「LNの開発は米国やヨーロッパが活発、普及は中南米で進んでいる」ビットコイナー・東晃慈氏 1/3

ビットコイナーの東晃慈氏に、これまでの取り組みやLightning Networkの開発や普及が進んでいる地域について伺いました。

東晃慈氏 プロフィール

2014年9月よりビットコイン、暗号通貨業界でフルタイムで活動。暗号通貨関連のコンテンツ制作、メディア運営、サービス企画・開発、国内外のプロジェクトの支援など幅広く活躍。ビットコイナー反省会、Diamond Hands主宰。

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取材実施日

2023年9月15日

2014年からビットコインの活動に専念

ーー現在の活動について教えてください。

ビットコインやLightning Network(以下、LNと記載)がいま最も重要な領域であると判断しており、経験も長く、いまはこれらに関する活動を行っています。

取り組む分野が増えすぎると広く浅くなってしまいますし、特定の領域で専門性を高めなければグローバルで勝ち残ることは困難だと考えており、いまは意識的にこの領域にフォーカスしています。

ーー現在のようにビットコインの活動に専念するようになったのはいつからでしょうか。

ビットコインに関する活動をはじめたのは2014年ですが、それ以降はずっとビットコインにフルコミットしています。

イーサリアムも当初は追っていましたが、2017年ごろからプロジェクト数が急激に増加し、スキャム的なトークンやプロジェクトも増え、いまはあまりチェックできていません。

ーーいま日本ではWeb3のプロジェクトが多数出ています。

おっしゃるように海外も国内もWeb3が流行っていますし、これらのプロジェクトのようにトークンを発行した方が当然儲かるのですが、それは元々私がビットコインに興味を持ったきっかけや理念とは異なります。

中心を持たないよう設計されたエコシステムであるビットコインと、トークン発行者を中心としたエコシステムであるWeb3とは根本的に異なります。

NFTの前身となるコンセプトの実験も行いましたが、その経験からもビットコインとは方向性が違うと感じています。

しかし、私のようにビットコインに完全に専念している人は日本国内でもかなり少ないですね。

どのようにして経済的にビットコインの活動に専念できたのか

ーービットコインの活動に専念することは経済的に困難な印象があります。

おっしゃるとおり、ビットコイン関連の活動だけで活動資金を得るのは困難で、特に2014年ごろはほとんど仕事がありませんでした。

しかし実際は私もなんとかやってこれたので、最終的には覚悟の問題だと思います。

ーー具体的にはどのように活動資金を得てきたのでしょうか。

一つ目はメディア関連の活動です。

ビットコイナー反省会ではpafin社などスポンサーの支援をいただいていたことがありますし、最近ではDiamond Handsというビットコインの情報をまとめたニュースレターで有料版も開始しています。

こういったメディアでの収益が一つ目です。

参考:日本国内のビットコイン普及の加速を目指す新しい挑戦 DH Magazine Proの公開と案内|Diamond Hands

二つ目はリサーチ系の活動です。

2015年にはビットコイナーの大石さんと一緒にビットコイン研究所を始め、収益が非常に大きかった時期もありました。

ビットコイン研究所は現在はAndoGo社に譲渡し、私は直接的には関与していませんが、企業向けにビットコインの情報発信を強化しているようです。

三つ目は、開発分野の活動です。

例えば、Zaifにウォレットのバックエンドを提供し収益を得たこともありますし、2014年には当時私が運営していたブログでカウンターパーティーを用いてブログ用のCNPというコインを発行し、寄付を得たこともあります。

このCNPコインを使って、例えばブログの新しい記事をリツイートした人にCLPを付与する、ウォレットと連携した寄付ボタンをブログに埋め込む、といった実験を行っていましたね。

参考:CNPCOINとは? – ビットコインダンジョン2.0

寄付については、寄付されたビットコインを一定のCLPコインに変換しブログ運営者に付与されるという仕組みで、寄付をより楽しく、またインセンティブを与えるという目的での実験でした。

