前回は、化粧品産業の事業環境と国内メーカー売上ランキングを紹介したうえで、
- 資生堂(東プ、4911)
- コーセー(東プ、4922)
- ポーラ・オルビスHD(東プ、4927)
という国内大手メーカー3社を比較しました。第2回の今回は業績考察を主なテーマとします。
前編はこちら:化粧品3社の銘柄考察 株式投資家・おせちーず 前編
おせちーず氏 プロフィール
投資歴約32年の女性株式投資家。新卒でシステムエンジニアとして従事し、その後証券アナリストを経て、現在は企業に勤めながら大学で非常勤講師にも従事。『個別株でインデックス以下のローリスク・ローリターン』を追求した株式投資を行っている。
Twitter:https://twitter.com/osechies
ブログ:https://ssizehappy.exblog.jp/
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化粧品3社の基本情報
まずは3社の基本情報です。
資生堂 | コーセー | ポーラ・オルビスHD | |
銘柄コード | 4911 | 4922 | 4927 |
ブランド | クレ・ド・ポー・ボーテ、エリクシール、マキアージュ、アネッサ、アクアレーベル・SHISEIDO | コスメデコルテ、雪肌精、ジルスチュアート、アディクション、ワン・バイ・コーセー | リンクルショット、B.A |
決算期 | 12月 | 12月 | 12月 |
現在は3社とも12月決算ですが、資生堂とコーセーはかつて3月決算でした。
資生堂は2015年に、コーセーは2021年に決算期変更をしています。
この事実を知らずに、業績を振り返ると業績の変化を誤解する可能性があります。
次の売上高推移で詳しく確認しましょう。
売上高推移
過去10期の売上高推移です。
売上高(百万円) | 資生堂 | コーセー | ポーラ・オルビスHD | ||||
2014/03 | 762,047 | 2014/03 | 190,049 | 2013/12 | 191,355 | ||
2015/03 | 777,687 | 2015/03 | 207,821 | 2014/12 | 198,094 | ||
2015/12 | 変 | 763,058 | 2016/03 | 243,390 | 2015/12 | 214,788 | |
2016/12 | 850,306 | 2017/03 | 266,762 | 2016/12 | 218,482 | ||
2017/12 | 1,005,062 | 2018/03 | 303,399 | 2017/12 | 244,335 | ||
2018/12 | 1,094,825 | 2019/03 | 332,995 | 2018/12 | 248,574 | ||
2019/12 | 1,131,547 | 2020/03 | 327,724 | 2019/12 | 219,920 | ||
2020/12 | 920,888 | 2021/03 | 279,389 | 2020/12 | 176,311 | ||
2021/12 | I | 1,009,966 | 2021/12 | 変 | 224,983 | 2021/12 | 178,642 |
2022/12 | I | 1,067,355 | 2022/12 | 289,136 | 2022/12 | 166,307 |
セルに色をつけた2か所で前年と決算期が変わっていることがわかると思います。色を付けた期は9か月で決算を実施しています。変則決算と呼ぶことが多いです。
機関投資家は、変則決算期の実績を用いるために、12か月換算することが多いです。
例えば資生堂の2015年12月期は
763,058×12÷9=1,017,411百万円として扱うのです。
コーセーの2021年12月期を同様に計算すると299,977百万円になります。
何も考えずに評価すると、前年比で減収じゃないかと解釈しがちな事象です。
化粧品業界に限らず、どんな企業でも起きる可能性があることですので、ぜひ知っていただきたいことです。
なお、資生堂の2021年12月期以降にふられている「I」は、決算を「IFRS(国際会計基準)」にもとづいて実施しているという意味です。
他には「日本基準」、「米国会計基準」等があります。
何も表示されていなければ「日本基準」です。近年は「IFRS(国際会計基準)」採用企業が増えてきています。
