株式投資においては多少のリスクを承知で挑まなければ大きなリターンは得られない。
こんなことは投資家である諸兄姉はすでにご存知の通りだ。ただし、リスクといっても、人によって考え方は千差万別であるため、「リスクを取ること」の良し悪しにはさまざまな意見があるだろう。
この記事では、株式投資のなかでもかなりリスキーな「監理銘柄」への投資について解説したい。
「リスクを取らない」ための保守的な情報は巷に溢れているからこそ、少し違った視点で銘柄選定をするお役に立てれば幸甚である。
監理銘柄とは何か
上場銘柄に、何らかの理由で上場廃止基準に該当する可能性がある場合、証券取引所はその銘柄を監理銘柄に指定する。
一方、上場廃止が決定した銘柄を整理銘柄といい、指定から1ヶ月間市場で売買された後に上場廃止となる。
監理銘柄は「整理銘柄になりそうな銘柄」を早めに周知しておくことで、市場の混乱や投資家の損失を最小限にしようというものだ。
インパクトがあった銘柄を挙げると、東芝(6502)が2017年不正会計により監理銘柄および特設注意市場銘柄に指定されている。
東芝の場合、コンプライアンス意識や管理体制の改善が認められたため同年10月に指定が解除になったが、もし上場廃止になっていれば、東芝株は紙っぺら同然になっていただろう。
上場廃止というと、企業が破産したか、経営破綻に陥ったかと考える人は多い。日本航空やレナウンなどは民事再生手続きの適用を受けて上場廃止になったパターンである。
しかし、実際は上場廃止になった企業のうち、破産手続き・民事再生手続きをした企業はごくわずかだ。多くの企業は、「株主数や時価総額が基準未満となった」「債務超過になった」などの理由で上場廃止になっている。
監理銘柄・整理銘柄は日本証券取引所グループの「監理・整理銘柄一覧」から見ることができる。詳細レポートを確認すれば、それぞれの銘柄が監理銘柄や整理銘柄に指定された理由もわかるだろう。
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目次
- 監理銘柄投資とは何か
- 監理銘柄ならどれでも良い訳ではない
- 実際の値動きを見てみる
- 監理銘柄に投資する価値はあるか?
監理銘柄投資とは何か
そもそも「監理銘柄投資」という言葉は存在しない。(少なくともGoogleで検索してもそのような記事は見当たらないようだ)
なぜなら、監理銘柄は「上場廃止の可能性がある」銘柄であるからだ。
積極的に投資対象にするのは正しくないし、おすすめできるものではない。健全な運営のもと上場を維持している安全性の高い銘柄は他にいくらでもある。
しかし、リスクは大きくとも、相応のリターンを取りに行く「勝負師」タイプか、緻密な分析のもとリスクを正しく判断する「研究家」タイプにとっては、監理銘柄投資はどこか魅力的に映るらしい。
監理銘柄投資がどんなものか説明しよう。
整理銘柄に指定されてしまうと、1ヶ月後の上場廃止が決定されているため、取引数は減り、値がつかないことも多い。しかし、監理銘柄であれば、指定が解除される可能性がある。
例えば、プライム市場に上場している銘柄の時価総額が、上場基準の100億円に満たないために監理銘柄に指定されたとしよう。
この時点で、株価は大きく下がり、投げ売り状態にされることも少なくない。どこまで下がるかわからない、最悪上場廃止になる可能性がある銘柄を保有し続けたい投資家はいないからだ。
さて、時価総額が基準未満の場合は、一般に9ヶ月の猶予が与えられる。9ヶ月以内に基準をクリアすれば上場廃止を免れるが、クリアしなければ整理銘柄に指定されてしまう。
このようなとき、企業は上場廃止を阻止するため、自社株買いなどの措置を講じる可能性が高く、なんとか基準を満たした結果、監理銘柄の指定が解除されるケースは多い。
監理銘柄指定が解除されたということは、投資家にとっての懸念事項が消えたということだ。銘柄は本来の価値が評価され、適正な価格に戻る可能性が高い。
たくさんの買い戻しが入ることで株価が急上昇するかもしれない。これが監理銘柄投資の狙いだ。底値で買い付けた株が、監理銘柄指定前の水準近くまで価額を戻すことも期待できる。
つまり、「いずれは指定解除されそうな監理銘柄を買っておき、指定解除と共に来るであろう株価上昇の恩恵を狙う」のが監理銘柄投資というわけだ。
監理銘柄ならどれでも良い訳ではない
日本証券取引所グループの「監理・整理銘柄一覧」では、2022年9月現在、日水製薬(4550)や日立金属(5486)など、13の銘柄が監理銘柄(確認中)とされている。
しかし、多くは上場廃止を前提とした株式公開買付(TOB)が理由だ。このような銘柄に監理銘柄投資の旨みはない。
監理銘柄に投資するためには、TOBではない「その他の理由」によって監理銘柄に指定されている銘柄でなくてはならない。例えば、「時価総額が基準に満たない」「有価証券報告書等の提出遅延」などである。
実際の値動きを見てみる
