日銀は利上げできるのか?日本の金利を4つのシナリオで予想

2016年1月29日に日本銀行がマイナス金利政策の採用を発表してから現在に至るまで日本はマイナス金利政策を維持・継続しています。しかし、国際的なインフレ懸念が強まる中で欧州中央銀行(ECB)は2022年7月21日に0.5%の利上げを実施しました。

であるにも関わらず、世界的なエネルギー危機やインフレ懸念が収まる気配はなく、継続したECBの利上げや米国のFRBによる利上げ観測も強まっています。

こうした環境下において、急激に円高が進行して新型コロナ感染症の影響がまだ残っている中で経済に深刻な影響が生じている日本では今後どのように金利が変動していくのか、複数のシナリオに基づいて考察してみます。

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シナリオ1:安定した物価上昇率(2%)に達しない場合⇒それでも利上げを実施する

日本銀行はマイナス金利政策を解除する条件として、➀消費者物価指数の前年比上昇率が安定的に0.2%以上であること、②消費者物価指数の前年比上昇率がマイナスになることが見込まれない、③日本銀行の総合判断、を挙げています。

2022年4月の消費者物価はコア指数で前年比2.1%となりましたが、「安定的に」インフレ目標値を超えるかどうかについては議論が分かれるでしょう。実際に日本の10年物国債の利回りは、上昇しつつあるものの、そこまでインフレ圧力を盛り込んでいる数値まで上昇していません(22年9月8日時点)。

日本国債(10年もの利回り)の推移 出典:tradingview.com

しかし、ECBは既に利上げを実施し、引き続き利上げの機会を探っており、FRBもECBに続いてそう遠くない時期に利上げを実施するものと見られています。日本では急激な円安が輸出企業を中心に企業収益を悪化させています。

信用調査会社の帝国データバンクの調査※によると、円安の影響で輸入原材料価格の高騰により、サプライチェーンに大きな影響が出ていて6割以上の企業が収益に悪影響を与えている、としています。

円安の修正には、利上げは効果があると言われていますが、日本だけ何もしなければ欧米各国との金利格差がますます拡大してさらに円安が進行しかねません。日本銀行の政策目標である安定的な消費者物価指数の前年度比上昇率2%を達成できなかったとしても、新型コロナ感染症による影響から早く立ち直るためには日本政府・日本銀行とも利上げが必要だという総合的な判断を下す可能性があります。

※調査期間:2022年7月15日~7月31日、調査対象数:全国2万5,723社、有効回答企業数:1万1,503社 回答率44.7% https://www.tdb-di.com/2022/08/sp20220815.pdf

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シナリオ2:黒田日銀総裁の交代により利上げしやすい環境が整う⇒利上げ実施

現在の黒田日銀総裁の就任の任期は2023年4月8日までです。その後の新たな総裁が現在のマイナス金利政策を見直す可能性はあり得ます。新総裁となった人は新たな政策を実施したがるものですし、マイナス金利が現在の日本に悪影響を与えていることを客観的に認識できる立場でもあるので、マイナス金利施策転換のタイミングとなる可能性も考えられます。

ただし、当然ながら、新総裁がこれまでの日本銀行の政策を転換しようとする際にはアカウンタビリティ(説明責任)が求められます。したがって、実際にマイナス金利政策を転換するためには、ある程度の時間をかけて国民のコンセンサスを得ながらタイミングを計って実行することになるでしょう。

したがって、日本銀行の新総裁が決まった直後に利上げが実行されることは現実的でなく2024年~2025年にかけて利上げが実行されると予想できます。

シナリオ3:ロシアによるウクライナ侵攻が集結し、エネルギー危機が去りインフレ懸念が落ち着く⇒日本の利上げが遠退く(現状維持)

ロシアによるウクライナ侵攻により、農産物価格やエネルギー価格が世界的に上昇してインフレ圧力はいまだ強まったままの状態です。こうした環境下で欧米各国はインフレを抑制するために利上げを実施しよう(した)としています。

