【2023年第2四半期】AI銘柄で攻めるスタンレー・ドラッケンミラー氏、守りを固めるジョージ・ソロス氏(Form 13Fより)

 この記事では、世界中が注目する著名投資家で、かつては師弟関係にあった、スタンレー・ドラッケンミラー氏、ジョージ・ソロス氏の2名をピックアップし、8月中旬にSEC(米国証券取引委員会)に提出されたForm 13Fの内容を読み解いていきます。

両者が2023年第2四半期(4-6月)で売買した主な米国上場銘柄、特筆すべき点を解説すると共に、彼らが今後の米経済の行方をどう考えているのかを考察していきたいと思います。

※評価額については、6月30日時点の価格に基づいています。

参照:U.S SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION / 米国証券取引委員会

最新のForm 13F解説記事

当該記事は2023年8月時点でのForm 13Fの解説記事です。最新の2024年2月公開のForm 13F解説記事は下記をご覧ください。

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ドラッケンミラー氏、AI関連のエヌビディア、マイクロソフト2銘柄を筆頭に攻める姿勢

出所:”Search 13F Filings”からFORM 13Fデータを抽出して作成

メガテック銘柄はエヌビディア、マイクロソフトに絞り、2四半期連続で買い

 ドラッケンミラー氏が力を入れるAI銘柄で、エヌビディアは(NVDA)約15万株、マイクロソフト(MSFT)は約10万株、それぞれが前四半期に続いて追加で購入されました。

尚、8月24日の日本時間未明にエヌビディアの四半期決算が発表され、市場の予測を著しく上回る内容だったことから、今後も更なる株価の上昇が期待されるところです。

出典:Tradingview.com

その一方で、その他のメガテック銘柄は急速に売却処分を進めています。

今年に入ってからポジション縮小を進めているメタ(META)は、1-3月に約66万株が売薬されたのに引き続き、4-6月にも約18万株が売却されました。

さらに、前四半期に購入されていたアマゾン(AMZN)の持株数を7割減らし、アルファベット(GOOGL)に至っては全てが処分されています。 

GEなど、他20銘柄へ新規投資

 今回最も大きかった新規投資先は、電気機器大手ゼネラル・エレクトリック社(GE)の73万株で、同ファンドの米上場株式ポートフォリオ全体に占める割合は約2.8%で、上位10番目に大きなシェアとなりました。

さらに大きい順に紹介すると、建築資材メーカーのビルダーズ・ファースト・ソース(BLDR)を31万株、ソフトウェア会社のパラメトリック・テクノロジー・コーポレーション(PTC)とオラクル(ORCL)を約27万株ずつ、などが挙げられます。

Tモバイルとオプション・ケアヘルスを大幅に買い増し、上位10銘柄入り

 米通信キャリア銘柄については、前四半期でAT&Tの保有分137万株が全て売却処分済となっていましたが、4-6月でTモバイル(TMUS)を68万株追加で購入、保有株数を2倍以上に増やし、米上場株式ポートフォリオ全体で6番目に大きな投資先となりました。

さらに、医療サービス会社のオプション・ケアヘルス(OPCH)の保有株数を350万株購入、4倍以上増加させ、同じくポートフォリオ全体で9番目に大きな銘柄となりました。

出典:Tradingview.com

アルファベット、AMDなど16銘柄を全て売却

 一方で、先に紹介したアルファベット(GOOGL)に加え、半導体大手のアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、金や銅を生産する世界的な鉱山会社のフリーポート・マクモラン(FCX)とバリック・ゴールド(GOLD)など、全16銘柄が全て売却処分されました。

ソロス氏、ポートフォリオを縮小、売りポジションで下落に備える

出所:”Search 13F Filings”からFORM 13Fデータを抽出して作成

S&P500、ナスダック100のプットオプションを大量に保有

 昨今、マイケル・バーリ氏が米国株の下落に賭けて巨額のプットオプションを保有したことが話題になりましたが、時期を同じくしてジョージ・ソロス氏も同様に、プットオプションを大量に追加取得していたことが明らかになりました。

