「2027年、2032年頃に中国と台湾の武力衝突のリスクが増大する可能性が高い」野嶋剛氏 1/2

ジャーナリストの野嶋剛氏に、台湾有事の蓋然性などについて伺いました。

出演者プロフィール

野嶋剛氏

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学・台湾師範大学に留学。1992年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学の後、2001年からシンガポール支局長。その間、アフガン・イラク戦争の従軍取材を経験する。政治部、台北支局長、国際編集部次長、AERA編集部などを経て、2016年に退社し、ジャーナリスト活動をスタート。中国、台湾、香港、東南アジアの問題を中心に活発な執筆活動を行っており、著書の多くが中国、台湾で翻訳出版されている。大東文化大学社会学部教授。

東晃慈氏

2014年9月よりビットコイン、暗号通貨業界でフルタイムで活動。暗号通貨関連のコンテンツ制作、メディア運営、サービス企画・開発、国内外のプロジェクトの支援など幅広く活躍。ビットコイナー反省会、Diamond Hands主宰。

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取材実施日

2024年2月16日

台湾有事はいつ起こっても不思議ではないという前提を持つ必要がある

ーー本日は台湾有事が起こる可能性や対策について、中国や台湾、東南アジアなどを中心にジャーナリストとして活動している野嶋さんと、約5年ほど台湾に居住している東さんにお話をうかがいます。お二人の自己紹介をお願いします。

野嶋:私は台湾などを中心にジャーナリスト活動をしており、本を出版や講演、番組出演などを行っています。台湾に関する情報を日本に伝えることを使命として活動しています。

東:私は2014年頃からビットコイン関連の事業に従事しています。昔から台湾が好きで、2019年頃から現地に住んでいますが、台湾有事については理解できていない側面も多いです。今日は、現地に住んでいる立場からさまざまな質問をさせていただきたいと思っています。

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ーーまずは台湾有事の蓋然性について教えてください。

野嶋:前提として、皆さんに理解しておいていただきたいことは、「台湾有事」の実態は、中国が台湾に対して行う軍事作戦を指すということです。

一般的には両者が衝突するイメージを持たれがちですが、台湾から中国へ攻撃することは考えられません。

台湾有事を起こすか否かの決定権は中国にあります。もっと正確に言えば、中国の中でも習近平氏に委ねられています。

ーーでは習近平氏が台湾有事を実行する可能性は高いのでしょうか。

野嶋:ウクライナ戦争の際、世界中の専門家がプーチン氏の攻撃を予想しなかったように、台湾有事においても「中国は軍事行動をとらないだろう」という意見が多いです。

しかし私は、台湾有事の発生確率を測ることは極めて困難であり、一概には言えないと主張しています。

習近平氏は独裁者であり、誰も彼の決断に直接関与することはできません。ウクライナ戦争で見られたプーチン氏の決断からも、独裁者の判断は予測が難しいことは明らかです。

そのため、台湾有事はいつ起こっても不思議ではないという前提を持つ必要があると私は考えています。

習近平氏は任期中の台湾問題の解決に強い意欲を持っている

東:「過去と比較すると、台湾有事の可能性が高まっている」という考察を耳にしました。この認識は正しいのでしょうか。

野嶋:はい、そのとおりです。

主に二つの要因があります。一つ目は、習近平氏の独裁化です。この10年で、彼への権限集中は大幅に進みました。彼の決定に影響を与える力を持つ人物はどんどんいなくなっています。

さらに彼は、自身の任期中に台湾問題を解決するという強い意欲を持っています。

彼の前任者たちは台湾問題の解決を次世代に委ねましたが、習近平氏がこの問題に対して特に強い決意を持っていることは明らかです。

彼のこのような姿勢が、武力行使の選択肢を取るリスクを増加させています。

二つ目の要因は、台湾が中国に対するシンパシーを失っていっていることです。中国との統一に前向きな台湾人は、確実に減少しています。

これまで中国は、「平和統一」と「武力統一」という二つの選択肢を持って台湾と向き合ってきました。

中国との統一に前向きな台湾人が増えれば平和統一が実現しますが、現在ではその可能性はほぼなくなり、武力行使以外の選択肢がなくなってきているのです。

台湾有事が起こる確率を具体的な数字として明言することは難しいですが、10年前に10%だったと仮定するならば、現在は約20%から30%まで上がってきていると考えられます。あくまでも仮定の話ではありますが。

今後も注意深く監視する必要があるでしょう。

習近平氏の台湾統一に関する言及の回数、語気で強い関心を持っていることがわかる

ーー「習近平氏は台湾統一に対して強い関心を持っている」とのことですが、それは具体的にはどのようにして観測されているのでしょうか。

野嶋:習近平氏の台湾統一に関する言及の回数、語気に現れています。

中国は台湾有事以外にも多くの問題を抱えていますが、習近平氏は台湾に関して頻繁に言及しており、その関心の高さは誰が見ても明らかです。

中国では中国と台湾の関係を「両岸」と表現するのですが、「両岸は一つの家族だ」と述べています。

プーチン氏がウクライナに侵攻した最大の理由も、「ロシアは一つ」という情念に基づいていました。

私は長年にわたる中国と台湾に関連したジャーナリスト活動の経験から、政治や戦争はロジックだけでなく、強い情念によっても動かされると考えています。

だからこそ、習近平氏が台湾に対して非常に強い決意と関心を持っていると確信しているのです。

ーー日本だと岸田総理個人が暴走して戦争に走るというのはイメージできませんが、中国だと事情が違うのでしょうか。

野嶋:共産党総書記というポストが大事なんですね。

日本は日本政府の下に自民党がありますが、共産党は中華人民共和国という国家の上に存在します。共産党が国家を指導しているわけです。

そのトップである総書記は日本の総理とは持っている権限が異なり、独裁とも言えるほど強い権力を持っています。そのため習近平氏の意向次第なのです。

2027年、2032年頃に武力衝突のリスクが増大する可能性が高い

東:今後、中国と台湾の武力衝突を避けられる展開はあり得るのでしょうか。

野嶋:習近平氏が現在のポストにいる限り、武力衝突のリスクはかつてないほど高いと見ています。

習近平氏の任期は5年ですが、健康状態は良好な上に、自ら任期制限を撤廃してしまいました。中国では共産党が国家指導を行うため、彼にとっては共産党の総書記の地位を維持することが最も重要です。

