「ビットコインがアルトコインをアウトパフォームしているのはネットワーク効果で優っているから」は本当か Cygnos・三原弘之氏

bitbank COOを経てCygnos Capitalを運営する三原弘之氏に、ビットコインにおけるよくある誤解などについて伺いました。

三原 弘之氏 プロフィール

早稲田大学を卒業後、楽天株式会社にエンジニアとして入社し、楽天市場の開発業務に従事。2014年、ビットバンク株式会社へ社員第一号として参画し、執行役員COOとして国内最大級の仮想通貨取引所へ成長させる。現在は海外クリプトヘッジファンドの戦略へ分散投資する日本初のファンド、Cygnos Crypto Fund を運営。Twitter:https://twitter.com/h3hara Cygnos:https://mining.cygnos.capital/ https://cygnos.capital/ https://overseas.cygnos.capital/

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取材実施日

2024年3月20日

インタビューの背景となるXの投稿

PoWで最も多くのコストをかけてブロックが生成されている事実がビットコインの極めて特徴的な優位性

ーー少し前に話題になった「テクノロジーの優位性よりも、ネットワーク効果が優ってしまうからビットコインはアルトコインをアウトパフォームしている」について三原さんもXでご自身の見解を投稿されていました。改めて三原さんの見解を教えてください。

まず、「ネットワーク効果」が指す意味について認識を揃えておきたいです。

元の記事で用いられている「ネットワーク効果」というのは、「使う人がいるから使う」といった、「利用ユーザーが多いことで得られるポジティブフィードバック」という一般的な意味での「ネットワーク効果」だという認識です。

例えば、FacebookやTwitterが成長した理由などがそうだと思います。

では、アルトコインが1兆円の費用をかけてビットコインよりも多くのユーザーを獲得したとして、アルトコインがビットコインを本質的にアウトパフォームするかというと、それはないと思います。

ーーそれはなぜでしょうか。

なぜならば、単に保有する人が多ければそのプロダクトに価値があるという話であれば、例えばビットコインよりもステーブルコインのほうが保有者数が多ければステーブルコインのほうが価値があるという話になりますが、そうではないはずだからです。

その上でなぜビットコインに価値があるかですが、インセンティブ設計やPoWの仕組み、プレマインがないことや発明者であるサトシ・ナカモトが姿を消したこと、安価なハッシュパワーでブロックを書き換えられる時期を乗り越えられたこと、ナラティブ、ネットワーク効果など、これら全体によってビットコインは価値があるのだと理解しています。

ただ、中でも、これまでPoWでブロック生成のために投下された時間や電気代、それによって最も多くのブロックが生成されていることは、ビットコインにおける極めて特徴的な優位性だと私は思います。

これにより、PoWのコインでビットコインの価値を上回るのは理論上不可能になっていると思います。

ビットコインは理論上は二重支払いできるがそれをするインセンティブはない

ーー「これまでPoWでチェーン生成のために投下された時間や電気代、それによって最も多くのブロックが生成されていることは極めて特徴的な事実」について、詳しく教えてください。

ビットコインの価値はブロックに刻まれたデータの改竄の難しさにあります。よく勘違いされますが、51%攻撃をもってしても過去のデータを改竄することはできません。二重支払いを試すことができるだけです。ただ、それ自体も理論上は可能ですが、理論上可能であることと実際そうするインセンティブがあるかは別で、現実的ではないほどのコストがかかります。

また、万が一、そのように攻撃できる51%以上のハッシュパワーを持った主体があったとしても、ビットコインのネットワークを攻撃せずにマイニングしたほうが経済的なリターンを享受できるので攻撃するインセンティブはありません。

「理論上は51%攻撃できるがそれをするインセンティブはない」とはこういうことです。

また、すでに規模が大きくなっているので、現実的にも不可能なレベルに達していると思います。

これがビットコインの特徴的な価値だと私は思います。

ーー「これまでブロックの生成にかかったコストと現在の電気代が、ネットワークを攻撃する際に必要なコストを構成する」から、これまでブロックの生成にかかったコストが重要であるということですね。

