パブリックブロックチェーンの魅力やポテンシャルを多くの人に伝えたいと、情報配信やレンディングなどの事業を展開するHashHub。HashHub Researchでは、中級以上の個人投資家やトレーダー向けに、自分で取引を判断するために必要な情報を提供している。自身も暗号資産をはじめとする幅広い投資やトレードを経験してきたというHashHub代表の平野淳也氏とHashHub Research マネージャーの城戸大輔氏に、現在のクリプトの現状や将来展望などについて聞いた。
平野淳也氏 プロフィール 起業家・経営者。株式会社HashHub 代表取締役CEO。 学生時代に衣料品・物販事業を創業して譲渡。2013年頃から暗号資産領域へ活動を広げる。個人での投資活動や国内外企業へのコンサルティングを行う。2017年には合同会社d10n Labを創業して暗号資産領域のレポートサービスとしてユーザー数が国内有数の規模に成長する。 2018年にHashHubに創業メンバーとして参画して2019年にCEOに就任。 Twitterアカウント:https://twitter.com/junbhirano
城戸大輔氏(HN:Da-) プロフィール 有料暗号資産メディアへの2年半リサーチをはじめ、数々のメディアへリサーチを寄稿。預入額Top10に入るDeFiプロジェクトの日本コミュニティマネージャーとしてグラントを獲得。2021年から国内最大手の有料メディアの1つであるHashHubリサーチで責任者を勤める。 Twitterアカウント:https://twitter.com/otukarehitoiki1
インタビュー・編集:内田 誠也 執筆:山本 裕司
GAFAの成長率は鈍化、次の成長領域は暗号資産
――今の暗号資産のマーケットについて、どう見ていますか。
平野 今の世界的な金融市場で最も大きなテーマはインフレで、暗号資産に限らず、ほとんどのマーケットにも逆風が吹いている。これが基本的な大前提だと思います。
その前提の中で、ビットコインやイーサリアムはそれぞれ重要な役割を担っていて、他の金融資産や金融商品とは違う動き、トレンドを見せる可能性が常にあると思っています。
例えば、アメリカは今、利上げをして金融引き締めをやっていますが、また金融緩和をしなければならなくなると多くの市場参加者に思われている。そういった意味で、ドルに対して懐疑的な人が増えています。
米国債も、今やロシアや中国が保有しにくい状況となっている。
つまり、「米ドルを持っていれば安心だよね」「米国債は低リスクだよね」と言えるような状況ではなくなっていて、中立的な通貨を求める傾向が強まってもおかしくない。
そしてビットコインがその受け皿になりうる。イーサリアムはワールドコンピューターの役割を果たしていくようになるかもしれない。
話は変わりますが、前提として、この10年ぐらい、世の中の経済を引っ張ってきたのはGAFAだと言っても過言ではありません。
でも、GAFAの最近の成長率を見てみると、広告分野などの成長は、ほぼ頭打ちとなっていて、今彼らの事業を牽引しているのは、クラウドです。そのクラウドも成長率が50%ほどあったものが、今は30%ぐらいになっている。
株式でいえば、テック系株式などのいわゆるグロース株でも、今のPERに妥当性がかなり出しにくくなってるというのが現状だと思っています。
AlphabetやMetaの核だった広告ビジネスの成長率は20%前後というところまで落ちてきていて、GAFAの成長を最も牽引するクラウドビジネスでさえ30-50%です。
過去10年、倍倍ゲームで成長してきたグロースセクターですが、成熟産業になってきています。
一方、クリプトの保有者や、イーサリアムのスマートコントラクト、いわゆるブロックチェーンゲームやNFTなど様々な観点があり、この1、2年、ユーザーベースでどれくらい伸びているかといえば、まだ規模が小さいものの、クラウドの伸びどころではないですよね。
PERを計算するのは難しいかもしれませんが、明らかに高い成長をしています。
こうしたところで、暗号資産には新しいアセットクラスとしての価値があると見ています。
▼HashHub Researchでは暗号資産の相場について強気と弱気のそれぞれのシナリオパターンに関する記事も提供している