これが国内のブロガーやクリプト関連のブロガーで一部流行って、当時の日本円で数万円分のビットコインの寄付を得ることができましたね。

参考:CNPCOINがCoindeskで紹介されてます(マジ笑) – ビットコインダンジョン2.0

そのほか、海外企業のマーケティング支援なども行っていますが、主な収益源はいま話した三つです。

「最近のビットコインは2014年ごろから大きく上がっているから買えない」という意見には同意しない

ーー当時の価格を知る古参のビットコイナーには最近のビットコインは高くて買えないという声もお聞きします。東さんはいまもビットコインを買っていますか。

現在はDiamond Handsに注力し、かつ法人としての拡大も考えており、事業に投資するフェーズのためビットコインはあまり買えていません。

また、古参の方の最近のビットコインが当時から大きく上がっているから買えないという意見ですが、私は同意しません。

例えば、企業で働いて毎月給料をもらうとして、生活費を差し引いて一定の金額が残ると思いますが、ビットコインを買わないのであればなにで保有するのでしょうか。円でしょうか。

私は法定通貨を信用していないので、必要以上に日本円など法定通貨で貯めるという発想はありませんね。

ビットコインの価格が当時から大きく上がっているということは関係なく、余剰の資金があればビットコインを買う、というのを2014年からずっとやっています。

ただ、私を含めて2014年当時にビットコイン関連の仕事をしていた人の多くは、経済的には最も優れた選択ではなかったと思います。

ーー安くビットコインを買えていたと思うので意外ですが、「経済的には最も優れた選択ではなかった」のはなぜでしょうか。

ビットコイン以外の仕事に就くことでおそらくもっと高い給料が得られ、その給料でさらにビットコインを購入できたためです。

純粋な経済的なリターンだけを見ればそれが最もパフォーマンスがよい選択だったでしょう。

しかしそれを考慮しても、私はビットコインを知ってからはビットコイン以外の活動にどうしても興味が持てませんでしたし、当時からビットコインに専念することで得られた経験や知識もあるのでこれでよかったと考えています。

ーー理解しました。逆にビットコインを売ったことはありますか。

あります。

私の資産のほとんどはビットコインで保有しており、生活費や会社の経営で資金が必要な場面で何度か仕方なく売却しています。

私の感覚としては、ビットコインを「売る」というより、必要に迫られて一時的に円にして、その上で必要なものを購入している、という感覚です。

LNの開発は米国やヨーロッパが活発、普及は中南米が進んでいる

ーー日本と海外でLightning Network(以下、LNと記載)の普及や取り組みにどういった差があるか教えてください。

具体的には二つのトピックがあると思います。

一つ目は開発の活発さで、この領域では米国とヨーロッパ、特にドイツが活発です。これらの地域では多くの開発者が活躍し、多種多様な企業やスタートアップが登場しており、投資も欧米が中心です。

二つ目は普及で、特にエルサルバドルなどの中南米の国々で顕著です。

一方で、日本は開発、普及、どちらにおいても大きな進展を見せてはいません。

Diamond Handsの活動は海外でも知られており、なんとか一定の位置はキープしていますが、他の地域が伸びてきており東南アジアの国々と同等の競争をしています。日本は先進国でもなければ後進国でもなく、その中間の位置で競争しているのが現状です。

ーー「LNの開発が活発」について具体的に教えてください。

主に二つの側面があります。

一つ目はプロトコルの開発で、特に米国など欧米では開発者が多く、プロトコルの改善や新規開発が活発に行われています。

二つ目はアプリケーションやサービスの開発です。

こちらも米国ですが、米国には数十億円規模の資金調達を果たしたLN関連企業が複数存在しており、これらの企業が新しいアプリケーションやサービスを開発することで盛り上がりを見せています。