そういうことですね。

なので、単に生成されたブロックが多いアルトコインがあったとしても、そのブロックの生成にかけられたコストが安ければ、攻撃は容易です。

これまで多くのコストをかけてブロックが生成されている、そして二重支払いを起こすためにはこれまでブロック生成にかけたコストが上積みされていく、この二点が大事なポイントです。

これらが総合的にビットコインの価値を作っており、「ネットワーク効果があるからビットコインはアルトコインをアウトパフォームしている」と表現されると、初心者の方には誤った認識を捉えられかねないと思い元の投稿でした。

ビットコインのマイニングにおける限界費用がビットコインの価格を決定づける

ーー「ブロック生成にかかったコスト」とはつまりマイニングにかかった電気代とイコールでしょうか。

わかりやすいのは電気代ですが、実際には電気代だけではありません。

ビットコインをマイニングするために購入したマイニングマシンの費用、マシンを稼働させるための場所を確保する費用、管理やメンテナンスのための人件費、そして電気代。また、言及されることは少ないですが、規模が大きくなると現地の役人や政府との折衝も発生するのでそこも隠れた大きな費用です。

マシンを稼働させる一連のプロセスで生じるこれらすべてが、マイニングに必要なコストです。

そして、言い換えれば、これらのコストはビットコインをマイニングするための限界費用だと言えますが、限界費用以下の価格でマイナーが採掘したビットコインを売却するインセンティブは弱く、そのため限界費用がビットコインの価格を決定づけるとも言えます。

これはビットコインの価格を考える上で重要なポイントです。

参考:「ビットコインはマイニングにより現実世界とリンクしこれが本質的価値の源泉となっている」Cygnos・三原 弘之氏 2/3
参考:テーマ・ラボ: ビットコイン・マイニングの舞台裏 | Global X Japan

ビットコインのマイニングが盛んな国はビットコインも普及しやすい

ーー少なくとも国内では、ビットコインの価格や価値を語る際にマイニングによって生じる限界費用についてはあまり語られない印象がありますが、国内では電気代が高くマイニングに触れる機会がないことが理由の一つである印象です。

私も同意です。

中国では過去にビットコインのマイニングが盛んで、米国では現在盛んになっていますが、これらの国々でビットコインが普及してきたのはマイニングが盛んだったことの影響が大きいと思います。

実際にマイニングの工場が建ち並び、雇用を産み、税金を落とすという一連の流れを見る機会があるか否か、政治家含めたステークホルダーが得をするか否かは中長期的に影響度合いが大きいでしょう。

また、ビットコインのマイナーは多くのビットコインを保有しており、マイニング事業で得た利益によって、マイニング関連の周辺ビジネス、クリプト系のVCやビットコインを増やすためのヘッジファンドへの投資を展開しており、おそらく日本国内の多くの方が想像している以上にマイナーのいわゆるクリプト業界に対する影響力は大きいです。

中国もそこが起点になっている印象があり、マイナー向けのファイナンスも日本にないようなものが多数あります。

「ビットコインは駄目だけどブロックチェーン技術は素晴らしい」について

ーーこの流れで、ほかのビットコインにおけるよくある誤解について伺いたいのですが、「ビットコインは駄目だけどブロックチェーン技術は素晴らしい」についてはいかがでしょうか。

これは2014年ごろからよく言われている主張ですが、「それっぽいことを言いたい人」がよく用いている印象です。

「ビットコインは駄目だけどブロックチェーン技術は素晴らしい」という主張は、一見、ビットコインやブロックチェーン技術にとても詳しい印象を受けますが、実際はそうでもないんですね。

また、ビットコイン以外でPMFしたブロックチェーンのプロダクトというのは私はほぼない認識です。

ビットコインというのは、つまるところ、分散的に管理された誰もが自由に利用できるお金だと思うのですが、ブロックチェーンの活用を起点として始まった多くのプロダクトは、結局はブロックチェーンでなく一般的なデータベースでよいという結論になるものが多いです。

なにか確証があって言い切れるわけではありませんが、ブロックチェーンを本当の意味で使う必要があるプロダクトというのは現時点ではビットコインしかないのではと思っています。STEPN等、多少話題を呼ぶプロジェクトなどもありますが、分散性を理由に使われているというわけではなく、儲かるからやるという人が多いのかなと。