資生堂の2022年12月期決算説明資料には、2021年度の業績を日本基準と比較したグラフがあるので、興味がある方はご覧ください。
数字の考察に戻ります。
3社に共通することは、2019年度決算を上回ることが出来ていないことです。
前回、化粧品市場の考察で「市場規模がコロナ禍前を回復していない」と書いたことを裏付ける結果になっています。
特に、ポーラ・オルビスHDの売上高が芳しくありません。
営業利益率推移
売上高の数字を追うだけでは、規模のみの比較になりフェアではないのはファミレス3社を比較したケースと同様です。
ですから、営業利益を絶対額で比較するのではなく、利益率で比較してみます。
出典:各社IR資料より筆者作成
売上の規模なら断トツの資生堂ですが、営業利益率は芳しくありません。
コーセーとポーラ・オルビスHDはピーク時の営業利益率が16%程度でした。
それでも世界のライバルと比較すると決して高いわけではありません。
例えばエスティー・ローダーは足元の業績こそ芳しくありませんが、コンスタントに20%程度の営業利益率を記録する企業です。
世界のライバルは強力です。
–エスティローダー 業績推移–
資生堂の業績は海外の業績に左右されやすい
東洋経済新報社「会社四季報2023年4号」によると、直近決算期における3社の海外売上高比率は、資生堂が72%、コーセーが44%、ポーラ・オルビスHDが17%と大きな違いがあります。
資生堂は海外事業の動向が業績に反映されやすい構造です。
資生堂の売上高全体の2割以上を中国事業が占めています。
これが今後の資生堂の業績の足を引っ張る可能性があります。
2023年11月10日、資生堂は2023年12月期第3四半期決算発表で、業績下方修正を発表しました。
今期売上高予想は前期比6.3%減の1兆円から、同8.1%減の9,800億円へ。
営業利益から構造改革費用などの一時的な要因を除いたコア営業利益は、前期比同16.8%増の600億円の計画から一転、同31.8%減の350億円と大幅減益の見通しです。
2023年8月下旬に福島第一原子力発電所の処理水が海洋放出されて以降、中国では日本の化粧品ブランドの不買運動が行われるようになっているようで、資生堂もその影響について見解を示しています。
この影響が2024年第1四半期ごろまで続くと見込んでいます。
株式市場は資生堂を厳しく評価しています。
資生堂が下方修正を発表した翌営業日11月13日の株価はストップ安まで下落し、年初来最安値をつけました。
その後もなかなか切り返せていません。
「地元」である日本事業も、足元は危ういです。
成長ドライバーは中国人が多くを占めていたインバウンド需要でした。
来日中国人の減少が顕著になるようであれば、それは業績の足を引っ張る事象となるでしょう。
おせちーずの見解
一応申し上げておくと、筆者は女性です(たまに、男性だと思っていらっしゃる方にめぐり合います(笑))。
ですから、人並みの女性程度に化粧品には興味があると思います。
余談ですが、若いころ当時の勤務先の先輩と香港を旅したとき、化粧品ばかり眺めていて、
「おせちーずちゃん、(化粧品をつける)顔は一つしか無いんだよ」
とからかわれたことがあります。
それでも、投資対象として眺めると化粧品業界は今は手を出しづらいです。
3か月チャートは、化粧品3社に投資するより、TOPIX連動商品を買った方がはるかに良かったと教えてくれています。
コロナショック時よりも下がっている足下の株価をバーゲンハンティングと捉える戦略はありかもしれませんが、現時点では必要以上にリスクを取らないほうがいいように感じます。
ちなみに筆者はかつて資生堂を数十株持っていましたが、2023年夏までにすべて売却しました。うまく売り抜けて良かったと思っています。
この記事を書いていて思い出したことがあります。
証券アナリスト時代、化粧品業界を担当していた方から「化粧品って例えば化粧水なら、成分はどれも似たり寄ったりで、あとはマーケティングとか広告費用で価格の差がでる」と言われました。
かつてならTVCMがその代表的媒体だったでしょうが、近年はそうでもなくなっているでしょう。
どうやってユーザーの興味を惹きつけるかはメーカーの腕の見せ所になりそうです。
また、適度なブランドの絞り込みや選択と集中の動きが出てくるのではないかと考えます。
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