ここでは、実際に監理銘柄に指定された銘柄が、その後どのような運命を辿っていったか見てみよう。
【省電舎ホールディングス】
省電舎ホールディングス(コード:1711、当時の市場区分:市場第二部)は、2020年2月28日監理銘柄に指定された。
そもそも、省電舎ホールディングスは、架空売上の計上等の不正な会計処理等が継続的に行われていたとみなされ、2018年9月1日に特設注意市場銘柄に指定されている。
※特設注意市場銘柄は、内部管理体制に問題があり、改善の必要性が高い企業が指定される。
同社の株価の推移を見てみると、2018年5月の不正発覚による急落から、2019年11月特設注意市場銘柄の指定継続を経て低空飛行を続けているが、2020年2月28日に監理銘柄に指定されたことで、株価は最安値を更新した。
しかし、その後の同社による内部管理体制改善への努力が認められ、2020年5月20日に特設注意市場銘柄及び監理銘柄の指定が解除された。
指定解除と共に株価は大きく上がり、監理銘柄時代に買付けしていた人は2倍以上の値上がりを享受できたことになる。株式投資に「たられば」を言うのはナンセンスだが、リスクを積極的に分析していく姿勢が大切であることがわかる。
省電舎ホールディングスは環境関連業界では草分け的存在である他、再生可能エネルギー関連銘柄としても注目されている企業だ。このようなトレンドも実力も押さえた企業がリスク項目を克服すると強いということを早くから見極めたいところだ。
【五洋インテックス】
監理銘柄に指定される銘柄は、やはり大きなリスクを抱えていると認識させられたのがこの銘柄だ。
五洋インテックス(コード:7519、当時の市場区分:JASDAQスタンダード)は、残念ながら2021年6月25日に上場廃止が決定し、すでに市場からは消えてしまった銘柄である。
2021年6月18日に監理銘柄指定されてから上場廃止の決定までたった1週間しか猶予がなかった。闇雲に飛びつくのが危険ということがよくわかる。
五洋インテックスは2020年3月期第2四半期報告書について、四半期レビューの重要論点とされる継続企業の前提に関する資料を会計監査人に提出しなかったこと、四半期レビューの手続が未了のまま四半期報告書を提出したことなどが指摘され、2020年3月12日に特設注意市場銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求が決定されている。
この時点で株価は急落しているが、最初からかなり問題のある経営状況であったことがわかる。
五洋インテックスは、その後2020年6月に代表取締役社長が交代し、懸念されている内部管理体制の改善へと踏み出すが、評価されるには至らず、一年後に上場廃止となった。
結果的に大きな「儲け」ポイントはなかったものの、長きにわたるゴタゴタ劇のおかげで、見切りをつけるタイミングが判断できたことが救いだろう。
ちなみに筆者は、代表取締役交代時の「期待の上げ」でいくらか利益を確定し逃げ切ることができた。懸念のある銘柄を保有している際は、関連ニュースを逃さずキャッチすることが大切だ。
【ユー・エム・シー・エレクトロニクス株式会社】
ユー・エム・シー・エレクトロニクス株式会社(コード:6615、当時の市場区分:市場第一部)は、2019年10月10日、四半期報告書について、法定提出期限である11月14日までに提出できる見込みのないことを開示したため監理銘柄に指定された。
延長申請した期限にも間に合わないのだから、深刻な事態である。
同社は、新たな期限(11月29日)までに四半期報告書を提出できない場合は上場廃止になるという決定を下される。10月11日の株価はストップ安となった。
しかし、2019年11月29日、同社は無事四半期報告書を提出し、監理銘柄指定は無事解除された。同社の場合は、四半期報告書の提出前から株価が上がり始めていたことが特徴的だ。
むしろせっかく提出した決算の内容が芳しくなかったことから、監理銘柄指定解除直後の11月29日は株価を下げている。
監理銘柄指定解除と共に株価が上がらないパターンだったということだが、タイミングを逃さなければ株価の上昇を捉えることは可能だ。
監理銘柄に投資する価値はあるか?
難しい判断が必要となる監理銘柄投資は上級者向けといって良いが、上場廃止決定まで株を持ち続けてしまう失態さえ犯さなければ、一般的な株式の短期トレードとそれほど感覚は変わらないといえるかもしれない。
むしろ、一般的な株式トレードよりも明暗がはっきりと別れるため、リスク管理が徹底できるという人もいるだろう。もちろん、通常の売買では味わえない大きな株価上昇局面に出会える可能性があるのも魅力だ。
上場廃止せずに監理銘柄指定が解除されるのであれば、本来の価値を大きく割り込んだ価額で株式が買える場合もある。
いずれにしても、通常の株式投資と同じように、しっかりとした銘柄研究とリスクマネジメントの意識が必要であろう。
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