ーーLNのプロトコルの開発について具体的に教えてください。

LNではBOLTと呼ばれるプロトコルの改善や更新を世界中の開発者がGitHubやメーリングリストを通じて行われていますが、このプロセスは他のアルトコインと大きな差異はありません。

開発者同士での意見交換は、メーリングリストのほか、カンファレンスコールを用いた直接の対話も行われています。これら全ての活動はオープンな環境で進行されています。

歴史的にもドイツはビットコインコミュニティが早い段階で形成された国の一つであり、その伝統が現在に至るまで続いている

ーーLNの普及が中南米で進んでいるというお話でしたが、どのように利用されているのでしょうか。

用途の一つとしてはマイクロリワードで、簡単なタスクを完了することでsatoshiが報酬として得られるようなもので、例えば、翻訳を行ったり特定のゲームをプレイすると、satoshiを得ることができます。

私も2020年ごろにライトニングクラッシュというLNを組み込んだ、特定の条件を達成するとsatoshiが付与されるゲームを開発しましたが、このゲームの主なユーザー層も中南米で、日本のプレーヤーはほとんどいませんでした。

エルサルバドル、コロンビア、ブラジルなど、これらの国では物価が日本よりも低く、100satoshi程度でもより魅力的に映ったのだと思います。

そのほか、フィリピンでも、LNを用いた実用例が増えています。

ーーなぜ開発は米国やドイツが進んでいるのでしょうか。

米国はLNに限らず世界中の優秀な人材が集まっているので必然的にLNも開発が進んでいるのだと思います。

ドイツについては明確な理由は私にも分かりませんが、元々ドイツはビットコインやLNに限らずヨーロッパにおける開発の拠点となっており、それでビットコインやLNにおいても同じように人が集まっているのかなと感じます。

東南アジアではベトナムが開発のアウトソーシング拠点になっておりドイツはそれに近い印象です。

そのほか、歴史的にもドイツはビットコインコミュニティが早い段階で形成された国の一つであり、その伝統が現在に至るまで続いています。

このような歴史的背景もドイツで開発者が多いことに起因していると思います。

米国での開発はサンフランシスコからオースティンに移ってきている

ーー米国もLNの開発が進んでいるとのことですが、やはりシリコンバレーに多いのでしょうか。

まず、シリコンバレーやサンフランシスコがかつてスタートアップのメッカとして盛況を誇ったのは知られているとおりですが、直近の数年間においてサンフランシスコの状況は劇的に変わってきています。

私もこの周辺に住んでいた時期があり、かつては平和で魅力的な都市だったのですが、現在は犯罪とドラッグで荒廃しており、路上の不衛生さも目立ちます。

参考:サンフランシスコが陥った負の“スパイラル” | NHK

このような状況の変化に加え、物価や家賃が急上昇したことで、多くの人々がシリコンバレーやサンフランシスコから離れ、現在ではオースティンが多くの開発活動の中心となっています。LNも例外ではなく、私の知人でも最近オースティンに移住した人が少なくありません。

また、米国やドイツで開発が進んでいるのはそのとおりですが、この業界は地理的に非常に多様であり、タイやポルトガルなど多くの開発者が世界各国に散らばっています。そしてこの多国籍な環境が業界の一つの特色とも言えます。

ーー経済規模が大きい国ほどビットコインの開発が進んでいるという印象です。

確かに、開発、特にプロトコル周りの開発は経済規模が大きい国、中でも米国や欧州の国々で進んでいる傾向がありますし、オープンソースの文化が根付いているのも理由の一つだと思います。

例えば、中国は優秀な開発者は多いものの、オープンソースに対する興味や関与が少ないと言われています。「オープンソースに貢献しても自分が得しない」という非常に現実的な視点が強いからかもしれません。

欧米ではオープンソースの文化がより尊重され、それがイノベーションやプロトコル開発に寄与しています。

さらに、ベンチャーキャピタルからの資金調達が容易であるという面も欧米で開発が進んでいる理由の一つでしょう。

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東氏のインタビュー、2記事目に続きます。

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