参照:暗号資産の相場動向を強気と弱気のシナリオパターンをそれぞれ考える
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相場が盛り上がる前からリサーチし準備しておくことが大切
城戸 暗号資産も他のアセットと同じで、インフレに引っ張られているのは確かなのですが、外部環境が変われば、ベンチャーキャピタル(VC)などからの投資資金が再び活発になるはずです。そのとき、どこに投資すべきなのか、投資先を探しているというのが現状のフェーズではないかと思っています。
今、暗号資産の時価総額が約1兆ドルです。コロナショックで暴落したときは、大体3000億ドル弱でしたから、あのときに比べれば3.3倍ぐらいはある。
この先、金融引き締めがいつまで続くのかわからないので、まだ下がる可能性はあるのですが、VCの投資活動はそれほど衰えてはいません。アラメダリサーチが代表的だと思いますが、有望なブロックチェーンの企業やプロジェクトに多額の出資を行っていて、次の大きな成長を見込んだ種まきをしています。
2020年にはDeFiサマーと呼ばれるDeFi関連のブームが起こり、21年はNFTサマーと呼ばれました。22年はレイヤー2が来るといわれていましたが、それは少し外れてしまった。じゃあ、次に何が来るのか。
ブームが来てからではバスに乗り遅れるので、その前にどういうところにチャンスがあるのか、どこにチャンスの芽があるのかを探す、少なくとも関心を持って見ておく時期ではないかと思います。
――確かに、気が付いたら特定のコインが盛り上がっていたということはありますよね。そうなってからでは遅くて、盛り上がったときに売るくらいの先見性がなければならないということですね。
城戸 そういう情報は、狭いコミュニティの中で、情報交換が個人レベルでされていたりするんですよ。DeFiサマーにしても、暗号資産に詳しい人はかなり早い段階から「これはかなりのムーブメントになるよ」とか話していましたね。ですから、アンテナを張っていれば情報を入手することは可能だと思います。
メタバースは企業の成長性が期待できる領域
――今、注目しているクリプトを使った技術やサービスは、何か具体的にありますか。
城戸 メタバース上でのNFTの販売などは、企業が新たなマネタイズの場所として注目していますよね。NFTをきっかけに巨大な資本が入って、ちゃんと投資をしていくと、メタバース世界の成長が早くなるでしょうし、今後、人々はメタバースを活動の拠点にしていくようになっていくかもしれない。
例えば、今、友達と実際に会う機会が減り、仕事もオンラインで済ますことが増えましたが、ひょっとすると、メタバースで友人と会い、さまざまな活動もメタバース上で行う時代が来るかもしれない。
メタバースといっても、今は現実感がないかもしれません。しかし暗号資産の技術とともにハードウェアの発達も別に進んでいくはずで、それによってメタバースでの没入感、リアリティもどんどん向上していくはずです。
そのあたりは、ハードとコンテンツの発達で急速にスマートフォンが普及したのと同じで、急速にメタバースが普及し、社会を変えていくのではないかと思っています。
長い金融緩和の時代が終わり、新たなマーケット環境への対応が必要に
――米国の金融政策の変更で、高インフレ高金利の状況がしばらく続くのではないか、とも言われますが、この状況は暗号資産のマーケットにどのような影響を及ぼすのでしょうか。
平野 高インフレになると基本的に、リスクを取って投資する意義が薄まります。国債を持っているだけで3~4%の利益を得られるのなら、あえてリスクをとって株式を保有する投資家は減ります。
今までは銀行にお金を預けていても低金利でお金が増えなかったので、みんなリスクを取って投資をしていたわけです。それが高金利時代になると、状況が一変する。
これが、暗号資産にどういう影響を及ぼすかというと、やはり資金が入りにくくなると思います。VCの話も出ていましたが、リスクを取らなくても、ある程度のリターンが見込めるのなら、ベンチャーや暗号資産の事業に投資するモチベーションも当然下がります。