そして2022年に総書記に再選しているため、次の選出は2027年、その後は2032年です。

もし彼が現在の任期で総書記を終えようとしているならば、2027年頃に武力行使の可能性は高まるでしょう。あと10年は務める意向があれば、2032年頃にリスクが増大する可能性が高まります。

政治家は、自身のレガシーを残したいと願うものです。台湾統一は、習近平氏がレガシーを残すための唯一の手段なのです。

東:台湾統一が失敗すれば、不名誉なレガシーを残すことになります。習近平氏は現状のどのような点を注視しているのでしょうか。武力衝突を引き起こすトリガーとなる展開には、どのようなものが考えられますか。

野嶋:米国が強大な力を持ち、中国国内の経済が安定していない現状を鑑みれば、台湾統一はあと5年ほど待つという理性的な判断をする可能性はあります。

しかし彼の統一への意志は強く、いずれは武力行使について考える可能性は高いままでしょう。

また、中国内部で大きな混乱が生じ、共産党や習近平氏への批判が高まるようなことがあれば、状況を打開するために台湾侵攻を選択することも考えられます。

武力衝突のトリガーとなる具体的な展開を予測することは難しいです。

そもそも戦争は本質的に異常な状況です。異常な状況下での決断を、平時に生きている私たちが完全に理解することは非常に困難でしょう。

中国では「台湾が統一を拒否し、独立を目指す動きを見せた場合は、躊躇なく武力で解決することを支持する」というのが一般的な世論

ーー中国の国民は、台湾有事に対してどのような反応を示しているのでしょうか。

野嶋:前提として、中国の国民は「台湾は中国の領土である」という考えを国家教育を通じて深く叩き込まれています。

多くの人々は戦争を望んでいませんが、「台湾が統一を拒否し、独立を目指す動きを見せた場合は、躊躇なく武力で解決することを支持する」というのが一般的な世論です。

しかし、「台湾が独立に動いた」とは誰が判断するのでしょうか。台湾はすでに自分たちは独立国家であると認識しているため、改めて独立を宣言することはありません。

そして少なくとも現在の中国では、法律や国家方針に基いた台湾への武力行使が許容されています。

そのような中で習近平氏に全ての決定権があるという事実が、台湾有事の恐怖を強めていると感じています。

ーー中国の人々は、戦争を起こすことに完全に反対しているわけではないということでしょうか。

野嶋:正確には、中国は台湾を自国の領土だと見なしているため、台湾に対する攻撃を戦争だとは考えていません。台湾問題は内戦だとの位置付けです。

自国内の暴動を解決するために警察力や軍事力を使用することに何の問題があるのか、という認識です。

台湾有事を考える際は、中国の思考や常識が我々とは根本的に異なると理解しておくことが非常に重要です。

東:確かに、現地で中国の方とコミュニケーションをとっていても、考え方や意図が理解しづらいと感じることは多いのですが、それは言葉ではなく文化の違いによるものだと思っています。逆に、台湾人はコミュニケーションが取りやすい印象ですね。

中国は、台湾との交流や友情を深めることで統一に近づくと考えている

東:武力進行の危険性がありながらも、経済的にも繋がっている中国と台湾の関係性は非常に複雑だと感じます。この件に関して、野嶋さんが興味深く感じられている見識はありますか。

野嶋:例えば、中国と台湾の間では、双方の国民がパスポートで直接入国できないことでしょうか。

中国は、互いの交流や友情を深めることで統一に近づくと考えているため、台湾人が中国を訪れる際は「台湾居民来往大陸通行証」、通称「台胞証」を持っていれば、基本的に自由に行動できます。

台湾人や企業に対する優遇策も設け、交流が最も活発だった2000年から2010年頃には約100万人の台湾人が中国で暮らしていました。

一方で台湾は観光業を経済の柱の一つとしながらも、政治的な意図を持った訪問者による悪影響を懸念し、中国から台湾への渡航や居住に制限を設けています。

この反発的な姿勢をよく思わない中国は、観光客の送り込みを控えているようです。

東:中国からの観光客は迎えたいという台湾の姿勢が、両国の関係性をより複雑に見せていると感じます。台湾人は、どのような思いで中国人と接しているのでしょうか。

野嶋:台湾の人々の中にはビジネス目的で中国と関わる人も多く、表面上はうまくやっているように見えることもありますよね。

しかし、中国に移住し、中国人として生活することには抵抗感を持っている方が多いのではないでしょうか。

東:台湾人が中国人になることは比較的簡単だと聞いているのですが、この認識は正しいのですか。

野嶋:はい、非常に簡単です。必要な手続きを行えば、すぐに中国人として受け入れられます。待遇も非常に良いからと中国国籍を取得する台湾人もいますが、そのような選択をした方々は台湾社会内で後ろ指を指されることもあるため、心中は複雑でしょう。

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全2回の野嶋氏のインタビュー、後編に続きます。

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