

例えば、1期目の税引き前利益が約1,500万円の場合、1期目の納税額はざっくり500万円になります。その場合、2期目については1期目の納税額500万円の1/2である、250万円を事業年度から8か月を経過する日までに納付する必要があります。

1期目はブル相場で多額の利益が出たが2期目はベア相場で利益がゼロないし損失を出してしまっている場合、これは大きな負担になり得ます。場合によってはこの予定納税の存在を知らず、支払えないトレーダーも出てくると思います。

2期目の中間時点で赤字などの場合は仮決算を組み中間申告をすることが可能ですが、そのためには仮決算の作成コストがかかります(税理士に依頼する場合はその費用が発生、おおよそ10万円強が相場)。

中間時点で赤字などの場合は仮決算を組み中間申告をすることが可能ですが、そのためには仮決算の作成コストがかかります(税理士に依頼する場合はその費用が発生)。

2期目の納税額が結果的に予定納税額を下回る場合は還付を受けることが可能ですが、それは決算から3ヶ月後ほどになります。そのため予定納税したお金は、約9ヶ月ほど国に金利なしでプールされることになります。これは投資家・トレーダーとしては大きな機会損失と言えます。

法人運営における注意点2:事務手続きが多数発生

  • 社会保険加入
  • 銀行口座開設
  • 法人住所の変更
  • 役員の住所変更
  • 源泉徴収の納付
  • 各種記帳
  • 各種書類の取り寄せ(履歴事項全部証明書・印鑑証明書など、取得から6ヶ月以内のPDFを各種期間から度々提出を求められる)

など、ググって調べて持っていた認識以上に煩雑な事務手続きが発生しました。各種手続きは顧問税理士に依頼することも可能ですが、1書類につき1万円前後の費用が発生するのが一般的です。

節税のために法人化する方が多いと思いますが、単純な税額だけでなくこのような事務手続きに発生する手間・経済的コストも計算に入れておいたほうがよいです。

銀行口座開設は、各種書類の準備や提出、銀行との面談実施がとても面倒です。

法人住所変更、役員の住所変更など法務局での手続きが発生するものは、印紙代として1手続きで数万円が発生します。これは地味に大きいです。

また、法人の場合は、履歴事項全部証明書・印鑑証明書などなにかにつけて各種手続きで求められそれを煩雑に感じる方は少なくないでしょう。

法人運営における注意点3:銀行口座の開設は簡単ではない

法人の銀行口座開設は簡単ではありません。暗号資産取引における節税が法人設立の主要な目的となっておりそれを口座開設時に銀行に説明する場合は特にそうです。もちろん、銀行口座を開設できなければ暗号資産の取引所アカウントも開設することができません。

GMOあおぞらネット銀行など一部の銀行は比較的口座開設しやすいと言われていますが、口座振替に対応していないという致命的なデメリットがあります。

例えば日本政策金融公庫からお金を借りる場合、口座振替に対応した銀行口座を開設しなくては、審査が通ってもお金が振り込まれません。口座振替に対応した銀行口座とは、ネット銀行以外のメガバンクや地銀などです。弊社はメガバンク三社で開設手続きし、実際に開設できたのは2/3社でした。

法人運営における注意点4:銀行や日本政策金融公庫からお金を借りづらい

会社の売上の大半が投資・トレードによるものである場合、銀行からお金を借り入れられる可能性はとても低いと考えておくのがよいでしょう。日本政策金融公庫の場合、投資・トレードという概念が挟まってくる時点で借入が厳しくなります。借入の目的が暗号資産取引でなく別事業であってもです。

投資・トレード以外の売上があったとして、売上比率が投資・トレードが高い場合は同様です。

「あくまで法人設立は暗号資産の節税のためであるから、銀行からの借入ができなくても問題はない」そうお考えの方もいるかと思います。しかし人の考えというのはいくらでも変わるものです。暗号資産の取引で出た利益をもとに、リスク分散も兼ねて別事業をやろう、時間を経てそう思う可能性は低くないでしょう。

「銀行から借入ができないことを想定として一定の資金を別で確保しておく」「銀行から借り入れできる可能性を残しておくため、暗号資産以外の売上も会社で作っておく」などの事前想定が必要です。

暗号資産以外の売上は個人名義にし法人の役員報酬は低く設定して、社会保険や所得税をトータルで安くする、という考え方について

マイクロ法人で調べるとよく出てくる考え方です。この考え方は経済合理性があると考えられますが、1つデメリットをご紹介しておきます。

前述のとおり、法人で暗号資産取引を行う場合、口座開設がむずかしくなる、借入しづらくなる、などの大きなデメリットがあります。しかし法人で暗号資産以外の売上が経っている場合、これらのデメリットが一定緩和されることになります。

例えば、暗号資産取引の事業にて借り入れすることは困難ですが、暗号資産以外の売上が立っていればその事業に対して借り入れをすることが可能です。暗号資産以外の売上を個人名義にするとこれがむずかしくなります。

このあたりはどちらが正解ということはないので、各々の今後の事業展開などを鑑み、総合的に判断するのがよいでしょう。必ずしも表題の意思決定が合理的であるとは限らない、ということをご認識いただければ問題ありません。

暗号資産の税務や法人設立に関する記事はこちら。