ただ、これがすぐに起こるかといえば、現在、運用中のファンドの残金は過去最高の水準で、すぐに投資熱が一気に冷え込むことはない。ただ、この先、高インフレの状態が10年近く続くともし考えるならばそうなっていくだろうなと思います。
城戸 難しいのは、これからは暗号資産の以外のマーケットもちゃんと見る必要があるということですね。
これまで暗号資産だけを見て運用してきた人もいるかもしれませんが、今後は、他の市場との関係とか、経済政策などの影響を考慮せざるを得ない。そうしたマクロの経済環境を考えられない人にとって暗号資産の市場は、これまでに比べて難しい相場になっていると思います。
今後は、市場全体を俯瞰できる幅広い知識が必要で、私たちのリサーチもさらに幅を広げていかなくてはならないと思っています。
▼HashHub Researchでは個別のファンダメンタルズだけでなく、マクロにフォーカスした投資分析や市場動向記事も提供している
参照:次のクリプトの強気相場が始まるサインを見極めるために、注意を向けるべきこと
マーケット参加者が変わること暗号資産もマクロの影響を受けやすくなった
――市場規模が大きくなるにつれて、マクロの影響を受けやすくなっていくということですか。
平野 暗号資産の場合は、市場規模が大きくなってきたというより、これまでと異なるマーケット参加者が増えたということでしょうね。ほぼ同じようなことなんですが、少し意味が違う。
以前、ビットコインに投資してる人は、ほとんどが個人投資家で、その個人投資家も何か大きな視点を持っていたわけでもなかったんですね。
大きな市場参加者がいないということは、株式とか不動産とかそういう資産を持っている投資家が少ないということです。暗号資産しか保有してない投資家は、他の市場で資産価値が下がってもリバランスする必要がない。
だから、他の市場が目に入らず、暗号資産だけを見るようになる。それが暗号資産にも株式など伝統的な資産を保有する投資家も増えてマクロの環境に合わせてリバランスを考える投資家が増えた、それでマクロの影響をより受けやすくなった、ということかなと考えています。
いまのマーケット参加者のほとんどは金融緩和のマーケットしか知らない
――今後、トレードや資産運用をしていくうえで、まだあまり顕在化していないリスクは何だと思いますか。
平野 これは断言してもいいと思うんですけど、これまで10年間ぐらい、ほとんどずっと世界的に金融緩和が続いてきて、ジャブジャブとお金があふれている時代が続いてきた。このため、多くの市場参加者は、金融緩和の状態に慣れきってしまっている。これが大きなリスクだと思います。
私は20歳の頃に投資を始めて約10年です。私も金融緩和の中で投資をやって来て、それしか知らない。暗号資産市場は若い人が多いので、大半は、そんな人ではないでしょうか。
最近は世界情勢も大きく変わっていて、ウクライナでの戦争もいつまで続くかわからないし、戦争後にルールが元通りになるとも限らない。
また、これまで中国は多くの労働者を抱えていて、その安い労働力を生かして輸出を増やしてきたけれど、賃金コストの優位性も失われつつある。
中国でいえば、台湾有事が避けられないとなれば、中国は原油の備蓄量を増やしていくはずで、それは原油価格にも影響してくる。
どう考えても、これからの10年と、これまでの10年は違うんです。
そこを認識している人がマーケットに少ないような気がするし、気づいても考え方を変えるのは難しいと思う。なぜなら、いまマーケットにいる人のほとんどは金融緩和の世の中しか知らないからです。
だから、これからの市場のリスクは、金融緩和が終わり、いろいろなルールも変わっていくことと、その変化に市場の参加者が対応できないことだと思います。
そのリスクに対応するためにも、正確な情報を知り、勉強して、自分で考えて判断していくことが何よりも重要になっていくはずです。
次回は、HashHubの新たな事業や今後の展望などについてお聞きします。
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最終回である、インタビューの続きはこちら。
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