有事は「金」か「暗号資産」か 株式投資家・おせちーず

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投資歴約31年の女性株式投資家・おせちーず。新卒でシステムエンジニアとして従事し、その後証券アナリストを経て、現在は企業に勤めながら大学で非常勤講師にも従事。

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はじめに

2023年3月は金融機関の経営懸念に揺れた1ヶ月でした。

総資産全米16位のシリコンバレー銀行、29位のシグネチャー銀行が破綻しました。また、スイスの金融機関最大手UBSが経営危機に面した同2位のクレディ・スイス・グループの買収を発表しました。

これらの話題に関して詳しく触れることがこの記事の意図ではありません。

金融機関の経営問題が話題になると、起きることが多い事象がこの記事のテーマです。

有事に資金が流入する「有事の金」

筆者が現役のアナリストだったころ「有事の金」という言葉がありました。今もたまに使われるでしょうか。

マーケットに懸念材料が出ると、有価証券からお金が逃げて金にお金が入るという事象がしばしば起きてきました。

懸念材料は冒頭に挙げた金融機関の経営懸念、戦争の勃発、自然災害、政治的緊張などさまざまあります。

筆者には、金先物価格に関して忘れられないエピソードがあります。

約12年前の金の高値の時期に、アナリストの仕事として某機関投資家を訪問した時のことです。以下のチャートの赤い丸の少し前に訪ねたように記憶しています。

その投資家さんが「最近、自分の資産を何に投じればいいか悩むんですよ。」と半分ボヤキのようなことをおっしゃいました。

その方の上司の方が「金だ。10kgぐらいまでなら、最悪持ち運べるだろ。」とおっしゃったのです。

出典:US版 Yahoo Finance

12年前は2011年です。東日本大震災のあとで、円高株安が続く日々でした。

特に日本株の運用担当は円高ダメージを受けて、その運用パフォーマンスに苦労されている方が多かったように思います。

そんなときに、ぐんぐん値を上げていたのが金でした。それはチャートが語っています。

金は2016年や2020年にも上昇した

確かに現物で金を保有していれば、有事の際に運んで換金するということが可能ですから、「最悪持ち運べるだろ。」とおっしゃった投資家さんのコメントには合点がいったものです。

金は2016年ぐらいを底におおむね右肩上がりの状況が続いています。2016年は大統領選でトランプ氏が当選した年です。

トランプ氏が大統領に就任されてから、米国株市場が好調でしたが、その裏で実は金価格も上がっていたわけです。上昇し続ける株式市場にどこか不安も抱えて、代替アセットとも言われる金にも資金を入れていた投資家が少なくなかったのでしょうか。

そして2020年半ばからは高値で推移しています。COVID-19もまた「有事」だったのでしょう。

感染症との戦いに目途が着いたら、今度は金融機関の経営懸念が明るみになって再び金に資金が入る構図です。

さて、「有事の金」は今でも生きる投資格言のように見えますが、昨今は資金の行き先が「金」だけではなさそうです。

有事の「暗号資産」?

このチャートは2023年3月の金先物(米ドル建て)とビットコイン(米ドル)を比較したものです。

水色が金で赤がビットコインです。

水色のラインが所々きれているのは週末などマーケットが開いていない日に金の値段が無い一方、ビットコインの取引は週末でもあるからです。

出典: US版 Yahoo Finance

青で囲んだ部分が2023年3月10日、シリコン・バレー銀行の経営破綻が明らかになった日です。

ビットコインはこの日を底に急激に上昇しています。一方、同じ期間の金は緩やかに上昇しました。

金と暗号資産には一つ共通点があります。持っているだけではキャッシュフローを生まないことです。配当金や分配金、利息がありません。

暗号資産は金のように現物があるわけではありません。

ですから先ほどのエピソードのように金をしょって歩けるわけではありませんが、海外送金に関しては円や米ドルよりも手軽さがありますね。

ポータビリティは有事の際に重要視されるのだと思います。

また、24時間取引できる暗号資産は、海外で「有事」が発生した際、資金の退避を急ぎたいときに選ばれやすいと想像します。

筆者は「金」に投資している

筆者は「金」に投資しています。といっても現物ではありません。

2015年半ばから東証の金現物連動ETFと金価格連動投信を少しずつ保有しています。

ETFの方は買ったり売ったりを繰り返し、今はだいぶポジションが小さくなりましたが、金価格連動投信の方は毎月少額の買い付けをしています。当然ですが、現在どちらもそれなりの含み益になっています。

どちらも売買や課税のルールが明確で、筆者にとっては扱いやすいです。

「金」には投資の手段がいくつかあります。前述したもの以外には、米国ETFもありますね。

一方、ビットコインを含め暗号資産は一切持っていませんし、今のところ資金を入れる予定はありません。値動きが激しすぎるのと、休みなく価格が動くのが逆にストレスを感じるからです。

下記はビットコイン(米ドル建て)の1年チャートです。

資金の投入時期を誤ると、泣くに泣けない結果になりそうな気がしています。

暗号資産に関しては経験がないので、判断材料が自分に無いのも敢えて手を出さない理由です。

出典:US版 Yahoo Finance

「金と暗号資産、有事にはどっちがいいの?」

もし私がこう尋ねられるなら、取引等に関するルールを確かめたうえで、自分のメンタルに合わせて決めてくださいと申し上げます。

両方を半々でというストラテジーも可能でしょう。暗号資産に関してはどういう出口を描くのかが選択のキーになるようにも思います。

個人的な見解ですが、金の方が金融商品としてのヒストリーが長い分、情報量も多いように感じます。

金価格は日ごろからウォッチしているマーケット関係者が多く、日本経済新聞に「〇〇ぶりの安値」あるいは「××ぶりの高値」といった記事が掲載されることがちょくちょくあります。

「〇〇ぶりの安値」のタイミングで買い、「××ぶりの高値」で売れば頭としっぽは捨てることになりますが、キャピタルゲインを得られるというわけです。

ほかにもアセットはたくさんあるにもかかわらず、金にフォーカスした記事を書いてくださるのですから、ありがたいと思っています。

繰り返しになりますが、金も暗号資産も持っているだけでキャッシュフローは産まれません。あくまでも資産分散の一手段ぐらいにとらえるのがいいのではないかと個人的には考えています。

金融危機時の気休めになるような存在とでも言えばいいでしょうか。2023年3月も「金(または暗号資産)を持っててよかった」という意見をあちらこちらから聞いたように思います。

実際に資金を投入しないまでも、有事にプライスが動きやすい性格を持つと知っておくだけでも意義があると思います。