ウクライナ侵攻の今後の動きは不確定要素が多いため予測が難しいですが、ロシアが西側諸国からの経済制裁によって経済的に疲弊し、多額の戦費がかかっていることなどによってロシア国内に厭戦気分が広がれば電撃的にウクライナから撤退するかもしれません。

こうしたシナリオが現実になれば、世界的なインフレ圧力が弱まる可能性があるので、日本銀行によるマイナス金利政策の転換は先送りされる可能性もあり得ます。

シナリオ4:マイナス金利からの転換は、日本国内の経済状況から、まだしばらくは困難⇒当面は現状維持

長い間日本では金利はゼロ以下(マイナス)という低水準が当たり前の世界でした。ここで金利が上昇すると変動金利でローンを借りている人や企業に大きな影響が生じます。ローンの適用金利が上昇するので返済額が増加します。企業にとっては資金繰りに大きな影響が発生して返済が苦しくなる会社も出てくるかもしれません。

また、個人で変動金利の住宅ローンを借りている人も返済額が増えてしまいます。その結果、住宅ローンを返済できない人が一気に増加してしまうおそれもあり得ます。円安是正のために利上げが必要だとしても、利上げによる国民生活へのダメージも深刻になってしまうかもしれません。

新型コロナ感染症の影響で日々の生活が苦しくなっている多くの国民にとっては、利上げはダイレクトに生活に響く政策のひとつです。もちろん利上げによって銀行の預金金利は上昇する可能性が高いですが、それ以上に借入金の適用金利上昇のインパクトのほうが国民生活には大きいでしょう。

なぜならば、多額の預金を持っている人は、一般的には、借入金の返済に困るような生活はしていないと考えられるからです。つまり、生活苦で困っている人にさらに返済負担が増してしまう点が問題なのです。

さらに、利上げによる金利上昇により既発国債の価格が暴落して、国債を保有している金融機関や中小企業などは多額の含み損を抱えてしまうおそれがあります。そうなると金融機関は新規融資に厳しく対応する可能性が増えると予想できます。また、中小企業も設備投資を手控えるでしょう。つまり、日本経済に大きなマイナスのインパクトを与えると考えられるのです。

したがって、現在のような日本国内の経済状況が続く限りは利上げという選択肢は取りにくいと考えられます。

結論:利上げは必至、重要なのはタイミング

ここまで4つのシナリオに基づいて今後の日本の金利の動向予測をしてきましたが、原則として、今後さらに金利が低下するとは考えにくいので、利上げをするか、何もしない(何もできない)か、というどちらかのシナリオに絞れると考えています。

国際的な利上げ圧力が強まっている環境下において、急激な円安に対抗するためにも、欧米各国に追随する形で日本も利上げを実施すると予想しています。ただし、これまで非常に長い間マイナス金利政策を維持してきたものを転換するためには、その影響を見極めることも必要です。

したがって、ECBの2回目の利上げやFRBの利上げからは若干時間をおいて、利上げを実施すると考えられます。黒田総裁の交代のタイミングまでに利上げ容認のコンセンサスを得ることができれば、黒田総裁の任期中であっても利上げ実施はあり得るでしょう。

ただし、新型コロナ感染症の影響もあり、多くの国民は日々の生活に疲れています。こうした環境下で利上げをすることは国民生活を悪化させてしまうおそれがあります。日本銀行がマイナス金利政策を転換する場合には、政治の役割となりますが、経済弱者が過度の負担を蒙ることのないような政策の実行が必要不可欠だと考えます。

つまり、国際的な経済状況を勘案すると、それほど遠くないタイミングで日本においても利上げは実施されると考えられます。しかし、利上げによるマイナスのインパクトをきちんと見極めて、必要であれば、何らかの経済政策(利息補助など)も同時に発動することが望ましいでしょう。

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