特に否定したい意図はなく、ビットコイン以外にあるのなら私も見てみたいのですが、2014年からこの業界に携わる中でなかなかそのようなプロダクトは現れず、やはりビットコイン以外では難しいのかなと思います。

「ビットコインはボラティリティが高いから決済に使えない、決済に使えないからビットコインには価値がない」について

ーービットコインのよくある批判、「ビットコインはボラティリティが高いから決済に使えない、決済に使えないからビットコインには価値がない」についてはいかがでしょうか。

海外ではビットコインでの支払いを受け付ける店舗が少しづつですが増えています。

参考:BTC Map

日本においても、保有するビットコインを増やしたいと考える人が増えるほど決済で増える店舗も増え、結果的にビットコインを決済できる店舗が今後増えていくというのはあると思います。

こういった話をすると、よく日本人は税金の話を取り上げますが、それはあくまで日本の話であって、海外では関係なく使われているのであまり意味がない議論かなと思います。

話はずれますが、私は最近はいろんな経営者にビットコインでの決済を勧めています。

例えばビットコインでの購入は5%割引とし、ビットコインで代金を受け取れば、受け手としてはビットコインを買っているのと同義で買う手間がなく楽です。

このように、支払いを受ける店舗側でビットコインの受け取りが増えれば、少しずつビットコインの決済も広まっていくと思います。

ビットコインは決済以外にも価値保存という重要な用途がある

ーー企業が支払いをビットコインで受け取る際に、会計処理はそれほど大変ではないのでしょうか。

日本法人が保有するビットコインは期末に時価評価で損益を算出するので、その計算は必ず必要です。

基本的にはビットコインをもらった時点での日本円建てでの売上を算出し計算するだけだと思います。詳細は税理士など専門家へ確認をお願いします。

話が脱線しましたが、「ビットコインはボラティリティが高いから決済に使えない、決済に使えないものは価値がない」という人はビットコインに対する理解が深くない印象です。

また、百歩譲って決済に使えないとしても、言うまでもなく決済に使えなくても価値があるものは世の中にたくさんありますし、ビットコインは決済以外にも価値保存という重要な用途もあります。

ーー価値保存は重要な用途ですね。

価値保存の話をすると、「ビットコインはボラティリティが高いから価値保存に向かない」という指摘もありますが、価値保存機能として長い歴史を持ったゴールドも、ビットコインほどではありませんがボラティリティが高いです。

また、ビットコインのボラティリティは時を経て低下傾向にあるので、長期ではあまり問題にはならないとも思います。

ーーそのほか、ビットコインに関するよくある誤解に関して指摘しておきたいテーマなどありますか。

ビットコインとそのほかのアルトコインが「暗号資産」として同じカテゴリーとして扱われがちですが、これらは全く別物です。

法律上はたしかに同じ扱いなのですが、仕組みはまったく別物です。しかし日本ではあまり理解されていません。

米国の大統領選は共和党が勝った方がマイナーとしてはプラス

ーー2024年1月のビットコインの現物ETFの承認以降、ビットコインの価格が強いです。三原さんのファンドはアービトラージオンリーの戦略だと思いますが、最近の取引はいかがでしょうか。

ドル建てでは弊社の手数料分を引いても年率換算で20-30%のリターンとなっていて、特に2023年11月ごろからは非常に好調です。

参考:「マーケットニュートラルな戦略でのアービトラージのみで確実にリターンを出す」Cygnos・三原 弘之氏 1/3

2月の終わりに中国の著名なトレーディングチームと話しましたが、まだ市場に過熱感はなく、本格的な資金の流入はこれからという点でお互い同意でしたね。

ーー2024年は11月に米国の大統領選が行われますが、気になっているイベントなどはありますか。

米国の大統領選について、米国のマイニング環境という観点においては共和党の方が良いだろうとは見ています。

ーーそれはなぜでしょうか。

マイニングが盛んな地域というのは電気代が安い地域が多いのですが、それらの地域の多くは共和党が強いです。

全体で見れば共和党が政権を握った方がマイナーの意見も反映されやすく、そういう意味では共和党が勝つほうがマイナーにとってはポジティブかなと思います。

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