ソロス氏のファンドが追加取得したのは、ナスダック100に連動するQQQのプットオプション、さらにS&P500に連動するSPYのプットオプション、これらを合わせると5億ドル以上の売りポジションで、将来の米国株の下落に備えていることが伺えます。

こちらがマイケル・バーリ氏のForm 13F(Q2)解説記事です。

ポートフォリオのトップ銘柄は米投資適格社債ETFに

 同氏のファンドでは2020年以降、米国企業の社債に連動するETFをポートフォリオに組み入れる動きがあり、それ以来初めて、同ファンドのポートフォリオの中で最も大きなシェアを持つ銘柄となりました。

保有しているのは、約3.4億ドル相当のiシェアーズ i-boxx 米ドル建て投資適格社債 ETF(証券コード:LQD)で、信用格付BBB以上の1000銘柄超の社債が組み入れられた銘柄となっています。

参照: BlackRock社・公式HP

ポートフォリオ上位銘柄のファースト・ホライゾンなどを売却処分

 ソロス・ファンドのポートフォリオの中でも比較的大きなシェアを占めていた銘柄で、売却処分された主な銘柄を紹介します。

前四半期末時点の保有株式(現物)の中では3番目に大きかった、金融サービス会社のファースト・ホライゾン(FHN)が全て売却されたほか、昨年の一時期は上位10銘柄にあったセールスフォース・ドットコム(CRM)も全て売却されました。

また、前四半期(1-3月)の新規投資先として前回の記事で紹介しました、上下水道会社のアメリカン・ウォーター・ワークス、動画配信サービス大手のネットフリックス、小売大手のウォルマートなどについても、一転して全てが売却されました。

前四半期に一部売却のリヴィアン、アマゾン、Tモバイルなどを買い戻し

 ソロス・ファンドが2021年第4四半期に大量取得し、その後1年近くにわたってポートフォリオのトップ銘柄に据えていた、EVメーカーのリヴィアン(RIVN)を前四半期(1-3月)に7割以上売却していたことが話題になりましたが、今回の第2四半期では一転して約60万株を購入、保有株数を17%程度増加させました。

 また、ドラッケンミラー氏と同様、Tモバイルの株式を大幅に買い増ししており、第2四半期比で購入されたのは約5.8万株、保有株数を3倍に増加させています。

まとめ

 2023年第1四半期に続き、今回の第2四半期についても、AI銘柄を筆頭に強気に攻めるドラッケンミラー氏に対して、プットオプションや信用格付けの高い社債のETFを増やすなど、やや守りに傾いているとも思われるソロス氏、かつては師弟関係にあった両氏の間で戦略が異るように感じられて興味深いところです。

もちろん、Form 13Fから空売りポジションは分からないので、ドラッケンミラー氏が空売りポジションを保有している可能性は否定できませんが、AI関連銘柄のエヌビディアとマイクロソフトの保有を年初来積み上げ続けている点は、彼自身が語っているように、AI株の上昇に大きな期待を抱いている確かな証拠なのだろうと考えられます。

また、ドラッケンミラー氏がバリック・ゴールドなどの金鉱株を売却処分したことも気がかりです。

もし将来、インフレが沈静化せずに再燃するようなことがあれば、たちまち長期金利は上昇し、主力のAI銘柄のようなグロース株は値下がりするリスクが高まると同時に、長期金利と逆相関で動きやすい金も同様に値下がりのリスクに晒されることから、金鉱株のポジションを落としたのかもしれません。

尚、Form 13Fは、各四半期末から45日以内に米証券取引委員会へ提出すれば良いことになっており、期限ギリギリに提出してくる機関投資家も多いため、情報にはタイムラグが生じてしまいます。

将来の期待インフレ率に影響を受ける米国10年債利回りは、昨年10月にピークを付けて以来、7月頭には3.8%程度だったのが、8月21日には4.3%を超える水準となりました。

出典:Tradingview.com

期待インフレ率・長期金利が大きく上がる局面では、投資判断が変わりやすい不安定な状況であることは否めず、引き続き最新の経済データと著名投資家の発言や動向に注意していく必要があります。

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同四半期のForm 13Fの解説記事はこちら

過去のForm 13Fの解説はこちら

【2023年5月】

【2022年8月】